背中合わせの守護戦士








 半年前。
 ネーサー基地の橘博士のもとに、ひとつの要請が届いた。
 考古学の権威、マキシム教授からのものだ。太平洋諸島のある島の洞窟に、古代の遺跡があるらしいと言う。洞窟の入り口が海中のため、橘の開発したDT-3を貸してもらいたいとのことだ。DT-3は、もともと月面探険車として開発されたDT-2に改造を加えた小型潜水艇である。両脇に砕岩用のドリルを装着し、必要とあらばキャタピラを出して走行することが出来る。
 橘はこころよく承諾した。マキシム教授は、「面白いものを見つけたら、すぐに連絡させてもらうよ。」と笑った。




                              ☆ 





 



 「神くん。マキシム教授からメールが届いたよ。君の方にも届いていると思うが。」
 ネーサー基地の自室で、ゆっくりと珈琲を口にしながら橘が言った。
 「ええ。なかなか興味ある遺跡だったようですね。あの物静かな教授が、やけに興奮されているようです。」
 隼人も静かに珈琲を飲んでいる。
 「私の方に、是非隼人君を貸してほしいとあったが。」
 「俺が行っても、たいしてお手伝いできるとは思えませんがね。でも教授は以前から、なにかと俺を目にかけてくれています。今回も手伝いと言うより、面白いものを見せてくれるお積りかもしれませんね。」
 隼人はこともなげにそういうが、マキシム教授が前から隼人を助手に欲しがっているのを橘は知っている。隼人は現在世界で知られているすべての言語ばかりでなく、象形文字や楔形文字にも精通している。そればかりか鉱物や動植物にも詳しい隼人は、考古学者としては咽から手が出るほど欲しい人材だろう。いや、考古学とは限らず。
 「どうだね、隼人君。行ってみては。ちょうど翔たちネオゲッターチームは、アラスカ基地での各国のスーパーロボットと合同訓練に参加している。君は相変わらずここと早乙女研究所の仕事を兼任してて、ずっと休みを取っていないだろう。休暇がわりに古代遺跡を検分してきてはどうかな。残念ながら車くんは翔達に付き添ってもらって留守だが、流くんを誘うといい。」
 流 竜馬は、自分の空手道場を経営するかたわら、ネーサー基地で隊員たちの戦闘訓練と武術指導をしている。しかしただでさえ隼人は国内外を飛び回っているし、たまたま二人が基地で顔を合わせても號が邪魔をする。號は竜馬にライバル心を燃やしているが、竜馬も號に絡まれるとムキになってしまう。大人気ないと誰もが思うが、といって、分別ある竜馬も想像できない。
 以前隼人が過労で体調を崩したとき、1週間ほど竜馬と二人で過ごしたことがあるが、あれからもう1年が過ぎている。あれ以来隼人はまとまった休暇を取っていない。
 竜馬と隼人。かつて生死を共にし、哀しみを共にした仲間。
 「リョウは弟子たちが国際大会に出場するとかで特訓中ですよ。本人は参加しないと言っていましたが、號たちの訓練もないし、たぶん大会にも付き添うでしょう。」
 「そうか・・・・・それは残念だったね。」
 「でも、せっかくのマキシム教授のお誘いですし、博士の許可がいただけるなら行ってみようと思います。今のところ、差し迫った事案もありませんし。」
 マキシム教授ほどの人物をこれほど興奮させるモノがあるなら。ぜひ見たいと思う。


 3日後。隼人は太平洋に向かった。




                             ☆





 海に向かって開かれた洞窟は、思った以上に広いものだった。いったん海中に潜り、行き止まりを上へと向かう。浮上した先に、島の内部へと続く洞窟があった。幅1メートル、高さ2メートルほどの洞穴が続く。
 「この遺跡は海中から出入りするものだったようだ。他の調査をしていた潜水夫が偶然見つけてね・・・・・」
 マキシム教授が歩きながら続ける。
 「このトンネルは硬い岩盤を削って作られている。ゆるい起伏のまま、2キロほど続く。」
 隼人は聞きながら回りを見回す。調査隊が所々電球を取り付けたせいでかなりの明るさだ。削られ方を見た限りではノミとかツルハシといったような素朴な手作業に思えるが、歩きやすさからいくと原始的なものとは思えない。この先に何があるか知らないが、生活の場であったなら、もっと多量の品々を運べるよう広い通路にすべきだろう。それとも他に別の通路があるのか?海中を通ってくるということは、物資の運搬には向かないだろう。 
 考えながら歩いていくと、前方に出口が見えた。

  --------- 谷 -------
 出口は切り立った崖だった。
 20メートルほどの空間を挟んで、向こう側も崖になっていた。地中の谷。
 対岸にも洞穴があった。こちらよりもずっと大きく、縦横5メートルはあるだろうか。
 立ち止まったまま上を見上げれば暗く、投光機の光の届かぬ高さがあるようだ。谷底もまた窺い知れない。
 視線を戻すと、ロープと板を組み合わせたつり橋があった。
 「ロープを向こうに渡すのが一苦労でね。銛撃ちの銃を使ったのだが、打ち込むべき木の一本もない。なんとか岩の隙間にロープをつけた鉤爪をひっかけて・・・・・インカのつり橋に詳しい隊員がいて助かったよ。」
 白い髭を豊かにたくわえたマキシム教授が満足そうに言う。おそらくこの先に、驚くべき遺跡があるのだろう。

