修学旅行






           
                              ☆






 修学旅行が一週間後に迫っていた。
  (普通は高校1年か2年じゃないのか、という突っ込みは置いといて。)

 
 重苦しい空気が早乙女研究所の所長室に漂っている。
 「博士!たしかにオイラ達は日本の、いや、世界の平和を守るためにゲッターに乗り込んでいますが、その前に高校生なんです!!」
 目を爛々と輝かせ、口角に泡を飛ばしながら力説するムサシ。
 腕組みしながらむずかしい顔を崩さない早乙女博士。
 困った風なリョウ。
 どこ吹く風といったハヤト。
 
 「博士だっていつも言っているじゃありませんか。学生の本分をおざなりにするなって。」

 いや、それは主に学力テストのことについてなんだが。リョウとハヤトは何ら問題ないが、ムサシはただでさえ学力が低い。追試の回数券を貰っている(?)くらいだ。
 早乙女は心の中での突っ込む。
 「わかっている、ムサシ君。たしかに、私はそう言ったが・・・・・・・・」

 行き先は沖縄。3泊4日だ。本音を言えば早乙女も許可したい。だが、いつ恐竜帝国が襲ってくるかわからない。
 行き先は沖縄。ムサシは絶対譲れない。今年の夏は恐竜帝国との戦いで、海水浴に行くことができなかった。つまりミチルの水着姿が見られなかったのだ。沖縄ならまだ泳げる。シーウォークやサーフィンなど、お楽しみは盛りだくさんだ。
 
 リョウは困っている。ムサシの気持ちもわかる。修学旅行は高校生活最大のイベントともいうべきものだと律儀に考えている。だが、戦闘を疎かにはできない。
 ハヤトは。
 「じゃあ、俺が残る。何かあって、俺一人では無理でお前たちが必要なら、ゲッターで迎えに行くさ。ゲッターならさほど時間はかからない。」

 途端にキラメク目と咎める目。
 前者はムサシで、後者はリョウだ。
 「ありがとよ。ハヤト!」
 「駄目だ、皆一緒だ、」ハヤト!」

 異口異音。(なんじゃそれ。)
 同時に発せられた異なる言葉に、ハヤトは告げる。
 「仕方ないだろ。何かあるかもしれないが、何もないかもしれない。3人とも残っている必要はないだろう。どうせ俺は集団で動くのは苦手だから、もともと行かないつもりだったんだ。」
 平然と言うハヤトに、そうだろうな、と納得しながらも(オイ!)、これまた予想どうりにリョウが説教する。
 「駄目だ、ハヤト。修学旅行というものは、全員が参加してこそ意義があるんだ。旅行といういつもと違った生活環境のなかで培われる思いやりとか、共感とか、それらはやがて思い出となって、俺たちの人生の中でも・・・・・・・」
 延々と続く。
 「いや、確かにその通りだがよ、リョウ。ハヤトの言い分も正しいぞ。3人が残ったって出動があるとは限らないし、かといって全く備えがないのも困るだろう。ハヤトは皆と一緒に観光地巡りできるようなタマではないし、きっとバスの中かホテルで寝ているだけだ。『具合が悪いんです』とかなんとか言ってさ。で、先生たちだって、『ああ、そうか。無理するな。』 な〜んてよ。」
 いつもはリョウの味方をするムサシも、今回ばかりはリョウの説得に回る。ずっと楽しみにしていた修学旅行、行かずに終らせるものか。
 「それにリョウはクラス委員で用事もあるし、行かないと皆に迷惑がかかるだろう。」
 リョウの責任感に訴える。リョウも困って早乙女を見る。
 「ふーむ。君達はゲッターチームのメンバーではあるが、その前に高校生だ。学校生活をおろそかにはできないし、行事は極力参加せねばな。ハヤト君が残ってくれるというのであればそれに甘えよう。いいかね、ハヤト君。」
 「もちろんですよ、最初から行くつもりはありませんでしたから。 (リョウが睨むが知らん顔だ。)敷島博士のところで時間をつぶしますよ・・・・・・・今、ちょっと面白い実験しているんです。」
 ニヤリ、と笑みを浮かべるハヤト。一瞬、そこに居た者たちは身を凍らせた。敷島博士とハヤトの面白い実験・・・・・・・ 





