届かぬ 光









                 「 宇宙へ 行こう。」


             
                               隼人は言った。







                           








 月面10年戦争が終了し、リョウ達ゲッターチームもゲッターロボで戦うことはなくなった。もちろん、日々の訓練は厳しく続けられていたが、ゲッターの出動要請はない。
 世界に小競り合い程度の諍いは後を絶たなかったが、大きな戦争になることはなかった。なにしろ世界の大国と言われる国々は、それぞれがスーパーロボットを保有しており、お互いが本気になれば世界大戦を引き起こすことは必須だ。その破壊力は、最悪、地球を壊しかねない。
       世界はバランスがとれていた。





 「・・・・・・・・あと半年か・・・・・・・・」

 カタカタとキィを打つ音だけが響いている隼人の私室で、ソファに腰掛けたまま足を揺らしていたリョウが呟いた。
 「うん?」
 画面を見詰めていた隼人がゆっくり振り向く。
 「いや、お前がさ。ミチルさんと月へ行くのは半年後なんだ、と思ってさ。」
 つまらなさそうなリョウに
 「どうした、元気ないな、リョウ。俺がいなくなったら、研究所は今まで以上にお前が主となって守らなきゃならないんだ。頼りにしているぞ。」
 「そう言ってもなあ・・・・・・・・。守るったって、別に敵が襲ってくるわけじゃないし・・・・・・」
 憮然としている。
 『ああ、そうか。』
 隼人はクスッと笑う。誰よりも高い戦闘能力を持つリョウ。力を発揮する機会がなくなってクサっているのだろう。確かに早乙女研究所、いやゲッターロボに喧嘩を売るような馬鹿者は今の地球にはいない。平和が一番いいのだと思いつつ、物足りない日々なのだろう。
 「遊びに来るといい。ゲッターロボでなら月はすぐだ。」
 「とは言ってもさ。特に用事がないのに、遊びにっていうのは・・・・」
 あ。拗ねてるのか、リョウ。
 「ゲッターロボのメンテナンスっていう大義名分があるさ。俺じゃなきゃ直せないものもある。早乙女博士は面倒くさがるだろうから。」
 「そんな都合よく故障するかよ、ゲッターが。」
 不満そうなリョウに、隼人はニヤリと笑う。
 「あ?おまえ、もしかして・・・・・・・?」
 たら〜〜り。冷や汗。
 公私混同、傍若無人、天上天下唯我独尊・・・・・・・・
 最近は研究所の所長代理ってことで人当たりが良かったから、ついうっかり忘れてたけど、こいつの性格って確か。
 「気にするな。」
  するって!
 「だけどおまえ、月に行ったら随分忙しいんだろ。」
 今だっていいかげん働き過ぎの奴だけど、新しい仕事場では更に忙しくなるだろう。
 「もともとの月開発計画が、インベーダーとの月面戦争で大きく変更されたからな。軌道が乗るまでは慌しいが、計画が立てられ始動しだしたらそうでもない。突発的なことに対処する以外は見守っていくぐらいだからな。」
 「でも、当分、月にいるんだろ?」
 地球には戻って来ないんだろ、と言外に含ませて。不機嫌。
 「一応、5年の約束だ。」
 「5年?それだけでいいのか?」
 もっと長く、下手したら数10年かかると思ってた。
 「俺は主に、計画を立てるほうに参加するからな。進行状況のチェックとかは必要だから5年は居る予定だ。その間、かなり空いた時間ができるだろうから、自分の研究をするつもりだ。」
 進行状況のチェックって、随分手間がかかるものだろうが。ああ、そうだ、おまえには大したことじゃないってな。忘れてて悪かったな。月開発計画が片手間かよ。これだから、仕事の出来る奴は嫌なんだ。とは、言葉には出さず。言ったところで不思議そうな顔されるだけだ。
 「自分の研究ってなんだよ。」
 そういえば、いつも隼人は早乙女博士の手伝いだとか、研究所の運営についてのあれこれや、データ確認とかその他の雑事だとか、政府や各研究機関の要請とかの頼まれごとばかりで一日が過ぎて。自分の研究する時間ってあったっけ。こんなに一日中、途切れることなく仕事してて、朝は早く、夜も遅い。訓練だってサボってるのに。(ここが大事!)
 「小型の宇宙船、UFOを造る。」
 「は?それって、月開発の一環か?」
 怪訝な顔で聞き返したリョウに。


