黙 示 録 U



            ※冒頭が『黙示録T』と重なっておりますが、記載ミスではないですv
                                                                                                                       (他にもちょっこっと・・・・)  






 南太平洋の不可侵ゾーン、『ストーカー01』は消滅した。



 十数年続いた異常気象は治まった。荒廃し切っていた自然は、恐ろしい程の回復をみせた。まるで、未来からの干渉による遅れを取り戻すかのように。
 地球自身が意識しているのでは、と思えるほどの凄まじいばかりの回復。砂漠さえもが緑あふれる大地に変わった。さらに資源が枯渇していたはずの地球に、次々と高品質で豊富な鉱脈が発見された。エネルギーに関しては、以前早乙女研究所が発見、開発していた無公害・高エネルギー、『プラズマボムス』が実用化されるようになった。ゲッター線エネルギーは日常生活に使用するには強すぎる。宇宙開発には必要だとしても、一般人では管理出来ない。石油、原子力に代わるエネルギーとしてなら、プラズマボムスがもっとも使い勝手がいい。
わずか3年で、地球は、人類は、驚くほどの科学力をも手に入れた。『ストーカー01』以前を遙かに凌ぐ文化。





 
 「ここで壊れた家電を取り合っての、流血沙汰が日常茶飯事だったなんてなぁ・・・・」
 「至る所にあった瓦礫の山が、今は跡形もなく綺麗なもんだぜ。」
 整然と整備された区画。住宅地として、公園や病院、学校や大型スーパーの建設が始まっている。
 「・・・・・・・新・夢の島なんて呼ばれたゴミの山で・・・・・ゲッターD2が墜落してきて、お前が乗り込んで・・・・・」
 シミジミと呟く獏。
 「そういやお前、アレはどうなった?ほら、予知能力ってやつ。」
 拓馬が思い出して問う。
 「ああ、アレか・・・・・・なんて言うのかなあ、あれからあんまりにも信じられない世界に放り込まれたからよ、感じなくなっちまったというか・・・・・・・もともと俺は、兄貴みたいに本物の超能力者じゃなかったから・・・・・」
 「メシア・タイルだっけ?神の子って言われてたんだってな。」
 「俺は兄貴がゲッターで行っちまった頃に生まれたからな。実際会ったことはないんだ。でもおふくろに言わせると、自然というか地球っていうか、宇宙の声が聞けたらしいな。よくわかんねえけど。」
 「宇宙の声か・・・・・聞けていいもんじゃないような気がするな・・・・」
 拓馬の脳裏に浮かぶ未来の宇宙戦争。その信じられないスケールよりも、『聖戦』だと言いきった武蔵に身の毛よだつ狂気を感じた。人類はゲッターに選ばれた唯一の存在だと言う。 そこまで驕れるほど、ゲッターは凄いものだろうか。人類は偉いのだろうか。とうてい拓馬や獏は言いきれない。そこまで思わざるを得ないほどの戦いが、続けられていくのだろうか。武蔵の話を信じるならば、少なくとも2500年間、人類は終わりなき戦争しているのだ!
 「武蔵さんがいたってことは、お前の親父さんや他の人達もいたんだろか・・・・・・」
 獏が言いにくそうに言う。
 「どうだかな。俺は、親父の姿を見たような気がするけど・・・・・」
  爆発のショックとともに弾き飛ばされた異空間。おぼろげな映像。気がついたとき、自分達と恐竜帝国のゲッターザウルスは太平洋に突っ込んでいた。
 「実際、親父と話したわけじゃないし・・・・とはいっても、ゲッターチームの一人がいるってことは、あとのメンバーがいたって不思議はないからな。」
 残りのメンバー。
 名前だけは知っているが、重要なのはそこではない。
 ただひとりの名。彼もそこに居るのかと。
 それが聞けなかった。聞きたいわけではなかったが。
 「カムイも、それについては黙ってろって言ってたしな。」
 研究所に帰還する途中、カムイは未来の人類の歴史について聞いたことは黙っていようと言った。実際詳しい話を聞かされたわけではない。武蔵は未来を知ることは良くないことだと言った。それに、未来にわだかまりもあった。
 拓馬達は地球を守るために、命がけでゾーンに飛び込んだが、そこでは拓馬達の力など児戯に等しいものだった。必要とされたのは、過去の地球人を未来の者が殺すわけにはいかないという理由、
 ただそれだけ。 
 蹂躙といえるほどの力を敵に押しつけていたゲッター軍団。捕虜を撃ち、星ひとつを腐らせる。そんな人間が未来の人類だと、それがゲッターの意志だと、拓馬ですら受け入れるのは難しかった。地球を守るためにと手を組んだ恐竜帝国の兵士たちは、もっと受け入れられないだろう。彼らには拓馬達が受けた説明さえ外された。カムイが説明を受けたのは、人間の血を引いているからだ。
 研究所に戻ったカムイは、未来のゲッター軍団の指示で敵を倒したと告げたが、武蔵の名は出さなかった。詳細を問われたカムイは、「敵が時空を超えると同時にそれを知ったゲッター軍団が、すぐに俺達の現れる場所を計算して、指揮官の一人が派遣した。その指揮官に未来を知ることは危険だ、戦いに必要なことだけ教えると言われ戦った。」と答えた。所員の中には訝しげに見る者もいたが、早乙女研究所所長・神隼人は無言で頷いた。そして、神隼人が承諾したことに異論を唱える者はいなかった。研究所内でも、 政府内でも。
 「神大佐はずっとひとりだったんだ。いつも置き去りにされて。もし、未来の世界に武蔵さんがいたと知ったら、そして拓馬の親父さんの流竜馬もいるらしいと知ったらどうするか。あの人以外のゲッターチームメンバーは、みんなゲッターロボに取り込まれたに等しい。自分も同じ世界に行こうと、ゲッターに乗り込んで暴走させかねない。勿論、地球や他の者に害を与えないように、宇宙空間かどこかで。あの人を死なせるわけにはいかないだろう?」
 幼いころに隼人に引き取られたカムイ。恐竜帝国の意思があったにせよ、カムイにとって隼人は特別だ。もともと爬虫人類を認めていた隼人、ハ虫人類を嫌悪の情で見たことはない。(・・・・・・最初パニック起こしたことは、まあ、若気の至り?可愛らしいと思うことにしてv。無理?) まだ子供のカムイにいろいろなことを教えてくれた。戦士としての心構えはもちろん、肉体の限界を超えた修行も、知的な分野も。そして。
 人類と恐竜帝国との戦い、その相容れない心情を。正確に。客観的に。
 共存出来なかったのが不幸だったのだ。種族として劣るものがあるわけではない。同じ星に生を受けた者同士。そして、隼人は今でも共存を諦めていない。
 カムイは隼人を尊敬している。
 拓馬も獏も思う。
 いつだって死を厭わない者が、いつだって置いていかれる。そんなやり切れなさは耐えがたい。しかも、それが一度ならず二度三度。繰り返されたら、人は何を支えと出来るだろう。たぶん、自分が生きていかなければならない理由とやらがあるのだろうと、過ぎる日々を見続けるしかない。なまじっか才能があるがゆえの、果てしない孤独。
 でも、生き続けていたら、何かいいことだってあるかもしれないだろ?
 そう、思う。いや、思いたい。
 だから、未来のゲッターチームについては何も告げなかった。確信はないのだしと。
 「カムイは神さんに挨拶に行ってるって?」
 「ああ、今度正式に恐竜帝国に戻るからって言ってたからな。」
 「よかったな。何の気兼ねもなくおふくろさんと暮らせるようになってよ。」
 「ああ。さすがにハ虫人類達が地上で暮らすわけにはいかなかったけどなぁ。島のいくつかをもらって、自由に行き来出来るようになったからな。」
 地球が救われたのは、恐竜帝国の協力があったからだと聞かされても。
 人類がハ虫人類を受け入れることは容易ではない。人類は、同じ種族であったとしても、色の違いや宗教の違い、習慣の違いで相容れない種族だ。隼人の強い(皆をビビらす)要請を受けても、共生の要望はおいそれと受けいられられなかった。業を煮やした隼人が強硬手段に訴えようとする前に、カムイから調整が入った。
 恐竜帝国は今までどおりいくつものマシンランドゥで深海で過ごす。ただ、赤道直下の島をいくつか欲しい。時折海中を出て、太陽の光を浴びたいと。
 そんなものでいいのか?そう問うた隼人に、カムイは
 「ゲッター線の放射量が著しく増えています。このままではたとえ国一つをもらっても、.到底住むことはできません。島をまるごとシールドで覆って、ゲッター線を防ぐつもりです。マシンランドゥを直下の海底にとどめ、その島を保養所にします。」
 「・・・・・・・・それでいいのか?」
 「私達恐竜帝国の者は、太陽の光の焦がれていました。でも、その太陽から致命的なゲッター線が降り注ぐのであれば、諦めるしかありません。ハ虫人類は子供の数も少ない。ひっそりと生きていくべきなのかもしれません。」
 自嘲するでなく、投げ遣りになるでなく。6500万年もの間の悲願を、プライドを捨て去る。いや、プライドを捨てるのではない。
 今一番必要なのは何なのか。 カムイにはそれがわかっていた。


