想いの碑

 

 

 

 

 

「・・・・11時か」

飾り気のない執務室に唯一存在感を示している柱時計。

その味のある音色が時を告げている。

まだとても寝る時間ではなかったが、そろそろ仕事を終える準備をしなくてはならない。

そうしないと今日中に眠れないからだ。

隼人が仕事に復帰してから一週間ほどが経った。

医務室に運び込まれた日から、なんだかんだと三週間ほど休まされたのだ。

しかし幸い急ぎの仕事が入っておらず、さして影響はなかったが・・。

研究資料をめくりながら、小さくため息をもらす。

目の前には栄養が豊富だと言う理由で、ミルクをたっぷりいれたココアが置かれていた。

所員が気遣って淹れてきてくれるのである。

隼人が全力で拒否したために誰かに常駐されることはまぬがれたが、まるで病人扱いだ。

事実病人と言っていい状態だったのだが、隼人はそれを未だに認めようとしない。

確かに疲れていたことは認めるが、本人としてはそれほど大したことではなかったのだ。

だがそんな主張が通るはずはなく、研究所に来てから初めて強制的な長期療養をとらされた。

しかしだからといっていつまでも休んでいるわけにもいかない。

各国の科学者や権力者から彼の助言を求める問い合わせが常にかかってきているのだ。

それに研究所の仕事も山のようにある。

なので竜馬と数時間押し問答して、ようやく仕事を再開したのである。

これは相手方が折れてくれたというより、この天才が何かに打ち込んでいないと『もたない』ことがわかっていたためだ。

だが当然今までの生活の改善を承諾させられた。

竜馬にかなりしつこく念を押されたため、今は定期的に食事と睡眠をとっている。

おかげで本人の意向はいざ知らず、周囲の(隼人にとっては)過保護とも言える対応のおかげで、今の彼は体調がよかった。

以前までとはいかないまでも、体力も戻りつつある。

これは竜馬が一日一回程度軽いトレーニングに誘いに来るからだ。

それが実質上のリハビリとなっていた。

あの時以来、所員の間では隼人が無理をしようとすると、皆判を押したように『流さん呼びますよ』という脅し文句を口にしてくる。

どうやら竜馬が若き副所長の無茶を止められることがわかったため、全会一致でそれに頼ることに決定されたらしい。

(・・・本当にあいつはおせっかいだ)