 つり橋を渡る。支柱となる杭は、両端にしっかりと埋め込まれている。
 こちらのトンネルは、先程のものと比べると、広いだけではなく整地もされている。これならば、たとえばトラックのようなものでも通れるだろう。
 200メートルもいくと行き止まりになっていて、50畳ほどの広さがあった。
  「これは!?」

 正面の壁に描かれたレリーフ。
 縦10メートル、横20メートルほどの壁画。
 美しい絵だった。
 青く澄んだ空。滴るような緑の山々。流れる小川。
 溢れるほどの花で埋め尽くされたその絵には、鳥や蝶、およそ「美しい夢」といわれるすべてが描かれていた。
  ・・・・・・・閉ざされた地中で生きることを余儀なくされた、そんな人々の憧れと追憶とそして、
       諦めを映したかのような・・・・・・・・・・・

      うつくしい   かなしい  絵 だった。

 「不思議なことに、ここには人の姿がひとつもない、何故だろうね。人が描かれていれば、種族の系統が解るかもしれなかったのに。」
 マキシム教授が至極残念そうに言う。
 「そうですね・・・・・・」
 この壁画は、墓に供える花のようだ、と隼人は思った。
 死者を悼むための供物。ただただ美しいだけ。
 「? どうしたね、神くん。なにかわかるかね。」
 壁画の隅々に目を走らせている隼人に、マキシム教授は期待を持った目で問う。
 「描かれている植物は、椰子の木はじめ亜熱帯の植物ですが、花の半分はハスの花ですね。」
 「ふむ、そういわれれば、白い花はすべてハスだ。色の着いた花は様々な種類なのにな。」
 「ハスの花をシンボルにしたという伝説の大陸がありますよ。1万2千年前に消えたという。」
 「ムー大陸だ!では、やはりこれはムーの一部だと?」
 「ムー大陸は、大陸そのものとハワイ諸島やマリアナ諸島まで、太平洋の半分以上を占めていたといわれますから、位置的にはおかしくないです。」
 「わしは、この遺跡がここで終わっているとは思わん。この先になにかがあるはずだ。この壁画が扉になっているように思う。なんとかスイッチらしきものを探してくれんかね。」
 
 『ナーカルの碑文版』を解読し、 『失われたムー大陸』を出版したイギリスの元・軍人、ジェームス・チャーチワードによれば、白いハスの花はムーのシンボルであるが、花弁の先端が曲がっているハスの花の絵文字は「死」を意味した。この壁画が滅び行く自分たちを悼むものだとしたら、描かれているハスの花弁が何かを示唆しているかもしれない。
 北斗七星。
 何百という花の中から花弁の曲がったハスを探し出すと、その配置は北斗七星を表していた。とすると、北極星の位置に何かがある。
 白い小さなハスの蕾。だが、それを押してみても何も変化はない。
 隼人は北斗七星を順番に押して、最後に北極星を押してみるが、変化なし。北斗七星を等級別に押しながら、これが駄目なら次は地球からの距離にしようか、押す以外に何かあるかなと思いつつ、北極星を押す。
 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・
 大きな音を響かせながら、壁画が上に上がっていく。
 案外簡単な開け方にしたのだな、と思いながら、それでも上に上がっていくとは考えなかったな、と隼人は見ていた。



 そこは広々とした空間で。
 広間というよりも体育館、いや、格納庫といったほうがしっくりくるような場所だった。
 硬質の床と壁。なんの装飾もない。淡い光が全体を覆う。
 「照明が点いているぞ。」
 「誰かいるのか?」
 「まさか。そんなはずないだろう。」
 がらんとした空間に声がひびくせいか、皆、ボソボソと話す。
 隼人は床に手を置く。触れた感じでは材質はわからない。
 「神くん。どう思うね。空気は淀んでいない。」
 「保守機能があるのかもしれませんが、それにしても、これほどまで長期にわたって続くエネルギーがあるとしたら、ちょっと教えてほしいですね。」
 「ムーの科学力は、現在の文明よりも優れていたと信じておる。これからの調査が楽しみだ。向こうに、扉らしきものがあるね。行こう。」
 マキシム教授が100メートルほど奥を示す。
 全員がそろそろと歩き出す。
 と。
 遠くで地鳴りがした。
 隼人はハッと振り返る。
 「神くん?!」
 「見てきます。全員、待っていてください。万一閉じ込められたら大変ですから、いったんここを出て!」
 隼人は走り出した。すぐにつり橋に着く。

