「なあ、なあ、神さん。納涼大会!納涼大会やろうぜ!!」
ホラ、俺達ってさあ、日頃訓練とかで周辺の皆さんに、騒音とか地響きとか迷惑掛けてるだろ。ここはいっちょう、「親しみのあるネーサー基地」っていうのを表に出してみてもいいんじゃないかな。自衛隊だって、一般の人を招いて航空ショーやったり、公開イベントやったりしてるじゃん。さすがにここは重要軍事基地だから、内部公開までは出来なくてもさ、屋台出したり射的みたいなのとかグッズ売ってみたりとか。ネオゲッターグッズって売れそうじゃん。俺達だって曲芸飛行くらいやるよ。だからさあ・・・・
「・・・・・・凱、號は何を言ってるんだ?」
呆れたように翔が傍らの凱に聞く。
號が子犬のように基地司令の隼人に懐くのはいつものことなので、さきほどからうっとおしいほど隼人に纏わりついている號を、翔を始めネーサー基地の面々は慣れた目で見ていたのだが。
ネーサー基地は主力戦闘基地だから、その所在地は人里離れてだだっぴろく、周囲に何もないところだ。以前恐竜帝国からの壊滅的な大攻撃を受けたときも、基地の人間以外の犠牲は出していない。再建されるにあたってさらに人々の生活圏から隔離された。こんなところでイベントをやっても誰が来るというのだろう。一番近い町に行くのさえ、車で4時間はかかるのだ。
「去年は基地で夏祭りをやったけど、あれじゃ駄目なんかな。」
凱も首を傾げる。あれはあれで楽しかったけどな。みんなで催し物を決めて屋台も自分達で出して。俺も腕相撲大会で號に勝ててご機嫌だった。
翔は少し離れたまま二人を見ていた。長身の隼人の長い脚が、纏わりつく號を気にもかけずにスタスタと動く。躓かないようにヒョコヒョコかつ素早く歩く號もなかなかだ。隼人は歩きながら書類に目を通していて、號の顔など見向きもしない。横顔の口元は読めないがきっと、「うるさい。」「駄目だ。」だろう。
「號のやつ、なんで急にあんなことと言いだしたんだろう?」 今朝までそんなこと全然言ってなかったのに。ぽつりとつぶやく凱に。
「そういえば號は、昨日まで早乙女研究所に行ってたな。」 翔が眉をひそめた。
「それで、それでさあ!最後は敷島博士の花火で豪快にパァ ---とさぁ!!!」
ピタリ。
急に立ち止まった隼人に危うくぶつかりそうになりつつも、持ち前の運動神経で避けた號は次の瞬間。
地を這うようなおどろおどろしい低音に体を硬直させる。
「敷島博士の花火だと?」
セルリアン・ブルー その2
「だからよう、親睦行事だって!!」
昼食もそこそこにデータの確認をしていた隼人の元に、リョウと武蔵が勢い込んで入ってきて大声で言うには。
早乙女研究所で人々を招いてのお祭りをやりたいらしい。
「ほら、弁慶も来週には帰ってくるだろ。夏祭りにちょうどいいじゃんか。」
「研究所の皆は、いつ出撃があるかわかんないから休みもゆっくりとれないし、家族サービスも出来ないだろ。周辺の人達との交流も深めたら、いざというときの避難誘導もスムーズにいくと思うけどな!」
身ぶり手ぶりで交互に説得に努める。なにしろ研究所の運営関係は隼人が采配しているのだ。早乙女博士は面倒事すべてを隼人に押し付けている。隼人が「うん」と言わないかぎり予算だって下りないのだ。
弁慶は今年、多くのパイロット候補生の中から選ばれたゲッターパイロットだ。リョウ達との訓練を始める前に、アメリカの海兵隊に3カ月間特別入隊している。いくら候補生の中ではトップとはいえ、いきなりリョウ達との訓練に放り出すほど早乙女も非情ではない。とはいえ、訓練内容については隼人に一任しており、隼人はそれをリョウに一任しているのだが。
「いいだろ、隼人。弁慶だって言葉も通じないところで一人でがんばってきてさ、戻ったら途端に俺達とのハードスケジュールが待っているんだし、息抜きぐらい。」
「元気ちゃんだって、夏休みに何処へも連れて行ってもらってないんだから、俺達で楽しませてやろうぜ!!」
必死に言いつのる武蔵の気持ちは解る。多分、ミチルさんの浴衣姿が見たいのだろう。リョウは単にお祭り騒ぎがしたいだけだろうが。
まあ、たまにはいいか。
「わかった。早乙女博士に聞いてみて、了解を得たなら予算のほうは事務方に言っておこう。だが俺は明後日から政府の会議で東京に出張だ。恐竜帝国の攻撃がないかぎり、しばらくは帰ってこれないぞ。お前らだけで準備できるのか?」
「おうよ、まかせとけって!!なあに、弁慶も帰ってくるんだ。なんかあってもお前の代わりにゲッターに乗せるから、こっちのことは心配すんな!」
「弁慶が俺ほどゲッター2を操れるとは思わないがな。」
ちょっと憤慨も手伝って意地悪くいうと。
