遠い 約束
☆
およそ 2億2000年万年前------------
中生代に入り 地球の覇者となったのは、大型爬虫類・恐竜だった。ジュラ紀・白亜紀と続く、何と1億5000万年もの間、彼らは繁栄し続けた。
そして 滅んだ。
白亜紀末、今からおよそ6500万年前。
その時代、恐竜達について推量できる手段は骨でしかない。巨大な体に比べ、脳の容積が卑小だった恐竜。肉体の力のみでしか生きられなかった恐竜たち。滅びることもやむを得ない。生き延びたのは、ワニ、トカゲやヘビのような弱小爬虫類の祖のみ。
そうだろうか。少なくとも1億5000万年もの間、地上を支配してきた「 種 」だ。
もし、高い知能を持った爬虫類がいたとしたら、彼らは自分達を襲った災厄から逃れるため、その持てる力の全てを駆使して種族を守ったかもしれない。それゆえ彼らの骨は残されていない。ただひたすらに「時」を窺って、地球のどこかに潜んでいるのかもしれない。
人類の祖先が発生したのは200万年前。「 ヒト 」という知能を得たのは、たかだか1万年にも満たない。もし、いま何かの災厄が起きて人類が地球の表舞台から消え去っても、数千万年も経てば遺物も消える。後の時代に人類と猿人の区別などつくはずもない。
1億5000万年の永きに亘って地球を支配しておきながら、数万年しか存在していない人類と同等の能力しか得られなかった爬虫人類。その差は何なのだろうか。何が、同じ地球生物に異なる運命(さだめ)を決したのだろう。
繁栄と滅亡。
その「何か」に切り捨てられたハチュウ人類は地下に潜った。再び地上に出られる日を夢見て、あらゆる辛苦を極めた。マグマの事故、最小限度さえ不足する食料。せっかく生まれても育たぬ子供達。
地下で生き残るため、弱いものは切り捨てられていった。より強い者、より優れた種を残すために。
もしかすると、諦めればよかったのかもしれない。知能の低い大型恐竜たちとともに。このように、感情を殺さねばならぬ日々。いつ終わるとも知れぬ忍従の日々を繰り返すだけならば。
だが、ひとたび生まれた種は
生命は
そう簡単に生きることを捨てきれない。
再び
いつか再び
あの広がる大地に
還るのだ。
☆ ☆
恐竜帝国 帝王ゴール。
彼が帝位に就いた時、自分達ハチュウ人類が地上を追われ地下に潜らざるを得なかった原因は、すでに解明されていた。
ゲッター線。
宇宙から降り注ぐそのエネルギーは、最初は害にならぬものだった。白亜紀の中頃、大型恐竜が繁栄する中、突如恐竜から高度な進化をとげたハチュウ人類にとっては。
体格は小さくなったが、その分、体に占める脳容積は比較にならぬほど大きくなり、ハチュウ人類は「科学」を手に入れた。
その繁栄は永遠に続くはずだった。
続くと思われた。
体が 溶け出した。
まるで 受け入れられる限界を 超えたように。
際限なく降り注ぐ多量のゲッター線。
どのような手段を講じても、遮ることができなかった。やむを得ず最終手段としてゲッター線の届かない地下、マグマ層まで逃げ込んだ。もちろん、全ハチュウ人を収容できるほど巨大で堅固なシェルター、マシーンランドが造られるほどの資材も人手も時間もあろうはずがない。間に合わずに倒れていった同胞達。守りきれなかったいくつもの不完全なシェルター。
地球の覇者だったハチュウ人類は、その数をおびただしく喪った。かろうじて生き延びたほんの一握りの彼らは、ハチュウ類独自の永い眠りを繰り返し、地上に戻る機会を窺っていた。ゲッター線を遮る手立てを考慮し、また、永い年月の間にゲッター線そのものが消えることを願って。
帝王ゴールは地上に出ることを決断した。ハチュウ人は未だゲッター線を克服してはいないが、短時間ならば地上で活動できた。メカザウルスの中であれば兵士達は戦える。何よりも、ゲッター線の照射量が著しく増えてきたのだ、再度。