      天が。

      崩れてくる。

 トンネルを出た隼人が見たものは、上からバラバラと谷底に降り注ぐ土砂の雨だった。つり橋が大きく揺れている。
 隼人はすぐさま取って返す。
 「マキシム教授!」
 「神くん、どうしたね!?」
 怯えた目で隼人を見る教授を、有無を言わさず背に負う。
 「神くん!」
 「島の何処が崩れたかわかりませんが、谷が土砂の雨です。とにかく向こうに戻りましょう、全員、退避!!」
 叫ぶと教授を背負ったまま走り出す。あっというまにつり橋を渡る。
 「すぐにDT-3戻ってください。俺は全員の確認をしますから。」
 「頼んだよ、神くん。」
 つり橋を戻ると次々に隊員たちが駆けて来た。
 「教授を頼む。DT-3に急げ!」
 「はいっ!!」
 隊員たちは降り注ぐ土砂の中、危なっかしげにつり橋を渡っていく。隼人は途中で倒れた者がいないか確認する。
 「もう誰もいないか?」 
 「はい、私で最後です!!」
 「よし、すぐに橋を渡れ!」
 最後の一人と洞窟を出た隼人は息を呑んだ。いましも大きな落石が橋の支柱を直撃し、ロープが飛ばされるるところだった。
 「くっ!!」
 間一髪ロープを掴み取ると、隼人はすばやく自分の体に巻きつけ腰を落とす。
 「行け!早く!」
 「え、でも、神さん!!」
 「大丈夫だ、お前一人の重さぐらい耐えられる。」
 「でもそうしたら神さんが!」
 「心配ない。これくらいの距離、オレは跳べる。」
 言い切る隼人に隊員は頷き、大急ぎで橋を渡る。
 隼人は体を締め付ける力をぐっと耐える。
 「神さん!」 
 橋の向こう側で、渡り終えた隊員が手を振る。
 「よし!」 
 隼人は助走のため少し後退りし、走り出そうとした、そのとき。

 「 ? グッ!!」
 隼人は片膝を地面につき、口元を押さえ蹲る。
 ボタボタボタ。
 受けきれないほどの大量の血が、次々と零れ落ちた。
 
 「神さん!」
 橋の向こうで悲鳴。
 「くそっ!」
 隼人はぐいっと手の甲で口をぬぐうと、ふらつく体を起こして見上げるが。
 まるで空が崩れたかのように間断なく岩が落ちてくる。
 『これでは跳べない!』
 一瞬のうちに隼人は判断し、向こう岸に怒鳴る。
 「オレはさっきの遺跡に戻る。君たちはすぐに脱出しろ!そしてネーサーに救援を頼め。いいな!」
 「はい、神さん!!ご無事で!!」


 
      そのとき空から島を見る者がいたら・・・・・・
      島の中央付近の峰が一つ、吸い込まれるように消えていったのを見ただろう。


 マキシム教授たちはかろうじてDT-3で脱出したが、渦巻く海流は凄まじく、水の濁りはレーダーをも沈黙させる。しかし、もともと南極のブリザードなど悪条件を想定して設計されたものだけに、その艦体は頑丈だった。しばらくは木の葉のように海中に揉まれたが、なんとか体制を立て直し、ネーサー基地に連絡をとった。  



 
                           ☆




 「お〜〜すっ、隼人いるか〜〜?」
 リョウがネーサー基地の司令室のドアを開けると、そこは戦闘時のようにピリピリと緊張した空気が張り詰めていた。
 「おい、どうしたんだ?」
 全員が必死の面持ちでレーダーを見詰め、マイクに集中していた。
 「おい、何があったんだ?」
 手近な隊員の腕を引く。
 「あ、流さん!」
 「なに、流くん?」
 橘博士は驚いたようにリョウを見たが、すぐにホッとしたような表情で
 「ありがたい!君が来てくれるなんて。神くんが大変なんだ!」
 「なに?隼人がどうしたって?!」
 形相の変ったリョウに、橘は手短に状況を話した。
 「いまだ神くんと連絡は取れない。海流の乱れや山の崩落等で磁気が乱れているのかもしれない。君の通信機で連絡してみてくれ!」
 橘は縋るようにリョウの時計に目を遣る。
 ゲッターチームパイロットを繋いだ、不可侵の絆。
 「隼人、隼人。おい、返事しやがれ!!」
 リョウが通信機に向かって怒鳴るが応えはない。顔を歪めるリョウに
 「神くんは気を失っているのかもしれないし、ひょっとして遺跡の中にいて届かないのかもしれない。」
 最悪の事態は考えたくない。
 「博士、島の場所はわかるんだな?今からオレが行く。幸い、初代ゲッターロボはこっちにあるんだろ?」
 真ゲッターロボは、その強大すぎる力のために、早乙女研究所の地下に留め置かれたままだが、もともと宇宙開発のために設計された初代ゲッターは再度造られ、各所でいろいろな実験等に使用されていた。ちょうど今、ネーサー基地が借り受けていた。
 「頼んだよ、流くん。一人で大丈夫か?誰か他に・・・・・」
 「一人のほうが最高速度で行ける。」
 ざっと駆け出したリョウの背に
 「神くんを救出したらなるべく静かにゲッターを動かしてくれ。彼の体はゲッターのGに耐えられない。」
 沈痛な声がかかった。立ち止まったリョウは。
 振り向くことなく出て行った。