 ああ-----
 リョウは、そのときの隼人の顔を決して忘れないだろう。
 ミチルとの婚約を自分に告げたときの隼人の、はにかんだ顔も晴天の霹靂だったが。


    「 宇宙を 」

            信じられないほど無邪気な眼で。

    「 探検するんだ。」
   
            隼人は綺麗に笑った。


                   初めて望む、自身の未来。



 
 リョウはいつも思っていた。
 隼人に欲しいものはあるのだろうかと。
 溢れる才能を、いつも人のために惜しげもなく与え。頼られることを当然と受け止めて。
 だが、隼人は決して博愛主義者ではない。誰に聞いても即答される。必要とあれば冷酷非情となれる隼人。だが、それが自分個人のためであったことはない。学生テロリストのときでさえ、学園側の不正を正そうとしたのだ。やり方が過激だっただけだ。(いや、「非道」か?まあ置いといて。)
 今の隼人は社会的にも高い地位がある。日本国内のみならず、各国の政府高官との間に太いパイプを持っている。望めば大概のことは通るだろう。だが、隼人がその伝手を使うのは研究所に必要なときぐらいだ。
 隼人は孤高で、何物にも束縛されないと思われがちだけど。
 リョウは知っている。隼人は俺たちに縛られている。人類の平和とかいうものに。それを願っている俺たちに。 隼人自身、無意識なのだろうけれど。
 隼人は生きるために理由がいるようだ。だからもし、その理由が失われてしまったら。
 何の躊躇いもなくさっさと消えてしまうかもしれない。そんな気がしてた。
 だから、隼人がミチルと婚約したと聞いたとき、本当に嬉しかった。もちろん、少しも妬かなかったとは言わない。武蔵や弁慶は凄いブーイングだったが、リョウは嬉しさ半分、淋しさ半分。ミチルをとられたことか、隼人をとられたことか。たぶん、両方。天秤がどちらに傾いているかはわからない。ただ、自分が隼人を引き止める「ひとつ」になれなかったのが辛かっただけだ。

 だが今、隼人は未来を見ている。
 隼人自身の。隼人が望んだ。
 隼人の目を明日に向けさせたのがミチルであったのが残念だけど、それでも「よし」としよう。・・・・・・・・・・・・できれば共に夢を追いたいけれど、隼人の隣はもう埋められている。


 「スゲェな、隼人。」
 眩しそうに隼人を見るリョウ。
 羨望。
 いや、嫉妬のほうが、まだ近い。

 
 「おまえのことだから、きっと実現させるだろうぜ。でも、たまには地球にも戻って来いよ。美味い酒、奢るからさ。」
 宇宙は広い。何があるかもわからない。一度旅立てば、2度と会うこともないかもしれない。
 笑って送り出せる自信はないが、できれば「その日」までには笑えるように。


      「?何だ、リョウ。一緒に行かないのか?」

        心底驚いたように、隼人が言った。




                        ☆                     ☆




 
 重い機械音だけが唸る地下研究室。
 いくつもの試験管やプレートが並べられている。顕微鏡を覗きながら作業していた男が顔を上げる。
 「よし。これで全部だ。」
 「59個か。ずいぶん取れたな。」
 「おまえ達ゲッターパイロットは研究材料としてもなかなかのもんじゃからな。ちゃんと保存しておったんじゃ。」
 「おれの細胞もあるのか?」
 「お前らのは髪と血液ぐらいじゃがな。隼人の遺伝子は結構興味があったんで、サンプルとして貰っといた。」
 ひっひっひ、と笑う敷島。アブナイ性格だけど、今回だけはその性格に乾杯だ。
 「クローンが出来たら、戦闘データを記憶として埋め込む。そのほかはお前が教えてやることじゃ。」
 「ああ、わかってる。まかせとけ。」
 うれしそうに笑うリョウ。
 「失敗しないでくれよ、博士。」
 「クローン制作自体はそう難しいものじゃない。それに多少失敗しても、59個も核があるんじゃ。大丈夫じゃよ。」
 「んじゃ、UFOの方にかかろうぜ。設計図は完成しているはずなんだけど。」
 ディスクをコンピューターに入れる。次々に映し出される図面。
 「・・・・・・・・・・ふむ。さすがじゃな、隼人は。確かに死んだままにしとくのは惜しい。もっと時間があれば、恒星間航法もモノにしたかもしれん。」
 「だから生き返らせるのさ。そして一緒に宇宙へ行くんだ!」
 
