双頭の鷲









                     
美しい  星だった・・・・・






                    
                             ☆




                     
 地球から6000年光年。
 白鳥座EH銀河星群系 Σ 星系。
 そこに ゼーラ星は あった。

 自然に恵まれた 美しい星。
 地球をはるかに超える高度な文明は、技術面ばかりでなく、むしろ精神面において、その優秀さを現しているのかもしれない。母星ばかりでなく、近隣の星に在する生物の、絶滅危機種に対する保護にも力を入れていた。
 お互いの命を慈しむ穏やかな種族。
 争いの記憶は はるか遠い。


 Σ 星系に忽然とブラックホールが現れたのは、宇宙にとっては何の意味も理由もないことだった。
 たとえ、そこに生きるもの達にとって、どれほど理不尽で、恐怖と絶望をもたらしたとしても。

 次々と星系内の遊星が吸い込まれていく。
 ゼーラ星の優れた科学力を総動員しても、このブラックホールから逃れることは叶わなかった。
 10年。
 おそらく、時間が伸びることはないだろう。限られた時間のなかで、生き延びる術を見つけなければならない。
 他の星への移住。
 それしか手段は残されていなかった。星の住民すべてを運ぶための無数の宇宙船。その建造と同時に、移住できる星の選定が急がれた。宇宙線からのデータ、過去の資料。いくつもの星が候補にあがり、そして消えた。宇宙に幾千万の恒星はあれど、住むにふさわしい星系は早々には見つからない。もっと時間があれば、資材や食料などの備蓄ができたのに。宇宙を何十年と旅する余裕など今はない。
  ----------遠い--------記憶。
 「伝説」という名を持つその記憶な中に、ひとつの星があった。
 かつて、誰かが訪れたことがあるというその星は、ゼーラ星から6000年光年離れていた。
 ブラックホールの研究によって、空間を捻じ曲げ、繋げることのできるようになったゼーラ星人は、その遠く離れた星に先遣隊を送った。かつて自分達の祖先がどのようにして訪れたか、そして戻ってきたかすらもわからぬその星--------地球。

 帰還した先遣隊の報告を受けたゼーラ星の最高幹部達は困惑した。
 地球はゼーラ星にとてもよく似ていた。その大気、自然、住民。星の各地の局地的に固まって暮らしている地球人達。空いている土地に住まわせてもらうことは可能だろう。そしてそこで暮らしながら、新たな星を探していけばいい、そう考えてホッと顔を見渡した幹部達に、先遣隊のリーダーは言いにくそうに告げた。
 「かの星の住人は、お互いの種族間ですら争いが絶えません。生きていくのに十分な糧を持っていても、もっと貪欲に欲しがります。一部では餓えて死に行く者がいても、一部では無造作に捨てられる食料があります。そしてそれは、ひとつの集団に限ったことではありません。家族であってすら、憎しみあったり疎んじられたりしています。閉鎖的で排他的な種族に思えます。もちろん、好意的な住民もいますが。」
 争いごとの絶えて久しいゼーラ星人にとって、他と争う考えはなかった。
 受け入れてもらえるだろうか。もし受け入れてもらえないならば、どうすればいいのか。どのように対処すべきなのだろうか。
 だから。
 ゼーラ星のすべての叡智を詰め込んだ巨大コンピューターに判断をゆだねたのだ。ゼーラ星人が生き延びるためにはどうすべきかを。
 そしてコンピューターは、ゼーラ星人の生存にとっての最善策を、合理的にはじき出したのだ。
 
     邪魔者は  削除せよ。

 コンピューターはゼーラ星のすべてを司り、ダリウス大帝と名乗る。
 ゼーラ星人のうち、仲間を思う気持ちの強い者達は、自ら志願し改造されデスクロス騎士となり、攻撃力を持った暗黒怪獣を操る。
 他者を攻撃すべきではないと訴える市民は捕らえられ、洗脳されて暗黒鳥人に改造され兵士になった。残る大多数の市民達は、暗黒怪獣や宇宙船の建造に働かされ続けることになる。

     花咲き誇る 平和な星---------
          すでに、遠い。





  
 地球人がソレに気づいたのは、
 「異端」に敏感な性質だったからかもしれない、良きにつけ、悪しきにつけ。


 地球防衛会議が開かれた。主な国々の代表者、世界的に著名な科学者、各国の財閥達。
 他星からの大移住が企てられている、とわかったとき、地球がどうあるべきかについては検討の必要はなかった。各人の意見は一致していた。
   『侵略者は退ける』
 討議されたのは、その方法についてだった。様々な案が出され、最後に二つの案に絞られた。