 「ミチルさん、自由行動は何にしますぅ?シーウォーク、サーフィン、シーカヤックなんてどうですか。」
 ムサシがウキウキとパンフレットを並べる。シーカヤックでさんご礁の海。2人艇でミチルと・・・・・
 夢見る乙女(?)の表情のムサシに、リョウは呆れて一言。
 「修学旅行だからな。自由行動は3日目の恩納村だけだ。他はひめゆりの塔や摩文仁の丘の平和祈念公園、俺たちと同じ年で戦争のために犠牲になった人達のことを考えろ。」
 「いや、それはわかっているよ、オイラだって。」
 ちょっと面目なさそうに俯くムサシ。
 「まあ、いいじゃないかね。ムサシ君だってよくわかっている。君達も平和のために戦っている。哀しい過去があったのは残念だが、悼みこそすれソレを引きずって欲しいとは、誰も思わないだろう。亡くなった人々が命を賭けて守りたかったものを、今の私たちが守っていくのが何よりの供養だ。その合間のささやかな休養を、誰も責めたりはしないだろう。」
 とりなす早乙女に、リョウも頷く。
 「で、那覇での昼飯なんだけど、ソーキそばは絶対はずせないし、ゴーヤーチャンプルーの食べてみたい。ラフティもうまそうだし、おやつはやっぱりサーターアンダギー、ちんすこうや紅イモタルトも食べてみなくちゃ。あ、そうだ。博士にはちゃんと泡盛をお土産に買ってきますから!」
 パンフレットを見ながら止まることなく続けるムサシな、全員、呆れたように苦笑する。
 だが、皆わかっていた。誰よりも涙もろいムサシ。きっと、ひめゆりの塔での語り部に、涙をボロボロこぼすに違いない。
 
 いつの時代も戦いは、凍るほどに 敗者に 無慈悲だ。





                  ☆                        ☆





 「すまないね、ハヤト君。」
 意気揚々とムサシ、リョウ、ミチルの3人が修学旅行へ出かけた後、早乙女は気の毒そうにハヤトに言った。
 「いえ、博士。俺は全然気にしていませんよ。あいつらが楽しんでくれればいいと思っています。」
 穏やかな笑みを浮かべるハヤト。リョウやムサシがいるところでは斜に構え、皮肉ばかり言っているが、早乙女や他の所員には丁寧な口調と物腰で接している。
 「ハヤト君は高等部卒業後の進路は決めているのかね。大学部か他の大学か。まあ、君の学力なら大概の大学には入れるだろうが。それとも留学かね?」
 普段は個人的なことについて何も口にしない早乙女だが、こんなふうにハヤトと2人で話す機会など初めてのせいもあって、こののんびりとした時間を楽しんでいた。
 「さあ、どうですか。特に行きたい大学はないし、やりたいこともありませんから・・・・・・・・・」
 「いい若者がなに消極的なことを言っておるのかね。君はいずれ父上の事業を継ぐのではないのかね。」
 「いえ、俺はそんな気は毛頭ありません。姉か、もしくは会社の誰かに引き継げばいいと思っています。」
 ハヤトが父親に対して確執を持っているのは、なんとなく早乙女にも感じられていたので、それに対して特に何も言うつもりはなかった。いずれ時が経てば自ずから打ち解けることもあるだろう。必要ならともかく、他人の家庭に口出すことではない。
 「君ほどの能力があればどんな仕事もこなせるだろうからね。(いや、サービス業は無理か?)」
 笑いながら煙草に火を付ける。
 「母親が死んだとき、姉と俺に少しまとまった財産を残してくれたんです。父はお前たちのものだから自由に使うといいと言って。姉と話して、株や先物取引やったんです。俺はまだ中学生でしたから姉の名で。結構、うまくいっています。無理に大博打する必要もないですから、確実なものをそれなりに。食べていくぶんには特に問題ありません。」
 淡々と告げるハヤトに早乙女は呆気にとられた。この年で、いや、中学生の時点で株や先物取引?それなりにといってもどの程度が「それなり」なのか。
 姉と相談して、ということは姉のぶんも扱っているのだろう。ハヤトが姉の明日香をとても大切に思っていることは誰もが知っている。自分のことだけならともかく、明日香の利益に関することであれば、ハヤトはその能力を惜しむことなく発揮するだろう。おそらく明日香も、何物にも興味を持たない弟を心配して、そのように持ちかけたのだろう。
 「・・・・・・・・まあ、何も急いで将来の道を決めることもない。どのような道を選ぶにしても、望むところに辿り着けるだろう・・・・・・・・空から降り注ぐ雨が、どの川に流れようとも、いずれ海に着くようにな。」
 自分でもヘンな理屈を言っていると意識しながらも、早乙女はつぶやいた。
 ドアがノックされ、研究員が報告と指示を仰ぐ。その様子を目にしながら、ハヤトは何故か落ち着かない、不穏ともいうべき空気を感じた。