このままでは永久に地の底に留まるしかない。ゲッター線を遮るためには大気そのものを変えるしかない。亜硫酸ガスで地球を覆いつくすのだ。幸い、自分達がいない間に地球を支配したのは、生まれてからせいぜい数万年にも満たない人類だ。自分達と違って鋭い爪も強い力も、生命力も再生能力もない短命な種だ。調査した限りでは、人類の持つ最強の武器は核爆弾だ。しかもそれは使用すると人類の命を奪う放射能を出すため、むやみに使用されることはない。万一人類が我らに対抗するために核爆弾を使っても、我らハチュウ人類に放射能は何の影響もない。かえって我らが核爆弾を使用すれば、一瞬で地上は我らのものになるだろう。・・・・・・・他の動植物達も死んでしまうため使えないが。食料は必要だ。
我らハチュウ人類の悲願、地上制覇は間もなくだ。
時、同じくして、
人類が、ゲッター線を手に入れさえしなければ。
恐竜帝国と人類・ゲッターロボの戦い。
ゴールは死に、生き残ったハチュウ人類は再びマグマ層に潜った。
それから十数年後。
密かに配置された監視要員たちは地上を見ていた。
ゲッターと百鬼帝国の戦闘。そして早乙女研究所の崩壊。封印されたゲッターロボ。
監視要員から報告を受け取った恐竜帝国の支配者、女帝ジャテーゴは決めた。再度、地上を侵略することを。
恐竜帝国が先の戦いで受けた打撃は大きく、まだまだ回復には程遠かったが、人間同士の争いを知ったジャテーゴはこの機会を逃さなかった。
アルヒ・ズウ・ランドウ。
この野心溢れた人間を煽て、科学面で援助し、表面上は協力者として力を合わせ、いずれ地球をハチュウ人類のものとするのだ。自分の能力を最大評価しているこのような男など、手玉に取るのはたやすい。誰もが自分に心服するはずだと思い込んでいるオメデタイ人間。
本当は。
もう少し、時間が欲しかった。
せめて、ゲッターの関係者が寿命を迎えるまで。
人間の寿命はたかだた100年あまり。ハチュウ人類は何万年も待つことができる。ゲッター線は封印されたが、「真ゲッターロボ」は存在する。 そしてあの強力な2人のパイロットも。
流 竜馬はゲッターを離れ、山中に籠もったが生きている。必要と思えばまたゲッターに乗り込むだろう。早乙女は研究所とともに消滅したが、ゲッターロボを引き継ぐ能力を持つ男、神 隼人は健在だ。パイロット、科学者のみならず、指導者ともなり得る男。
このまま黙って待つだけで、あと50年ほどで地上は我が手に入っただろうに。
ジャテーゴはいまいましげに舌打ちした。
急がねばならない理由が彼女にはあった。
彼女は帝王ゴールの妻だった。息子もひとりいる。ハチュウ人はその永い寿命と引き換えにか、新しい誕生は稀だった。また、せっかく生まれても成長できることはもっと難しかった。まるで地球がハチュウ人類を拒絶しているかのように。だから、何万年も妻の座にありながら、子供はひとりだけだった。ゴールとジャテーゴの跡を継ぎ、ゴール3世となるべき息子。
ひとつ問題があった。
恐竜帝国が地上侵略を始める前、人間を調査するために何百人もの人間を拉致し、調査・実験した。北海道・大雪山での人間研究所はその最たるものだが、他にも数十人、地下の恐竜帝国に連れられてきた人間がいた。それらの人間は主に遺伝子、ゲッター線に対する適応力を調べるために。
その一環として、人とハチュウ人との交配も行なわれた。異種間の交配は、そのほとんどが失敗に終わった。たとえ受精しても胎内で育たず、運良く出産を迎えてもそれらは死産ばかりだった。人間の女とハチュウ人の男。この組み合わせだけが、出産を迎えることができたが、それも数ヶ月もたずにすべて死んだ。ただひとつの例外を除いて。
その子供は、人間としては随分と長い期間を胎児として母親の中で過ごした。異なるDNAの衝突をやわらげるかのように、ゆっくりと守られながら細胞分裂し、成長していった。そして母親の胎内を出てその優しい腕に抱かれた赤子は、人類とハチュウ人類のよいところを受け継いだ優生種だった。ハチュウ人の強さと生命力を持ち、しかもゲッター線に耐え得る体。知能も運動能力も申し分ない。そしてその母親は、望まない交配でありながら我が子を愛していた。胎内にいた長い年月、ずっと与えられた深く優しい愛情。母に愛された子供は、他を慈しむことの出来る少年に成長していった。
