うたかたの夢 うつつの願い




 







              蒼穹に吸い込まれていく 「真紅」 「純白」 「鮮黄」

              
              光  溢れて


              揺るぎない力 そして想い




  
 「あれ、翔。来てたのか。」
 力強い腕が、小さな女の子を高く抱き上げる。精悍な顔。陽光を浴び、少女は明るい笑い声を立てる。
 「やー、久しぶりだな。お父さんと来たのかい?」
 あたたかな笑みが隣から向けられる。大地のぬくもりそのもののような笑み。
 「さすがに見事だね、君達の合体フォーメーションは。」
 少女の後ろに立っていた優しげな紳士が、感じ入ったように話しかけて来る。
 「橘 博士。」
 少し遅れて歩いてきた長身の青年が挨拶する。冴えた月の光の眼差し。

 早乙女研究所、ゲッターロボパイロット。
  流 竜馬 ・神 隼人 ・巴 武蔵。


       翔の記憶の中で
       一番 鮮やかな 風景だった。







                           ☆





 「ま〜〜ったく!恐竜帝国のヤツラもしつこいったらありゃしない。俺たちに勝てっこないんだから、さっさと諦めてくれりゃいいのによ。」
 うんざりしたようにリビングに響く声。
 「いや〜、そう言うがよ、リョウ。今日の敵はちょっと手強かったぞ。」
 両手に饅頭を掴みながら武蔵が言う。
 「テメェだろうが、ドジしやがったのは!!本来ならもっとさっさと片付けられたはずだぜ!」
ギロリと睨みつけられた武蔵は、「悪ィ、悪ィ。」と言いながらも饅頭を頬張る。
 「おい、反省してんのか、武蔵。」
 不機嫌そうに畳み掛けてくるリョウに、
 「でも仕方ないわよ、リョウ君。敵は2体も来たんですもの。」
 ミチルが取り成すように言う。
 「そう、そうだよ、ミチルさん。オイラだって頑張ってたのに、もう少しってとこで、急にもう一体襲ってきたもんだから焦っちゃってさあ。」
 我が意を得たり、というように武蔵が主張する。
 「だ〜〜か〜〜ら!始めっから俺にまかせろって言っただろうが。それをおまえが今日は変われって。」
 「いや、だってオイラもたまには格好いいとこ、ミチルさんに見せたいじゃないか。いっつもお前や隼人ばかりカッコよくてさ。」
 「実力をつけてから言え!なんなら今からでも訓練に付き合ってやるぞ。喰ってばかりいないで、少しは動け!」
 「いや、お前らの能力は、訓練以前のものだと思うな。オイラだって、そこそこの力ならあると思うな。」
 「ばぁか。訓練しても無理だって思う奴には言わねぇよ。」
 言外に 『おまえのことは認めてるさ。』というリョウの言葉に気づき、武蔵はちょっと照れくさくなる。
 運動能力についてはあとの2人には到底及ばないと自覚している。それでも恐竜帝国が襲ってきたとき、自分もなんとか人類を守るために戦いたいと願った。そしてその思いを早乙女博士もリョウも隼人も受け入れてくれた。あの2人に勝るといえば体力しかなく、技術や能力の数段劣る自分を。
 『ば〜〜か。俺たちより体力があるなんて、スゲェことなんだぜ。今までにそんなやつには会ったことねぇからな。』
 『3人必要ってことは、それぞれ違う取り柄が必要だってことだ。合体ロボットというのはそういうものだ。』
 訓練開始の頃、かなり落ち込んだ武蔵にからかうように笑ったリョウと、隼人。
 武蔵は思った。ああ、だから俺はゲッターから離れられないんだな。地球や人類を守るのは無理でも、この2人だけは守りたい。
 カチャ。
 ドアが開き、片腕に翔を抱きかかえた隼人が入ってきた。翔は眠そうに目をこすっている。
 「おう、隼人。博士達との話は終わったのか。」
 「翔、こっちへ来いよ。退屈だっただろう。こっちで遊んでりゃよかったのに。」
 武蔵が大きな腕で隼人から受け取る。
 「翔は隼人がお気に入りだからな。」
 面白そうにリョウが笑う。
 「隼人が子供に好かれるなんて珍しいもんな。」
 武蔵も笑う。
 「言ってろ。」
 フッと笑いながら、
 「ミチルさん、橘博士は当分こちらだから、翔をよろしく。」
 「ええ、まかせて。翔ちゃん、お姉ちゃんと一緒に寝る?」
 「う・ん」
 半分寝ている翔がミチルに手を伸ばす。
 「橘博士が当分こっちって、なんかあんのか?」
 「新しいゲッターロボの開発に協力してもらうんだ。」
 「へ?新しいゲッターロボだって?」
 途端に目をキラキラと輝かせるリョウ。
 「ああ、恐竜帝国の攻撃もますます激しくなってきた。今のゲッターで負けるとも思わないが、今日のように2体同時攻撃もこれからは増えるかもしれん。分散されて攻められたら厄介だ。犠牲が大きくなる。各国もスーパーロボットの開発に力を入れているが、今のところ攻撃力を期待できるものは少ない。アメリカのキング博士のロボットはなかなかだと思うが、まだ設計図の段階だ。あちらも色々面倒な手続きがあるらしい。電話の向こうで政府の対応の遅さに怒り狂っていたな。とにかく今現在、戦闘ロボットを使えるのは日本だけだ。それが一体だけでは心もとない。早乙女博士がより強力なゲッター線エネルギーの抽出に成功したので、橘博士とともに最優先事項として開発に取り組むんだ。」
 「そりゃ凄いな。だけど、そうしたら今のゲッターはどうすんだ?俺たちは新しいゲッターに乗るんだろ?」
 「敵が複数なんだから、こちらも数でも対抗すべきだろう。ただ、ゲッターのGはハンパじゃない。乗りこなせる者は稀だ。リョウ、大変だろうが武蔵と一緒に新たなパイロットの育成に努めてくれ。」
 「おーし、わかった。自衛隊からきている連中から、適応者を選んでしごいてやるよ。」
 ほがらかに笑うリョウを横目に見ながら、武蔵は大きくタメ息をついた。
 『やれやれ。また医務室が満員になるな。』




