しのび寄る 足音









 「ここは 何だ?」

 號はちょっと首を傾げる。今日は久しぶりに訓練もやすみだ。
 翔も剴も私用があるらしく、號はひとりで基地内をうろついていた。一応、基地内の案内はすでに受けていたが、ふと、見慣れない一角に気がついた。
     『この先、危険につき、立入禁止。
      ただし、身体の頑丈な者、歓迎する。』
 立入禁止はよく見る注意書きだが、「頑丈な者歓迎」なんて始めて見る。とにかく、オレは頑丈だから歓迎されるわけだよな、と思いつつ重い扉を開ける。中はいくつかの部屋に分かれているらしい。通路をまっすぐ行くと、突き当たりに開け放たれたドアがある。
 「あの〜〜こんにちは〜〜」
 声をかけながら中を覗いたとたん、
 「ボン!!」
 弾けるような音とともに、白い煙がモクモクと充満する。
 「わっ!なんだよ、ゲホッ、ゲホッ!」
 「ガホッ、ガホッ、ゲハッ!!」
 思わず咳き込むと、中から数人の咳き込む声がする。強力な換気扇が回っているらしく、すぐに煙はなくなった。
 わりと年配の男が二人。ひとりはひょろりとしており、もうひとりは背が低い。顔は・・・・なにしろススけているし、髪もチリチリになっている。白衣もズタボロだ。
 「〜あの〜〜大丈夫ですか。」
 號はとりあえず声をかけてみる。
 「いや〜、まいった。どこが悪かったのかなあ。」
 「この回線がまずかったのか?やっぱりこっちに付けた方が。」
 「いや、それではなおさら、こっちが狂うから・・・・」
 「あの!」
 號は少し声を大きくする。驚いたように2人が號を見る。
 「おや、お客さんだ!」
 「これは珍しい。ようこそ、ようこそ。」
 ずいぶん愛想がいい。さっと寄って来て號の手を取る。
 「始めて見る顔だね。」
 「この筋肉の付き方からすると、自衛隊のパイロット君かな?」
 うれしそうに號の腕を撫で回す。
 「あ、あの、いえ、オレ、ゲッターのパイロットです・・・」
 思わず引きそうになる號に、
 「おお、君が一文字君か!」
 「話は聞いているよ。いやー、よく来てくれた。待ってたよ。」
 「私たちはここの研究員だ。ちょっと待ってくれ。」
 一人が慌てて奥の部屋に向かう。
 「博士、敷島博士!」

 「・・・・・・・・なんじゃあ〜〜〜うるさい・・・・」
 ぬっと顔を出したのは、何と言えばいいのか、とにかく回れ右して帰りたくなる、得体のしれない人物だった。
 かなりの年配であろうことは、頭の髪の様子からも窺えるが、右目のあたりの大きなケロイドがさらに不気味な雰囲気を匂わす。
 「博士、ゲッターのパイロット君が実験の手伝いに来てくれましたよ。」
 「えっ?あ、あの、オレ、別に・・・・」
 嬉しそうに言う研究員の言葉に、號は慌てる。
 「ほう、そうか。なかなかよい心がけじゃな。さあ、こっちに来い。」
 「あ、いえ、だからオレ・・・・・」
 「翔も剴もそれなりの武器は扱えるんじゃがな。わしの好きな重火器の方はもてあますらしい。全く若いくせに情けない。前のゲッターチームの3人はもっと丈夫だったぞ。特に竜馬は・・・・」
 「竜馬?」
 その名前に號はピクリと反応する。
 「おおそうじゃ。竜馬は暇さえあればワシの武器を試していたぞ。派手な武器が好きでなあ。」
 「オレもやる!!」
 號のなかにメラメラと競争心が湧く。
 「オレだってネオゲッターのパイロットだ。流さんにできたことなら、俺にだってやれるさ。」
 睨み付けるように言う號に敷島は嬉しそうに応える。
 「よしよし、こっちへ来い。まず試してほしいのが、この10連発ハンドミサイルで・・・」
 招き入れられた部屋には、所狭しとばかりに様々な武器が置かれている。
 パラライザーとかバズーカーとか、武器そのものの形は見慣れたものに近いが、大きさだの銃口の数だのが普通じゃない。重さも相当のものだ。その中に重厚な造りのマグナムがひとつある。大きさは普通より少し大きいぐらいだが、見るからに威圧感がある。
 號の視線を感じたのか、
 「おお、さすが目が高いな。それはワシの自信作じゃ。こう見えて威力は普通のマグナムと天と地でな。厚さ1メートルの壁だって吹き飛ばせる。もちろん、その反動はハンパじゃないがの。それを扱えたのは前のゲッターチームの3人だけじゃ。」
 「前のゲッターチームというと・・・」
 「おう。竜馬と隼人と武蔵じゃ。特に竜馬はそいつが気に入っておったな。」
 いかにも楽しげな笑みを浮かべて話す。
 「研究所がトカゲどもに襲われたときの、奴らの攻防ときたら全く見ものじゃった。あいつらに扱えん武器はなく、重い武器をいくつも軽々と操っての。確実に敵を仕留めていきおった。まあ、武器の中には実験前で、たまに暴発したのもあったが、あいつらはうまい具合に避けていたからのぅ。」
(それは笑っていうことか!)
 「これにする!」
 號は憮然とした声でマグナムを手にする。無性にイライラする。
 「そうか?しっかり、腰を据えて構えるんじゃぞ。」
 敷島博士が嬉しそうに付け足す。
 「どれもこれも、好きなだけ試すといい。」