幼いながらもその子供は、恐竜帝国の中で一際輝く存在となっていった。
たとえどれほど優れた子供であっても、所詮、人間とのハーフ。蔑まれ疎外されることはあっても、帝国で重きを成すことはできない。せいぜいキャプテンぐらいになって、帝国のために使い捨てされるのがオチだ。そう、父親がゴールでさえなければ。
稀にしか子供の生まれないハチュウ人類にとって、いくら人間との混血とはいえ、帝王の血は絶やせない。カムイと名付けられたその子供は、武人としての技術や身体能力、指導者としての学問を、砂が水を吸い込むように自分の物にしていった。
ジャテーゴは焦った。
帝王の第一後継者は、まぎれもなく自分の息子だ。それには誰も反論しない。だが、このままずっとゲッター線に怯えて地下で暮らしているうちに、ゲッター線に平気なカムイが成長し、地上侵略の指導者、最大の功労者となったとしたら、カムイの帝国での発言力はとてつもなく大きいものとなるだろう。ゲッター線を遮るため大気を変えるといっても、恒常的なものとするには長い月日がかかる。その間、カムイだけが地上を支配できるのだ。両方の種の特性を持つカムイだけが。
それに、もし降伏した人類とハチュウ人類の交配が進めば、生まれた混血児たちは全員カムイに従うだろう。優生種のハーフ達。
ハチュウ人類が、新ハチュウ人類に脅かされてはならない。私の息子が帝王ゴールを引き継ぎ、地球の覇者となるべきだ。
ジャテーゴはプロフェッサー・ランドウと手を組み、地上支配すべくラセツを送り込んだ。
そして 戦いの末
真・ゲッターはジャテーゴ達とデビル・ムウ、核弾頭を取り込み
竜馬と號、タイールとともに火星へと飛び立っていった。
真ゲッターとデビル・ムウ、核弾頭。
その威力は三乗され、破壊の力は数字にすら表せないもので。
火星は厚いガス層に覆われ、人はおろか、探査機すら近づけない星となった。発せられるエネルギーは、地球や太陽系に影響を及ぼさず、その分、ガス層の下でどれほど激しい爆発や地殻変動などが起きているか、知るすべはなかった。探査ビームも届かぬ赤い星。
再びひとり残された隼人は、火星に背を向けた。
リョウ達がどうなったか見届けたいが、自分は置き去りにされた。行くべきではないのだろう。
人類は宇宙に出ない方がいい。今度こそゲッター線を手放し、ささやかな、それでも喪うものの少ない生活を選ぶべきだ。いずれ自分の生命が尽きかけたら、その時こそ火星に行こう。リョウは「また会おう。」と言ったが、やはり俺が火星まで行くのだろう。アイツがこっちには戻れまい。ここまで置き去りにされ続けたら、いくら俺でも自分の役割ぐらい気付くさ。俺はこの地球の守り役なのだろう。それに、研究所の地下では今も真ドラゴンが変化し続けている。こいつのお守も俺の仕事だろうな。できれば、俺の生きている間はおとなしく眠っていてくれよ。聞いているか、弁慶。
だが その願いは叶えられない。
☆ ☆ ☆
それから数年後。(今から10数年前)
太平洋で不可思議な現象が起きた。
降り注いできたいくつもの流星。そのひとつが強いエネルギーを
発散した。エネルギー球は初めこそ膨張したが、
次第に縮小し、消滅したかに見えた。
だが・・・・・・・・・・
その頃隼人はネーサーを辞し、崩壊した早乙女研究所の近くに家を建てて住んでいた。いくつかの実験室を含んだ簡素な家だ。
すでにいくつもの博士号を持つ隼人は、日本政府はもとより、各国の研究所等から所長としての要請が後を絶たなかったが、隼人はそれら全てを断った。それでも幾度も助言を求められ、数ヶ月間留守にすることはあったが、あとはひっそりと自分の研究に取り組んでいた。いつのまにか敷島博士も同居していて、ときどき派手な爆発音が発生したが、簡素とはいえ材質はネオゲッター合金だ。耐火耐震防音は完璧だ。