                     ☆                    ☆





 「隼人さん。」
 やさしくドアがノックされる。
 振り向くと、コーヒーカップを乗せたトレイを持ったミチルが立っていた。
 「遅くまで大変ね。まだ終われないの?」
 「明日の朝 博士達に資料として渡したいから、もう少しかかるな。」
 数式で埋め尽くされた画面を一瞥する。
 「最近じゃ隼人さん、パイロットとしての訓練よりも、お父様の助手としての仕事の方が多いんじゃないの?」
 「合体訓練は特にもう必要ないし、戦闘訓練はあの二人にまかせておけば大丈夫だ。まぁ、武蔵がちょっとニブイが、リョウがきちんと面倒みてくれてるしな。」
 自衛隊からのパイロット候補生に檄をとばしていたリョウを思い出し、クスッと笑う。さすがに最後まで付いていけたのは武蔵だけだった。今日の夕食は、かなり残ったことだろう。
 「橘博士はたしか、プラズマボムスの研究を続けておられたはずよね。もともとはお父様と2人で始めた研究だったと聞いているけど。」
 「早乙女博士がゲッター線エネルギーを発見する以前に、お2人で開発していたエネルギーだ。低公害で高エネルギー。だが、それよりももっと強力で無公害のエネルギーであるゲッター線が見つかったので、早乙女博士はゲッター線の開発に取り組んだ。でも、ゲッター線はひどく扱いが難しい。超強力なぶん、不安定だ。日常に使用するのは危険だ。橘博士は引き続きプラズマボムスの日常使用化に専念されていたが、今回、新しいゲッターロボ制作の応援にきていただいたんだ。なにしろ人手が足りない。敷島博士も地下研究室から出て来ている。ずっと楽しそうにしているよ。」
 「まぁ。どおりで最近、研究所がよく揺れると思っていたのよね。」
 武器愛好度と殺傷能力向上心なら、おそらく世界に類をみないであろう博士を思い出し、ミチルは呆れたように笑う。
 「隼人さんはどう思う?やはりプラズマボムスよりもゲッター線のほうがいいのかしら。」
 「戦闘においてはゲッター線エネルギーを上回るものはないし、敵であるハチュウ人類の致命的な弱点もゲッター線だ。ゲッター線を使うのが一番合理的だし、確かだと思う。これ以上はないというぐらい。だが、戦いが終わったあとはどうかな。博士にエネルギーを増幅させる実験を見せてもらったんだが、増幅というより貪欲に増大していくようだった。宇宙空間と同じ真空状態での実験なのに、何かを貪り食って増大しているって感じだった。」
 そのときを思い出したのか、白皙にわずか翳りが指す。
 「恐いわね、それって。大丈夫なの?」
 眉をひそめるミチル。単なる気のせいで済ますには、隼人のカンは侮れない。
 「様子を見てやはり気になるようだったら、リョウも実験に立ち合わせるさ。あいつの方がカンがいい。だが、現実問題としてゲッターロボの力をUPさせなければ戦いに勝てないのだから、とにかくそちらが優先だ。一刻も早く完成させなければ。」