微妙に苦笑しながら、なんだかんだと十年ほどの付き合いになる親友を想う。

昔から口では文句を言いながらも世話好きな奴だった。

最初に竜馬に会ったのは中学を卒業した直後。

ゲッターロボのパイロット選考会でのことだ。

中学校はそれまで理解出来ない学問が存在せず、スポーツなども遊びの領域を出なかった隼人にとっては、ただ惰性で卒業したに過ぎなかった。

高校も一応受験し合格していたが、あまり行く気分ではなかった。

いい加減周囲と同じ行動をしていても得られる物がないと諦めていたのである。

そんな時に月面戦争が勃発した。

月の開発が未来を担う大事業としてあらゆるメディアで注目されていた最中だったため、その侵略が世界に与えた衝撃は計り知れなかった。

戦う相手は人類ではなく、インベーダーと命名された異種族。

今までに同族同士でしか戦ったことのない人間は苦戦を強いられた。

このままでは地球が化け物共に飲み込まれるのも時間の問題だ。

戦う力を持たないか弱い人々が怯える中、隼人はその未曾有の危機に不思議な感覚を覚えた。

すぐに飛び出して行きたいような、何かをしなければいけないというような使命感。

そして言い知れぬ高揚感。

今まで『生きられなかった』隼人が初めて感じるものばかりだった。

その正体がなんなのかわからずやきもきしている時、人生の転機とも言える出来事が起こる。

ゲッターロボのパイロット候補として選出されたのだ。

どうやら中学時代にやっていた体操などで密かに注目されていたせいらしい。

常人ではありえないほどのバランス感覚に俊敏さ。

全国模試は常に1位で、頭脳面でも飛びぬけている。

それゆえの命の保障など存在しない戦場への招待だ。

普通なら躊躇するはずのものだが、変化のない日常に飽いていた隼人はふたつ返事で了解した。

生まれて初めて自分から『やりたい』と望んだのだ。

迷いなどなかった。

そこから始まったのは人道無視とも言える振り落としである。

候補生は開始時50名ほどいたにも関わらず、第一回の合体訓練で生き残れたのは半数。

さらに合体を成功させたのは10名。

その中に隼人と竜馬、さらに武蔵、ミチルは入っていた。

隼人は机の上に飾られた写真を見る。

わずか半年前に撮られた記念写真。

恐ろしく昔に思える幸せな時間が、今は亡き最愛の人がくれた写真立ての中で笑っていた。

何度目かの合体訓練の直後、休憩室で座っていた隼人に飲み物を渡し、話しかけてきたのは竜馬だ。

いつもひとりでいたので気を使ったのだろう。

隼人自身は竜馬を知っていた。

異常とすら言えるほどの記憶力を誇る彼にとっては、たかだか十人しかいない候補生の名前など意識せずとも覚えられる。

だが竜馬は違ったらしく、

『ジン?・・・・お前どこの国の奴なんだ?』

初めて名前を名乗った時、竜馬はまずそう言った。

どうやら最初見た時、隼人が日本人に見えなかったらしい。

それも無理はないだろう。

隼人は当時からかなり背が高かったし、何より肌が白かった。

おそらく竜馬はどこかの国の混血だと思ったのだろう。

『・・・・ていうかお前男・・・なのか?』

じろじろと話しかけた相手を見た後の二言目がこれである。

正直この台詞には唖然とした。

確かに隼人は細身だったが、女に間違えられたことなどなかったからだ。

ここは怒るべきなのか、皮肉を言うべきなのか。

しかし相手は別に悪意はないらしい。

いたって大真面目に尋ねていた。

どう反論すべきか一瞬声を詰まらせる。

『この子男の子だったの!?』

そこに素っ頓狂な声が会話に入ってきた。

ボーイッシュと言っていいほど髪が短いのに、妙に愛らしいところがある少女。

それがミチルだった。

いきなりの登場に驚く隼人に、彼女は花びらのような唇を尖らせて、心底口惜しそうに言ったものだ。

『なんだ、残念。私以外にも女の子いるんだと思ってたのに』

その時のことを思い出したのか、美貌の青年の口元が微かにほころぶ。

懐かしい思い出を振り返る老いた笑みだ。

あれから十年。

様々なことがあった。

「・・・・・・・・・・・楽しかったな」

この十年、本当に楽しかった。

それまでの人生など前置きにすぎなかったと思えるほど。

ひとりきりで過ごした退屈さがあっというまに払拭された。

そこには尊敬する恩師がいて、最愛の人がいて、親友がいて、仲間がいた。

幸せすぎて時間が経つのを忘れてしまいそうだった。

不意に額に痛みが走り、思わず呻く。

そこはちょうど博士に殴られた部分だ。

「・・・・・・・・・・・」

どうやったら博士は救えるだろう?

知らず知らずのうちに汗ばんだ額を指先で拭いながら、隼人はもう一度写真を見やった。

早乙女博士はミチルを殺したのが隼人と竜馬だと思い込んでいる。

今までどれほど必死に訴えても、まったく思いが通じることはなかった。

療養をとって以来、隼人は一度も博士と顔を合わせていない。

医療区画から出してもらえなかったのだから当然かもしれないが、復帰してからも内線一本かかってこないのだ。

てっきり変な気を回した所員が途中で止めているのかと思っていたが、そういうわけではなかったらしい。

竜馬に確認すると、隼人が休んだ直後から所長室に引きこもって出てこないというのだ。

それに内心ほっとした自分に嫌気が差した。

大切な恩人が苦しんでいるのに、何を考えているのだ。

いくら痛みを伴うとはいえ、見て見ぬふりなど許されるはずがない。

なんとか助けないと。

しかしどうすればいいのだろう。

なんとなくココアに口をつける。

甘いはずのそれは、何故か苦く感じられた。

「・・・・・・博士が元に戻ってくれれば」

それは何度となく願って未だ叶わない願いだった。

ミチルはもう戻らない。

しかし彼女の死は博士と隼人達の間に壁となってそびえ立っている。

取り払う手段が思いつかない、高く厚い壁だ。

その向こうまでは声が届かない。

伝わらない。

それとももうどうにもならないのだろうか?

こうして常に考え続けても少しも同じところから出られない。

堂々巡りもいいところだ。

未だ血色が悪い手で額を覆い、再びため息をつく。

肺を絞るような苦しげな息遣いだった。

今こうして生きること自体がつらい。

どこへも進めないことが、こうまで痛苦に満ちているとは知らなかった。

そこでふと自分の足を見やる。

個体戦闘力が一騎当千の名の体現であるゲッターチームだが、丸腰でいることはあまりない。

今の隼人も例外ではなく、靴の踵にはナイフが仕込んであるし、ふくらはぎにはオートマチックがくくりつけてあった。

敷島博士が開発した特別製の銃だ。

これを弾を喰らえば、誰であろうと生きていられるはずはない。

それを意識した瞬間、自動的に考えてはいけない単語が頭に浮かび上がってくる。

懸命に追い払おうとするが、頭蓋の裏に爪をたてているように離れない。

馬鹿馬鹿しいことだとはわかっていた。

ここで命を絶ってもなんの解決もしない。

だがどうしようもなく、苦しかった。

耐え難いほどの激痛が隠された武器に視線を引きずり込む。

しかし隼人はその甘美な誘惑を受け入れることはなかった。

長い特徴的な前髪で顔を叩くように首を振る。

脳裏には親友の顔が揺らめいていた。

隼人が死ねば、竜馬は悲しむだろう。

武蔵や弁慶だってショックを受けるはずだ。

そのぐらいは自惚れていいと思っていた。

「・・・・・・・そろそろ寝るか」

さっさと寝てしまわないと、答えが見つからない問いかけを打ち切ることすら出来ない。

広げていた書類をまとめなおし始めると、それを待ち構えたように内線が鳴り出した。

咄嗟に誰からなのか確認もせずに電話をとる。

「・・・・・・・・・神だ」

「隼人」

その低い声を聞いた瞬間、背筋に電気が走った。

中年から老年に差し掛かる男の声だ。

隼人はそれをよく知っている。

無意識のうちに受話器を持つ手が戦慄いた。

「・・・・なんの御用でしょうか、博士」

それだけ言うのがやっとだった。

短い台詞の中に怯えに似たものが含まれているのに気付く。

(まるでガキだな)