「だから俺のゲッター1でやっつけるっていうの!」
「おいリョウ、おいらのゲッター3を忘れちゃ困るぜ!。」
負けじとリョウに張り合うムサシ。
やれやれ。
でも、この屈託のなさが研究所の空気を和ませているんだからな。俺には苦手な分野だ。素直にこの二人、いや、弁慶も入れて三人か。任せていいだろう。早乙女博士も駄目だとは言うまい。
あれこれ計画を立て始めた二人を残して、隼人は次のデータを確認するために部屋を出て行った。やるべき仕事はまだまだある。
☆
「で、もう準備は出来たのか?」
『おうよ、バッチリだぜ!焼そばやかき氷、綿あめ、たこ焼きりんご飴。金魚すくいにヨーヨー釣り。くじ引きやいろんなゲーム。元気ちゃんの意見聞いて、子どものやりたいもの全部用意した。所員の皆も家族サービス出来るって喜んでるぜ。』
「子ども用の娯楽については、お前達に任せておけば心配ないがな。」
クスリと笑う。
『お、失礼だな!ちゃ〜んと大人も楽しめるようなイベントだって用意したさ。重力訓練室での重G体験とか。』
「おい、それについてはミチルさんの確認を得ておけよ。」
計画したのがリョウ達であれば、ちょっと、いや、かなり不安だ。
『だいじょーぶ、大丈夫。ちゃぁんと医務室も確保してる。』
「違うだろ!!」
思わずツッコム。
『冗談だよ、アッハッハ!』
ハイテンションなリョウの声に、どっと疲れる。
「かなり大がかりなものにしたようだが、予算はオーバーしなかっただろうな。」
『い、いや〜〜、さすがにちょこっとオーバーしちまって、あ、大丈夫だぜ、早乙女博士と橘博士がカンパしてくれたから。』
「橘博士にまでたかったのか?」
『たかったなんて。たまたま翔を連れて研究所にきたからさ、是非にとお誘いしただけだ。そしたら向こうから・・・・』
人のいい橘のことだ。きっと奮発してくれたのだろう。
『それよりさっさと帰ってこいよ。なんでいつの間にドイツに行ってるんだ?』
電話の向こうで不機嫌そうな声。政府の要請で国際会議にまで引っ張られた隼人。夏祭りに間に合うかわからない。
「なんとか間に合うようにするつもりだ。」
『絶対だぞ。敷島博士が花火を作ってくれるんだ。きっとド派手だぜ。』
「敷島博士が?おい、なんて人に頼んだんだ。けが人が出たらどうする!」
『俺が頼んだんじゃないぞ。自分からサービスだって言って。おかげで花火代が浮いて、他に回せたからな。』
満足そうな声。
「敷島博士のサービスほど怖いものはないんだぞ。」
『大丈夫だって。ちゃあんと花火って言ったからな。』
「・・・・・・・・ゲッターロボで待機しておけ。」
☆
早乙女研究所あげての夏祭りは盛況だった。なんせ、最強のお祭り好きが三人もいるのだ。盛り上がらなくてどうする。
「ミチルさん、やっぱり浴衣が似合いますね!グッときますよ。」
武蔵がデレデレと見惚れている。
「ありがとう。武蔵くんの浴衣姿も素敵よ。弁慶くんも。体格ががっしりしているからかしら。」
花を散らした、少し赤みがかったピンク色の浴衣を着たミチルが二人を褒める。
「いや〜その色が似合う人ってめったにいませんよ。ミチルさんは色が白いからぴったりです!!」
弁慶と同列に褒められたことは気にせず、武蔵はミチルを褒めまくっている。ちなみにリョウはいつも通りのTシャツ姿だ。単に動きにくいという理由だが。
「隼人のやつ、間に合わなかったな。」
少しむくれてリョウがつぶやく。
「こんなに盛況なのにさ。」
「そうね。会議は昨日で終わったらしいけど、隼人くんはいつも、そのあともいろいろ話しかけられるから。」
ミチルが苦笑する。
「まあいいじゃねえか、そしたら来年もお祭りやろうぜ!」
元気と一緒にいろんなゲームをして、両手いっぱいに景品を抱えた弁慶が笑う。
「それがいい。そうしましょうよミチルさん!」
『来年は絶対、浴衣姿のミチルさんと手をつないで・・・・・』 妄想モードの武蔵(笑)。
「ほら、そろそろ花火が始まるぞ!」
弁慶の声にリョウも。
「おし、じゃあとりあえず俺達はゲッターで待機といくか。まあ必要ねえだろうけど、ゲッターロボなら特等席だからな!」
花火に浮かび上がる研究所のとゲッターロボのシルエット。それは日々戦いに明け暮れる人々にとって、この上もなく頼もしく映るだろう。
「敷島博士の作った花火なんて、大丈夫かしら。」
ミチルがクスクスと笑う。
「隼人もだいぶ気にしてたけどな。3日前、弁慶と一緒にシュミーレターを見せてもらったけど、なかなかのものだぜ。たしかにちょっと派手なのはあるけど、あれくらいじゃなきゃつまんねえよ。」
「なんといっても花火はメインだからな。みんな、喜ぶぜ。」