                  『・・・・・・・・・・たとえ、洪水で川の流れが変わったとしても、行く先はただひとつ、海だ・・・・・・・・
                    ときには大地に浸み込み、消え去る流れがあるとしても。』
                  『何、辛気臭いこと言ってやがる・・・・・・・・オイ、テメェ、まさか、その消えちまう流れになりたいんじゃ
                   ねえだろな、○○○・・・・・・・』



                    ---------遠い---------遠い---------振動・・・・・・・・・
  




               ☆                 ☆                ☆




 沖縄。
 初日と2日目。 ひめゆりの塔や平和祈念公園。旧海軍指令部壕。いくつもある鍾乳洞を利用しての防空壕。爆撃や砲撃で為すすべもなく死んでいった多くの人々達。亡くなった人たちの苦しみに涙をボロボロ零し、平和への誓いを新たにする。
 それでも、やはり観光は楽しいもので。 玉泉洞や琉球村、首里城やパイナップルパークなど見所は一杯だ。
 「いやー、やっぱり南国。フルーツがうまいよ!」
 「ぶくぶく茶って香ばしいのね。さんぴん茶ってジャスミン茶のことなんだ。さとうきびはミネラル豊富で健康と美容にいいし。」
 「ゴーヤってもっと苦いと思ってたんだけどな。オイラ、サーターアンダギー気に入ったな。ソーキそばもあっさりしてて何杯もいけるよ。」
 明日は待ちに待った自由行動の日ということもあって、皆、ウキウキしている。
 「ねえ、リョウ君。明日は私たちと一緒シーウォーク行かない?」
 「あら、私たちとシュノーケリングしましょうよ。」
 「おい、リョウ。俺たちとドラゴンボートやろうぜ。」
 「ミチルさん、2人用のパラセールありますよ!」