 自分のミスのせいで死なせてしまった隼人。
 何の欲も持たず、人のためにずっと働き続けていた隼人。それが初めて自分と自分の愛する人のために生きようと思ったのに、死なせてしまった。あいつの夢を潰してしまったのは俺だ。
 生き返らせて、今度は俺がアイツを守る。アイツの夢ごと守る。決して死なせはしない。共に宇宙に行く。
 それが隼人の望みなのか、自分の望みなのか、顧みることなく、リョウは誓う。

 試験管の培養液の中で、まだ形も見えないソレを見詰めるリョウを横目で見ながら、敷島はそっと長く息を吐いた。



 あの日。思い詰めた目、というより、凄まじい殺気を込めた目で訪れた竜馬。
 隼人のクローンを造ってくれ、というそれは、依頼ではなく命令。いや、命令でもない、了承しか認めない狂気だった。
 隼人が合体事故で死んだ後、リョウが錯乱し、狂い始めていたのは知っていた。だが、戦士としてずば抜けた力と意志をもつ竜馬。多少時間はかかろうとも、落ち着くだろうと思っていた。
 だが。
 隼人の死の原因が竜馬のミスにあったと聞かされたとき。
 壊れるな、と思った。
 悲しみや怒りの矛先を他に向けることが出来たなら、始めから狂いはしない。自分を決して許せないリョウが生きるためには、自身を憎むか狂うしかない。他の者がどんなに言葉を尽くしても、リョウを救うことはできない。ただ一人の人物以外は。
 クローンを造ることは、人道的にマズイだろう。だが、敷島は別に人道主義者ではない。何を言われても気にはならない。ただ、武蔵や弁慶、早乙女達の心情が気になったが、リョウは彼らには告げず、隼人と宇宙に行くという。ならば、何の不都合もないだろう。リョウはクローンを隼人として扱い、クローンもまた、リョウを受け入れるだろう。人間社会で生きるなら、クローンであることに苦悩するかもしれないが、宇宙で二人きりならば何でもないことだ。もし、クローンの感情が暴走することがあって、殺されそうになったとしても、リョウなら返り討ちにできるだろう。いや、再び隼人を死なせるのが嫌で、抵抗せずに死を選ぶかもしれないが、それも遠い宇宙でのことだ。今から考慮するべきでもない。
 今、竜馬に必要なこと。狂気を抑える手段はこれしかないのだから。
 クローン製造は難しくはない。

 はず、だった。





                            ☆





 ガシャーン!!!