 「ゴール3世とは上手くいっているのか?」
 「はい。この度、空竜元帥の地位を与えられました。」
 「ほう。ということは、帝国の軍事面の実質的な最高責任者ということか。そこまで信用されたのだな。」
 帝王ゴールの血をひく異母弟を、自分に次ぐ実力者と認めるとは、ゴール3世もなかなかだ。もちろんそれは、今までのカムイの、帝国に対する献身からだろう。カムイは人間とハ虫人との混血で、これまで受けてきた仕打ちは悲惨なものであっただろう。それでもカムイは恐竜帝国を、ハ虫人類を大切に思っている
 異母兄に認められたカムイは幸せなのだろう。
 「空竜元帥ともなれば行政面でも忙しい。ちょくちょくこちらへ来ることは出来ないだろうが、たまには研究所にも顔を出せ。拓馬達も会いたいだろう。」
 「ええ、拓馬達はマシン・ランドが苦手のようですから、島の方に呼びますよ。大佐は一度、マシン・ランドに来られませんか?」
 「私がか?」
 隼人は苦笑する。
 「恐竜帝国にとっては私は、ゲッター線そのものみたいなものだ。せっかく治まっている感情を逆なですることもあるまい。それに・・・・・」
 「・・・?・・」
 ちょっと言葉を濁す隼人を、カムイは不審そうに見る。この人がこんな煮え切らない態度を見せることはない。
 「お前にだけは言っておこうか。私はいずれ、研究所を、地球を離れるつもりだ。」
 「なんですって!?」
 カムイは思わず大声を出した。そんな、そんな・・・・・
 「そう驚くな。大したことではない。」
 少し気まずさそうにする。
 「大した事ですよ、神さん。研究所を辞めるのはともかく、地球を離れるって・・・」 
 そんな・・・・そんな・・・・
 「未来からの脅威は去った。この先何かが起こるかもしれないが、それが人知を超えたものであれば、また未来がなんとかしてくれるだろう。そして人の力でなされる程度のものであれば、私がいなくともやっていける。そろそろお役御免にしてもらおう。」
 「し、しかし、ドラゴンは?早乙女研究所の地下深くに眠るゲッタードラゴンはどうするんです?」
 「あれは・・・・・まだ眠り続けるだろう。眠らせておくほうがいい。」
 願望。いや、祈りに近い。
 「早乙女博士の最後の遺産、アークも役目を終えた。ゲッタードラゴンが目覚めるのは、時が満ちた時か、ドラゴンの敵が現れたときだろう。この先数十年、私が生きている間にそんな敵が現れるとは思えない。それに今地球には人類だけではなく、より高度な科学力をもつハ虫人類がいる。ふたたび未曽有の危機とやらが襲ってきて、未来からの援助がないとしても、両種が力を合わせてやっていけるだろう。あのとき、『ジュラ・デッド』を成功させたように。人類とハ虫人類と、地球生物すべてを守り得たようにな。頼むぞ、カムイ。」
 重荷を降ろしたかのように穏やかに微笑む隼人に、カムイは苦しそうな顔をしている。
 「どうした、空竜元帥様。」
 からかうように笑う。
 カムイは意を決したように告げる。
 「神さん。地球は俺達が守ってみせます!」
 告げた言葉に嘘はない。意図的に、いくつかの言葉を省いたとしても。
 立場は違えど、思いのすべてで地球を守ってきた隼人に、嘘はつきたくなかった。
 「それで、貴方はどこへ行かれるつもりですか?」
 さらりと話題を変える。不自然にならぬように。
 「火星だ。」
 「火星??」
 また大きな声が出る。
 「今日は驚いてばかりだな、カムイ。」
 「驚かない方が無理です。火星は着陸出来ない星じゃありませんか。」
 デビル・ムゥと融合した真ゲッターロボ。
 火星に飛んだソレは、火星の大地に衝突したと思われる。思われる、というのは解らないからだ。火星は今、厚いガスに覆われ、探査ビームも届かずプリズムも作用しない。直接近くまで行こうとしても、すべての計器が狂わされる。何一つ寄せ付けない、全てを拒絶する。
 沈黙の星。
 「なんとなく行けそうな気がする。」
 「なんとなくってどういうことですか!」
 世界で五指に入る科学者が、なんて御都合主義!
 「行けなければ戻ってくるさ。」
 「戻るって、全ての計器が狂ってしまって、未だ帰還出来た探査機はないんですよ!」
 「有人の宇宙艇ならば出来るかもしれんだろう。操縦するのは私だ。」
 「そ、それは・・・・・」
 確かに隼人は操縦と修理のスペシャリストだ。たとえ火星に到達出来ずに宇宙の迷子になったとしても、何とか修理して戻ってくるだろう。少なくとも通信機器さえ直せれば、地球から救助を呼べる。
 「いずれ、とは、いつを考えておられるのですか?」
 「いくら戦いがないだろうとはいえ、ゲッターのパイロットを欠けたままにしておけない。翔の息子の信二がキリクを使いこなせるようになるまではな。」
 「彼なら、二年もすれば立派に乗りこなせるでしょう。」
 「私の引き継ぎや、各国の政府や学界から依頼を受けている仕事も、二年あれば片付く。火星に向かうのは二年後になるだろう。」
 「淋しくなりますね。」
 「何言っている。お前は忙しすぎて、余計なことを考える時間なんてなくなるだろう。皆がお前を頼る。」
 「貴方以上に忙しい者なんていませんよ。火星に行かれる時は、お見送りします。」
 カムイが笑う。
 「着陸出来なくて戻ってきたら恥だな。」
 「ハジをかかないでください。」
 ゲッター戦闘用語において、「ハジをかく」とは。