食堂。夕食時。
 「剴。號は一緒じゃないのか。」
 翔が食事を載せたトレイを手に剴の隣に座る。
 「ああ。俺は今日、メカニックの方に一日中いたんで、號に会っていないんだ。翔は?」
 「私も今日は町へ出かけていたので知らない。」
 「ありゃ。また大佐の邪魔をしに行ってるのかな。」
 「いや、大佐は今日は東京の首相官邸に行っているはずだ。」
 「ふ〜ん。じゃあ何処で遊んでんだろ。」
 「外出届は出ていなかったようだが。」
 「ま、緊急呼び出しがあれば、すぐ出てくるだろうよ。」
 ゆっくり食事をとる。久しぶりに、ネーサー基地は平穏に過ぎていく・・・・・・・・



「うっひっひっひ。なかなかいいパイロットが見つかったようじゃの。」
 にたにたしながら隼人に声をかける。
 「始めのときこそ吹っ飛んでおったが、2回目からは何とか、3回目以降はあのマグナムを片手で扱いおったぞ。」
 「・・・・・・・・・・」
 ゆっくりコーヒーを口にする隼人の前で、一升瓶から直接酒を飲みながら、いかにも楽しそうに笑う。
「さすがは1号機のパイロットじゃな。竜馬を思いだすのう。」
 敷島博士の話を聞きながら、隼人は部屋を見回す。
 まだ硝煙の匂いも消えていないそこは、爆発の跡や、壁にめり込んだ銃弾もそのままになっている。ズタボロになった號を剴に連絡して引き取らせてから数時間後、外出から戻ってきた隼人は敷島博士の研究室にいた。
 「1号機乗りはああでなくてはいかん。せっかく武器をつくってやっても、それが扱えんようじゃ何にもならんでな。」
 爆風に吹っ飛ばされ、床や壁に叩きつけられても何度も立ち上がって武器をモノにしていった號を思い出し、敷島は機嫌よく酒を呷る。
 「リョウとは連絡を取ってはいないようだが、今のところ、あの3人でネオゲッターは動かせるじゃろう。なんとか間に合ったようだの。」
 「・・・・・・・今のところは、確かに間に合ったと言えるのかもしれません・・・・」
 「ふん?」
 胡乱気に自分を見る敷島に、隼人はポツリと呟く。