 楽しい楽しい予定が、狂ってしまうのはお約束。
 さて次の日。
 メカザウルス来襲。

 
 「博士!こちらリョウ。メカザウルスが恩納村の方向に現れました。すぐにゲッターを寄越してください!!」
 「うむ、こちらでも把握しているのだが・・・・・・・」
 なぜか歯切れの悪い早乙女に、リョウは噛み付くように叫んだ。
 「どうしたんですか、博士!あ、まさかハヤトの奴がどっかでサボっているんじゃ・・・・・・・」
 ムサシとミチルも思わず視線を交わす。『あり得る!』
 「それは失礼というものだぜ、リョウ。」
 緊迫した面々に、のんびりした声が届く。
 「ハヤト、そこにいるのか?!」
 「何、ぐずぐずしてるんだ、この野郎!」
 「そう大きな声を出さなくても聞こえているぜ、ムサシ。サボっているわけじゃないが、場所が悪くてな。」
 「場所?」
 「メカザウルスの奴、沖縄最大の米軍海兵隊キャンプ、キャンプハンセンに現れたんだ。」
 「米軍キャンプ?それがどうしたっていうんだよ。まさか、アメリカ人は助けないって言うんじゃないだろな。」
 「その逆だ。アメリカ国民はアメリカ人が助ける、と言う馬鹿な奴がいただろ。」
 「え?・・・・・・・あっ!」
 「ええ!テキサスマック?!」
 アメリカ海軍のエリート、キング兄妹とその父親キング博士の造った戦闘ロボット、テキサス・マック。ゲッターに負けず劣らずの強者だ。
 「ちょうど普天間基地に向かうところだったらしく、手出し無用と言ってきた。」
 「そ、そんなこといって、はいそうですか、って引き下がったのかよ!」
 ムサシが抗議の声を上げる。
 「博士、いくら米軍基地とはいえ、日本国内です。そんな勝手を黙認するんですか!」
 リョウも厳しい声で問う。
 「そうムキになるな、リョウ。下手にゲッターを投入して、基地の施設や人員を巻き添えにしてあとでねじ込まれるのも不本意だ。あっちはあっちで勝手にやらせておくさ。」
 いつものように気のない口振りでハヤトが答える。
 「いや、何も放っておくとは言っていない。確かに日本国内の出来事だ。今からハヤト君に向かってもらう。ただし、ゲッターロボではなく、分離した状態でハヤト君に誘導してもらう。」
 取りなすように早乙女の声が通信機から届く。不満そうに黙るリョウ、ムサシの耳に、もうひとつの声が聞こえた。
 「お〜い、ハヤト。土産を忘れるんじゃないぞ〜」
 緊張の欠片もないその声は、敷島博士のものだった。



 「兄さん、海のほうへ逃げていくわ!!」
 「テキサス・マックは空・海・地の万能型だが、さすがに海のなかでは動きが鈍る。ようし、メリー、海上で倒すぞ!!」
 「O・K!」
 名もなきメカザウルス(TV版13話前半登場・名前も付けてもらってないらしい)を追って、テキサス・マックが沖縄の上空を翔ける。腰から引き抜いたピストル型バズーカーをメカザウルスに照準を合わせる。眉間と心臓部を打ち抜かれたメカザウルスが真っ逆さまに海に落ちていった。
 「やったわね、兄さん!」
 「ふん、俺たちにかかったらメカザウルスも形無しさ。テキサス・マックはどこかの寄せ集めロボットとは格が違うぜ!」



   ・・・・・・・海の底・・・・・・・ピクとも動かぬメカザウルス・・・・・・・
 わずか10キロメートルと離れていない海中で、安堵の声が交わされた。
 「あぶなかったな・・・・・・・・」
 「全くだ。ここまで逃げて来られては大変だった。もう少しで自爆させるところだった。」
 「ゲッターでなくて助かったな、ガレリイ長官。」
 「もう少しで海中基地が発見されるところだった。急いで完成させますぞ、バット将軍。」
 「テキサス・マックは意気揚々と帰っていったぞ。」
 「所詮、戦い慣れていないボウヤ達じゃ。」



 「・・・・・・・・何も、万座ビーチ沖で倒さなくたっていいじゃねぇか・・・・・・・・」
 すっかりしょげてしまったムサシ。メカザウルスは倒されたが、万一を考えて学園側が予定されていた自由行動のうち、マリンスポーツを禁止したのだ。
 「情けない顔するなよ、ムサシ。他にもお楽しみはあるだろ。」
 「ミチルさんとペアのパラセール、やりたかったのに・・・・」
 「工芸村に行ってみるか?ミチルさんの喜びそうなガラス細工があるかもしれないぞ。それともお菓子御殿はどうだ。作り立てのお菓子を試食できるぞ。」
 ムサシの気を浮上させようとリョウは一生懸命だ。こういう面倒見のよい所はさすがというべきか。
 『ピピッ』
 通信機が鳴った。
 「はい、こちらリョウ。」
 「俺だ。今から出られるか?」
 「ハヤト?もう着いたのか。こっちにくればいいだろう。お前も修学旅行に参加できるんだから。」
 「そんなものに興味はない。仕事だ。」
 「わかった。おい、ムサシ。」
 呼びかけられたムサシは相変わらずどんよりしている。
 「ムサシ、行くぞ。どうせ海には行けないんだ。愚図愚図するな。」
 一旦、ゲッターチームのリーダーの顔になると厳しいリョウである。ムサシもしぶしぶ従う。