 『火星に行けるなら、ハジをかくのもいいな。』
 言わず、隼人も笑った。








 その夜。
 南太平洋の海底。数多くのマシン・ランド。その中で一番大きなベース、帝王の宮殿を有するマシン・ランド。
 そのマシン・ランドの一画に、カムイは母と過ごす家を持っていた。
 空竜元帥の家、というにはあまりにも質素で、きらびやかな装飾も調度品も無かったが、整頓され清潔な室内は、穏やかで安らぎに満ちていた。
 マシン・ランドに太陽の光が注がれることはないが、マグマの地熱を利用した人工太陽がランド内を隅々まで照らしていた。海底には金の鉱脈をはじめとして様々な資源が眠り、レアアースもふんだんに採掘された。人類との交易は今後ますます盛んになって、食糧や日常品などもずいぶんと豊富になった。前に獏が、「ここは飯もまずいしベットも石で硬くて!!」と嘆いていたが、今は海底牧場や食用動物の放牧ランドも出来た。未来の敵との戦いが終わった現在、科学技術や資源は日々の生活のために費やされている。海底6000メートルの世界とはいえ、ハ虫人類の生活はそれなりに向上していた。地上に出れぬことを不足に思う者もいたが、実際、地上にはゲッター線が燦々と降り注ぎ、ハチュウ人類の生存を脅かす。



 「・・・・・・・・・・・・」
 簡素な机。
 その上に、小さな牙あった。
 ちいさな。
 小さな。
 
 小さな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 カムイは考え続けていた。
 ハチュウ人類の悲願について。
 6500万年前に地底に追い詰められたハチュウ人類。彼らの悲願は光溢れる地上。緑滴る大地。
 再び地球の覇者になることを夢見て消えて逝った幾千万もの命。
 それらの命のために、なんとしてでも人類を滅ぼし、地球をハチュウ人類のものにしようと闘ってきたが。
 太陽から降り注ぐ光はすでにハチュウ人への慈愛ではない。ハチュウ人類はたとえ地上を制覇しても、太陽を仰ぎ見ることは出来ない。ゲッター線を遮るためにガスで空を覆い、現在と同じく人工太陽の光で生きる。