 「あれは  ゲッター  では無い。」



遠い日 ---------
 そう呼ぶには十年も経ってはいないけれど。
 それでも、「戻らない日」という意味ならば、はるか遠い日だ。
 無理矢理ゲッターに乗り込まされた。もっとも、後から考えれば幸運といえたのかもしれない。とにかくメカザウルスに対抗する手段を手に入れたのだから。選ばれなければ、ただ逃げ惑うばかりだったかもしれない----------何らかの手段を講じて、違った形で戦いを挑んだかもしれないけれど--------だが、一番強い力を得たことは、確かに幸運だったのだろう。
 あの場所、あの時間。
 特に何を望むでもない自分だった。平凡に過ぎていく日々を焦るでもなく、嫌悪するでもなく、楽しむでもなく。自分は何かを置いてきたらしい、そんな気がした。欲しいものもなく、願うこともない。守りたいものがないわけではないが、別に自分でなくても大丈夫だったから。
 そんなふうに思っていた。
 それが。
 それまでの常識を覆すような敵が現れた。すんなり現実を受け入れたわけではないが、受け入れざるを得なかった「あの日」。
 敵は強大で。 
 ひとりでは倒せない。
 手段のひとつであったはずのものが、「守りたい」・「ともに戦いたい」という想いに変化していったことに、おそらく自分自身が一番驚いていた。いつのまにか、当たり前の居場所になっていたゲッターチーム。                                                     少しばかり狂気じみてはいるが、確かに天才というべき早乙女博士。まったく狂気の塊といえる敷島博士。(おい!)古今東西、“戦士”というのはこんな男のことをいうのだろうな、と思える流 竜馬。「好人物」とは、武蔵のことをさす言葉だろう。
 戦いの日々は苛烈をきわめ、だが、それでも、「負ける」などと思ったことはなかった。
 力はあった。想いもあった。そして仲間も。
 欠けていたのは------------
 問い掛けも、すでに遠い。



 ゲッター線研究において、早乙女博士の右にでる者はいない。先駆者であり、第一人者でもある。微量であっても絶大な力を持つエネルギー。だが、それでも日々熾烈化していく恐竜帝国との戦いでは力不足だった。敵が一体づつ攻撃を仕掛けてくる間はまだいい。だが、2体、3体と同時に攻撃してきた場合、ゲッターはあまりにも不利だった。リョウや隼人、武蔵に次ぐパイロットを育成するとともに、新たなゲッターロボをつくる必要があった。早乙女は研究に没頭した。小手先の武器よりも、ゲッター自体にとてつもない力を持たせるために。
 ゲッター線増幅炉。
 地上に降り注ぐゲッター線だけでは足りない。ゲッターロボ自身が、取り込んだエネルギーを増幅させる画期的な発明だった。実験室ではうまくいった。だが、ゲッターロボにそのエネルギーが走ることはなかった。何度も繰り返された実験。ゲッター炉心を交換し、実験し、設置した。だが、どうしても動かない。注がれたエネルギーは、増幅器の中で溢れる寸前に消えた。ピクリ、とも動かない「真ゲッターロボ」。
 早乙女博士を中心に、研究所のすべての科学者が昼夜を問わず取り組んだ。思い切ってバラバラに解体し、そのピースをひとつひとつ確かめた。細心の注意を払い、完成させ、祈るような思いでエネルギーを注入した。しかし、結果は「否」だった。
 