 万座毛を見上げる岩場でハヤトは待っていた。3機のゲットマシンも。
 「どうしたハヤト。何か問題でも?」
 「メカザウルスはもうテキサス・マックが片付けたんだろ。何やんだよ。」
 「お前のやりたがっていたシーウォークさ、ムサシ。」
 「へ?」
 思わず顔を見直すムサシに、
 「こちらへ来る途中、テキサス・マックとメカザウルスの戦いを見ていたんだがな。始めのうちはそれなりに敵さんも頑張っていたけど、分が悪くなったら逃げ出した。」
 「そうだよ、よりによって、こんな近い所でやっつけるなんてよ。もっともっと遠くで片付けてくれたらよかったんだ。」
 「文句いうなよ、ムサシ。まだ海で良かった。下手したらこのあたり一帯、酷いことになっていたかもしれないんだぜ。」
 まだ諦めのついていないムサシをリョウが宥める。
 「テキサス・マックに撃たれる前、メカザウルスは高度を下げ始めていたようなんだ。」
 ハヤトのジャガー号は、コマンドマシンと同様、検索・解析の精度が高い。
 「どいういことだ、ハヤト。」
 「はっきりとはいえないが、あのメカザウルスは水中用とは思えない。海に逃げ込むということは、海に何か、救いがあったのかもしれない。」
 「気のせいじゃねえのか。テキサス・マックが撃ち落さなきゃ、もっと遠くまで行ったんじゃないかな。」
 「せっかくゲットマシンを持って来たんだ。捜査ぐらいしてもいいだろう。楽しみにしていたんだろ、シーウォーク。」
 ニヤリと笑みを浮かべるハヤト。
 「そ、それは・・・・・・ミチルさんと・・・・・・・」
 ボソボソと呟くムサシだが、リーダーモードに入ったリョウはあっさり頷いた。
 「よし、行くぞムサシ。ゲッター3だ。」


 「・・・・・・・・・・ゲッター3で歩いてもつまんないや・・・・・・・・」
 メカザウルスの落下地点をボヤキながら歩く。
 色とりどりの魚達が視界を横切る。
 「きれいだなあ・・・・・・・・・やっぱり、ミチルさんを誘えばよかったな。えへっ!オイラの横でこの魚たちを見たら喜ぶだろうな・・・・・・・・・」

 『ムサシさん、ほら、あの魚。うわー、かわいい。見てみて、竜宮城みたい!』
 『じゃあ、ミチルさんは乙姫さまですよ。この深い海よりも神秘的で、綺麗です。』
 『やだわ、ムサシさん・・・・・・・』
 頬を赤らめるミチル・・・・・・・・・