  「地球の防衛に主を置き、相手に侵略を諦めてもらうのがいいだろう。」
  「攻撃こそ最大の防御だ。2度と地球に来ることのないよう、徹底的に倒すべきだ。」
  「必要以上の力は、いずれ自らの首を絞めかねない。」
  「絞める首がそのときあれば、その時に考えれよい。後日に悔いを残すべきではない。
   敵は、6000光年を跳び越える科学力を持っている。甘くみてはいけない。気づいたときはすでに遅い。人類が滅びてから手を打つというのか?!」

 議論は白熱した。
 そしてやがて、防衛に力を入れることに傾いてきた。本音はどうあれ、絶対的な攻撃力を存在させることは、戦いが終わったあと、ひとつの脅威になるのではないだろうか。それを有する者が益を得る・・・・・・
 政治家たちの思惑は、科学者の想いとまた別物だ。科学者の希求心や情熱は、ある意味、無欲で頑固で哀しい。
 結局、防衛論がとられ、そのためのロボットの建造が始まった。
 それから10年の歳月が過ぎた。




                   ☆                   ☆





 「見事だな、デスクロス騎士カイン。」
 「はっ!」
 「これならば大空魔竜を倒すことは可能だろう。」
 「もちろんでございます、ダリウス大帝。あまりの強さゆえに封じられたものですから。」
 「しかし、大空魔竜もいろいろと武器を増やしたようだ。それに対抗できるのか?」
 憎々しげに言葉をはさむ四天王。
 「いくら大空魔竜が武器を増やしたとしても、防御を基としたロボットと、攻撃を基としたロボットとでは雲泥の差がありますよ。」
 冷ややかに答える。
 「少なくとも私の設計にはいささかのミスもありませんよ、皆様方のものは存じ上げませんが。」
 「なんだと、カイン!」
 「きさま、我らをおちょくっているのか?!」
 思わずいきり立つ面々を抑え、ダリウス大帝は命じた。

 「行くがいい、カイン。お前が正しかったことを証明するのだ。」 
 「ははっ!」

 「いいのか、あれで。」
 ダリウス大帝の前を辞した四天王・デスモント将軍、ダンケル博士、アシモフ将軍、キラー将軍達は部屋で杯を交わしていた。
 「大帝は、やけにあのカインを買っているようだが。」
 「仕方あるまい。確かに奴は優れた科学者だ。今のところ、大空魔竜を倒せるのは奴だけだろう。アレは、とてつもない破壊力だ。」
 「しかし、それは少しまずいんじゃないか?我々がこれまで手をこまねいていたのに、奴がさっさと大空魔竜を倒したとなると・・・・・・」
 あとの三人が顔を見合すが、デスモントは大きく杯を空け、
 「心配するな。そうなるまえに奴を殺す。」
 「いいのか?」
 「ほおって置けば、やつは我らの地位を脅かすだろう。大空魔竜を倒した瞬間、やつも終わりだ。」
 「ダリウス様には何と?」
 「何も言う必要はない。ダリウス様も、やつのことなど最初から捨て駒にしか見ておられぬ。」
 「まあ、そうだな。」
 「どんなに優れた科学者であっても。」 
 四人の口元に嘲りの笑みが浮かぶ。

    「所詮、地球人だ。」


 
 ダリウス大帝の前を辞したカインは暗黒怪獣に乗り込む。
 操縦席の前に留められた一枚の写真。若く美しい女性と、その胸に抱かれた愛くるしい少女。
 
  「お前達の苦しみを、今こそ晴らしてやろう。」

   昏い怒りの炎が、ブラックホールに吸い込まれていった。





              ☆          ☆         ☆









 「!あれは、まさか?!」
 「・・・・・・・・・そんなはずは・・・・・」

 大空魔竜のメインスクリーンにその暗黒怪獣が映し出されたとき、大文字博士とサコン・ゲンは一様に声を失った。

 「?どうしたのですか博士?サコン!」
 キャプテンのピート・リチャードソンが不審げに呼ぶ。
 「ぐわぁ!!」
 「うわぁ!!」
 出撃していたガイキング、スカイラーから悲鳴が上がる。
 「いかん、コンバットフォースを全員退去させよ!!」
 大文字博士の命令が下る。
 『どうしたんです、博士。まだ戦闘は始まったばかりです。』
 『今は油断しちまったが、次はそうはいかないぞ!』
 ファン・リーやサンシローの声。
 「いかん、ただちに大空魔竜に帰還するんだ。ピート君、彼らを収納したまえ!」
 「急げ、ピート!」
 大文字とサコンの声に、慌ててピートは答える。
 「ラジャー!!」 