 カプセルが破壊される。
 拳を握り締め、荒い息を吐くリョウ。
 緑色の培養液が床に広がる。

 「リョウ、落ち着け。」
 「何故だ!?」

 ギラギラした獰猛な光を抑えもしない目。
 「言ったじゃねぇか、博士!クローンは難しくないって!!」
 ぎりぎりをと胸倉を締め付ける腕。
 「30個、30個も失敗だ!!!」
 焦りが、押さえ込んでいた狂気を呼び起こす。
 「弱いんじゃ。」
 困り果てたように敷島は答える。
 「形になる前に壊れてしまう。」
 「隼人の細胞が弱いはずねぇだろうが!あいつは唯一おれと対等に戦える奴だ!」
 「わしもそう思っておったんじゃが・・・・・・。これは確かにおかしい・・・・・・・もしかしたら・・・・」
 「ああ?何だよ、何が原因なんだ?!」
 「落ち着けと言っておろうが!もしかしたら、じゃ。」
 迫るリョウを押しのけ、敷島は椅子に座る。
 「隼人は、いや、おまえ達もそうだが、ゲッターパイロットとして今まで随分ゲッター線を浴びて来ておる。ゲッター線は確かに無公害エネルギーだが、それでも常人をはるかに超えた量の宇宙線を浴び続けたことに間違いはない。ゲッター線は・・・・・」
 「それだ!!」
 敷島の言葉を遮り、リョウが叫ぶ。
 「なんじゃ?」
 顔を顰める敷島に
 「ゲッター線を当ててみようぜ。前に早乙女博士がゲッター線は進化に影響するようだって言っていた。弱い細胞を強くできるかもしれねえ。」
 うれしそうに言う。
 「待て、それは。」
 慌てる敷島に構わず、
 「そうだ。ついでだから前よりずっと強い体を造ってやろうぜ。ちょっとやそっとではくたばらねぇ、そしてうーんと長生きできる体。うん、いい考えだ。宇宙を探検するには時間がかかるからな。それに一体だけじゃ万が一って事もあるから心配だ。博士、成功したら2、3体、予備の隼人も造っておこうな。」
 先程までの怒りの形相は一変し、すごく楽しげなリョウ。

 狂気が。
 深まっている。
 隼人を造れない恐怖が。
 リョウを侵食していた。
 
 ワシは。
 間違ったことをしたのかもしれん。
 あのとき。
 断固、拒否すれば良かったのだろうか。
 だが。
 ワシも。
 できるものなら・・・・・・・         
                  もう一度。




                           ☆




 ゲッター線を照射させた10個の核は、瞬時に滅した。
 慎重に慎重に、更に10個の核に照射したが、結果は同じだった。
 高まる不安、狂気。残りは9個。
   No.52  爬虫類の再生能力をプラス。
   No.53  竜馬の細胞をプラス。
   No.54、 No.55、No.56、No.57、No.58 ゲッター線照射開始。
   ○月○日  No.52.廃棄  竜馬負傷  全治1ヶ月
   ○月×日  No.53.処分  竜馬負傷  全治3ヶ月

 No.53の処分は大変だった。
 No.52も爬虫類のDNAを入れたため再生能力が高く、銃で撃っても、斧で叩き切ってもダメージを与えることが困難で。頑丈な地下研究室をメチャメチャにしてようやく倒すことが出来た。No.53は生命力こそNo.52に及ばなかったが、念動力(?)とでもいうのだろうか、リョウの体を金縛りにした。身動きできないリョウ。いくらタフとはいえ、打たれ続けていればいずれ倒れる。
 危ない所でリョウを助けたのはNo.55だった。まだカプセル内にいたソレを敷島は開けた。完成体はソレしかなかった。まだ最終の検査も済んでいなかったが。そしてソレはリョウを助けた。No.55も大きな傷を負ったためカプセルに戻されたが、その治癒能力は強く、一ヶ月でカプセルから出ることが出来た。そしてソレは敷島の指導のもと、リョウの看病に徹した。
 No.55。スレンダーで中性的な容貌をもつクローン。口数は少ないが、高い知能を持っているように見える。その澄んだ瞳は、敷島とリョウをまっすぐに見詰めていた。
 敷島はNo.55を「ゴウ」と名づけた。
 ゴウはすぐに一人で日常生活ができるようになった。知能指数は140。敷島博士の研究の手伝いや、リョウたちがほったらかしにしていた家事も器用にこなした。肌の色は白く、髪は漆黒。整った顔立ちだった。リョウや敷島に従順だった。敷島は可愛がった。
 No.54、No.57はカプセル内で消滅し、No.58は成長が止まったままだった。そして完成されたもう1つのクローン。
 No.56の容姿は、

 隼人に似ていた。



 No.56は虚弱体質だった。ゴウから2ヶ月遅れてカプセルから出ることができたが、一日中、ベットから起き上がることは出来なかった。
 背は高く、蒼みがかった白皙。しなやかでスレンダーな体。気だるげに体を起こすその顔は、隼人には決して見られなかった物憂げなものだったが、妙に蠱惑的で。
 一人では食事すら取れないその脆弱さを。
 