世捨て人のような生活を、隼人を知る橘博士や各国の科学者・軍人達はひどく勿体無がって、表舞台にでるよう説得したが、隼人が首を縦に振ることはなかった。
シュワルツと結婚して2児をもうけ、アメリカに住んでいる翔は帰国の度に隼人を訪問したが、翔だけは隼人の想いを理解しているようだった。夫であるシュワルツが、政府から翔を通じて隼人にNASAへ出向するよう要請されたとき、翔はゆっくり首を振った。
「あの人は、たぶん、地球にとって、自分が「用無し」の人間になることを望んでいるのだろう。」
「何故だ?IQ300の頭脳を持ち、科学者としてばかりか指導者としての能力も認められている人間なのに。彼が欲すればどんな地位も得られるだろうに。」
「あの人はそんなものを欲しがったことはない。あの人は、この地球でたったひとり、ゲッターを引き継ぐ人間だ。私の父ではない。他の誰でもない。」
「別に、ゲッター線研究をやる必要はないはずだ。何も皆、彼にゲッターロボを造れとは言っていない。」
納得のいかないシュワルツに、
「私はあの人とずっと一緒にいたから解る。理屈じゃないんだ・・・・・・・・
たぶんゲッター線は相手を選ぶんだ。自分を受け継ぐ者を。竜馬さん、武蔵さん、弁慶さん、號も凱も早乙女博士も、ゲッターに関わった人たちは皆、取りこまれてしまった。神さんだけが残された。もし、早乙女研究所の崩壊のとき、弁慶さんのかわりに隼人さんが真ドラゴンと地中深くに沈んだら、残されたメンバーで新たな戦いができたかどうか。戦士はいても、指導者はいない。政府との交渉事は私の父では無理だ。自衛隊の1部隊として、能無しの指揮官に指図されてカリカリしながら戦うのがオチだ。」
「たしかにそうだろうな。俺は日本人は大嫌いだったけど、神 隼人は認めていた。彼が時々アメリカ軍の仕事をしていたせいもあるけど、彼に関しては人種の違いも気にならなかった。ただ凄い奴だとしかな。」
「神さんは、ゲッターを自分で終わりにしたいんだ。誰にも引き継ぐことなく。神さんが『明日』に目を向ければ、きっとゲッターは反応する。」
「・・・・・・・・考えすぎじゃないのか?結局はたかが宇宙線だぞ?」
「理屈じゃないと言ったろう。神さんがそう感じているならそうなんだ。」
帰国したとき、数年ぶりに会った隼人は全然変わっていなかった。
「お久しぶりです。お元気そうですね。少し若返ったように見えますよ。」
別にお世辞ではなく、本当にそう思った翔に、
「昔、体を鍛えすぎたからか、ゲッター線も浴びすぎたせいか、病気一つしやしない。かなり長生きしそうだ。」
「そんな残念そうな言い方はしないでください。私は神さんに出来るだけ長生きして欲しいと思っています。神さんさえいれば、たとえ地球に何が起きても安心です。私以外にも、そう信じている者は多いです。」
「何かが起きたとき俺がいるのはいいが、俺がいるから何かが起きるのは困るからな。だが勝手にも終われない。リョウのように、俺もいずれゲッターを持っていくつもりだ。どのような形かは、まだわからんがな。」
「神さん!」
思わず声を荒げた翔に向けられた隼人の眼は穏やかだった。あまりにも凪いだその眼差しに、翔は何も言えなくなった。そのあと聞かれるままにシュワルツや子供達のこと、仕事のことを話して時を過ごした。顔を覗かせてきた敷島博士の相変わらずの変人ぶりに苦笑しながら、翔は無性に哀しかった。
ゲッター線は何のために
その力を人類に貸し与えたのか。
もし、最初から喪う見返りが示されていたなら
人類は
それでもゲッター線を望んだだろうか。
翔が帰って行ったその日。
深夜、来訪者があった。
つばのある帽子を深く被り、サングラスに手袋、マスク、体をほとんど覆うコートを着た大人が2人。そして同じ格好をした5歳ぐらいの子供。
門灯を避けるように立つ3人に、隼人はスッと眼を細めると、無言で中に招きいれた。なかなか言葉を発しない相手に、
「用がなければ、わざわざ俺のところには来ないだろう。その子供がどうかしたのか。」
はっと顔を上げ、疑惑に満ちた目で見る相手に