 「わっはっはっは!賢明だな、大文字博士。」
 ガイキング等を収納させた大空魔竜に敵からの通信が入る。
 「君は!」
 目を瞠る大文字に
 「お初にお目にかかる、大文字博士。我が名はデスクロス騎士 カイン。」
 「デスクロス騎士?いや、違う、その暗黒怪獣は・・・・・・・」
 言葉を詰まらせる大文字博士。
 「ふっふっふ。憶えてくれていたようだな、光栄だ。そう、この暗黒怪獣はダブルイーグル。そして私は地獄の使者だ。」
 「シュタイン博士!!」
 サコンが叫ぶ。
 「シュタイン博士。サコンです。」
 シュタインと呼ばれたデスクロス騎士は、ゆっくりとサコンを見た。もの言いたげな光がその眼の奥に揺れたが、すぐさま
 「大空魔竜もいろいろと武器を取り付けたようだな。今なら、あの時の私の考えの正しさがわかるだろう。」
 冷たく言い放つと
 「その身で真実を掴むといい!」
 凄まじいビームが双頭から放たれた。
 「回避しろ、ピート!一時撤退だ!」
 「何故だサコン!まだ大空魔竜はろくに戦っていない!」
 反論するピートに、スクリーンから嘲笑が投げつけられる。
 「さすがに理解しているようだな、このダブルイーグルには勝てないことを。」
 「なんだと!」
 「博士、我慢ならねえ!戦わせてくれ!」
 闘志を剥きだしにする隊員たちに、
 「いかん。基地に戻るのだ!」
 大文字の有無を言わさぬ命令に、大空魔竜は身を翻し基地へ向かった。

 「はっはっは、いつでも相手になってやるぞ、大空魔竜。」
 高らかな笑い声が、宇宙空間に響き渡った。



 「博士、どういうことです?!」
 「サコン、どうなっているんんだ?」


 御前崎基地。
 喰ってかかるメンバーに、大文字とサコンは・・・・・・苦しそうな声で話しだした。


 10年前、地球防衛会議。
 6000光年離れたゼーラ星。この星がブラックホールに吸い込まれるという。そのためゼーラ星人は居住環境の等しい地球に移住を考え、幾人もの諜報員を送り込んできた。
 人は自分の知らないものを考えるとき、自分を基準をする。同じ地球人同士であっても人種の違いを争いの種として、永の歳月を過ごしている地球。
 地球は恐慌に陥った。
 いまだ地球を離れることすら不可能な地球人が、6000光年跳びこえる科学力を持つ種族に抗うことができるのだろうか。地球はゼーラ星人に蹂躙されるのではないか。この地球を乗っ取られるのではないだろうか。
 空間を跳ぶことのできない地球人は、地球において侵略者を追い払うしかない。ゼーラ星人を追い払うために検討された方法は2つに絞られた。
   @  敵の攻撃を防ぐ。防御力を主とする。
   @  敵を叩く。攻撃力を主とする。

 「私は、必要以上の攻撃力は、地球人にとって良くないものだと思った。今でさえ、国同士が無駄な戦いを繰り返している人類。力が拮抗しているからこそ他方が滅することを避けられているが、絶対的な破壊の力は、いまだ未熟な種族である人類には必要ないと。」
 大文字の言葉にサコンが続けた。
 「『攻撃は最大の防御なり』。有無を言わさず押し寄せてくる相手ならば叩き潰すべきだ。モタモタしているうちに弱い者達が傷つけられてしまう。相手が無差別に攻撃してくるならば、こちらもそれに対抗すべきだ。喪った後で、何を嘆いてももう遅い。」
 「それがもうひとつの案か。さっきの暗黒怪獣は?」
 ピートの冷静な声が先を促す。
 「ドイツの若き天才・シュタイン博士。彼の提唱した攻撃重視のロボットがあのダブルイーグルだ。大空魔竜をはるかに超える破壊力を持っている。シュタイン博士は大空魔竜を知っている。それを踏まえて、更なる攻撃力を持たせているはずだ。」
 「だけど、博士達だって、そのダブルイーグルとかいうやつの特徴なんかを知っているんだろ?」
 「簡単にいうなよ、ヤマガタケ。あっちは大空魔竜を倒そうと設計してるだろうが。」
 「でも、結局は自分の意見が取られなかった腹いせにデスクロス騎士になったやつだろ?」
 「ちぃせぇな奴だな。」
 「天才って煽てられた奴はそんなものさ。ちょっと躓(つまづ)くとすぐグレる。」
 「そんなやつが操縦してるのなら、ロボットの性能はともかく付け入る隙はあるさ。」
 好き勝手に言い合うメンバー達。パイロットとして、戦士としてに自負がある。
 「だが、ダブルイーグルの攻撃力は大空魔竜の比ではない。その強さゆえ、排除されたのだから。」
 大文字の言葉に、
 「なあに、大空魔竜も始めに比べると随分武器は増えている。足りなきゃもっと増やせばいい。なぁ、サコン。」
 不適に笑って振り返ったサンシローは、そこで言葉を切った。
 いつのまにか、サコンの姿は消えていた。