 リョウは近くの島に避難していたマキシム教授と合流した。
 「あれから何度も島が揺れ、海からの入り口は閉ざされてしまった。だが、島にあった峰がひとつ消えている。おそらく地下の谷に陥没したのだろう。谷を何らかの方法で塞ぎ、その上に何層もの地層が重なっていたと思われる。信じられないが、それしか考えられん。」
 「ということは、埋まっちまったところを掘り進んでいけばいいんだな?」
 「遺跡と洞窟の入り口は200メートルほど距離があった。あの通路はしっかりした造りになっていたから崩れたとはおもえないが、ひょっとして遺跡と連動していたら、封鎖されているかもしれん。」
 「近くまで行ったら通信も届くかもしれねぇ。とにかく行くぜ。」
 ゲッターに戻ろうとしたリョウに、
 「流さん!」
 ひとりの隊員が駆け寄ってきた。
 「神さんは私が橋を渡り終えるまで、ご自分の体にロープを巻きつけて橋が落ちるのを止めていてくれたんです。落石がひどくなって谷を跳び越えるのを諦めて戻られましたが、その前に多量の血を吐かれました!」
 「なんだと!?」
 おもわず相手の襟首を掴みあげるが、泣きそうな顔が歪むのにバッと手を離すと走り出した。ゲッターに乗り込み一気に空へ駆け上がる。
 「オープン・ゲット。チェーンジ、ゲッター2!!」
 上空で光が弾ける。と、白銀の弾丸が一点を目指し突っ込んでいく。
 「ドリル・アーム!!!」


 慣れないゲッター2で地中を進みながら、リョウは行き場のないやり切れなさに唇を噛む。
 隼人が南極での戦いで大怪我をし、ゲッターに乗れない体になったのは知っている。だが、1年半ほど前の恐竜帝国との最終決戦のとき、隼人はネオイーグルを操縦して宇宙船に突入した。そのときリョウは隼人の隣に乗っていたが、隼人の動きに少しの狂いもなかった。だからゲッターに乗るのは無理だとしても、すこしずつ体は癒されているのだと思っていた。まさか今頃になってまで、血を吐くとは。
   オレはまた、間に合わないのか?!
 凍りつくような恐怖に、思わずリョウは怒鳴った。
 「くそぅ、隼人。どこにいやがる。さっさと返事しろ!!」
 『・・・・・・・・リョウ、なぜお前が出る?」
 「はぁっ?!」
 コックピットに不思議そうな声がひびく。
 「! おい、隼人か?どこだ、どこにいる?!」
 『遺跡の中だが。お前はどこにいるんだ。空手大会に向けて特訓中だったんじゃないのか?』
 「ガキの練習じゃねえからな。オレがべったり付いてる必要はねえ。手続き等の雑用があったんで、山を降りたついでにネーサーに寄ったんだ。タイミングよくお前が行方不明だってんで迎えに来てやったんだよ!ありがたく思え。」
 『タイミングよくっていうのか、これは。オレは落石を避けて通路に飛び込んだんだが、こっちは防壁のように順番に岩が落ちてきてな。仕方なく遺跡の中に入ったら壁が降りてしまった。電波もゲッター線も通じない。なんとか壁が上がらないかとスイッチを探して、いまようやく開いたんだ。だがネーサー司令室には通じないんで、直接ゲッターロボにはどうかとゲッター回線を開いた途端、お前の声が入った。』 
 リョウは大きな息を吐いた。強張っていた体が弛緩する。
 「ゲッター2で近くまで来ている。そのままじっとしていろ。待ってな、すぐだ。」
 『お前のドリル操作は不安だな。通信機を入り口の横に置いて、俺は一番後ろに下がっているぞ。』
 「ぬかせ!!」

