体育祭
浅間学園サッカー部主将、流 竜馬は優等生である。成績はいつも学園トップを争うほどであるし、整った顔立ちの爽やかな笑顔の持ち主で、何よりも責任感が強い。困っている人を放っておけない。人の輪を重視する。クラスのリーダーとして申し分のない性格である。みんな頼りにしているし、また本人も出来る限りの努力をする。
さて、高校生活最後の体育祭が近づいている。クラス一致団結して、思い出に残る最高のものにしたいと竜馬は思っている。成績ももちろん大切だが、全員が協力し合ったという高まりが欲しい。体育祭の種目や出場選手を決めるのだが、ひとつだけ気になることがある。クラス全員が盛り上がろうとするなか、問題児がひとり
・・・・
「待て!ハヤト!」
スッと教室を出て行こうとするハヤトにリョウは怒鳴った。
「今から各種目の出場選手を決めるって言っただろうが。」
黒板の前でプリントを片手に持ち、睨みつけるリョウに
「ああ、俺は体育祭は休む。」
さらっと言って背を向ける。
「何言ってるんだ。ちょっと待て!」
面倒くさそうに振り向いて
「俺は今までも体育祭は休んでいる。勝手にやってくれ。」
ハヤトは。
運動能力は異常なくらい優れている。
柔道部主将 巴 武蔵の必殺技、「大雪山おろし」をまともに喰らいながら空中でバランスをとり、プールの高飛び込みの台に着地できるなんて、「こいつ、人間か?」っていうくらいだし、そのままスッと地面に降り立つのを見ると、引力も重力もどこにいった?って感じだ。リョウよりも凄まじいキックを蹴るし、ジャンプ力は2,3階分飛び越える。建設中の研究所の足場から落ちそうになった父親を、ジャンプして助けるなんて、アニメとはいえ無理があるような。
頭は良いし、背も高くスラリとした体型だ。じゃあ、欠点は?というと、長所すべてをご破算にする非協調性だ。冷笑と皮肉と無視で構成されている。
成り行きというか、無理やりというか、必然的なんだろうが、ゲッターチームの一員になってからは、同室のリョウやムサシに親しみを見せないこともないこともないが(?)それでも学校でつるんでいるわけではない。相変わらず淡々として、授業もよくエスケープしている。
「駄目だハヤト。高校生活最後の体育祭だ。皆一致団結して盛り上げるんだ。」
キツク言い切るリョウに、他の学生達は息をひそめている。ハヤトがキレたのを見たことはないが、キレたら凄いだろうという威圧感は、入学当初から窺えた。『さわらぬ神に祟りなし』ってことで、みんな一歩さがっていた。ズケズケとものを言えるのはリョウかムサシぐらいだ。それに対してもハヤトはいつも冷たい一瞥を向けた後、背を向けるのが常だった。ケンカするのもアホらしい、という感じで。
ゲッターに乗るようになってからは、訓練もあるから行動を共にすることが多くなったが、それでも特に語るわけではないし、用が終わるとフッといなくなる。そして裏山か土手か林あたりで寝転がっている。
自分を睨みつけているリョウにハヤトは
「わかったよ。ひとつだけ出るから、そっちで適当に決めてくれ。」
あっさり言うと出て行く。
「お、おい、ちょっと待て」
あわててリョウは後を追う。
「いいのか、こっちで決めても?」
「ああ、何でもいい。どれでも出来る。」
まあ、そうだろうが。
あまりにあっけなく難問が片付いたので、リョウはちょっと拍子抜けした。クラスの皆も顔を見合わせている。
「えー、えへん。じゃあ、みんな、それぞれ希望を言ってくれ。自薦、推薦で決めてしまおう。ハヤトの種目はあとで決めよう。なるべく、取得点数の高いやつにしてやろうか。」
笑いながら言うリョウに、
「そうだ、そうだ。400M走かなにか、しんどいやつにしてやろう。」ムサシが大声で言う。
「みんなの嫌がるやつを押し付けてやろうぜ。」
確かにハヤトならどれでも高得点取れるだろうし、どれでも気にしないだろう。やる気ないだけで、スポーツは万能だ。
ハヤトは草の上に寝転がって眼を閉じている。体育祭のことなどすでに気にしていない。面倒くさいと思ったが、リョウのことだ。断ってもしつこく言い続けるだろう。「絶対、説得してやる!」という責任感を露わにしていた。あいつが責任感に燃え出したら始末に負えないのはわかりきっていた。伊達に3年間、同じ部屋で生活しているわけではない。ゲッターチーム内では特にだ。
リョウの気が済むのなら、ひとつぐらい出てもいいかと思った。本人は気が付いていないようだが、これは今までのハヤトにしては驚くべき譲歩だった。以前なら何を言われても無視し、さっさとエスケープしただろう。
「で、俺は何に出ればいいんだ?」
夜、寮の部屋でハヤトはリョウに聞いた。
リョウは少し困った顔をして、
「いや、今日は結局決まらなかったんだ。」
『?』
ハヤトは少し眉をひそめる。リョウが仕切ってて、決まらないことがあるのか?