 「カイン、何故、大空魔竜を見逃した。裏切るのか?!」
 四天王の怒鳴り声を気にも留めず、白々しくうそぶく。
 「なぁに、ちょっと挨拶しただけですよ。本番は、次だ。」





 その山荘はすでに朽ちかけていて、そこに人が住んでいた記憶はなにもなかった。わずかばかりの生活用品が散らばるばかり。

 国防会議で自分の意見を退けられたシュタイン博士は、その後二度と学界に顔を見せることはなかった。天才科学者特有の、依怙地ともいえる信念と高いプライドは、他と交わることを拒み、山の中での隠棲を余儀なくされた。大文字博士からの大空魔竜制作の協力依頼の申し込みは、シュタイン博士にとって、屈辱以外の何物でもなかったのだろう。2度と会うことはなかった。

 人づてに聞いた山荘。
 ピート、サコン、サンシローは立っていた。シュタイン博士の手がかりが残っていないかと訪れた山荘。放置されてすでに何年もが過ぎていた。人が寄り付かないところであったため、博士を知る人もなかなかみつからなかった。それでも、食料等と引き換えに壊れた器具を直してもらったという人物に会えた。
 ここに居を構えて2年後、博士の娘が高熱を発し、十分な手当ても受けぬまま死んだ。博士の妻も後を追うように亡くなったと。研究一筋に生きていた博士は、職を離れた後、自給自足の貧しい生活だった。親しい友もなく、頼りになってくれる親族もいなかった。あのプライドの高い男が、ついに他人に頭を下げ情けを請うた時は、すでに手遅れだった。
 妻と娘の小さな墓が、山荘の隅にひっそりとあった。
 部屋の中に入ったサコンは、机の上にの写真立てに目をやる。何も入ってはいない。
 「あっ!」
 サンシローが何かにつまずいた。
 「何だ?この箱。」
 いかにも手作りと言ったふうの箱を開けると何も入ってはおらず、ギッ・・・・・・・と音がした。
 「ン?オルゴールか、これ。」
 首を傾げるサンシローにサコンは手を伸ばした。
 