心の中だけで自嘲的に笑う。

実の親に怒られた経験などないが、親に嫌われることを恐れる子供はおそらくこういう心理なのだろう。

今まで海千山千の曲者と渡り合ってきた隼人だが、冷たく当たられるのがつらいなどと感じたことはなかった。

その相手のことがどうでもよかったからだ。

どうでもいい相手なら別にどんな感情を抱かれていようが気にしない。

いや、自分の中で割り切れさえすれば誰であろうと嫌われて構わないはずだ。

しかしこの場合は未だにうまく消化出来ずにいる。

やはりどれだけ理性的でも、完全には感情を殺しきれないようだ。

隼人はどんな罵詈雑言を浴びせられるのかと身構えていたが、その予想は裏切られた。

 

 

 

(・・・・研究室に来い・・・か)

数分前の電話の内容はそれだけだった。

隼人はその命令に従い、今こうして早乙女博士の研究室に向かっている。

殺されるんだろうか。

長い廊下を音もなく進みながら、隼人は漠然と考えた。 

こんな夜の呼び出し。

その上博士は明らかに自分を怨んでいる。

ならば普通誰でも考えることだ。

しかしだからといって逃げようなどとは露とも考えなかった。

博士が呼んでいる。

それならば行かなければならない。 

知らず知らずのうちに苦笑が浮かぶ。

なんでこう自己欺瞞ばかりしているのか。

なんてことはない。

ようは博士に殺してもらいたいのだ。

いや、博士でなくても構わない。

とにかくなんらかの形で訪れる死を切望している。

その汚らしい思考すらも消してしまいたくて、乾いた笑声が零れた。

結局自分だけ救われようとしているのだ。

自分と同じように苦しんでいる竜馬や博士を置いて。

なんて身勝手な。

楽になるために恩師を殺人犯にしていいとでも言うのか?

竜馬の気持ちも考えずに?

自然と歩調が早くなる。

馬鹿なことを考えてはいけない。

支えてくれる親友や仲間の気持ちを無駄にするつもりなのか。

きつく目を閉じ、開いた。

懸命に己を奮い立たせ鋭く息を吐く。

余計なことを考えるな。

考えても結論など出ないのだから。

幸いに誰とも出くわさなかったために、気が付くと研究室の前に辿りついた。

そういえばここに来るのも随分久しぶりだ。

(・・・・こんなところだっただろうか?)