 レーダーに映る光点を目指して、リョウは慎重に掘り進む。
 『リョウ、そろそろだ。ドリル音が聞こえてきた。』
 「よし、わかった。」
 やがてポッカリと空間が拓けた。
 「へぇ、結構ひろいじゃねえか。ゲッターロボだって格納できるぜ。」
 よっ、とリョウがゲッターの非常口から降りてくる。
 「実際、格納庫だったのかもしれん。あっちに制御室みたいなのがある。」
 隅の方の扉を指差す。
 「なんだ?探索してたのか?これだから研究馬鹿は・・・・・」
 苦い顔のリョウ。こっちは怪我をしてるか気を失ってるのかと、気が気じゃなかったっていうのに。
 「違う。扉を開けようとスイッチがないか探してたんだ。あそこにコンソールパネルがあった。そいつを作動させたら開いたんだ。」
 「よくそんなのの使い方、わかったな。」
 「人が作った物なら、だいたい似ているもんだ。」
 あいかわらず人間離れしている奴だ、と呆れたリョウだが、ハッと思い出した。会えた安心感といつもどうりの会話にすっかり忘れていた。
 「おい、おまえ、血を吐いたっていうじゃないか。」
 よくみると隼人は上着を着ておらず、何気なさげに丸めて持っていた。隼人が避けるより早く上着を奪う。
 ところどころ血が付いている。隼人の腕を掴み、無理に手を広げさせると、拭ききれなかった血が残っていた。
 「・・・・隼人・・・・・」
 ギリ、と万力のような力で腕を掴まれた隼人は、不機嫌そうに眉を顰める。
 「痛いぞ、リョウ。」
 「お前な!」
 噛み付くように叫ぶリョウ。
 「なんで今まで隠してたんだよ!」
 「別に隠してたわけじゃない。オレだって急で驚いたんだ。ずっと血なんか吐かなかった。特に体調が悪かったわけでもない。帰ったら検査するさ。」
 淡々と答える。
 「・・・・・・無茶すんな・・・・・・」
 リョウはポツリと呟くと、腕を放す。
 わかっている。
 無茶をするなと言っても、替わりに自分がなにかしてやるわけではない。口先だけの労わりなんぞ、なんにもならないことも。隼人や橘博士にしても、適材適所に人を配し、合理的に物事を進めているだろう。隼人の人使いの上手さと荒さは天下一品だ。それでも、隼人の負担は大きい。
 結局離れている自分は、見ているだけの、言い換えれば無用の存在なのだ。
 落ち込んでいるリョウの横で隼人は、平然と橘と交信している。ゲッター2によって遮蔽物がなくなったおかげで、通信が届いたらしい。
 「・・・・・・ええ、ついでですから、もう少し調べてから帰ります。リョウもいるし。」
 「?ああ?隼人、なに言ってるんだ。さっさと帰って検査するんだろが!」
 慌てて言い募るリョウに
 「帰ったら検査する、と言ったんだ。少しくらい遅くなってもいいだろう。先程までの揺れは治まったが、次にいつ大きな揺れが来るかわからない。最悪ここが崩れてしまったら、せっかくの遺跡が無くなってしまう。」
 「だったら余計に早く脱出するもんじゃねえか?」
 「ゲッターがなければそうするがな。ゲッター2なら生き埋めにはならない。良いモノ持って来てくれた。」
 「・・・・・・・・・・・」
 死にかけた、とか思ってもいないんだな。リョウは脱力する。自分も結構、常識ないだろうけど、こいつだって相当のものだ。常識人っぽい見てくれで誤魔化してンだ。だがまあ、隼人の言うこともわかるし。確かに血を吐いたわりには元気だ。リョウも遺跡には興味ある。なんといっても、二人で調査なんて久しぶりだ。じゃあ、いっちょ調べに行こうか、と思ったとき激しい地鳴りが起きた。
 「隼人、ゲッターに乗れ!」
 二人がゲッターに乗り込んだ途端、床が割れ、落下する。
 「クソッ!!」
 すばやくゲッター2の補助ジェットを操作するが、体制を立て直す前に下に叩きつけられる。
 「・・・・・・う・・・・」
 リョウはあたりを見回す。地中とは思えぬ広い空間。ここも淡い明るさが満ちている。上を見上げると、はるか数百メートル頭上にぽかりと開いた天井。
 「あそこは地底都市の入り口だったのか?ほんとの遺跡はここで。ずいぶん広そうだな。ここはなんにもねえけど町外れってか?おい、隼人。どう思う?」
 キョロキョロ見回していたリョウは、返事のないことに気づく。
 「お、おい隼人。どうした、大丈夫か?!」
 慌ててモニターを映すと、口元を押さえている隼人の姿が。その手の隙間から赤い・・・・・・
 「隼人!!」
 急いで隼人のところへ行く。(TV版をご存知の方は、ゲッターの内部というか、3つの操縦席の配置を覚えておいでですよね。どうやって行き来するかも。素朴すぎて笑えますvv)
 「・・・・大丈夫だ、心配いらん・・・」
 顔を引きつかせるリョウに隼人は答える。
 「そんな真っ青な顔で、大丈夫なわけねえだろ!」
 「なにもあばら骨とかが折れて、肺を傷つけたわけじゃない。なぜいちいち血を吐くのかわからんが、たいしたことはない。」
 「ぶん殴るぞ・・・・」
 「遠慮する。」
 隼人はゆっくり体を起こす。
 「そう睨むな。わかった、基地に戻る。ここの位置確認ができるだけでも大収穫だ。今度はネオゲッターも持ってくるか。」