 恐竜帝国の攻撃は日々苛烈になってきた。なりふりかまわず、といったふうだ。もちろん今までにも残忍な手口や卑怯な作戦は為されてきたが、最近はもっとひどい。まるで何かに追われるかのように、力ずくで捻じ伏せようとしてくる。悲鳴を上げているのはハチュウ人類のほうかと思うぐらい。激しい焦燥感すら伝わってくる。

 初めて恐竜帝国が襲ってきたとき、人類には対抗手段としてゲッター線が与えられていた。ハチュウ人を死に追い遣るゲッター線。
 先見の明、神の恩恵。
 誰もがそう信じて疑わなかったけれど。

 たとえば人類が、もっともっと早くにゲッター線を手に入れて、戦闘ロボットではなく宇宙開発に向けて研究を進めていたとしたら。

 恐竜帝国の存在を知っても、他の星への移住を案内できたかもしれない。人類には生存に適さない星であっても、ハチュウ人にとっては楽園となる星。ハチュウ人類はたとえ地球を手に入れても、長い月日をかけて大気を変えなければいけない。数億年前の大気を安定させることは、そう簡単にできるものじゃない。もっと彼らにふさわしい居場所があれば、そちらに行くことも考えられるだろう。決して数の多くない彼ら。マシーンランドを宇宙船に改造できたら、宇宙を旅することはそう難しいことではない。永い寿命と休眠機能を持つ種族。時間は十分ある。



 だが、閉ざされた地球では、異なる種は共存できない。
 叶わぬ願いを追って現実を危うくするほど隼人は甘くない。人類がゲッター線を手に入れたのは今でしかない。
 人類を守るためには、恐竜帝国を倒さなければならない。
 ふたたび画面に目を向け、すばやくキィをたたく。
 宇宙から微量ではあるが、無限に降り注いでくるゲッター線エネルギー。なんとしてもこれを新たなゲッターロボに集中させる方法を見つけ出しより強大な力を得なければ