 リョウは受け入れた。
 否、むしろ喜んだ。
 自分が手を貸せねば生きていけないそのクローンを。
 自分が守りたかった、守れなかった友の代わりに。
 武蔵や弁慶が見たならば、必ず否定するであろう、そのクローンを。

 「ハヤト」と名付けた。



 敷島は自分の過ちを知った。
 No.56は隼人ではない。
 顔形よりも才能よりも何よりも。
 あの隼人の眼をNo.56は持ってはいなかった。
 切れ長の涼しげな目元。凛とした強い光を宿す瞳。一切の妥協を許さぬ強靭な意志。そして、すべてを受け入れる穏やかなあの眼差しを。

 No.56は、確かに高い知能を持っていた。IQ240。だが、窺うような値踏みするような、そんな卑しい眼をもつ者が隼人を名乗ることを、敷島は我慢できなかった。
 だが、リョウは聞かなかった。
 自分を必要とし、自分が守り切れる隼人が、リョウには必要だった。
 虚弱なNo.56が熱を出し、生死の境をさ迷う度、リョウは不安定になった。

 再び失う恐怖。
 再び守り切れない絶望。

 ほとんど食事も取らぬままNo.56を看病するリョウを、ゴウは心配した。
 「竜馬さん、少し休んでください。替わりますから。」
 沈黙。
 「お願いします、休んでください。竜馬さんが体を壊します。」
 「いらねぇ!!」
 苛立ちはゴウにぶつけられる。ゴウはそれを甘受する。
 部屋の外。冷えた廊下に立ち尽くしてリョウの命令を待つゴウに、敷島は何度部屋に戻るよう言っただろう。だが、普段は敷島の命令を聞くゴウも、リョウのこととなると頑固だった。「すみません。」と呟き、気遣わしげに閉ざされたドアを見やるばかりだった。
 だが、リョウは。


 「なあ、博士。」
 ようやく熱が下がり容態が安定したNo.56から離れて、リョウが久しぶりに敷島の部屋に入ってきた。
 「なあ。ゴウの体をハヤトにやるわけにはいかねぇのか?」
 「な、なんじゃと?!」
 聞き間違いかと思った。
 「ハヤトはこのままじゃ、とても宇宙に行けっこねえ。ゴウの体は頑丈だ。首から下を付け替えるって出来ねえのかな。」
 真剣に、何の逡巡もなく口にするリョウに、敷島は爆発した。
 「馬鹿者が!!ゴウをなんだと思っておる!?」
 敷島が武器のこと以外で本気で怒鳴ったのは初めてだろう。顔を真っ赤にし、憤怒の形相の敷島に、リョウは不思議そうに答えた。
 「何って・・・・・・・クローンだろ、失敗作の。」


 間違っていたのかもしれぬ・・・・・・。
 リョウが「まあ、考えといてくれよ、博士。」と平然と部屋を出て行ったあと、敷島は脱力したままソファに沈み込んだ。
 『生命を弄んではならない。』
 言い尽くされた言葉が敷島を苛む。
 