「憎んでも憎みきれないはずの俺のところに来るのに、何の関係もない子供を連れては来ないだろう、相談にしろ、暗殺にしろ。お前達に殺気はないから話に来たんだろう。重要なことだろうからな、俺に、いや人類にとっても。」
隼人の感情を見せない淡々とした口調に、相手は意を決したように帽子を取りサングラスとマスクを外す。表れたのは思ったとおりハチュウ人だった。一瞥すると、隼人は子供に目を向ける。そこに現れた姿に、隼人は一瞬目を瞠る。整ったその容貌は、確かに人間の子供だった。その皮膚だけが、緑色の爬虫類特有のものでさえなければ。
「・・・・・・・・・・合意の上、とは言わんだろうな。」
低く呟かれたその声は、氷のような冷たさを持っていた。ハチュウ人は咄嗟に言葉を失ったが、搾り出すように、
「確かに、合意の上とは言いません。ですが、この方、カムイ様のお母様は、カムイ様を愛し、慈しんでおられます。」
隼人はそれには答えず、カムイと呼ばれた子供をじっと見た。子供もじっと隼人を見る。その目には恐れも怯えも嫌悪もない。真直ぐに澄んだ目だった。母親がこの子を愛しているのは本当だろう。でなければこんな眼はしない。おそらく不当に扱われることも多いだろうに、この子供には卑屈さどころか気品すらあった。
2人のハチュウ人は隼人にこれまでの経緯を話した。2人は厳命されていた。嘘をついてはならない。神隼人の眼は節穴ではない。カムイの立場がただの混血児ではないことに必ず気付く。
隼人は話を聞きながらカムイを見つめていた。自分の出生は決して喜ばしいものだけではないものなのに、カムイは顔色を変えることはなかった。おそらく幼い頃から聞かされていたのだろう。それでもこんな小さな子供だ。普通、理解し感情を抑えられるものではない。人間とハチュウ人の優生種、というのは本当だろう。
カムイの話の後、2人はここに来た用件を話し出した。
太平洋で起きた不可思議な現象。
ソレは終わっていなかった。
ハチュウ人類は、地底から深海にその居を移していた。だからこそ、人類が未だ気付かなかった脅威を知ることが出来た。今はまだほんの小さいが、決して攻撃できない不可侵領域。質量も磁場も放射能もないが、たしかに何者かが存在していた。そこに向かって放たれたミサイルは吸い込まれたように消滅する。ストーカ01と名付けられたソレは、確実に膨張していた。いずれ、最悪、地球を飲み込む可能性がある。
それに対抗するため、人類とハチュウ人類は手を結びたい、と締めくくられたとき、隼人は承諾した。
あまりに簡単に承諾する隼人に、使者たちは反って困惑した。日本や各国の代表者たちに相談しなくて良いのかと。
「フッ、お前達だって、誰に話を持っていけば一番すんなりと受け入れてもらえるか考えて、ここに来たんだろう。」
口の端をちょっと持ち上げ、笑みを浮かべる。
確かに。
不倶戴天の敵として憎みながらも、ハチュウ人類はゲッターのパイロットだった隼人に一目置いていた。頭の回転が早く、感情よりも必要なことを優先する。隼人なら人類を説得し得るだろうし、万一説得が不首尾に終わっても、ゲッターロボでハチュウ人を攻撃することはないだろう。隼人の同意さえ得ていれば、最悪の事態は避けられる。敵に回せばこの上なく脅威ではあるが、味方になってくれればこれほど心強い相手はいない。
「カムイ様をあなたにお預けしたいのです。」
「何?・・・・・人質か?」
眉を顰める隼人に、
「いえ、とんでもありません。ただカムイ様は恐竜帝国でただ一人ゲッター線に平気な方ですが、それでも地上に出るのは今回が初めてです。太陽から無限に降り注ぐゲッター線を浴びても平気かどうかはまだわかりません。このまま地上で暮らしていただいてデータをいただきたいのです。ゲッター線に弱い我らでは、お世話することすら出来ません。これから先、帝国で生まれる子供達がゲッター線に耐えられるよう、何卒ご協力ください。」
実験データのため、と言われても、カムイは平然としている。それは諦めでもなく無関心でもなく、「必要なこと」と認識しているからのようだった。滅び行くハチュウ人類にとって、自分のデータは必要なのだ。