目の前にそびえる薄汚れた扉を観察しながら、そんな感想を抱く。

記憶の中のそこと何が変わっているというわけではない。

しかし何かが決定的に違った。

「・・・・神隼人です」

「・・・・入りたまえ」

控えめにノックした隼人に答えた博士の声は、電話越しに聞いたものよりも掠れていた。

「失礼します」

錆びついたドアノブを捻り、室内に体を滑り込ませる。

中は暗かった。

照明が全て切られたままなのだ。

カーテンも全て閉ざされているため、窓の外に設置された外灯の明かりすらも差し込まない。

闇に浮かぶうっすらとした白い影が早乙女博士なのだとわかるまで、かなり時間がかかった。

隼人は手探りで、室内灯をつける。

そして声もなく驚いた。

荒れ果てた、そう表現するしかない様相だった。

まるで強盗でも入ったのではないかと疑いたくなるようなちらかりようである。

以前から雑然としていた部屋だったが、さすがに書類が床に放り出されていることはなかった。

さらにはきちんとファイリングされていた資料もずたずたに引き裂かれているし、実験器具も割られている。

思わず踏み出した足の下で何かが砕かれる音がした。

それがミチルが持ってきた花瓶の一部であることがわかり、思わず博士を見つめる。

世界の頭脳は隼人が入ってきたことに気付いていないかのように俯いていた。

元々浅黒い顔は、いまや病的な土気色になっている。

「・・・・・博士・・・・顔色が悪いですが大丈夫ですか」

「・・・・・・・・・」

隼人の心からの憂慮に、博士は何も答えない。

「・・・・・・博士?」

少し前ならば次々と飛び出してきた罵倒がこない。

本来なら喜ばしいことのはずだが、隼人は訝しげな色を隠せなかった。

やはり何かがおかしい。

いや、おかしいというのは以前からだが、今はその不自然さがはっきりとわかる。

「・・・博士、あの

「殺してくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

咄嗟に言われた言葉の意味が理解できなかった。

切れ長の眼を見開き、目の前の恩師を見つめる。

そこにはおそろしく真剣な学者の顔があった。

「殺してくれ、隼人」

「・・・・何をおっしゃるんですか」

肺腑を潰され、喘ぐような声だった。

次いで出たのは半ば悲鳴じみたものだ。

「・・・早まったことを考えないでください」

「早まったことではない。ずっと考えていたことだ」

普段の冷静さをかなぐり捨てた優秀な助手に、ゲッター線の第一人者は落ち着いた声で述懐した。

そして勢いよく白衣の前を開く。

アイロンをかけた形跡がないくたびれたYシャツ。 

恰幅がいい腹部に___何かが蠕動している。

「・・・これは」

「インベーダーだ」

禍々しく蠢く患部と静かな面差しを機械的に見比べる隼人。

博士の土くれを丸めたような手が腹に触れると、『何か』が驚いたようにびくりと痙攣する。

それをおぞましいものを見る目で睨むながら、

「いつ頃からかは知らんがな・・。とりつかれていたらしい」

「・・・・・・・そんな」

この世の全てを悟ったかのように落ち着き払う博士とは対照的に、隼人の唇は色を失っていた。

インベーダーに寄生されれば、治療方法などない。

この最悪の生物は、有機物無機物を選ばず融合する。

それも遺伝子レベルでだ。

今の技術力ではどうやったところで取り除くことが出来ない。

インベーダーを根絶するには宿主もろとも消すしかないのである。

長い髪が持ち主の肩口を滑り落ちた。

博士は声を失っトいる隼人を宥めるように囁く。

「それで頼みたい。わしを殺して、『あれ』を完成させるんだ」

事実を受け入れきれずにいる青年の目がそこでようやく光を取り戻した。

だがまるで心がどこかに行ってしまったように平坦な口調で聞き返す。

「・・・・・・・・・『號』を?」

「そうだ」

「・・・・・」

「こいつらの活動が活発化するのも時間の問題だ。だから一刻も早く『彼ら』を生み出さなければ間に合わない」

「・・・・・」

「ドラゴンのことは敷島に任せてある。あそこなら他の研究者どももわからんだろう。そこに向かってくれ」

「・・・・・」

「お前しかいない。わしの意思を受け継げるのは、お前しかいないんだ」

『父親』の説得に、隼人は何も言えなかった。

博士の言っていることは正しい。

それ以外に方法がないことも知っている。

だがしかし。

首が折れんばかりに深く項垂れる青年の頭を、無骨な手が優しく撫でた。

泣いている子供をあやすように何度も髪をなぞる。 

「今までひどいことを言ってすまなかったな」

「!!」 

青ざめた顔がばね仕掛けのように跳ね上がった。

信じられないものを見るように切れ長の双眸が見開かれる。

隼人は不覚にもその台詞で泣き出しそうになった。

あの悪意のこもった言葉は、殺意が滴る視線は、博士の意思ではなかったのだ。

本当に憎まれていたわけではなかった。

今まで胸を締め付けていたものが一瞬で解け去る。

しかしそこに起こったのは新たな痛みだった。

博士は青年の心情を察したらしく、自嘲的に笑んだ。

「わしは最低な人間だな。むしのいいことばかり言って。こうしてまたお前を苦しめている」

「・・・・・」

「だがやってもらわねばならん。頼む、隼人!わしがわしでいられるうちに殺してくれ!」

「・・・・ですが!!」

俺はそんなことはしたくない。

絶対にしたくない。

ミチルを失ったのに。

さらに父親代わりまで自分の前からいなくなってしまうなど耐えられない。

言外に狂おしいまでのものを込めて発せられた声も、博士の嘆願が迸った。

肉厚の掌が痩せた肩を激しく揺さぶる。

「わしが覚えていられるうちに!ミチルや元気のことを、君ら『息子達』を覚えていられるうちに!!」

「〜〜〜〜〜っ!」

悲壮なまでに真摯な言葉の砲弾に、隼人の長身が打ちのめされる。

おそらく人はこのような時に祈るのだと思う。

自分の力ではどうにもならない

選ぶことすらも出来ない

酷く哀しいことを目の前にした時

縋るような思いを込めて

だが助けは来ない。

来るわけはない。

ありもしない幻想に浸れるほど、隼人は弱くなかった。

それを知っていたからこそ、博士は彼に依頼しているのだろう。

どれだけ残酷なことを言っているかもわかっているのだ。

酸素を求めるように何度も口をぱくつかせる隼人に、『父親』は涙交じりの吐息をついた。

「隼人」

「・・・・・・」

「・・・頼む」

「・・・・・・」

「わしを・・・救ってくれ」

隼人の瞼が怯えるように震えて、下ろされる。

その後は長い長い静寂が横たわった。

部屋全体が海の底に沈んだかのような、耳が痛くなるほどの深閑。

永遠に続くかのような沈黙だ。

ガラスのような危うい大気を破ったのは、歯車が軋むような了承だった。

「・・・わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は自分がどうやって自室に戻ったのか覚えていなかった。

ただ断片的に記憶しているのは数時間かけて『逃げる準備』を進めたこと。

それが全て終わったという漠然とした疲労感だけだ。

ベッドに座ってこそいたが、眠るという選択肢自体を見出せず中空の一点を凝視している。

しかしそこまで指示通りに進めても、隼人は未だに迷っていた。

何を悩んでいる?