 「博士。」
 すっとゴウが部屋に入ってきた。
 黙ったまま見上げる敷島に
 「俺の体、使えるならハヤトに使ってください。」
 「何を言いだすんじゃ!」
 慌てる敷島に構わず、
 「リョウ・・・・マさんが望んでいるなら、俺はいいです。」
 リョウ、と言いよどんだゴウの感情を、敷島は痛いほど気づいた。
 リョウは自分のことをNo.56には「リョウ」と呼び捨てにさせている。それをゴウがどれほど羨んでいるか。欲しているか。
 あたたかな陽だまりにNo.56を座らせ、傍らで嬉しそうに話しかけるリョウ。ゲッターロボで戦ったこと、早乙女研究所で武蔵や弁慶、元気たちとバーベキューや花火で騒いだこと。そしてまだ見ぬ世界、宇宙への夢。明るい笑顔で、晴れやかな声で。決してゴウには向けられぬリョウの素顔。
 「ハヤトと言うな。あれはNo.56じゃ。」
 「いえ、博士。」
 「リョウが何を言おうと、アレは隼人ではない。それを一番よく知っているのはリョウ自身なんじゃ。だからアレをハヤトと呼ぶ必要はない。」
 「でも・・・・・・・」
 きつく言い渡されている。No.56をハヤトと呼べと。
 「隼人はあんな奴じゃない。もし隼人があんな奴なら、リョウは隼人を生まれ変わらせようとは思わんじゃろう。隼人と心根が似ているというなら、No.56よりもゴウ、おまえのほうじゃ。」
 「ほ、ほんとですか?!」
 「ああ。隼人はリョウを大切にしておった。かけがえのない友、大切な家族としてな。お前のほうが隼人に似ておる。」
 繰り返す敷島に、ゴウはそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。
 「もしここに本物の隼人がおったら、隼人はリョウを殴り飛ばしておるだろう。俺があんな奴に似ているなんて、嫌がらせにもほどがあるとな。まして体を取り替えるなんて言語道断だと。隼人はお前もちゃんと一人の人間と見てくれる。宇宙にも連れて行ってくれるぞ。そんな奴だ。でなきゃ、リョウがあれほど固執するはずがなかろう。」
 敷島の、顔に似合わぬ優しい言葉に、ゴウは泣き出しそうな顔で頷いた。
 「オイ、ゴウ!何処に居る!早くハヤトの体を拭いてやれ!汗をかいてるじゃないか!食事もまだ作ってねえだろが!!」
 リョウの怒声、響く。
 「は、はい!!」
 怒鳴られて、それでも嬉しそうに駆けて行くゴウを、敷島は複雑な気持ちで見送った。
 「遅いぞ、ゴウ!」
 「す、すみません!」
 その会話を遠くで聞いて。



 敷島は地下の一室に居た。
 リョウもゴウも知らない、隠された部屋。
 「クローンというものは、そう難しいものではない。少なくともワシにとってはな。」
 コポコポコポコポ・・・・・・・・・
 「予定では、最初の2,3回で成功するはずじゃった。隼人のDNAは優良種じゃ。失敗はないと。」
 コポコポコポコポ・・・・・・・・・
 「あとNo.58、No.59の核があると、リョウもゴウも信じておるが・・・・・・・・」 
 コポコポコポコポ・・・・・・・・・
 「あれらはもう死んでおる。リョウには言えない。」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「ここまで再生を拒まれると、何かの意志、お前が手出しでもしているかと思うぞ・・・・・・・・・手はないがの。」
 コポコポコポコポ・・・・・・・・・・
 

         カプセルの中。

         青緑の液体の中で
 
 


               「脳」   が




             フッと 笑ったような        気がした。




           ------------*--------------*--------------*---------

 某チャット様で。(こればっか。)
  「 『蠢く 闇』の続編って出ます?」
 と聞かれまして。
 「ええ。某サイト様で、隼人がイジメられるお話UPされましたら、報復(?)にすぐにでも書きますわ。わたしを敵に回してみます?」と申しましたら、「敵には回したくないけど、続編は読みたい。」とのリクエスト(?)いただきまして。
 えっと、貴女様たちは竜馬ファンでしたよね? ここは「隼人至上空間」ですよ? 確認できましたのでUP。
 それと○里様に 「竜×ゴウ」、お願いしますと言われ、3日考えて挫折。そこでフッと天使(悪魔?)の声。「そうだ。『竜×ゴウ』、と言われたけど、甘々とかLOVEの指定はなかったっけ。」
 ふっふっふ。詰めが甘かったですわよ、○里様。ベクトルは「リョウ←ゴウ」で。
 「やだやだ、こんなのゴウがかわいそう!ゴウと竜馬はラブラブで!」という方は、リンクのページからお好きなサイト様にご出発くださいませ。
 ま、今まで、当サイトのお越しの方はお解かりだと思いますが、私は「エロ」は書けません。管理人、すでに「枯れて」いますので。(ん、誰です?強く頷いておられるのは?)

        (2007.6.12     かるら)