 牙を見詰める。

 ドクターマクドナルドは言った。
 「百鬼帝国の意志を受け継ぎ、お前の父である恐竜帝国ゴール皇帝の怨念をはらせ!」

 兄であるゴール三世も、人類との共闘のあとでゲッターロボを壊せと言った。
 「人類とハチュウ人類は、相容れることはない。」

 未来の敵は、ゲッターが宇宙の侵略者だと言った。

 だが。

 カムイは知っていた。様々な事実を。
 百鬼帝国が本当にゲッターを宇宙の敵として排除しようとしたのなら、最初から恐竜帝国と手を組めばよかったのだ。父の帝王ゴールを串刺しにしたのは百鬼帝国のブライだ。おそらく恐竜帝国とゲッターとの共倒れを願っていたのだろう。
 幼いころから、ハチュウ人と人間との混血のため差別され続けていたカムイ。恐竜帝国ではハチュウ人から。人間社会では人間から。どちらの世界でも蔑まれ、恐れられ、疎んじられた。もちろん、カムイを差別しない者達もいた。彼等はカムイを認め、正当に評価し受け入れた。それは恐竜帝国でも人間社会でも。どちらも同じ。
 それに、人間は世界中で争っているというが、恐竜帝国内でも種族による偏見や迫害はあった。地底のさらに奥に氷竜一族は押し込められていた。カムイは恐竜帝国の歴史にも精通している。かつて地上を我がものにしていた時は、ハチュウ人類同士の戦争が繰り広げられていた。
 人類は地球を汚染しているというが、ゲッター線を防ぐために亜硫酸ガスで地球を覆うのは汚染ではないというのだろうか。地球にとっては、放射能も汚染とは言えまい。ウラン鉱石をその身に有している。地球にとってはウランも鉄も同じ。
 立場が違えば行動も異なる。同胞に対する想いだけは同じなのだろうけれど。
 カムイはハチュウ人も人間も憎んでいない。
 神隼人は以前、カムイがハチュウ人類と人類との架け橋になれるだろうと言ったことがある。なってもらいたいと。
 カムイは隼人を尊敬していた。
 恐竜帝国にとっては不倶戴天の敵。ゲッター線を体現する男。その強力なカリスマ性は、人種を超えた軍団を指導指揮する。
 ハチュウ人は神隼人を憎んでいる。その才能を、存在を、恐れながら憎み、憎みながら認めている。
 幼いころから隼人と暮らしたカムイは、隼人の戦士としての身体能力と、科学者としての頭脳と、指導者としての才能をつぶさに見てきた。そして潔さも。
 必要とあれば、なんであろうと迷わない。
 ゲッターアークのパイロット養成のために多くの人材が選ばれ、訓練を受け、死んでいった。爆死の映像を眉ひとつ動かさずに見詰め、次の指示を出す。
 だが隼人を非難する者は誰もいない。誰もが知っていた。隼人に私利私欲は欠片もないと。隼人の信念はただ一つ。『守り』だ。
 恐竜帝国や百鬼帝国との戦いでは人類を。未来の敵との戦いでは人類とハチュウ人類を。かつて敵同士としてハチュウ人類と戦った悲惨な過去は、隼人にとって足枷にはならない。守りたいものが相容れなかった、共存できなかったことが不幸だったのだ。他に道があったなら、互いの命が守れたかもしれない。科学がもっと進んでいれば、違う選択肢も望めたかもしれない。
 人類とハチュウ人類が共闘した作戦「ジュラ・テッド」
 ゾーンに入る前の隼人の通信。『・・・それが・・・・人類の・・地球生物の生き残る・・・・ゆい・・・いつ・・・の・・・』
 それを聞いていた兄のゴール三世は
 「人類が滅ぶ・・・チッ。地球生物が・・・だと・・・」と、嫌悪も露わに呟いたと聞いた。おそらく隼人の言葉が人類至上の傲慢なものに思えたのだろう。
 だが長い月日を隼人と過ごしたjカムイには、隼人が、ハチュウ人類もまた地球のかけがえのない種であると、認めていることを知っている。共存できる隣人だと。
 研究所の所員達や兵士達。政府から派遣されて来る職員。カムイを見た誰もが初めは恐れと嫌悪の情を浮かべたが、カムイの存在そのものを否定するものは稀だった。人間であれハチュウ人であれ、自分達と異なるものを受け入れ難いのは、カムイも理解している。共存にとって必要なのは妥協だ。妥協する努力と言えるかもしれない。歩み寄る一歩。
 拓馬。
 思い浮かべてカムイの口元が緩む。
 拓馬はどちらかといえば恐竜帝国やハチュウ人類を嫌っている。憎むとか蔑むとかいうよりも、出来ればお友達にはなりたくないというような・・・・
 だが、カムイが母と手を繋ぐことすら許されないでいると知った時、なんの躊躇いもなくハチュウ人の兵士と手を繋いだ。優しい男だ。ちょっとおバカっぽいが。単純。
 しかし、これまで常に回りを気遣いながら生きて来なければならなかったカムイには、拓馬の自然な感情が羨ましかったのは事実だ。拓馬や獏達とのつながりを失いたくないのも本当だ。


 牙を見る。

 未来の人類。
 圧倒的な力で宇宙を支配していた人類。敵が言うように、宇宙の破壊者なのかはわからない。誰もが自分を正当とし、相手を悪とする。あのわずかの時間では、どちらの陣営が正義なのかはわからない。いや、戦争において、正義も悪も同義語だ。『聖戦だ。』と言い切った巴武蔵の目の狂気が気に入らないのも事実だが、それよりも、「お前はハチュウ人との混血だから解らないだろう。」という言葉。
 あれではまるで、ハチュウ人類がすでに切り捨てられたようでなないか?2500年続く『聖戦』。ハチュウ人類は、いつ消えてしまったのだろうか。どうやって?・・・自然に?・・・まさか・・・・・・?
 ハチュウ人類は滅びの種だ。もしもこの先ハチュウ人類が地球の覇権を握り、いくら地上をガスで覆っても、降り注ぐゲッター線を遮ることは出来ないだろう。「何か」が遠い過去にハチュウ人類を見限ったのならば、ゲッター線数値はますます高くなっていくにちがいない。人類との混血がゲッター線を防ぐとはいえ、混血を受容するハチュウ人が、ましてや人間がおいそれといるものか。感情を挟まない異種間交合でさえ困難を極める。ましてや恋愛感情などを求めるならば、それは皆無に近いだろう。帝国を保持できる数の混血が増えるはずはない。
 もし。
 と考える。
 地球がハチュウ人類を見限ったのではなく、単にゲッター線がハチュウ人類を見捨てただけならば、人類を根絶やしにすればゲッター線は地球を諦めるのではないだろうか?地球とハチュウ人類はゲッター線さえなければ良好な関係を築けるのではないだろうか。かつての1億5000万年もの蜜月。地球の覇者であり続けた恐竜時代。
 その考えが頭から離れない。ドクターマクドナルドや諸葛孔明の言を信じるわけではないが。
 ゲッター線は地球には不要だ。
 だが、言い切ってしまうにも、ひとつの事実が邪魔をする。
 かつて、恐竜を,ハチュウ人に進化させたのも、ゲッター線なのだ!

 思考はいつもそこで頓挫する。
 自分はどうすべきか。どうしたいのか。
 このバグを使えばアークを倒すことは可能だ。その凄まじい力は、おそらく早乙女研究所の地下深くに眠るゲッタードラゴンさえ滅することが出来ると思う。だが、人類を甘く見るわけにはいかない。現に旧早乙女研究所は、もう敵はいないと考えつつも、いつのまにかアークを設計していた。時空を超えてやってくる未来の敵を想定して。いま研究所に新たなゲッターロボの設計図があるとは思えないが、これから造られるとも考えられる。なにしろゲッターに選ばれた男は健在だ。その才能のすべてを設計に傾ければ、アークを超えるゲッターロボも造れるかもしれない。
 時間を待つのもいいかもしれない。彼はもう50歳を過ぎている。いくらこの地球上で一番長く、高いゲッター線を浴びてきたとはいえ、もう50年のすれば世を去るだろう。ハチュウ人類の寿命は長く、冬眠すれば永遠に近い。
 神隼人を継ぐ者はいない。
 カリスマ性を持つ統率者のいない軍など恐るるに足りぬ。
 ゲッターアークですら、単に世界のスーパーロボット軍団の駒の一つにすぎなくなるだろう。
 ゴール三世を説得して、時を待つことにしよう。その間に人類があまりにも傲慢であれば、このバグを完成させてもよい。そのときの戦闘は自分達も多くの犠牲を払うだろうが、人類を殲滅することが出来る。
 それに、巴武蔵は拓馬達の数世代先の人類が宇宙に出たと言った。人間の数世代なぞ200年に満たない。そんな短期間に宇宙に行く科学力を手に入れたのか。だとすれば、友好な関係を築いているはずのハチュウ人類も宇宙に出ていけたのではないか?人類は増え続けていく種族だから、はるか太陽系を超えて行けばいい。ハチュウ人類の望む快適な星と人間のそれは違う。数の少ないハチュウ人類に多くの星は要らない。ひとつでいい。
 未来がどうであれ、まだ時間はあると思う。地球壊滅の危機も敵も消えたのだから。
 そう結論付けた矢先の隼人の言葉。