「いいだろう。だがひとつ条件がある。今現在、恐竜帝国に捕らえられている人間の返還だ。」
「えっ?!」
「い、いえ、それは・・・・・」
「何か問題があるのか?」
隼人の眼が冷たく光る。
「い、いえ。ただ数人は、その、子供がおりまして・・・・・」
「出産は恐竜帝国でないと・・・・・・・その、生まれるまでの期間もまちまちですし・・・・・・・」
「ではそのような人間は生まれてからでいい。こちらで生むわけにはいかないからな。そのあとは本人達の希望に沿ってくれ。」
「はい。」
「カムイの母親もこちらに来るんだろう?」
隼人の何気ない言葉に、使者よりもカムイが反応した。今まで無表情だった顔が、いっきに子供の表情となる。
「あ、あの・・・・・それは・・・・」
「私達からは何とも・・・・・・・ゴール3世様にお聞きしないと・・・・」
「ジャテーゴ様亡き後、カムイ様の母君が帝国の母になるわけですし・・・・・」
しどろもどろに説明する使者たちよりも、隼人はじっとカムイを見つめた。
泣きそうな、それでも必死に我慢している顔だった。おそらく、と隼人は思う。今、「帝国の母」とかいって誤魔化したが、現実は異父兄のゴール3世とやらに軟禁されているのだろう。権力者が自分の地位を脅かすものを厚遇するはずがない。ましてや憎い人間の血を受け継いでいるだ。必要だったとはいえ。
だが今、無理にこちらの意見を通すわけにはいかない。カムイの母親までこちらに戻せば、カムイはハチュウ人類を裏切るととられるだろう。今までの感じからすると、カムイはハチュウ人類を嫌っていない。憎んでもいない。この容姿では確かにハチュウ人として生きていくうえで差別は受けるだろうが、それでも人類の中で生きていくよりはずっと生きやすいだろう。知能も高いようだ。きっと、恐竜帝国の中でも重きを為すだろう。母親と離れるのは辛いだろうが、それでも納得しているようだ。俺が今とやかく言うことではない。敵とはいえ、ゴールもたしかに帝王として認めていい奴だったからな。その血を引いているのだ。
「わかった。カムイの母親については条件は出さない。カムイは俺が預かろう。いずれ敵がはっきりするだろう。そのときのために戦士として鍛えていいのだな?」
「はい。よろしくお願いいたします。」
「これから先の連絡方法等についてですが・・・・・・・・・」
朝方まで今後の様々なことを協議した。
2人の使者が辞するとき、
「カムイ様。それではご壮健で。」
「帝国に戻られる日を心からお待ちしています。」
その言葉が口先だけではないことに隼人は気付いていた。恐竜帝国にもカムイの協力者、信望者はいるらしい。この2人が使者に選ばれたのは、それも隼人に告げたかったのかもしれない。
ふと、隼人の脳裏をかつての想いがよぎった。
『 共存 』
まだ恐竜帝国との戦いが始まったばかりの頃。
リョウもムサシも早乙女博士もミチル達もみんながいた頃。
願ったことが一度だけあった。
あれから喪われすぎた、多くの命。
せめて かわりに
もう一度
願えるとしたら。
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ゑゐり様 8000番リクエスト
お題は 「 『 アーク 』 隼人とカムイの出会い」
あらあら、まったく 「出会い」 だけじゃないですか〜〜!
なんか私は前振りがいつも長くて、肝心の話が「え、ここまで?」っていうのが多いですね。
(反省するより、態度で示せ!ですが。)
でも、「アーク」の最初ですから説明も少しは・・・もにょもにょ。
ということで、(なにが?)続きが気になる方はまたリクエスト下さいませ。
代理リクエストは止めて、500番ごとに戻します。この方が、リクエスト貰えそう?かなと。
まぁ、キリ番はなんでもいいんですがね。要するに、
「 リクエスト 欲しい〜〜〜〜!! 」
( 2006.8.30 かるら )