選択権などないではないか。

異生物に侵された博士を救うにはこれしかない。

研究を受け継ぐことが出来るのは自分だけだ。

未来を。

ミチルが、自分の大切な人々が守ろうとしたものを守れるかどうかは隼人にかかっているのである。

ならば悩むことは出来な「。

自分を哀れんでいる暇などない。

博士を殺して、代わりに『三人』を完成させる。

世界を救うために。

逃げなければいけないのだ。

隼人は決意を固めようとするように歯を食いしばる。

もう竜馬達に会うことはないだろう。

いや、もう会えない。

会ったら全てを話さずにいられる自信が少しもなかった。

話したところで仕方がないのだ。

どちらにしても結論は変わらない。

話してしまえば、無駄に巻き込むことになってしまう。

いくら親友でも仲間でも、そんな重荷を背負わせることなど出来なかった。

組み合わされた指に力が入り、指先が赤くなる。

そんな時、耳に部屋の入り口のロック解除音が飛び込んできた。

弾かれたように顔を上げたのと同時に、突如自動ドアが勢いよく開け放たれる。

「いるか隼人!!」

「・・・・リョウ?」

「あ〜やっといた。・・・・どうしたんだよ、んな青い顔して」

おそらく今までずっと探していたのだろう。

雨で濡れた髪を拭いもせずに入ってきた友人に、隼人の表情はおそろしく硬かった。

滅多に本心を見せたがらない男の呆然とした顔に、竜馬の方が面を喰らう。

そして親友の風体を見て、くっきりとした眉を寄せた。

「お前・・・もしかして傘差さないでミチルさんの墓行ったのか?」

「・・・え?」

なんのことだろう?

明らかに意味がわかっていない隼人を不審そうに見つめながら、竜馬はさらに付け加えた。

「墓の花置いたのお前だろ?何もこんな天気の日に出なくても。ミチルさんだってそのくらい待っててくれるぜ」

「・・・・・・あ」

思わず触れた前髪が水分を多く含んでいることを知る。

そういえば確かにUFOに必要なものを運び込んだ後、ミチルの墓に寄った。

ミチルの墓は研究所を見下ろす小高い丘に建てられている。

距離はけして遠くはないが、今までに一度も参拝していなかった。

おそらく無意識のうちに別れを告げに行ったのだろう。

花はそこらで摘んだに違いない。

あらためて体を動かしてみると、身に着けているものが全体的に湿っぽかった。

どうやら雨を浴びてから着替えもせずにいたようだ。

明らかに自分の行動が把握出来ていない隼人を、竜馬は心配そうに見下ろした。

最初は怒鳴ってやろうと思っていたが、そんな考えはもうすでに吹き飛んでしまっている。

どこに行っていたかよりも、今こうして生きていてくれたことへの安堵からだ。

竜馬は今までずっと隼人を探していた。

仕事を根詰めていないかどうか様子見に行ったら、執務室の主が不在だったのだ。

いなかったのは別に大したことではない。

日付が切り替わる時間なのだから、自室に戻っているはずなのである。

しかしおかしなことに室内灯はつけっぱなしだし、飲みかけのココアは置いたままだった。

他の人間だったならまだしも、几帳面な隼人がこんなことをするとは考えにくい。

そしてその足で隼人の部屋を覗いてみても彼の姿はなかった。

内線を使って行きそうな場所に手当たりしだいにかけてみたが、どこにも隼人は来ていないそうである。

ここまで来ると大抵のことには大雑把な竜馬でも不安になってくる。

しかも行方が知れない親友の精神状態が危ういことはわかっていた。

竜馬がどんなことを想像したのかは言うまでもない。

大きくため息をつきながら、俯いた相手の美貌を覗き込んだ。

ざっと見たところ怪我はないし、血の匂いもしない。

「・・・どうしたんだよ?」

「・・・・」

「・・・だいじょぶか?」

親友の顔色が悪いことに気遣ったのだろう。

熱をはかるために額に手をあてようとしてくる。

隼人はそれを叩き落とした。

「・・・・・・・・触るな」

「・・・ああ?」

「触るなと言ったんだ」

そう冷淡に吐き捨てる。

心底苛立ったような口調だった。

「俺に構うな。さっさと出て行け」

「ああ?」

あからさまに不機嫌そうな物言いに、思わず呆気をとられる。

長年の付き合いから、隼人が八つ当たりをするタイプではないことは知っていた。

だからこの行動にも何か原因があるのだろう。

しかしこれはいくらなんでもひどい。

「・・・隼人」

「うるさい」

「っ!いい加減にしろよ!?」

ここ数時間寝ないでずっと探していた相手に、こんな態度をとられれば誰だって怒る。

当然それは竜馬も例外ではなかった。

しかしそれでも大きく深呼吸をして語調を抑える。

精神的に落ち込んでいる人間を怒鳴りつけても仕方がない。

「・・・・・・・・何かあったのかよ?」

「・・・お前には関係ない」

隼人は竜馬を見もせずに、舌打ちしかねない口調で言った。

そして無言で出て行くように促す。

あまりにおかしいことが多すぎる対応に、普段ならもっと食い下がるのだが。

「・・・・そうかよ」

竜馬は素直に踵を返した。

何があったのかは知らないが、これ以上何を聞いても答えは返ってこないだろう。

(・・・なんかどんどんバラバラになってくな)