   「火星に行く。」
 彼が地球を、ゲッターを見捨てるには、なにか訳があるのだろうか。
 単にカムイを、ハチュウ人類を信用したというなら、それはあまりにも無用心だ。
 彼は巴武蔵が未来で生きていることを知らない。おそらく彼以外のゲッターチームメンバーが皆いることを。
 彼は火星へ行く。誰も近寄れない、探査ビームも探れない星。そこでひとり、生きていけるわけがない。だが、巴武蔵の言によれば、人類の危機を救ったのは火星から来たエンペラーだ。火星に行ったデビル・ムゥ。核ミサイル。真ゲッター。それらが永い時間の中で、ゲッターエンペラーに進化したのか?
 早乙女研究所の地下に眠るゲッタードラゴン、アレもまた火星に行くのだろうか。
 火星には、いったい何があるというのだ?ゲッター線は、地球を離れ、火星で進化するとでもいうのか?では、地球は?地球はゲッターから解き放たれる?
  ・・・・・・・・もう少し待ってみよう。異母兄のゴール三世にはバグのことは隠し、神隼人が火星に行くことを告げよう。また、未来の世界では、人類は数世代後に宇宙に出たとも。人類が宇宙に出た後に地球を手に入れるのもいいかもしれない。また、我らにふさわしい星を見つけるのも良いかもしれない。永い寿命を持つ、我らハチュウ人類は。

  
 

  
                     ☆




二年後。
「ついに行くか、隼人。」
 「敷島博士。」  
 「世界は平和になったと言え、そんなに急いで行かなくても良いと思うがの。橘や翔も、驚きを通り越して、怒り狂っておったぞ。」
 「もともと私は、真ゲッターが火星に行った時、引退したんですがね。」
 「引退と火星に行くのとは大違いじゃろ。何かコトが起きたらどうするんじゃ。火星からではどんなに急いでも半年はかかる。しかもそれは単に距離的なものでだ。あの分厚いガス雲はひどく重いものだと考えられる。宇宙艇が通り抜けるにしてもかなりの負担があるだろうし、そもそも肝心の連絡がつくかどうか。」
  不満気に言う。
  「私が無事に火星に到達する、というのはデフォルトなのですか?火星は全ての計器を狂わせる星ですよ?」 
 少し笑って問い返す隼人。
 「ふん、殊勝なふりをするな。自分なら通り抜けられると思っているんじゃろうが。もちろん、ワシとてお前が宇宙の迷子になると思っとらん。ただもっと後に、20年程して、本当にお前が地球に必要とされなくなったら、火星に行くと思っとった。まだ、この前の戦いから5年しか経っておらん。これほどまでに急ぐ理由があるのか?」
 いつもふざけているような敷島の目が、誤魔化しを許さぬようにきつく見据える。
 隼人はスッと席を立つと、ポットのコーヒーを二つのカップに注ぐ。ゆっくりと敷島の前に置くと、自分のカップに口を付ける。そのまま暫し、言葉を発しない隼人に、
 「・・・・・・・・・・ふん、まあいい。これは餞別じゃ。」
  無造作にテーブルに投げ出された小さな封筒。
 「?」
 手の上に転がり出たのは・・・・・・・髭剃り?
 「火星に行くなら少しは身綺麗にするんじゃな。15,6才は若くみえるじゃろ。」
 隼人は思わず敷島を凝視した。
 「博士・・・・」
 「早乙女が言っておった。ゲッター線は細胞を活性化させると。個人差は随分大きいようだが、お前はこの地球上で誰よりも多く、そして高濃度のゲッター線を浴びてきた人間じゃ。どれほど影響が大きくてもおかしくはない。」
 「かないませんね、博士には。」
 隼人は諦めたようにつぶやいた。
 「確かにこの髭は、年を誤魔化しています。ただ単に年を取らないだけではなく、俺の体は、実際、アークにさえ乗れるんです。」
 「なんじゃと?それほどまでもか?」
 パイロットとして必要な強靭な体。例えば人の5倍以上の強い力、ナイフで刺されても平気な回復力。かつての戦闘でボロボロになっていた隼人の体が、拓馬やカムイらのような超人離れした肉体に変化していると?
 「何故でしょうね、これは。」
 隼人が皮肉気に笑う。
 「俺は、何になってしまったのでしょうね。」



 「守人」なのだと。
 地球とゲッタードラゴンを守る、「守人」なのだと思った。
 みんな自分を置いて逝ってしまったが、あと数十年もすればまた会えるさと思った。それまでは、あいつらがやりたかったことを代わりにやってやろうと。
 だが、ある日ふと気付いた。
 カムイを引き取ったあと。
 体中の傷痕は消えていないにしても。
 拳を握りしめる腕に震えはない。
 5年経っても10年経っても、肉体の数値に変化はない。
 これは、今度こそ、俺がゲッターと逝けるのかとひそかに期待したが、また3人のパイロットが見つかった。俺の出番はまだらしい。
 カムイ達は未来の世界を見てきた。そこには強力なゲッター軍団があったという。あいつらははっきり言わなかったが、おそらくゲッターが宇宙を睥睨(へいげい)する様を見たのだろう。俺がかつて見た世界。いや、もしくは俺は見ていないが、竜馬ひとりが見た世界。
 説明するあいつらの雰囲気がどことなく変だった。俺の目を誤魔化せると思うなよ。
 だがいずれにせよ、未来に人類は存在した。それならいい。ここで俺がゲッタードラゴンや地球のこれからを考えなくても、人類は宇宙に広がるだろう。ならば俺は火星に籠る。この先、年を取らずに地球に残って、もしもまた一人、残されるなんて御免だ。もう誰の死も看取ってはやらない。万が一地球にまた危機が迫ったら、今度は俺が火星から竜馬や號を引き連れて戻ってやろう。獏も兄貴に会いたいだろう。ジャテーゴは連れて行きたくないが・・・・・・カムイの立場もあるからな。ゴール3世への土産だ。
 