 「お前ってやつは・・・・・」
 「リョウ、席を替えよう。ゲッター1にチェンジだ。ゲッター2では飛べないからな。」
 「待て隼人。先にお前は外に出ろ。合体の重Gにお前は耐えられないだろう。俺一人で分離、合体する。」
 「・・・・・・そうだな。」
 隼人も素直に頷く。非常口に向かおうとしたその時。
 閃光と共に激しい衝撃があった。
 「うわぁっ!」 
 「隼人!」
 振り落とされようとした隼人の腕を、すばやく掴み引き戻す。
 「何だ?!」
 モニターに映し出されたのは、巨人族を思わせる一つ目の巨大ロボット。大きさは優に、ゲッターの2倍はあるだろう。
 おもむろに上げられる腕。太い指先からミサイルが連射される。リョウはかろうじてかわす。
 「リョウ、すぐにイーグル席に戻れ。ゲッター1に合体だ。」
 「駄目だ、お前の体が持たない。ゲッター2のままで避ける!」
 「避け続けたところで敵は倒せない。それにゲッター2は接近戦用だ。こちらからの攻撃でも負担はかかる。ゲッタービームやトマホークの使える1が良い。合体のときだけ我慢すればいい。」
 「我慢できる体じゃねえから言ってるんだ。」
 「1度や2度でくたばるものか。さっさとしろ!」
 リョウは躊躇するが、確かにこのままでは倒される。
 「わかった。」
 リョウはイーグル席に飛び込む。巨人ロボットの口がカッと開き、閃光が発せられる。
 「オープンゲット!!」
 間一髪、ゲッター2は分離する。隼人は歯を食いしばる。
 「チェーンジ ゲッター1、スイッチオン!!」
 体に圧し掛かる凄まじいGに気が遠のく。
 「ゲッタービーム!」
 巨人も閃光を放つ。双方がぶつかり、光が破裂する。大きく飛びのいたリョウは肩からトマホークを取り出す。
 「ゲッタートマホーク!!」
 「カァ---!!」
 再び口から発せられるエネルギーにトマホークが熔けくずれる。
 「くそぅ・・・・・武器は互角かよ。隼人、大丈夫か?」
 「・・・・・気にするな。戦いに集中しろ・・・・・」
 苦しげに顔を歪めてはいるが、血を吐いていないことに安堵する。
 「よーし、もう少し我慢しろ!」
 リョウは両肩からトマホークを出し、巨人に向かって走り出す。巨人は両手の指からミサイルを発射する。それをトマホークでバラバラと打ち落す。
 「ダブルトマホーーク!!」
 近距離から投げつけられたトマホークに巨人の口が開く。エネルギーが発射される寸前、リョウは体をねじり、死角から顔面にビームを放った。
 「ゲッタービーム!!!」
 唯一つの目を潰された巨人ロボットは、ゆっくりと崩れるように倒れた。
 「ふー、あ、おい隼人、大丈夫か?」
 慌てて覗き込むモニターの向こうから、
 「さすがだな、リョウ。ブランクなしか。最初はけっこうハラハラしたんだがな。」
 青褪めた顔色のままでニヤリと笑う隼人。
 「はん、お前に気を使ってやってたんだよ、この半病人!」 
 リョウはぐっとレバーを握る。
 「さあ、とっとと戻るぞ。いや、ゲットマシンのほうがいいのか?」
 「いや、ゲッター1でいい。」
 「そうか?んじゃ。」 
 ゆっくりと飛び立とうとしたそのとき、倒れていたロボットの体が赤く輝いた。
 「おわっ!?」
 「離れろリョウ、自爆か?!」
 あわてて跳び下がるとロボットは爆発した。それ自体はたいした爆発ではなかったのだが。
 それに呼応するかのように彼方から、そして地面も建造物も何もかもが次々と爆発していく。
 「まずいぞ、このロボットが倒されたら地下都市すべてが破壊するよう、プログラムされていたようだ。」
 「急いで脱出するぞ。あ、それより、ゲッター2のほうがいいのか?」
 ゲッター1で生き埋めになってはまずい。だがすぐに照明が消え、あたりは闇の世界となった。レーダーに岩石や炎が反応するなか、分離・合体は難しい。
 「このままで行く。反転しろ、オレが誘導する。」
 地中専門のゲッター2パイロット、隼人の誘導でリョウは必死にゲッター1を操る。
 「・・・・・!リョウ、上昇しろ、ここだ。急げ。後ろから溶岩が襲ってくるぞ!」
 隼人の声に振り向くと、今来た方角から真っ赤な川が押し寄せてくる。
 「!」
 急上昇するゲッターを、一瞬炎が包む。だがそのまま溶岩流は足元を過ぎていく。
 「どこまで流れていくと思う?」
 「おそらく調査隊がわたった谷に出るだろう。多量の酸素と交じり合い、大爆発、噴火を起こすかもしれない。」
 「おい、噴火したらオレたちもヤバイんじゃないか?」
 「当たり前だ。さっさと脱出するぞ。お前が来るとき作った道は、出口が溶岩流だろうからやめたほうがいい。ゲッター2に合体し直すなり何なり、無事に外に出してくれ。」
 「出してくれって、人事みたいにいうな。こんな回りが見えなくて狭いところ、俺は苦手なんだ。レーダー係ぐらいやれ。」
 「悪いな、リョウ。もう・・・・・限界だ・・・・・」
 「あ?おい、隼人!」
 モニターには、シートにぐったりと倒れこむ隼人が映った。