 「・・・・・・・・せめて、ちゃんと鳴るように直してやろう・・・・・・」




 大空魔竜のサコンの部屋。ピートが入ってきた。
 「サコン。」
 「・・・・・・なおったのか?」
 机の上に置かれていたオルゴールを手に取る。キリキリとネジを回し机に置くと、キレイな曲が流れてきた。綺麗な------という形容がふさわしい曲。
 「・・・・・人それぞれさ・・・・・」
 ピートが呟く。
 「お前も博士も地球を守りたかった。それはシュタイン博士も同じだ。お互いが同じ気持ちで、ただ手段だけが違ってた。どちらか片方しか選ばれなかったとしても、それはよくあることだ。それに耐え切れなかったのはシュタイン博士だ。彼のプライドの高さが、初めての挫折から立ち直れなかったのだろう。俺はどちらかというと、シュタイン博士の性格だからよくわかる。妻や子を救えなかったのは誰のせいでもない。博士自身それがわかっていても認められないんだ。すべてを失ったから・・・・・・憎しみだけは手放せないのだろう。・・・・・・・俺たちにとってはいい迷惑どころじゃないがな。」
 サコンはピートを見た。大空魔竜戦隊において誰よりもリーダーにふさわしい能力を持ちながら、そのプライドの高さゆえかサンシローやヤマガタケ達と争うことも多い。そうだな、ピートとシュタイン博士は少し似ている。能力の高いこと、プライドの高さ。それに人の付き合いが不器用なこと、本当は純粋なところ。
 「シュタイン博士は、俺を随分気に入ってくれた。」
 シュタイン博士には当時、若くて美しい妻と、3歳になる娘がいた。母親に似たやわらかなブロンドの、愛くるしい少女だった。シュタイン博士はあまり友人のいない人物だったが、大文字博士とは親しかった。わざわざ御前崎の研究所まで、家族を連れて訪れた。シュタイン夫人はやさしい女性だった。サコンは赤ん坊の頃に母を亡くしている。博士達が研究所で討論している間、サコンは夫人たちにあたりを案内した。灯台を臨む公園に咲き誇る色とりどりの花々。ジャスミンの優しい香り。シュタイン夫人は目を細めて嬉しそうだった。小さな女の子もサコンによく懐いた。そのころはすでに6歳のミドリも大文字博士の養女として御前崎研究所で暮らしていたが、シュタイン博士の娘はミドリよりもサコンの後について回った。たっぷり遊んで夕刻、疲れて眠った女の子を負ぶいながら研究室に戻ったサコンたちは、朝からずっと、椅子の位置すら変えずに議論を続けていた博士達に、呆れて笑いが止まらなかった。コロコロと楽しそうに笑う夫人。照れたようにムキになるシュタイン博士。
 「俺はシュタイン博士を尊敬していた。あのとき、博士には守るべき妻や子があった。大事なものを守るために最大の努力をした彼を、責めることはできない。たとえそれが他の者にとっての悲劇であっても。
 すべてを守りきれるほど、人類はまだ完成されていない。」
 その声は、「今」を語っているようでもあり、遠い「過去」を見詰めているようであり、はるか「未来」を告げているようでもあった。
 「あのとき、シュタイン博士の説を受け入れることができなかったのに、今、俺がやっていることは何だ?大空魔竜を攻撃力を増すばかりじゃないか。」
 ミラクルドリル、ジャイアントカッター、フェイスオープン。次々と強力な武器を開発していく自分。敵が手強くなる分、また自分は新たな武器を考えるだろう。地球を守るために。敵を倒すために。母星を失った哀しい人々を、暗黒の宇宙に放り出すために。
 「サコン?」
 黙り込んだサコンを、ピートが心配そうに見ていた。
 「ああ、すまない。気にするな。」
 「おまえもな。あまり難しく考えるな。時と場合に応じて対応していかなきゃならないんだ。時間は動いている。変わらないものが大切だとは限らない。変われるからこそ、大切なものだってあるさ。






 ダブルイーグルは強かった。
 ガイキングを操縦不能に陥れるほどには。
 サンシローは覚悟した。今日が自分の命日になるようだ。ダブルイーグルを道連れにできないことだけが心残りだが、ピートやサコンがやってくれるだろう。俺の敵討ちではなく、(あの2人がそんな殊勝な玉なもんか!)「必要なこと」をやり遂げるために。
 それだけが理由なのはちょっと悲しいが、結果が同じであれば、良しとすべきだろう。・・・・・・なぁ、サコン・・・ピート。
 もう最後だと・・・・・・・皆に別れを告げたとき・・・・・・・転がり落ちたオルゴールが鳴った。
 とどめを刺そうとしたカインの耳に、その曲が届いた。

 「これは・・・・・・・わたしが作曲し、オルゴールにして妻に贈った曲だ・・・・・・やがてその曲は、生まれてきた娘の子守唄となり・・・・・・・」

 ガイキングの操縦席で奏で続けられるそのメロディ・・・・・。
 カインの全身に染み渡っていく過去の幸福。
 そう、最後まで妻は誰をも責めなかった。死んでいく我が身も、守れない夫も。
 『哀しまないで。恨まないで。私もあの子も、少しばかり苦しみはあったけれど、決して不幸ではなかった。楽しいことや嬉しいことのほうが数えきれない・・・・あなたが自分の信念を貫いてくれたことのほうが嬉しい・・・・・・あなたが、いつまでも好きですわ・・・・・・』
 最後の言葉が、今、始めてこころに届いた。
 思い出す。自分は何をしたかったのか。
 本当は何を望んでいたのか。