 「まぁいい。ワシも行ってやろう。」 
 「は?」
 「ワシも一緒に火星に行ってやろうと言っとるんじゃ。」
 「え、いや、博士!」
 思わず立ち上がる隼人に。
 「何を慌てておる。別に不思議はないじゃろが。」
 にたりと笑みを浮かべる敷島。
 「ワシの体はすでにサイボーグじゃ。脳だけは自前じゃが、それでもかなり改造しておる。これから先、老化して死なないという意味ではお前と同じじゃ。戦争のない地球で永らえても面白くないからのう。」
 「いえ、しかし・・・・・・私は博士にはゲッタードラゴンのお守を頼もうと思っていたのですがね。」
 「ふわぁっはっは!アレを目覚めさせるのはワシではないからのぉ。」
 「私でもありませんよ!」
 思わず声を上げる。
 「さぁのう。ならば拓馬か、人類の危機か。どちらにせよワシの力の及ぶものではない。だいたい、」
 敷島はギロリと隼人を睨みつける。
 「お前はカムイが人類を裏切るとは思っておらぬのか?未来から帰ってきてから、カムイの目の奥に、ときどき嫌な光が浮かぶのを、気付かんわけではなかったろう。」
 何かの拍子に浮かぶ嫌悪の欠片。おぞましいものを見たかのように。それが実際に目に映る現実によるものか、あるいは未来での記憶によるものかはわからない。
 「カムイは潔癖なところがありますからね。生まれ落ちてからずっと、理不尽な排斥を受けてきたにもかかわらず、正しいことを守ろうとする。いや、排斥されてきたからこそ、正しいものに憧れ、絶対とする。」
 「お前に少し似ておるか?」 にやりと笑う。
 「俺はそんな純じゃありませんよ。」 フッと笑う。
 「カムイがもし、人類を裏切るならば、それ相応の理由があるのでしょう。おそらく未来の人類に。
 この二年間、少なくとも人類とハチュウ人類はうまくやってきました。この二年間が誤魔化しであったとは思えませんし、もしこれらがカムイの策略であれば、人類はカムイがどうしても許せない生物になったのでしょう、遠い未来に。」
 太古の昔。大型ハ虫類であった恐竜を、知能の発達したハチュウ人類に進化させたのは、そのとき宇宙から大量に降り注いだゲッター線だった。1億5000万年の長きにわたって地球を支配したハチュウ人類の、その進化の速度か内容が、ゲッターには不服だったようだ。さらに大量のゲッター線が降り注ぎ続き・・・・・・・ハチュウ人類は滅び、人類が登場した。人類の進化は1万年も必要とせず宇宙を目指す。もちろん生き延びたハチュウ人類の科学は、確かに人類を遠く引き離している。どちらの種族がより高度な知力を持っているかと問われると、返事に窮する。人類が地上において勝利したのは、ただただゲッターの贔屓だ。贔屓にも意味はあるのだろうが。
・・・・・・・人類は未来に置いて、それほど優れた「種」なのだろうか・・・・・・・?
 「カムイから見た未来の人類がおぞましいものであるならば、人類にもゲッターにもそれなりの欠点があるのでしょう。」
 「軽く欠点といえる程度のものか?」 首をひねる敷島。
 「修正出来る程度なら修正してもいいんじゃないでしょうか。第一、」
 薄い笑みを浮かべて
 「私を置き去りにさせ続けたことは我慢するとして、時間まで止めて地球を見届けろなんて、勝手に決められては、いくらゲッターの意志とはいえ気に入りません。私は火星に引き籠らせてもらいますよ。地球は地球でで生きていく者達に任せます。」
 みんなゲッターに取り込まれていった。友も師も部下達も。そこには意味があったのだろうが、俺に納得できる意味はない。かつてゲッターの行きつく所を見てみたいと思ったことが、置き去りにされていく見返りならば、もう見なくていい。未来の敵のひとつはアンドロメダ流星国。未来から時間を超えて地球を消滅させようとした。異空間から現れ早乙女研究所を押し潰そうとした敵も、ゲッターは宇宙の癌だと言った。命を食い潰す「癌」なのか、増殖し続ける「癌」なのか。増殖するということは、即ち、命が続いていくことだというのだろうか。

     『友よ、また会おう。』
 ふん。
 さっさと退場しやがって。俺は地球を、人類を見捨てるぞ?文句があるなら、とっとと会いに来い!