ミチルは死に、武蔵と弁慶は軍、博士はおかしくなってしまった。

そして自分達ふたりは・・・。

重い足を出口に向ける。

もう少し時間が経てば隼人も普段の通りに戻っているだろう。

そうすればきっと何があったか話してくれるに違いない。

半ば割り切るようにして自動ドアを出た時、隼人が言った。

「リョウ」

「あん?」

「・・・・・・・・じゃあな」

「え?」

聞き返そうとしたが、それを遮るようにドアが閉まってしまう。

竜馬はこの時引き返さなかったことを後になって深く後悔した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

元気はなんとなく眠れなかった。

それは外の天気のせいじゃない。

嵐なんて恐くないのだ。

どんなに風が吹いたって、雷が鳴ったって、家の中にいれば大丈夫だと皆が言っていた。

可愛らしく飾られたベッドで寝返りをうつ。

ここ最近自分の周囲の人々の様子がおかしいのはわかっていた。

それはきっと『お姉ちゃん』がいなくなってしまったからだ。

お姉ちゃんがいなくなってから、皆の仲が悪くなってしまった。

お父さんは隼人お兄ちゃんと竜馬お兄ちゃんを虐めて、竜馬お兄ちゃんがそれを怒っている。

隼人お兄ちゃんはお父さんに意地悪されて、具合を悪くしてしまった。

元気の大きな目に涙が滲む。

お姉ちゃんはどうしていなくなってしまったのだろう?

お姉ちゃんがいれば、お父さんがお兄ちゃん達に怒鳴るのを止めてくれるのに。

そこまで考えて、まるっこい体が何か思いついたように起こされる。

そうだ。

お父さんに言いに行こう。

『お兄ちゃん達を虐めないで』って。

お兄ちゃん達がお姉ちゃんを『コロシタ』なんて嘘だ。

お父さんは勘違いしているのだ。

今まで恐くて言えなかったけれど、きっと元気が言えばわかってくれる。

急いで電気をつけて、パジャマを脱ぎ捨て、箪笥から服を引っ張り出す。

着替えは今までお姉ちゃんに手伝ってもらっていたから苦手だが、ちゃんとひとりで出来るようにしたのだ。

でもジャンパーのチャックがうまく出来ず、それは放っておいた。

お父さんはお姉ちゃんがいなくなってからずっと研究室にいる。

家にはずっと帰って来ていない。

きっと今も仕事をしているに違いない。

竜馬お兄ちゃんがくれたキャップを目深にかぶり、走り出す。

居住区画を抜けて、研究所の廊下に出ると暖房が消えたそこは寒かった。

息がほの白いのを意識しながら、人に見つからないように気を配りながらゆっくり歩く。

所員に見つかったら早く寝るように言われるからだ。

そろそろと音を立てないように進んでいると、向こうから人が来るのが見えて、大慌てで隠れる。

だがどうやらそれは無駄な努力だったらしく、足音がまっすぐに近づいてきた。

「・・・・・・・元気ちゃん?」

驚いているような、確かめるような低い声だ。

その声を元気はとてもよく知っていた。

「・・・・隼人お兄ちゃん」

そこに立っていたのは神隼人だった。

元気が名前を呼ぶと困ったように口を曲げて、目線が合うようにしゃがみこむ。

「・・どうしたんだい?眠れない?」

「・・ん〜ん」

本当はそうだが、ちゃんと理由があって起きている。

なんと説明しようかまごついている少女に隼人は優しく微笑んで、目深にかぶった帽子を軽く叩いた。

「じゃあ、夜の探検かな?駄目だよ。今日はすごく天気が悪いんだ。小さな元気ちゃんは飛ばされちゃうよ」

「・・・・・・うん」

お兄ちゃん達を助けに行く、とは何故か言えなかった。

あんなに意気揚々と飛び出してきたのに、喉に石を詰め込まれたみたいだ。

元気はそこで、目の前の綺麗な顔がおそろしく青白いことに気付く。

まるで冬の月みたいだ。

「・・・お兄ちゃん具合悪いの?」

竜馬が『あいつは無茶ばっかりしやがって』と言っていたことを思い出す。

また『ムチャ』をしているのだろうか?

「いいや。悪くないよ」

そう首を振って、にっこり笑う。

だがその笑顔はどこか変だ。

何が変なのかはわからない。

しかし絶対に何か変だ。

さらに元気はおかしなことがわかった。

隼人は仕事の間はずっと白衣を着ている。

でも今はベストにコート。

明らかに出かける服だ。

「お兄ちゃんおでかけ?」

「・・・・・うん」

少し言いよどんで、だがはっきりと頷く。

元気は続けざまに問いかけた。

「遠く?」

「そうだよ」

「・・・いつ頃帰ってくるの?」

なんでそんなことを聞いたのかわからなかった。

普段なら長くいなくなるなら聞かなくても教えてくれる。

だが何故か隼人がもう帰ってこないような気がしたのだ。

青年の顔が一瞬強張った気がした。

「・・・・・・・・すぐだよ」

「すぐ?」

「・・ああ、すぐに帰ってくる」

「本当?」

「もちろん」

そう言って隼人は小さな少女の体を抱きしめる。

あやすように背中を叩きながら、

「元気ちゃんはもう寝なきゃ。大きくなれないよ?」

「・・・・・うん」

細く筋張った腕から離れて、元気はこくりと頷いた。

お兄ちゃんがそう言うのだから仕方がない。

「おやすみ。お兄ちゃん」

「おやすみ」

隼人の微笑に見送られて、元気はてこてこと自分の部屋に向かって歩いていく。

お父さんにお願いするのは明るくなってからにしよう。

隼人お兄ちゃんが帰ってくる前に行けばいい。

そう考えながらなんとなく振り返ると、隼人の背中が見えた。

お兄ちゃんはすごく大きいのに、どうしてかその後姿が遠く映った。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「・・・君にはつらいことばかり押し付けることになってしまった」