 「・・・・・・聞いてる方が顔が赤くなる・・・・・・・」
 「妄想は、口にだすものじゃないな。」
 呆れたように言い合いながら、リョウとハヤトは忙しくレーダーやモニターを見る。
 「・・・・・・・・ん?ムサシ、止まれ。」
 「・・・・・・・・あん?」
 夢想の世界を漂っていたムサシが慌ててレバーを引く。
 「っと!おい、もう少しうまく止まれ。つんのめりそうになったじゃないか。」
 「わりぃわりぃ。」
 これっぽちも悪く思っていない口調で謝る。
 「ったく。・・・・・・どうしたハヤト。何かあったか?」
 「あれか?」
 示した方向にテキサス・マックが倒したメカザウルスが横たわっていた。
 「ああ、あれがテキサスとやり合った奴だ。ムサシ、近づいてくれ。」
 「ふ〜ん。けっこう無傷なんだな。俺たちがやると、たいていゲッタービームだ爆破してしまうからな。」
 モニターいっぱいにメカザウルスの頭部が写る。恨めしそうな眼と合う。
 「ひゃっ!」
 死体(?)とわかっていても、あまり気持ちの良いものではない。
 「どうする、ハヤト。このあたりを重点的に歩くか?」
 「いや、もう少し先に行こう。こいつが高度を下げ始めたときの角度と速度からすると、行き先はもう少し先だろう。」


 「バット将軍、大変です、ゲッターです!」
 「なんだと!なぜここがわかった?!」
 建設中の海底基地のモニターに映るゲッター3に、バット将軍は拳を握り締めた。
 「残念だがこのままでは見つかる。せめてゲッターに一矢報いてやろう!メカザウルス メサ、出動せよ!!」
 蛸のような吸盤を持つ手足を何本もゆらめかせながら、メカザウルス メサがゲッターに襲い掛かった。
 「うわっ、やっぱりいやがった!!」
 「油断するなムサシ。こいつの吸盤は厄介だぞ。しがみつかれたら身動きができない。」
 「なあに、リョウ。力くらべならオイラに勝てる奴なんていないさ。まかせてくれ、海中はオイラの独壇場だ!」
 たまっていたフラストレーションと一気に爆発させるムサシ。襲い来る足を何本も引き千切る。ゲッター3の伸縮自在の腕が、メカザウルスの自由を奪い激しく振り回す。
 「大雪山おろし〜〜〜〜!!!」
 投げ飛ばした方向から、一機の潜水艇が水泡に紛れ逃げ出した。
 「ムサシ、あれを見ろ!奴ら、海中に基地を作っていたようだ。」
 「お〜し、一緒に吹き飛ばしてやる。ゲッターミサイル!!」

 爆発音。海上水柱が吹き上げ、バラバラといろいろな破片が浮き上がったが、やがて沈んでいった。

 「リョウ、これで敵はいないだろ?もう危なくないから、海で遊べるよな?」
 「こんなに濁っちまった海で何が見えるってんだよ。だいたい、もう夕方だ。明日は学園に帰るんだから、急いで戻るぞ。ハヤト、お前も来るだろ?」
 「ゲッターロボは飛行機には乗れまい。俺はこのまま帰る。」
 「せめて夕食、食っていけよ。敷島博士にも土産頼まれてたろ?こづかい持ってきていないなら貸すぜ?」
 「いや、もう土産はある。今から帰れば、夕食は研究所で食えるさ。おい、ムサシ。」
 「なんだよ。」
 不貞腐れているムサシに、
 「ホテルにもプールがあるだろ。ミチルさんをそっちに誘うといい。」
 「あっ、そうか。その手があったか。サンキュ、ハヤト。リョウ、急いで帰ろうぜ。」
 「ああ。じゃあ、さっきの岩場まで行こう。ハヤト、帰りもゲットマシンでか?」
 「いや、ゲッター1で帰る。その方が早い。」
 「わかった、オープンゲット!」




 翌日。
 土産を手にいっぱい持って帰ってきたムサシは、やはり少し不機嫌だった。
 ホテルに帰って急いでミチルをプールに誘ったが、すでにムサシたちが戦いに行っている間に泳いでしまったとのこと。いくら沖縄とはいえ、夏ではないのでそう何度もプールに入りたくない。がっかりしているムサシには気の毒だが、まあ、これもお約束ということで。