 
 「神博士。本当に行ってしまわれるのですか?」
 旅立ちの日、多くの所員のほか、翔や橘博士、拓馬や獏が見送りに来ていた。カムイもいた。内密に、という出発だったが、隼人の回りを多くの人々が囲み、口々に翻意を促していた。 
 「神くん、気が変わらんかね。」 変わらぬ穏やかな声で、橘は尋ねた。
 「君はこの地球にまだまだ必要な人間だ。」
 「橘博士。たぶんもう、私の役目は終わっていますよ。」
 「ほらほら橘。いつまでもせんないことを繰り返すな。老兵は身を引くものじゃ。」
 「そりゃ私達はもう老兵ですよ。でも、神くんは世界でも有数な科学者兼軍事家兼政治家でもありますからね。神くんがいなくなるということは、人類にとっても地球にとっても大きな損失です。」
 「買いかぶりすぎですよ、博士。私がいなくても、地球の平和は守られ続けます。なあ、翔、拓馬、獏、カムイ。」
 「そ、そりゃあ・・・・・・」
 名指しされた拓馬はもごもごと口ごもる。
 「神さん。引退と火星に行くのは大違いです。まだ納得できません。」
 翔が難しい顔ではっきり言う。
 「ぜったい帰ってくるとおっしゃるなら認めます。」
 「そうだよ神さん!たとえばさ、一年後!帰ってきてくれよ。それならいいぜ!あ、俺も行こっかな!」
 「あほ。」
 「なんだよ獏!アホって。」
 「帰れる保証があるなら誰が反対するか。俺だって連れて欲しいよ。」
 「わかってるよ!たださ、火星の近くまで行ってさ、もしかしたら大丈夫かもしんねえじゃないか。俺はゲッターの申し子だぜ!」
 「なんだ、その根拠のない自信は。」
 ふぅ、呆れた。というような声で、カムイ。
 「あ、カムイ、おまえまでバカにして!」
 「バカにされることを言っているのはお前だろう、拓馬。」
 「これだから、こっそり行こうと思ったのだがな。」
 やれやれと人ごとのように呟いて、隼人はさっさとクジラに乗り込もうとする。
 「あ、ちょっと待って!冷たすぎるよ神さん!」
 「何が冷たい。送別会だとか壮行会だとか、この二ヵ月ずいぶん付き合ってやったろう。訓練だとか言って模擬戦闘もやったし、クジラにも乗せてやった。」
 「つっめたいなぁ!可愛い部下の無邪気なおねだりだろうがよ!」
 「誰が可愛いって?」
 「オ・レ!なんたって、神さんにとっちゃ俺は親友の忘れ形見。いうなれば、神さんの息子代わり?」
 「貴様、なにが神さんの息子だと!?」 聞き捨てならんとカムイ。
 「へん、妬くなよな。妬くなんて見苦しいぞ、カムイ}
 ン・べ!とばかりに舌を出す拓馬。
  目にもとまらぬ早業でカムイが拳を繰り出す。
 お決まりのドッタンバtッタンが響き渡る。みんな、止めるのにてんやわんやだ。
 「淋しいんですよ。」
 翔がポツリと呟く。
 「神さんは私達にとって、生き残るための指針なんです。いくら現在、敵はいないと言っても。貴方がいるのといないのとでは全く違います。貴方がいれば、どんなことがあっても人類は大丈夫だと思えるんです。」
 ひっくり返していえば、隼人がいなければ人類の未来はは不確定だ、ということ。一人の人間にそこまで依存している。情けないことだと思うが、ここでメンツを気にしても始まらない。
 「翔。」
 隼人が静かに告げる。
 「以前にも言ったことがあるだろう。私が地球に居ることで、何かが起きたり目覚めたりするのはごめんだ。ゲッターの舞台から、私は退場させてもらう。」
 穏やかな眼差しで言われては、誰がどうこう言えるだろう。いつも最後まで見届けることを押しつけられた人に。せめて。
 「敷島博士。神博士を宜しくお願いします。」
 いじわるも込めて頼み、あとは見送るだけだ。
 「あ、神さん、ちょっと待って!大気圏を出るまで見送るよ!獏、信二、出動だ!!」
 アークを私用で使う三人。やれやれといった回りの人々が発射台に向かうそのわずかな隙間に。
 「カムイ。」
 隼人がまっすぐに見詰めた。
 「地球を頼むぞ。そして命を。」

 さっさと立ち去っていく。その姿を見ながらカムイは。
 頼まれたもののあまりにも大きさに、暫し立ち尽くすばかりだった。
  「命を」と言った隼人。 「人類を」と言わず。
 バグの存在も、自分の疑心も知るはずはないというのに!
 
  



       ☆




 

 火星は濃密な二酸化炭素と水蒸気のガスに覆われていた。
 原始大気。
 超高温の地表。
 隼人はただそれを見ていた。地球が生命を生み出すまで40億年かけた工程を、早送りのように再現しつつある火星。
 「これもゲッターの力ってやつか?」
 そうだとしたら凄まじい力だ。想いというより『念』だな。
 「このままいけば、100年もしないうちにカンブリア紀に近づくかな。1000年もすればジュラ紀の様相になるかもしれない。そうならばカムイ達を呼べる。マシンランドをそのまま宇宙船にすればいい。そのくらいは恐竜帝国の科学力なら容易いだろう。分厚いガス雲は、彼らにとって致死の宇宙線、ゲッター線を遮ってくれる。濃密な大気、強い熱射。彼らにとっての悲願の楽園。永い寿命と永い眠りを持つ彼ら。1000年ほどは待てるだろう。出来るものならば今すぐ教えてやりたいが・・・・・・」
 あのガス雲はどんな電波も乱して散らす。俺達が何の障害もなくすんなりここに入って来られたのは、俺達だけが当分ここで暮せということだろう。それに何の意味があるかは解らないが。
 ゲッターは無駄なことはしない。それが吉と出るか凶と出るか。今さらジタバタしても始まらない。まあいい。火星はけっこう広い。しばらくはクジラで放浪の旅とシャレ込むか。もっともこの熱湯の雨の中では、景色を楽しむことも出来ないけれど。

 小型宇宙船、クジラ。
 小型とはいえ、数人が生活するには充分な広さと設備を備えていた。宇宙空間を航行するだけではなく、飛行船のように各地を巡航することも可能だ。研究所並みの実験室もある。大気を分解して水を空気を得、小さな温室で植物を生育することもできた。
 「食べなければ死ぬ、とも思い難いが、食べなくても死なない、なんて実験はしたくないからな。(それこそゲッターロボだ。)」
 温室で採れたトマトをかじりながら隼人は呟いた。




 「時」はゆっくりと流れていった。
 大気と地表が冷えていくにつれ、濃密な大気に含まれていた水蒸気は雨となり激しく地表に降り注ぐ。まだまだ熱い地表はすぐさま雨を水蒸気に返す。さらに激しく降る雨。やがて高温の海が形成され、繰り返し繰り返し、やがて海は冷えていく。
 壮大な営みの中で、隼人と敷島はただ研究を続けた。
 シュバィツァ博士と恐竜帝国のハン博士が共同開発した「亜空間固定装置 ゾイド」。亜空間が時間を左右出来るものであれば、研究題材としてはなかなか面白い。火星という閉ざされた世界に居る自分達にとって、どんな研究も結果も使うことのないガラクタにすぎないとしても。 ヒマだから。
 敷島博士は例のごとく武器の開発に余念がない。
 ストーカー01を送りつけてきた敵は、「アンドロメダ流国」と名乗った。230万光年先のアンドロメダ銀河か?もしそうだとすると人類はいずれ、アンドロメダ銀河まで到達し、支配下に置くというのだろうか。敵が起死回生を図って過去に飛んだということは、人類が敵を追い詰めたからだ。かつて自分が真ゲッターで竜馬や伊賀利三佐と見た映像、あれはゲッターエンペラーとアンドロメダ流国との戦いだったか?
 そのとき地球はどうなっているのだろう。幾千年後の地球。すでに人類は旅立ち、廃墟だけがかつての息吹を伝えるのか。