 「神さん、神さん!どこにいるんだ?返事してくれよ!!」
 悲痛な声がコックピットに響く。
 「お?號か?おまえ、近くにいるのか?」
 「!あ、流 竜馬!神さんは無事だろな!」
 「呼び捨てにすんじゃねえ、ガキ!」
 「なんだって!」
 「やめろ、號。大丈夫ですか、流さん。」
 「おお、翔か、ちょうどいい。何処にいる?」
 「私たちは島の上空にいます。つい先程噴火が起きて、いまも溶岩が流れています。」 
 「助かったぜ、翔。俺たちは調査隊が入った遺跡の中にいる。レーダーで確認して、ゲッター2で迎えに来てくれ。」
 「わかりました。」
 「そっちもゲッター2だろ?どうしたんだよ、故障か?」
 「いろいろあってな、ゲッター1なんだよ。ゲッター2に合体し直そうにもここは床が消えちまって、隼人を外に出せない。」
 「そうだ、神さん。返事が無いけどどうしたんだい?まさか・・・」
 「気を失っているだけだ。ぐずぐず言ってねぇでさっさと来い!」

 

                                                                             
                             ☆





 「博士。隼人はどこが悪いんだ?手術とかで治んないのか?」
 
 ネーサー基地。医療室。
 眠ったまま点滴を受けている隼人のベットの横で、リョウは苛立たしげに問いかけた。ネオゲッターチームは引き続き、噴火した島の警戒にあたっている。あとで調査が行なわれるだろうが、おそらくすべての謎は、海深く沈んだままになるだろう。マキシム教授はせめて壁画の一部でも手に入らないかと願っている。あの壁は上げられていたから、運が良ければ溶岩流に会わずに済んだかもしれないが。
 「・・・・・・・どこが悪いというのではないんだが・・・・・」
 橘は歯切れ悪く答える。
 「内臓や血管が弱っているのは確かだと思う。ただ神くんの場合、普段の生活にはほとんど影響は出ない。血管の補強手術や臓器移植はかえって負担をかけるものとなるだろう。ひとつふたつの臓器ではないからね。そのほうが危険だ。今回の場合は特別だった。このさき神くんがゲッターに乗ることは無い。このまま様子をみるのがいいだろう。」
 憮然としているリョウの肩に、橘はそっと手を乗せる。
 「今回は君がいてくれて助かったよ。翔達に連絡を取ってからではとても間に合わなかっただろう。床が割れて落下したり、巨人ロボットに溶岩流だ。考えただけでもぞっとする。神くんが助かったのは君のおかげだよ。」
 それでも黙ったままのリョウ。橘はそっと目を伏せると静かに部屋を出た。


 博士が出て行くと、リョウは隼人のベットの横に椅子を引いてきた。
 青白い顔。また痩せたようだ。
 再会してから、よく隼人はこんな顔色をしている。
 ネーサー基地で会うときは、自分が部外者なのを知っているからあまり話はしないが、早乙女研究所に隼人が来たときは以前どおりに話もすれば仕事を手伝ったりもする。隼人はいつも疲れたような青白い顔だ。もちろん、隼人がそんな素振りを見せることは無い。ほかの所員たちは気づいていない。早乙女博士も気づいていないだろう。
 以前、自分達がゲッターパイロットだったとき。隼人はもっと健康だった。それこそ殺しても死なないくらい。しぶとくて。
 もともと色が白くて痩せている奴だから、先入観があって他の人間は気づかないのかもしれないけれど。
 隼人はいつだって求められた仕事をする。求められればなんだって。
 そんな隼人を見ていたくなくて、俺はあまり一緒にいないようにしてきた。今回も弟子たちの特訓にかこつけて3ヶ月も。その間も隼人は青白い顔のまま、誰にも気づかれずに仕事をこなしていたのだろう。隼人はいつだって過ぎた日々を戻さない。オレは。
 ぐっと拳を握り締める。
 オレは隼人にすべてを押し付けるために早乙女研究所を出たのではない。オレは俺の思いに従って。
 どこで 何が ずれたのだろう。
 隼人が身じろいだ。
 ゆっくりと、漆黒の双眸が光を映す。
 「ああ、リョウ。」
 溜め息をつくように隼人が言った。
 「すまなかったな、迷惑をかけた。」

 コイツはこんなふうに。
 あやまる奴じゃなかった。
 いつだって傲岸で不遜で自己中で。
 おれは腹を立ててくってかかり、武蔵はそれを止めようとしつつ、俺の味方をして。
 それをコイツは鼻で括ったように笑いやがった。
 それが俺たちだった。
 こんな
 胸が痛くなるようなほど優しい眼をした隼人を、俺は知らない。