早乙女博士はそう悲しそうに、半ばひとりごちるように言った。

ふたり以外誰もいない教会の中はおそろしく音が響く。

未だ夜が明けないそこは暗く、異界じみていた。

結婚式の下見に来た時とは別な場所のようだ。

強く吹き込んでくる雨風が、長い黒髪を千切れろとばかりに巻き上げる。

その下の顔はぞっとするほど白かった。

「・・・そんなことはありませんよ、博士」

隼人は消えてしまいそうなほど儚く微笑む。

自分の苦しみなど大したことはない。

博士の方がよっぽど苦しいはずだ。

脇の下に吊るしていたホルスターからcz78を引き抜く。

安全装置を外し、照準。

もう無数に繰り返した動きだ。

射撃技術には自信がある。

この近距離では外しようがない。

だがしかし引き金が恐ろしく重たかった。

腕が震えて、狙いがぶれる。

「・・・申し訳ありませんでした」

色を失った唇から、押し潰した謝罪が吐き出される。

何に対して許しを求めたのかわからない。

だがその切れ長の目は激しい苦悩に彩られ、濡れていた。

博士は首を振る。

「何を謝ることがある。君はいつでも最善を尽くしてきた。自分を責めるのはやめなさい」

「・・・・・・・・・・」

「さあっ。やってくれ!早く!」

「〜〜〜っ」

銃を構える手にもう片方を添え、無理矢理落ち着かせる。

噛み締めた唇から血が滲んだ。

それを確認した博士は、小さく頷いて両手を広げた。

「こんなことを言えた義理じゃないが・・」

穏やかに微笑む。

それは自慢の『息子』に向ける、深い慈愛の眼差しだった。

「どうか体にだけは気をつけてな」

隼人は

何も答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

乾いた銃声が決別を報せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は動けなかった。

息をすることも忘れたように、微動だにしなかった。

目の前には死体がある。

先ほどまで生きていた、『父親』の遺体だ。

死体など見慣れていた。

人を殺したのも初めてじゃない。

しかしこんな感情を抱いたのは初めてだった。

重い。

そして痛い。

冷たい手が内蔵を撫で回すような、背筋が凍る感覚。

不意に吐き気が込み上げてきて、細い体が震える。

逃げなくてはいけない。

敵が嗅ぎつける前に『號』達を完成させないと。

そうしないと____報われない。

重力に負けるように、手から銃が滑り落ちる。

それが床に跳ねる音で、ようやく近づいてくる足音に気付いた。

隼人は反射的に物陰に飛び込んだ。

隠れる必要などない。

顔を見せた方が、犯人だという印象をつけられる。

そうわかっていたはずなのに何故か逃げずにはいられなかった。

「は・・・・博士」

呆然とした呟き。

雨音の合間を縫うように、隼人の耳朶を叩く。

その声が誰のものか認識した瞬間、隼人は駆け出していた。

長年の習慣で仕込んであったナイフを抜き放ち、高く跳躍する。

会いたくない。

少しでも話したら__決心が崩れてしまう。

何がおかしいのか口元が制限なく笑み崩れていった。

逆手に持たれた刃が、着地と同時に振り抜かれる。

それは竜馬の頬を切り裂き、血球が走った。

「・・・隼人?」

小さな呼びかけが一瞬で意識を現実に召還する。

そして隼人は駆け出した。

水溜りを踏みつけ、全身を雨で叩かれながら。

自分の名を叫ぶ声と連続した銃声。

肩に焼け火箸を突きたてられたような痛みが走る。

だが足を止めずにコックピットに飛び込むと、間髪いれずにエンジンを始動。

フルスロットルで暗雲に飛び込んだ。

視界一面が闇一色。

それを引き裂くように、時折トールの槌が落ちていく。

夢遊病者のような手つきで操縦をオートに切り替える。

そして力尽きたように硬い背もたれに身を預けた。

「・・・・・・・・・くっ」

血管が透けそうなほど白い喉が鳴る。

べったりと髪が張り付いたそこは小刻みに震えていた

込み上げてくる笑いを抑えられず、細い肩が揺れる。

それに呼応するように打ち抜かれた部分から血の染みが広がった。

「くははははははっ!!」

肺が痙攣するような笑声がコックピット内に響き渡る。

悲鳴のような、苦鳴のような叫びじみた声だった。

何故自分は笑っているのかわからない。

何がおかしいのかもわからない。

しかし止まらなかった。

隼人はゲラゲラと壊れたように笑いながら、何度も操縦桿に拳を叩きつける。

強化プラスチック製のそれは、強靭な拳に破砕され、そのたびに破片が皮膚にめり込んだ。

それにも構わず何度も何度も渾身の力が振り下ろされる。

何かを消そうとするように。

何度も

何度も

何度も

すぐに哀れな備品は使い物にならなくなる。

そこで青年の体が急に魂が抜けたように動かなくなった。

「・・・・・・・・・・・・・」

雨の音だけがひどくよく聞こえる。

音だけが世界に満ちていく。