不審そうなハヤトに
「いや、大体は決まったんだけど。他のクラスの選手も見てからと思ってさ。」
「仰々しいことだな、たかが体育祭に。」
フン、と冷たい眼を向ける。
「なんだとー!」
食って掛かりそうなムサシを制し、
「ハヤトなら何でもできるからな。別に練習も必要ないだろう。」
「ゲッターの訓練も、俺には必要ないがな。」
・・・・・・以前よりも口数が増えたのは、喜ばしいといえるのか。憎たらしさも増えている。リョウもムサシも複雑な気分だった。
体育祭の前日になってもリョウはハヤトに種目を告げない。
「多数決で決めることになったんだ。別に、当日でもいいだろ?」
忙しそうに小道具やなにやら運びながら、さっさと行ってしまった。
別にかまわないが。でも、当日に決めてもいいものなのか?高校に入ってから体育祭なんて出なかったから、いまひとつ、よくわからない。中学のときは1年のときだけ出たが、あのときは。中学と高校では違うのかもしれないし、まあ、どうだっていい。
「ハヤト君。明日は私が3人のお弁当作ってくるから。」
明るくミチルの声が響いた。
「ハヤト君はたぶん、午後からの種目になると思うから、お昼にはきてね!」
返事も待たず、さっさと駆けて行った。
体育祭当日。雲ひとつない澄んだ空。
開会式はサボって、昼近くになってハヤトは学校に来た。
自分のクラスの生徒に目を向けても、みんな、目を合わさないようにしながら話をしている。いつも、だいたいそうだが。
リョウの姿が見えない。ムサシもだ。他の奴に聞くのも億劫だし、昼食になれば、リョウはともかくムサシは飛んでくるだろう。ミチルの手弁当だといっていたから、
手持ち無沙汰に他の競技を見ていると
「ハヤト君。こっちこっち!」 ミチルが手を振っている。
「はい、お弁当。」
「ああ、ありがとう。」 受け取りながら周りを見回す。
「リョウとムサシは?」
「あー、2人とも手が離せない用事があるって、お弁当だけ持っていったわ。」
『変だな』とハヤトは思う。リョウはともかく、ムサシがミチルと食事できるチャンスを逃すはずがない。
「どう?おいしい?」
「ああ、おいしいですよ。見た目もきれいですし。」
ハヤトもミチルには一目置いているらしく、言葉使いは丁寧だ。といっても、他の女生徒とはほとんど口をきくことがないから、ミチルにだけ丁寧なのか否かはわからないが。
なんとなく気詰まりながら、無表情でさっさと食事を終えたハヤトに、ミチルは困ったような、ちょっと笑いをこらえたような顔でプリントを渡した。
「はい、ハヤト君の出場種目。」
浅間学園学生寮の一室で、慌ただしくカバンに着替えやら参考書やらを押し込んでいる2人がいた。
「おい、ムサシ。ちゃんと宿題も入れておけよ。」
「あーあ、せっかくミチルさんとお弁当食べる予定だったのに。」
「何言っているんだ。かわりに3日間、ミチルさんの家に泊まれるんだ。一緒に食事できるだろう。」
「そうだった。夜と昼と朝と夜と、また朝と昼と夜と、またまた朝と昼と夜、3日も一緒なんだ・・・・しあわせ〜〜〜」
うっとり呟くムサシに
「おい、その前にハヤトに捕まらないように、さっさと出るぞ!」
「そうだ。今頃ミチルさんから聞いて、怒っているだろうなあ」
「まあ、ミチルさんを怒鳴りつけたりはしないだろうけど・・・・」
「でも、クラスのみんなも、後のこと考えてくれなきゃなあ。おいら達はハヤトと同室なんだから。おかげで3日間の連休中、ミチルさんの家に避難だもんな。うれしいけど。むふふ・・・」
「俺達のクラスは男女比が半々だからな。男子はみんな、後が恐いから反対したけど、女子が全員賛成したからこうなったものな。一票差で。ハヤトもサボらずに出席していたら、こんな事にならずに済んだのに。」
「自業自得ってやつかあ。でも、女子も変なこと考えるんだなあ。」
「ああ、よりによって、ハヤトにダンスやらせようなんてな。」
高く澄んだ青い空。見上げながらハヤトは切に願っていた。
-------恐竜帝国のメカザウルス、今すぐ襲って来い-----
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ストリートダンス、ウオークダンス、○○○○踊り、○○○○節。呼称はいろいろ違うけれど、体育祭で「踊りのある」高校もあるよ、と聞いたので。
ちょっと、ハヤトを苛めてみたかるらです。こんなの、いかが?
2004.10.29
小説