テロリストの憂鬱




                
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 防衛庁特殊兵器管理センター。
 この部署のセキュリティーシステムは、この一年程の間不定期に、そして頻繁に呼び出しコードやパスワードが変更されていた。いくら国家機密を扱っているとはいえ、これほど込み入ったガードの固いセクションは他にない。他の国々からスパイ天国と嘲られるほどハッキングや諜報活動に疎い日本に
これほど強固なプロテクトが掛けられた部門があるということは。
 何かある。
 この閉ざされた扉の奥には、何かとてつもなく面白いものがありそうだ。

 冷たい笑みが、整った白い容貌の口元に浮かんだ。





 神 隼人。 職業(?) テロリスト。
 暴力革命主義者というよりも、破壊主義者といったほうが良いかもしれない。しかもニヒリスト、虚無主義者でもある。
 現実社会に理想や希望を持たず、加えて物欲も薄いものだから破壊のみに力を尽くす。破壊のあとに何かを成したいわけでもない。単にゲーム感覚で楽しむ、迷惑極まりない男。
 目的のためには手段を選ばない、ではない。目的のためならばどんな手段であれ平然と選ぶのだ。眉ひとつ動かすこともない。
 隼人の狂気に飲み込まれ同志たちは、すでに同志ではなく部下でもない。単に隼人の手駒にすぎぬ。どんな非情な命令であっても、残虐な仕打ちを受けても、隼人を離れることはない。人望というか、絶対的な吸引力を持つ性格破綻者。これほど厄介なものはない。(オイ!)
 長身でスレンダーな美形。ダブルで長めのコートを着て、秋の公園にでも佇ませば、そのストイックな雰囲気はまさに一幅の絵になるだろうに、実際は阿鼻叫喚の地獄絵図の制作者だ。
 人並み外れた運動能力・身体能力は、武器を持たずとも凄まじい殺傷力を発揮する。特に握力、鋭い爪はとても人間のものとは思えない。ライオンやジャガーのごとく相手の顔を剥ぐ。
 隼人の率いるグループは、これまでに何度も政府要人や財界の裏を牛耳る人間達の排除に手を下してきたが、その犯罪の尻尾たりともつかませていない。闇の社会で恐れられ、次に何をしでかすか戦々恐々と見詰められているが、本人はそろそろゲームにも飽きてきて、戦争へ向かう大きな花火を挙げようとしている。まったくIQの無駄遣いだ(?)。





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 夜。新宿。歌舞伎町。
 ネオンと音の洪水。
 暴力と欲望が支配する退廃的な町。

 ひとりの男が数人に囲まれ袋叩きにされている。
 珍しいことではない。
 くだらない理由で絡まれたのだろう。誰も目を留めようとしない。文化の爛熟期特有の怠惰な喧騒。
 殴られている男は日本人ではないようだ。南米か?途切れ途切れに、許しを乞う言葉が聞こえる。
 隼人は道の隅で、見るとはなしに目を向けていた。
 昼間の秩序を捨て去る夜の街。


 文明の進歩に、人の精神は追いつけない。 
 数年前なら、これほどまでにネットワークが世界中に張り巡らされ、しかもそれを一般人が自由にアクセスできるようになるとは信じられなかっただろう。強固に張られたガードさえ潜り抜ければ、国家機密すら手に入れられる。
 通信衛星は情報のみでなく、兵器としての任さえ全うする。はるか天空より高い精度で放たれるミサイル・爆撃。
 指令に従いコンピューターのキィを操るその手は、血に塗れることはない。痛みも感じない。殺される者たちの呻き声も苦しみも恐怖も憎しみも、画面の向こうの映像にすぎないのだ。現実と空想の狭間の真実の「死」。
 誰も手を下さなくも、数百年もしないうちにこの町は、この国は、この世界は、瓦礫に埋もれるかもしれない。
 荒廃し、乾ききった世界の隅で蠢くのはやはり人間だろうか。それとも他の何ものか。
 ふと、場の雰囲気が変わった。

 「テメェら、何してやがる!!」
 怒鳴り声と同時に、今までひとりをいたぶっていた男たちが宙に飛ぶ。
 凛とそこに立っていたのは、二十歳ぐらいの精悍な面構えの男。ふてぶてしい笑みを浮かべたその目は、無邪気な子供のようにキラキラしている。
 「何だと、この野郎!!」
 「きさま、よくも!!」
 一瞬呆気にとられていた男たちが、気がついたように殴りかかった。わらわらと加勢が増え、一気に数十人にも膨れ上がった。対する男はさも嬉しそうに嬉々として拳を飛ばし脚を蹴り上げる。荒々しい動きにかかわらず舞うような軽やかさ。だがその見かけの軽さによらず拳は重い。男たちは次々と血反吐を吐き蹲った。
 最低でも骨はイってるな。
 少し離れたところで、無表情のまま隼人は見ていた。