それはひどく空虚なものだ。

「・・・・・・・・・・」

長い沈黙を過ごした後、元の形に戻ろうとするように頭が上向く。

暗く染まった視界。

特殊強化ガラスに映りこんだ男が哭いていた。

奇妙に歪んだ笑いを張り付かせ、涙で頬を濡らしている。

酷い顔だ。

全てに絶望したような、全てを諦めたような青ざめた美貌。

それは整いすぎているがゆえに凄惨だった。

ようやく痛覚が戻ったきたかのように、肩と手が焼けるように熱くなる。

薄く埃が積もった床は血だらけだ。

かなりの出血量だったが、隼人は止めようとはしなかった。

インベーダーがいなくなったら、自分はどうするのだろう?

ぼんやりと考える。

大切なものは残らず失われた。

ならば役割を終えれば、生きている理由も消える。

それでも自分は生きるのだろうか?

ぐったりと背もたれに体重を預け、顎を逸らす。

目じりから零れた生ぬるい液体が、耳に触れた。

「終われ」

早く終わってしまえ。

そうすれば。

愛した人が、尊敬する師が、大切な親友がいなくなった今、託された役割が消えれば。

そんな世界にサ味などない。

だからその時は終わりに出来る。

終わらせられる。

「さっさと・・・・・・・終わらせてくれ」

隼人の嗚咽は、叩きつけるような豪雨に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

なんであの時ミチルさんの死の原因について博士ちゃんと説明しなかったんでしょうね(自分で書いておいて)

まあ、多分それどころじゃなかったってのが実情なんだと思います。

それに博士の精神は正気とインベーダーの人格とがぐちゃぐちゃに混ざり合って斑だったと思われます。

いや、それじゃないとあの原作の博士の『世界最後の日を推進したいんだか、防ぎたいんだかわからない行動』の説明がつきませんし。

今回書きたかったのは隼人がすべてを手放した瞬間です。

恋人を失い、恩師を殺さねばならず、親友も捨てて、未来のために尽くす。

これは相当つらいんじゃないでしょうか。

ぶっちゃけ全てを捨てたと言っていいと思います。

彼にとっては地位や名誉や金なんてどうでもよかったでしょうが、大切な人だけは何があっても失いたくなかったはず。

そのうちの三つ(恩師、親友、仲間)との縁を自ら断ち切らなきゃいけないのはいくらなんでも酷だと。

でもやったと思うんですよ。

隼人はそういう奴だから。

ちなみに竜馬はやっぱり気になって歩き回ってたら、なんだか嫌な予感してそこらへんをうろうろしていた元気ちゃんに会って、隼人が出かけたことを知り、さらに所員から教会に行ったと聞いて駆けつけてきたんです。

あ、あと書きたかったものとして隼人が何故竜馬を襲ったとき笑っていたのかもあげられます。

人間精神的に限界がくると笑いが込みあがってきます(体験談)

自分ではなんで笑ってるんだかわからないんですが、何故か笑いが出てくるんですよ。

私がそういう状態になった時は友人後輩一同に本気で心配されました。

だから隼人はリアルにかなり精神的に追い詰められた状態だったんじゃないでしょうか。

私の堅気の友人M(男)曰くは『彼は冷静だけど冷徹じゃないよ。熱いハートの持ち主だと思う』だそうなので。

なのでちょっと彼を弱く書いてしまったかもしれません。

隼人はこんなに弱くないぞ!!という方すいません。

それと話が飛びますが、私の中ではミチルさんは竜馬、隼人、武蔵と同い年です。

公式では年の差あるんですが、その辺は無視する方向で(笑)












         ----------*------------*----------*-----------






 またまたラグナロクさんから頂いちゃいました!!

 
 OVA「チェンジ!真!」は、ほんっとうに、観る人に優しくないと思いませんか?
 疑問点の解明をちっともやってくれませんでしたもの。「隼人が竜馬を裏切るなんて、相当の理由があったでしょうが!?説明してよ!」と、隼人ファンのかるらとしましては不満でした。それでサイトまで作ってしまったのですが。

 自分の解釈は、あくまでも自分の好みで一方的ですので、他の方の解釈を読ませていただくのは、魅力的で楽しいです。
 OVAの「新」が出て、少し時間が空きました。それでも、ゲッターファンの方が新しく増えて、新鮮なお話が読めるのは嬉しいです。隼人ファンならなお嬉し!

 ラグナロクさんの作品は、「哀しいな、でも、受け入れるから。」という気持ちにさせてくれますね。
 私の場合、「哀しいなら泣くがいい、だが、受け入れろ!嫌ならすべてが無になるだけだ。」ですもんね。脅しかよ!
 隼人は「地獄で言い訳するさ。」と言ったけど、地獄で言い訳されてもねぇ。第一、他の人、みんな天国だよ!

 自分が書けないお話は、頂くに限ります。ということで。
 
 ラグナロクさん、今後もよろしく。うふふ。


      (2007.9.15     かるら)