 研究所に戻ってきたリョウとムサシは驚いた。
 少々の不機嫌なんか吹っ飛ぶほど驚いた。
 研究所の正面入り口の脇に鎮座しているのは、テキサス・マックが倒したメカザウルスの上半身だ。海の中で見たときよりも恨めしそうな眼。
 「な、なんだ、これ・・・・・・・」
 「どうしたんです、博士。」
 リョウの問いに、早乙女は困ったように
 「ハヤト君のお土産だ。」
 「はあ?!」
 「どういうつもりだ、ハヤト。」
 「ちょっと、シーサーに似ているだろ?」
 「似、似てるって、お前、本気か?」
 「ゲテモノ好きだとは思っていたが、死体愛好者とまでは・・・・・」
 「おい、いくら俺でもそこまで変態じゃないさ。敷島博士に頼まれていたんだ。」
 じゃ、やっぱり変態じゃないか。
 だいたい、敷島博士と気が合うというか、あの博士を理解できる、というだけで充分変人・奇人・変態だ。
 とは思ったが、口に出すのはグッとこらえて、
 「敷島博士がなんでこんなもの・・・・・・」
 「この間から、メカザウルスの生体部分のゲッター線許容量を調べていたんだ。だが、俺たちの武器のゲッタービームやゲッターミサイルでは一瞬で生体部分が熔けてしまうので、正確なデータがとれないからな。テキサス・マックはゲッター線を使っていないから、ちょうどよかった。」
 「う・・・・・・・まぁ、それがよかった、というなら良かったな。」
 しぼりだすように言う。グロテスクだとは思うが、敷島とハヤトとの組み合わせなら、これでも平穏な方だろう。見ないようにすればいいだけだ。

 「「じゃあ、研究のほうはまかせるよ、ハヤト。」
 くるっと背を向け所内に入ろうとするリョウとムサシに
 「待てよ。」
 笑いを含んだとても爽やかな声がかかった。背筋を寒くさせる爽やかな声。なんてあるのか?ギギッと音がしそうなくらいぎこちなく、首を振り向かせる。
 ハヤトが大きなバケツをいくつも指差していた。
 「なんだ、ハヤト。」
 「メカザウルスを細切れにしたあと、部位別にこのバケツにいれておいてくれ。」
 言い方はひどくわかりやすいものであったが、内容は一瞬、跳んだ。

 「な、なんで〜〜〜??!」
 たっぷり10秒は固まってから、リョウとムサシは叫んだ。
 「なんで俺たちが!!」
 「お前と敷島博士とでやればいいじゃねぇか!」
 形相を変えて詰め寄るリョウとムサシに
 「こいつを細切れに出来るほどでかい包丁があると思うのか。ゲッタートマホークしかないだろ。俺のゲッター2はパワーアームとドリルアームだ。とてもじゃないがトマホークなんて握れない。ゲッター3も手先は器用だから、上手に分別できるだろ。(伸縮自在だしな)」
 「い、いや、その、そう、なにも俺たちじゃなくても。そうだ、お前がゲッター1を操縦すればいいじゃないか。」
 冷や汗が流れるのを拭くことも忘れるリョウとムサシ。
 「俺はあとの実験で徹夜になるだろうから、今から寝る。じゃ、おやすみ。」
 「え、お、おい待てよ、ハヤト!」
 「そうだよ、待てよ、こんなの・・・・・」
 追い縋ろうとした2人の前に、敷島博士がにっこり立ち塞がる。
 それこそ、極上の笑みで。



      
    「できれば、人間に照射した場合のデータも取りたいんじゃがの。」 




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 「朱里の里」の管理人、朱里さまからカウント500番代理リクエスト。
 お題は「修学旅行」

 行かないと言い張るハヤトを無理に連れ出したため、好き勝手に迷惑をかけるハヤトか、
 もしくは、結局行かないハヤトにリョウ達がヘンなお土産を持ってきて、困るハヤト

というものだったのですが、私はハヤトが何を貰ったら困るのか、なかなか思いつきませんでした。結局、いつものようにリョウとムサシに困っていただきました。(なんて、ワンパターンなんでしょ!)

  申し訳ありません、朱里様。朱里様のお話でハヤトを困らせてくださいませ!(汗!!)
    
         (2005.12.31   かるら)