 恐竜帝国は日本を離れ、ニューヨークに狙いを定めた。マシーンランドが始めて姿を現し、溢れ出す亜流酸ガスが古代の大気を復元する。攻撃する各国のスーパーロボットは、メカザウルス軍団の前に次々と倒されていった。
 ゲッターロボも、少し前の日本でのメカザウルス3体の同時攻撃により、大きな損傷を受けていた。ゲッターロボ自体は、研究所のメカニック達の不眠不休の整備のおかげで何とか作動した。だが、肝心のパイロットが負傷していた。3人のうち、武蔵は軽傷ですんでいたが、あとの2人、リョウは手足に怪我を負い、隼人は衝撃で特に内臓をやられた。武蔵が無断でゲッターに乗り込み、ただ一人でニューヨークに向かったのを知ったリョウと隼人は、包帯だらけの体のまま、すぐさま真ゲッターに乗り込んだ。
 「博士、早くゲッターエネルギーを!」
 「リョウ、無茶だ。君は骨が折れているんだぞ!」
 「ニューヨークに飛ぶくらい平気だぜ。向こうに着いたら武蔵に変わればいい。」
 「隼人は残れ。ゲッターのG 圧に君の体は耐えられん。内臓破裂の恐れがある」
 「なに、はみだしたら押し込みます。それよりも、今度こそゲッターを動かさないと!」
 そこにいるすべての者の願いはひとつだった。早く、早くゲッターを!
 注がれるエネルギー。想い。祈り。だが。
 炉心に  火は  灯らなかった。
 やがてニューヨークの現状を映す大型スクリーンに、見慣れた姿が現れる。無数のメカザウルスが襲い掛かる。
 腕を引き千切られ、足を爆破され、満身創痍のゲッターがおもむろに腹から心臓--------ゲッター炉心を取り出す。
 「ヤメロ!!!!」
 悲痛なリョウの声が格納庫に響く。

   光    あれ

 世界がまばゆい光に包み込まれた一瞬、真ゲッターの炉心に火が入った。
 そして、再び、沈黙した。



 「行くのか、リョウ。」
 「ああ。ここはもう俺の居場所じゃねぇ。」
 「そうか。」
 淡々と交わされる言葉。「じゃあな。」と研究所を出て行くリョウ。
 その背を見送るでもなく、隼人は司令室にいた。
 「リョウは行ったか。」
 カチャリとドアを開けて入ってきた早乙女が呟く。
 無言で隼人は机に置かれたままの写真立てを見る。笑っている皆。武蔵。パタンとうつ伏せる。
 「君はどうする。」
 「今、考えているところです。」
 「だが、どちらにせよ、まだ、終ってはいないぞ。」
 「わかっています。」
 強化ガラスの向こう。眼下の格納庫には、沈黙している真ゲッターロボ。



 リョウは武蔵の墓標の前に立っていた。壮絶な武蔵の死。
 何よりも悔しいのは、悲しいのは、歯がゆいのは、何もできなかった自分。あのとき、真ゲッターさえ動いていたら。武蔵を一人で逝かせることはなかった。リョウは自分を守るため、仲間を守るため、ずっと自分を鍛えてきた。どんなに苦しい訓練も鍛錬も耐えることができた。成したぶんだけ結果があらわれる。だからどんなに厳しいものでも苦にはならなかった。それがリョウの生きる指針だった。
 ゲッターのパイロットとして選ばれ、その思いはますます強くなった。ゲッターに惚れこんでいた。一心同体だと思った。それはチームメートの隼人と武蔵を含めてのことだ。ここ以上に自分の居場所はないと思った。戦闘は苦ではなく、死も恐れてはいなかった。信じあえる仲間。
 戦争なのだから、いつか誰かが死ぬかもしれないとはわかっていた。自分か、隼人か武蔵か、それとも全員か。それでもそのときは、悔いなく全力を尽くしているだろうと思っていた。どんな結末であれ、最悪、相打ちにもっていく。心中してやるさ、恐竜帝国と。そう誓っていた。
 真ゲッターは動かなかった。
 武蔵は  ゲッターに  殺された。

 武蔵の墓標に学ランをかけると、リョウは背を向けた。
 ふと見ると、研究所に続く一本道に自衛隊の車両が何台もつづく。事後処理かなにかだと目を離すが、ほんの少し、違和感が残った。だが・・・・・もういい。自分はもうゲッターを信じない。




 早乙女研究所は封鎖された。ニューヨークおけるゲッターロボの自爆によるメカザウルス、マシーンランドの壊滅は、世界各国の政府首脳に脅威を与えた。あれほどの力を、日本という一国に与えておくわけにはいかない。日本政府は国連の圧力を受け入れた。早乙女博士は研究所に軟禁され、真ゲッターロボは閉ざされた。所員たちも他の施設、研究所に移っていった。厳重な警備のもと、ゲッター線は封印されたのだ。