 ああ、自分は---------

            この地球を

                    守りたかった ---------
 


 ダブルイーグルがガイキングを助けたとき、、四天王のブラックホールがダブルイーグルに照準を合わせた。満身創痍ながらダブルイーグルを助けようとしたサンシローに、シュタイン博士はやわらかな笑みを見せると、近くにいた暗黒怪獣を道連れにして消えた。
 あとには何も残らなかった。サンシローの慟哭の他には。






                            ☆




 ダブルイーグルとガイキングの戦闘記録、それをデータにおとしながら、サコンは遠い日を想う。
 シュタイン博士と交わした会話。
 「サコン君、君ならゼーラ星人をどうする?」
 「ゼーラ星人が地球人を殺さず、平和に受け入れて欲しいと願うなら、受け入れるべきだと思います。」
 「ふむ。だが、どの国が受け入れてくれると思うかな?今ですら、人は土地を取り合って殺しあう。」
 「宇宙空間を旅することが出来る船なのですから、地球の北極や南極、あるいは砂漠やジャングルでも家がわりに使うことはできるでしょう。過ごしやすい土地はあまり貰えないでしょうけど、ゼーラ星人が移住できる星を見つけるまでの間なら、彼らも我慢するでしょう。彼らの文明は優れているから、それを交換条件にすれば、土地や食料を提供する国もあると思います。かえって、食料生産などは、教えを請うほどかもしれません。戦争に発展する科学力は教えてもらえないことに決めて。永住でないのなら、地球人も受け入れてくれるのでは?いずれ、地球人も宇宙に旅立ちたいのですから。」
 10歳のサコンは、すでにいくつもの博士号を持っている。大文字博士は後見人であるが、サコンは博士の助手としてすでに名をあげている。一点の曇りもなく自分を見つめ、意見を述べるサコンを、シュタイン博士はひどく気に入っていた。
 「どうだね、サコン君。大きくなったら私の娘をお嫁さんにしないかい?」
 「え?」
 「ミドリちゃんも可愛いが、うちの娘も美人になるぞ。それに、娘と結婚すれば、私の妻は君の母親だ。彼女のミートパイは絶品だよ。」
 「あ、あの・・・・・・」
 さすがのサコンも、なんといっていいのか言葉に詰まる。どんな質問をしても礼儀正しく答えるサコンがうろたえているのがなんとも可笑しい。
 「あなた、何、変なこといってるんですか。母親のミートパイにつられて結婚する人がいますか。いい迷惑よね、サコンさん。」
 シュタイン夫人が呆れたように部屋に入ってきた。手にもつトレイには熱々のミートパイ。
 「え、いえ、僕はその・・・・」
 ふだんは変化しない白皙の面に、さっと赤い色が走った。
 『うん?』
 シュタイン博士はふと気がついた。この少年は、確か母親を亡くしている・・・・・
 「シュタイン博士、冗談はそこまでですぞ。サコン君は友人からの大事な預かりものですからね。」
 「大文字博士ばかりがサコン君を独り占めするのはずるいですよ。わたしもサコン君を助手に欲しいくらいですからね。そうだ、サコン君。今度ドイツに来ないかい?私の研究所を案内しよう。」
 「ああ、それは素敵ね。サコンさん、是非いらしてね。」
 優しい笑顔に、サコンは思わず頷いていた・・・・・・・




        ドイツを訪れる約束は果たせなかったけれど・・・・・・

        もうひとつの 約束は 叶えたい・・・・・・・・・・・







         --------*----------*----------*--------*-------



 ゑゐり様5500番リクエスト

   お題は  大空魔竜ガイキング

  ありがとうございます。いつもリク内容をはずしてしまう<かるら>ですのに、愛のリクエストいただきまして光栄です!

  2作あると、シリーズ化してもいいですかね?今度、ガイキングのDVD(もちろん、旧作)出るそうですね。うれしいです。ガイキングはあまりコミックも出ていないし、はっきり憶えていないのが多いんです。遺跡とかが舞台になったりして好きだったんですがね。DVD見てからなら、もう少しまともな話が書けるかも・・・・かも・・・かも。
 ただ何といっても、私のメインはサコンになりますので、サンシローやピートを活躍させたい方、どうぞ書いてくださいませ!(結局おねだりかよ!)

  代理リク番、あいかわらず余ってます。お気軽に連絡くださいませ。Sagaがいいとか、Warにするとか、ネーサー基地忘れてんじゃないの?(あっ、ヤバ、忘れてた・・・)とか。
             (2006.5.29)  サイト三年目に入りました。ありがとうございます!!
                           かるら