 「どうした?」
 隼人が聞く。
 「あ?何が。」
 俺は答える。
 隼人は困ったように言った。
 「リョウ、お前。泣きそうな顔をしているぞ?」




                      ☆





 数ヵ月後。

 「何であの時、せっかくの地底都市を壊滅するようにセットしたんだろな、造った奴は。」
 ネーサー基地に遊びに来ていたリョウが思い出すように言った。隼人の私室。
 珈琲や紅茶はいらねぇぞ、酒はないのか、というリョウに。昼間から何言ってる。いやならウーロン茶でも水でも飲め、とペットボトルを投げつけ、隼人は自分の分だけ珈琲を淹れている。
 「マキシム教授には内緒だが。」
 芳しい香りが漂う。
 「俺はあの遺跡について、実は少し、わかっている。」
 「へえ。どういうことだよ。」
 今日の隼人はずいぶん顔色がいい。俺もつられて気分がいい。號たちはまだ海底を捜索させられているらしい。
 「閉ざされた扉を上げるために、コンソールパネルを動かしたと言ったろ?」
 「ああ。」
 「コンソールといっても、どこにもボタンやダイヤルなど突起はない。壁画から察するにタッチパネルのようなものだと思った。ただひとつだけ、掌より少し大きい、半球体の部分があったので手を乗せてみた。乗せた途端淡く光りだして、球の内部に映し出されたのはヒトの塩基配列だった。」
 「塩基配列だって?」
 「個人を特定するものではなく、暗号ですらない。ヒトであれば誰だって使用していいわけだ。言い換えれば、ヒト以外を拒否しているってことだ。」
 「人以外って・・・・・・犬とか猫がいたずらしないように?」
 「・・・・・・・・そうくるか。」
 「ムッ、なんだよ。」
 ひどく馬鹿にされたのはわかる。
 「わざわざ犬や猫を数百メートル下に落として、止めに巨人ロボットをけしかけたりするか?」
 「いや、あ、じゃあ、あの一連の攻撃って。」
 「ああ。俺は扉が上がったので、とりあえず連絡が付かないかとコンソールから離れたが、そのあと何かパスワードでも入れるのだったかもな。それをしなかったために敵とみなされ、攻撃を受けたか。」
 「攻撃って・・・・・だったら何も俺たちを落とさなくてもあそこで爆破させるとか毒ガス出すとか。普通は本拠地は守るもんだ。」
 「守るべき同胞もいなくなったとしたら?最後のひとりになったら、せめて敵に一矢報いようとか、一蓮托生とか、そうでなくても、自分の愛した都市や仲間の墓を穢されたくはないだろうから。炎で浄化、敵が少しでも巻き添えになればしめたもの、ってな。」
 「・・・・・・・見つけなきゃよかったな・・・・・・・・・」
 リョウが呟く。
 「仕方ないさ。それもまた地球の、あるいはゲッターの意志かもしれない。」
 「なんでそこにゲッターが出てくるんだよ。なんでもかんでもゲッターに結びつけるなんて、悪い癖だぞ。」
 気分を害したリョウに。
 「何言ってる。気が付かなかったのか?」
 驚いたように隼人が言う。
 「何が。」
 「あのロボットはゲッター線エネルギーで動いていたぞ。」
 「なに?!」
 「つまりあれもゲッターロボってわけだ。ミサイルや光線からも、ゲッター線がバンバン出てた。というか、まさにゲッタービームだったぞ、あれは。」
 「・・・・・・知らなかった・・・・」
 「お前は戦闘に集中してたからな。」
 「じゃあ、もしかしてあの遺跡の照明とかもゲッター線エネルギー?」
 「そうだ。・・・・・・・・お前には言っていなかった、というより俺自身、はっきりしていなかったことがあるんだが。」
 「なんだよ。奥歯にものが挟まったような言い方して。」
 「俺は確かにゲッターのGに耐えられなくなったが、それともうひとつ、ゲッター線そのものにも弱くなったらしい。」
 「なんだって?どういう意味だ?」
 「おかしいと思ったのは、恐竜帝国が滅んで早乙女研究所の封鎖が解かれ、ゲッター線研究が再開されだしてからだ。早乙女研究所に行く度に体調が悪くなる。熱が出るとかじゃなくてとにかく体がだるくて。ネーサー基地の仕事と兼任してたから、疲れが溜まっているのか思っていたんだが。同じ徹夜するにしても、ネーサーや他の場所ではさほど堪えないんだ。」
 「それって・・・・・・」
 「つり橋やゲッターロボの中で何度も血を吐いたのは、ゲッター線の影響かもしれない。攻撃を受けている間、衝撃やGよりもとにかく頭痛と眩暈でいっぱいだった。」
 「おい、隼人!おまえ、ハチュウ人になったのか!?」
 
ボカッ!!
 「痛え!!」
 涙目で睨むリョウを、絶対零度の眼差しが見下ろしていた。


 
 「まあ、早乙女博士や橘博士には特に言わなくていい。不調の理由は解らなくても原因がわかっていれば気分も違う。体調自体はそうひどいものじゃない。徹夜1日分の疲労が、3日分ぐらいになるってだけだ。」
 それはたいしたことじゃないのか?
 だが、俺がいつも隼人の体調が気になった理由も解った。俺はほとんど早乙女研究所で隼人に会っていたからな。
 
 「じゃあ、俺が早乙女研究所に戻る。」
 リョウは言った。
 「別にお前のためじゃねえ。俺もそろそろ戻ろうかと思っていたんだ。空手道場は弟子たちに任せられるし、弁慶からもいいかげん戻って来いといわれている。俺に出来ることとお前がやる事は違うから、助けにはならないだろがよ。この間みたいなことがあったら、今度は最初から俺が付き合ってやる。遠慮なく血でも吐きな。」
 防げないのならば、次善策をとる。
 そうやって俺たちは、補い合いながら生きていくのだろう。


  リョウの言葉に、隼人は驚いたように目を瞠り。
  そして ふわりと笑った。

           「そうだな、頼りになるからな、お前は。」





         ------------*-------------*---------------*---------------


    架迅様  19000番  リクエスト

    お題は   「 隼人の危機に駆けつける竜馬 」 
               OVAネオで。終了前でも終了後でも。



    お、遅くなりました〜〜〜〜去年の12月に頂いたリクエストですのに!
    まだ、許容期間内でしょうか、許容内容でしょうか?(どさくさに紛れて)

  原作でもOVA「真」でも「新」でも、ゲッターに囚われる隼人。せめて、OVA「ネオ」では解き放ってあげたいと・・・・・
 思うこともあるかるらです。え?TV版ではですか?う〜〜ん、検討中・・・・・・

              (2008.7.13    かるら)
 

小説