 「おい、大丈夫か、カルロス!」
 「・・・ア・・・アァ・・・。アリガト、リョーマ。」
 肩を抱きかかえるように起こしてやる。カルロスと呼ばれた男の顔は腫れ、唇も切れ、服もズタぼろになっていたが、なんとか立ち上がった。
 手を貸しながら、竜馬はひとつの視線に気づいた。
 ハッと目を向けるが、その瞬間気配は消えた。
 長身の男が背を向けて歩いていくのが見えるだけだ。そこからは何の「気」も感じない。
 リョウは軽く眉を顰める。「殺気」とも違う、なにか得体の知れぬ、背筋がそそけ立つような「気」。あの男か?
 そむけた横顔しか目に入らなかったが、その白さは闇の中で、それだけが浮かび上がっているかのようだった。
 「変な野郎・・・・・・・・」
 ポツリと呟くと、リョウは投げ捨てられていたカルロスのギターを拾ってやった。




     

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 テロリストの収入源というと、麻薬とか強奪だとか誘拐とか、非合法なものばかり思い浮かべられるが、(実際それも多いだろうけど) 今の世の中ほど株や先物取引などで大きな財を成せる時代はない。簡単に世界中を知ることが出来るのだ。あらゆる情報を手にし、先見の明を持てば、巨万の富を得ることも難しくはない。もっとも、自分に都合のよいように大事故などを起こさせれば、儲けはもっと大きくなるが。(それがテロか?)
 「富」は「富」のあるところに集中する。金儲けを生業とする者たちにとって、金はあくまでも金であり、綺麗か否かは問題ではない。さまざまなジャンルからより大きな投資先を探す。物でも・・・・・・人でも。
 I Q300の隼人は非合法も得意だが、合法的な金儲けもお手の物だ。隼人の才能は机上よりも更に現実に即している。良きにつけ、悪しきにつけ。
 ということで隼人の率いるグループには誰にも媚びない潤沢な資金がある。
 隼人は名声(悪名ともいうか?)を欲しいわけではないので、テロ行為を行なっても声明は出さない。自己顕示欲はない。(存在自体は嫌というほど目立っているが。)だから別に普段、隠れて暮らす必要はない。暗殺であっても、爆破であっても、何の証拠も残してはいないのだから、声明さえ出さなければ逮捕されることなど皆無だ。
 普段は堂々と、各地に点在する別荘のどれかに居る。国内、あるいは国外。
 部下達の訓練や生活に使用する拠点も、山中や岬、町中にいくつもある。彼らはそこで律された生活を送っている。(なんでプラスに向かわないんだろね。)
 
 隼人は先週まで、地中海にある支持者のひとりの別荘にいた。島ひとつを別荘としているその支持者は、美食・美酒・美女を侍らせて隼人を饗応した。そしてそのあと自分のライバルである男の暗殺を依頼した。
 隼人は依頼の内容にも報酬にも異存はなかったが、その男が話の途中、何気なく指でリズムをとる仕草が気になった。
 気に障った。


  あの島への定期の連絡船は、確か一週間後。
 ボディガードを含め数十人。
 この気候ではかなり臭うだろう。




  爽やかな陽射しの差し込む高台の別荘で。
  防衛庁のコンピューターをハッキングしながら、隼人はダージリンの香気を口にした。







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  ・・・・・・・話が上手く書けないなら、せめてタイトルぐらい手を抜くな!!と言われそうですが・・・・・・


      ゑゐり様     8500番リクエスト       

       お題は 「テロリスト隼人の優雅な私生活」

  まず最初に謝ります、ごめんなさい!
  へたれのうえに何て短いの!これじゃ、「余韻」を付記しなくちゃ!
  いやー、あのキ○ガイ隼人から優雅さを見出すのは、さすがの隼人LOVEかるらも難しかったです。
  書こうとすると 「イ−ッヒッヒヒ!!!」という叫びが聞こえまして・・・・・・・

       そろ〜〜っとUPさせていただきます。
     (2006.10.31   かるら )