 日本政府は、早乙女研究所のゲッターロボ開発の主任であった橘博士に、ゲッターロボにかわる防衛ロボットの開発を依頼した。ゲッター線を使わないゲッターロボ。
 依頼を受けた橘は、隼人に協力を請うた。ゲッターロボのかわりといっても、ゲッター線エネルギーに代わるほどのものは何処にもない。となれば、ロボットの機能というか、合理性、エネルギーの効率性を追求する他はない。武器に関しては、ある意味早乙女博士をしのぐ敷島博士がいるが。それと、パイロットの問題もある。
 日本中を探して、やっと見つけた3人のパイロット。すでにそのうち1人は亡く、一人は去り、残されたひとりも戦闘は無理だろう。ゲッターに制御能力やシールド、無駄のない使い勝手の追求が求められる。今までゲッターに搭乗していた隼人の経験や、創造性は不可欠だ。実際、真ゲッターの開発のとき、隼人は訓練の合間によく顔を出し、いろいろアドバイスや独創的な意見を言っていた。単に、自分の乗るゲッターの能力というか、本質に興味がもっただけかもしれないが、隼人は確かに優れた頭脳の持ち主だった。パイロットを探して血眼になっていたときなかなか目に入らなかったのは、隼人が物事に興味を持たない人間だったからだ。人に抜きん出ることを望まず、かといって、自分個人を切磋琢磨することも好まない。必要最小限の行動だけで存在していた。その最小限の能力であってすら、早乙女たちの目に留まったのだけれど。
 研究所に来てからゲッターに、科学に興味を持った隼人の能力は、早乙女の思っていた以上のもので。戦いが終った後、隼人を助手として研究を進めるなり、研究所そのものをまかせるなりしたいと早乙女は本気で考えていた。そしてそれを橘博士も知っていた。
 「隼人君。新ロボットの開発もさることながら、私は科学者だ。軍事面では全く役に立たないだろう。政府の首脳とのやり取りも苦手だ。君の力を借りたい。」
 橘博士にそう言われたとき、隼人はそれもいいだろう、と思った。ゲッター線研究は、政府の管理下におかれ抑制、縮小されたとはいえ、早乙女博士の手で細々ながら続けられている。政府に見とめがられずに博士の手助けをすることも可能だろうが、ある意味、自分はゲッターに不信感をもっている。あの時。
 確かに凄いエネルギーだ。信じられぬ金属変化を促すあのエネルギーは、まるで自らの意志を持っているかのようだ。たとえ、意志をもっていてもいい。だが、扱えないのは困る。その力が凄まじければ凄まじい分。
 動かなかった ゲッター。
 望むように扱えないならば、切り捨てるしかない。どれほど、その力を欲しても。
 リョウが出て行ったとき、まだ研究所の封鎖は伝えられていなかったけれど、隼人はゲッターから離れるかどうか考えていた。これは良い機会なのかもしれない。あのときの焦燥感は二度と繰り返したくない。スクリーンの中で、武蔵が散っていくのをただ見詰めるしかなかった、あの時。
 プラズマボムス。
 早乙女博士がゲッター線を発見する以前に考え出していた新エネルギー。電気や原子力エネルギーよりはるかに効率よくて安全なエネルギー。ただ、それよりもはるかに巨大なゲッター線エネルギーがみつかったため、忘れられていたエネルギー。
 それに隼人は目を向けた。たとえゲッター線に力は及ばずとも、人間の意志に忠実なエネルギーに。