「さあ、行こうぜ。」
ゲッターロボの中で。
「つまんねえな。ミチルさんと一緒に花火、見たかったのに。」
まだブツブツとつぶやいている武蔵。
「しつこいぞ。いいじゃねえか、ミチルさんは花火の説明役なんだから。」
ミチルの声に合わせて、 夜空に降り注ぐ流星、もしくは咲き誇る大輪の花。
人々の感嘆を欲しいままにしている花火。
「でも、敷島博士もまともなもの作れたんだ。」 弁慶が笑う。
「まったくだ。本音を言うと、おいらもちょっと心配してたんだ。」
「花火って、楽しいけど、終わると物悲しいっていうんだよな。」
「おいおい、リョウが詩人だぞ。」
「茶化すなよ!」
『次は、連続乱れ花火、万華鏡です!」
ミチルの声が響く。
「お、最後だぞ・」
「あれ、最後って言ったか?」
「次は、って聞こえたけど。ミチルさん間違えたかな。あの花火で終わりのはずだ。」
「花火っていうより、ゲッタービームッて感じだな。」
「さすが、敷島博士だ。」
見惚れている観客達のため息が、ここまで聞こえてきそうだ。
『 では、最後になりました。ラストはこれ。』
「あれ、もうひとつあったようだぜ。」
「おまけ?」
「ラストにか?」
『題目は。』
浅間山のひとつ手前。視界の開けた山道で、隼人は車を停めていた。なんとか今日中にここまで戻ってこれたけれど、途中で花火が始まってしまった。このままここで花火だけでも見ようと思った。敷島博士謹製と聞いていたから、正直不安だったけれど、此処から見る花火は綺麗だ。きっと、リョウ達のところでは凄い迫力で、みんな興奮しているだろう。普段は爆発や銃撃といった殺伐とした炎に囲まれている面々。みんな、やむを得ないと納得してはいるのだけれど、やはりこんなふうに、「火」の美しさを感じることがあってもいいと思う。「火」を利用し得た、ただひとつの「種」。
隼人は車に寄りかかると煙草を取り出した。カチッとライターに火をつけ、煙草に移そうとしたとき。
『 孔雀です!! 』
☆
死人は出なかった。信じがたいことに怪我人も。
パニックが起きなかったことが不思議だが、実際はみんな固まってしまって動けなかったのだ、恐怖で。
あれを花火だと言いきれるのは敷島博士だけだ。博士の基準は死ぬか死なないかの違いのみ。
花火である以上、短時間のものだったことが幸いだった。皆が正気に戻る前に終わった。
「本当は研究所の防御システムに組み込もうと思っていたんじゃがの。研究所の土台事体が発射時の負荷に耐えられんでのう。残念に思っておったんじゃ。今回、爆薬を火薬に変えて試してみたんじゃが、まぁまぁかのぅ。実用にはまだまだ研究の余地ありじゃの、」
研究所の建物にひびが入ったとか、何箇所かくずれたとか。近隣の住民たちが、すわ、恐竜帝国の総攻撃だ、もしくは浅間山が大噴火を起こしたと大騒ぎで家から飛び出したとか。気象庁が、地震か竜巻か雷鳴かと右往左往したとか。マスコミが騒ぎ、政府が苦情を言って来たとか。
早乙女博士は地下研究室に籠り、敷島博士はさっさと行方をくらませて。
すべての尻拭いを押しつけられたのは、ドイツから帰ってきたばかりの隼人。
膨大な始末書と繰り返し行われる査問。研究所の日々の仕事も当たり前のように待っていて。
通常に戻るのに半年はかかった。リョウ達も責任を感じて力仕事をせっせとこなしたが、全員に指示を与える立場の隼人は休みはおろか、睡眠すらまともに取れなかった。しばらくは政府関係者からもネチネチと嫌味を言われたし。 「いや、今回の恐竜帝国の攻撃は、この前の花火と比べたら大したものではなかったでしょう。」とかなんとか。
機嫌レベル最低を行く隼人に、リョウ達でさえ軽口をたたけなかった。
☆
早乙女研究所。
弁慶がリョウに言った。
「なんでわざわざ號にあんな昔の話をするかな。號のやつ、きっと隼人に自分達も祭りをやろうって言いだすぞ。で、向こうには敷島博士がいるんだ。ぶり返したらきっと凄く不機嫌になって、可哀想に號、八つ当たりされるぞ。」
號から何があったか聞かれて思いだした敷島は、今度こそ防御システム『 孔雀 』を設置しようと考えたとか、考えなかったとか。
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大変、更新を滞らせていたかるらです。
Ssgaのほうで敷島博士を退場させたら淋しくて。こちらで元気に活躍していただきました!!
「アーク」の『孔雀』、大好きなんですよ!
なかなか更新しておりませんが、まだまだこちらにおりますので、思い出されたときにでも覗いてくださいませ!!
(2011.7.29)