          人類に勝利はない。




        いつのまにかすっかり冷めてしまったコーヒーを淹れ直すため、
        ミチルはそっと部屋を出て行った。





           
             ☆            ☆            ☆   




 翌日。
 あたたかな陽射しの中で、ミチルは翔を遊ばせていた。翔は大きな画用紙に、赤、白、黄色の塊を画いている。おそらくゲットマシンだろう。
 ミチルも訓練飛行中のゲットマシンに目を向ける。
 いつもは流れるように組まれるフォーメーションも、今日はかなりぎこちない。やはり候補生の腕では無理もない。きっとマイクからはリョウの怒鳴り声がガンガン聞こえているだろう。みんな難聴にならなきゃいいけど。ゲットマシン内と管制室の職員の耳を心配しながら苦笑していると、今まで一心不乱に絵を画いていた翔が、不満気にクレパスを置く。
 「どうしたの、翔ちゃん。」
 「今日のゲッター、変だ!」
 頬を膨らませ言い切る。
 「よくわかったわね、翔ちゃん。時々しかここには来ないのに。」
 ちょっと驚きだ。
 「全然違うよ。ちっとも早くないし、キレイじゃないもん!」
 たしかにいつもの3人のフォーメーションは芸術的ともいえるけど。しかし今日の合体も、普段見慣れない人間、しかもこんな小さな子が違和感を持つほどではない。ひょっとして、「戦闘センス」というものをこの少女は持っているのかもしれない。
 「今日は隼人さんがジャガー号に乗っていないので、リョウ君や武蔵君もいつものようにはいかないみたいね。」 
 「ふ〜〜ん。他の人じゃダメなの?」
 「そういうわけではないわ。ただ、候補生の人たちは何といっても練習量が少ないし、戦いの経験もない。いくら腕のいい人だって、最初からうまくはなれない。何日も何日も厳しい訓練をしなきゃね。」 
 もっとも、1.2回でさっさと操縦技術をモノにした人間も2人ほどいるが。これは別格。
 「じゃあ、わたしも大きくなったらう〜〜んと訓練して、リョウおにいちゃんと武蔵おにいちゃんと一緒にゲッターに乗る!わたし、ゲッター大好き!!」
 無邪気に宣言する翔に、
 「そうね。」
 とミチルは優しくほほえんだ。
 画用紙に書かれたジャガー号の背に自分の顔を画き足し始めた翔をみながらミチルは思う。
 もし、この子が大きくなるまで戦いが続いたとしたら。
 そんなことは許さない。
 自分達でこの戦いを終えるのだ。この少女が戦いに命をかけることのないように、今、ここにすべての力を結集して。
 だいたい、翔ちゃんがパイロットになるころには、私達は何歳かしら。体力だって今のようにあるかどうか。いえ、リョウ君なら変わってないかも。武蔵君は今以上太ってなきゃいいけど。
 隼人さんは。
 そこまで考えて、難しい顔になる。

 あの人は、パイロットとしてよりも、指導者として力を発揮しそうだ。パイロットとしてなら、リョウ君も武蔵君も超一流で、自分の命を犠牲にしてでも人類を守るだろう。だが、指導者として一流ということは。
 自分の命ではなく、他人の命を犠牲にさせることだ。傷つくのは、自分の命ではなく心だ。今でさえ隼人は責任者代わりに頼りにされている。人を惹きつける。
 そんな、自分を慕ってくれる人間に命の保証のない命令を下すのは、おそろしく強固な精神力でなければ無理だ。でも、隼人はそれをやるだろう。平然と、顔色ひとつ変えずに。
    「それは 必要なことだ。」  とのひと言で。
         そして 皆、従うのだ。


   そんな戦いがなければいい。
   今のこの戦いが終わったら、ゲッター線研究を宇宙開発に向けて。
   皆が はるかな未来だけを見詰めて。



  でも、もし、今以上に戦いが激化して、下したくない命令ばかりが必要だとしたら。

  それでもそのときに、リョウ君や武蔵君が側にいてくれればいい。
  それが叶わないとしたら。


   

          私には  何が できるだろう。
   

 



         
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     ラグナロク様  リクエスト 
            お題は    「 ネオ で   隼 ミチ 」
    
   え-----と。これ、 「 ネオで 隼人とミチルの会話 」ですよね。
   きゃっ----、またリクエスト外してしまった!!!  (わかっててやってんじゃないの、かるら君)
   お詫びのしようもありません。私、本当に隼ミチ好きなんですよ〜〜
   
   今年一年の締めくくりがこれじゃあ、来年は・・・・・・・・・・・自己嫌悪。
   こそこそ生息するしかありませんね。


     でも明るい話題として。
     私と同じく、隼人をお好きな ラグナロク様。
     ご自分のサイトで、チェンゲの後話を書かれる予定だそうです。
     楽しみにさせていただきますね。これからもお付き合い、よろしくお願いいたします。

              (2006.12.31     かるら  )