 「各国もスーパーロボットを起動させたらしいのう。」
 敷島が隼人の空になったコーヒーカップに日本酒を注ぐ。
 「ええ。特にアメリカのキング博士のテキサスマックは、ネオゲッターといい勝負だと思いますよ。」
 「ふん、あんなもの。真ゲッターからみれば、赤子のようなもんじゃ。」
 不機嫌そうに言い放つ。一見、武器にしか興味なさそうで、(いや、99%そうだろうけど)敷島博士も、ゲッター線エネルギーなしでの戦いがどれほど難しいものか知っていた。恐竜帝国はこのままでは終らない。再び捲土重来をめざして攻撃をかけてきた奴らは、どれほどの準備をしてきたのだろうか。恐竜帝国に対する切り札は、奴らの恐れるゲッター線しかないというのに。
 「隼人、早乙女研究所の封鎖は解けんのか。」
 「はい。何とか、首脳部を説得しようとしたのですが。」
 つがれた液体を口に含む。
 「ふん。国連の顔色ばかりうかがいおって。ぐずぐずしているうちに、世界そのものが消滅してしまうぞ。早乙女の様子はわからんか。」
 「何の連絡もありませんからね。ゲッター炉心は作動しないのでしょう。」
 「手遅れにならんうちに、せめてゲッター線エネルギーを使った武器を、ネオゲッターに持たせた方がいいじゃろう。政府の禁止なんて捨てておけ。ハチュウ人類にはゲッター線は天敵じゃ。」
 「ええ。それで、博士にひとつ、武器を作っていただきたいのです。」
 隼人は胸のポケットからひとつのディスクを取り出す。
 「ほう。お前から直接頼まれるのは久しぶりじゃな。」
 嬉しそうにディスクを開く。画面に映し出される数々の数式。
 「うむ?」
 眉をしかめる。
 「これを使うのか?」
 「ええ。これにゲッター線を用いようと思います。」
 「だが、これはこんなつもりで開発していたものじゃないじゃろが。前にワシがこれを使えと言った時、反対したくせに・・・・」
 「真ゲッターが動かないなら仕方ありません。もっとも、これはメカザウルスには大した武器にはなりませんが。どちらかというと、ゲリラ戦ですか・・・」
 淡々と告げる隼人に、敷島はひとつため息をつくと、
 「これをネオゲッターに付けるのか?」
 「いえ、これは俺が使います。バズーカー様式でもいいし、小型機に付けても良い。俺が扱います。」
 「・・・・・・・・お前も、損な役回りじゃのう・・・・・」
 「・・・・・・・・どうでしょうか。本当に 損なのは・・・・・・・・・」




 訓練室から笑い声が響く。號が翔をからかっているようだ。すぐに反撃されて剴に笑われているが。號は敷島博士の実験室から運び出されたあと、さすがに丸二日ベットで唸っていたが、それからはしょっちゅう実験室に顔を出しているらしい。あそこにある武器をひととおり試すつもりなら、結構、日数はかかるだろう。

 「あれ、神さん。」
 めざとく號が隼人を見つける。
 「どうしたのさ、訓練服なんか着ちゃって。あ、俺たちの相手してくれるのかい?!俺、前よりかずっと強くなったぜ?そうだ、敷島博士の所でさあ・・・・・・」
 矢継ぎ早に隼人に話しかける號。
 「・・・・・・尻尾、出てるぞ・・・・・・・」
 剴がポツリとつぶやく。パタパタパタと、音まで聞こえてきそうだ。
 隣で苦虫を噛み潰したような翔。
 「ねぇねぇ、教えてくれよ。どうも俺、射撃が苦手でさあ。どっちかっていうと肉弾戦が得意だったからよォ。」
 周りをまるっきり見てない號。苦笑しつつ隼人は、
 「いいだろう。俺もしばらくやっていないからな。今日はひととおり、付き合ってやる。」
 「ええ?!」
 「ずるいですよ、大佐!!」
 あわてて翔と剴が駆け寄ってくる。
 「俺たちだって、直に指導してもらえるなんて、滅多にないんだから。」
 號を押しのけるように剴が言う。
 「剴、邪魔すんなよ!」
 ジタバタもみ合っている2人を尻目に、
 「お願いします。」

     「「!!ズルイぞ、翔!〜〜」」



          ***************************


 「ネオ」はほのぼの路線を狙っているのですがね・・・・・・・・どうも、私の書くものは隼人メインなので重くなるようです。諦めてくださいませ。(おい、そっちかよ。)いえ、無駄な努力は好みじゃないって。(汗!)
 でも、短編なら、明るくできるかなあ・・・・・?
             (2005.7.10)