 
 火星の時間は、地球のソレとは違う。ガスで覆われ、何も見えない空では、基準となるものもない。一体どれほどの時間が流れたのか、もしくは滞っているのか。
 永遠に止むことがないのかと思われた雨が、突然上がった。
 火星で見上げた初めての空。
 はるか上空に雲はあれど、薄ぼんやりとした明るさが大地を表わす。
 隼人はさっそくクジラを飛行させた。火星の大地は起伏していて、幾筋もの川が海へと向かう。 まる五日経って、ふと目に入った奇妙な岩。
 顔岩に見えた。
 決して忘れない、あの。

 「これはゲッターか?」
 「ふぅ〜む。ゲッターとも言えるが、いくつかのメカの合体物とも言えるのぉ、」
 
 敷島はヘルメットを外す。すでに全身をサイボーグ化し、もはやアンドロイドと大差ない敷島は、特に酸素を必要としない身であったが、隼人の要請でクジラの外へ出るときはヘルメットをしていた。
敷島にも隼人の過剰な心配は解る。独りきりで火星に籠ろうとした隼人。他の者を思い遣るような気配は微塵もない、と伝えたかったのだろうが、実際、隼人は懐に入った人間に対しては過保護だ。まぁ過保護であることが、それを守るために自分自身にも気を配るだろうからと、敷島や翔達は良しとしていたが。この火星でもそれは発揮されている。
 「博士、きちんと大気の測量を終えてからヘルメットを脱いでください。」 眉を顰める。
 「ああ、大丈夫じゃ。ちゃあんと測定器をここに設置しとるからの。」
 目と鼻を指差す。ということは、わけのわからない大気を体に取り込んで測定するということだ。どこが大丈夫?
 ムッとする隼人に敷島はカッカ!と笑い。
 「気にするな、わしはもう健康被害などとは無縁だぞ。」
 「それを言えば、俺の方こそ無縁です。・・・・・・・・死にませんからね。」
 自嘲するような口ぶり。
 「何を言っておる。体細胞が若返っただけだろうが。『死』から切り離されたわけではない。」

 本当に、『死』から切り離されたのではないならば。
 どこまでも生きて行かねばならない、のではないならば。
 独りで生きていかなくても良いならば!
 
 あの青く輝く星、愛おしい人々の居る地球から、離れることはなかっただろうか。

 とはいえ。
 過ぎたことを懐かしみ追い求めた所でどうにもならない。
 そんな性質でもない。
 さて。

 この顔岩を調査しよう。

 「しかしなんじゃな、この気候は地球におけるぺルム紀末に似ておるの。」
 測定機材を運び出して測量を始めながら敷島が言う。
 2億9900万年前から2億5100万年前。古生代から中生代に移行する時代。寒冷な気候から急激な気温上昇。ぺルム紀の地球の平均気温は、6億年前から現在までで最も高い気温だったという。大気中の二酸化炭素も、約20倍近くもあった。ペルム紀末(P-T境界と呼ばれる古生代と中生代の境界)では、地球史上最大とされる地球規模の大量絶滅が起こった。このとき絶滅した種は、全ての生物種の90%から95%に達すると言われている。原因はよくわかっていない。スーパーブルームによる地球上で最も激しい火山活動のせいだとか、、それによる気候変動がメタンハイドレートを融解させて更なる気候変動を起こしたとか、また外部からのコンタミネーションの可能性もあるとか。
 大気中のメタンと酸素が化学変化を起こし二酸化濃度を高め、その二酸化炭素がまた気温を高くしメタンを発生させる。そして。

 新たに誕生した種は、大型ハ虫類、低酸素環境への適応度を先に身に付けてた恐竜だった。
 さらに。
 白亜紀末(k-T境界)の地球規模の大絶滅は、恐竜の時代を終焉させた。
 新たな覇者となったのは人類。

 「隼人、お前はヘルメットを外すな。」
 『過保護は博士もだな』
 苦笑しながらも隼人は言うとおりにする。二人きりの火星。互いを思うのも心地よい。
 「どうですか、博士。」
 測定器に岩石の欠片を入れて調べている敷島に尋ねる。
 「ゲッター線は含んでおらんようだの。 放射能も見当たらん。かえって不思議に思えるのぉ。」
 首をひねる敷島。
 かつて核ミサイルとデビル・ムゥを取り込んだ真ゲッターロボ。この岩に見えるモノがソレならば、ゲッター線も放射能も大量に含んでいるはずなのに。
 違うのだろうか。こいつは。
 地球を救って火星に飛んだ、あの・・・・・・・
      友ではないのだろうか。
 「まあ、これが竜馬や號やタイールには見えんがのう。ジャテーゴになら見えるか?」
 隼人の心情を慮るのか、敷島が冗談じみて笑う。
 「そうですね。どちらかといえば・・・・・・・プロフェッサー・ランドウにも見えますよ。」 
 お互い、期待を笑いに誤魔化す。 (一名特別出演、あはは。)
 「まぁ、これからゆっくり調べて行くとするか。時間はたっぷりあるからのぅ。」



 

                                ☆





                再び火星は 『時』 を刻む。
       
         




                                ☆




 地球時間で、すでに300年は過ぎただろうか。
 火星の大気は徐々に落ち着き、まだまだ二酸化炭素濃度は濃いとはいえ、ヘルメット無しで自由に活動できるほどにはなった。
 隼人と敷島は飽くことなく研究に勤しんでいた。お互いの研究事案は異なっていたが v
 隼人は時間と空間について。敷島は言わずもがな。





 「隼人。今日はガス雲がいつもより薄いようじゃな。」
 「ええ。先ほどから測定し直しているのですが、こんな数値は初めてです。ひょっとしたら、外(宙)に出ることが出来るかもしれません。」
 「よし、クジラを出航させようかの。」

 いつも計器を撹乱する雲は、信じられぬほどすみやかにクジラを通す。
 宇宙から見直す火星は、いまや紅い星ではない。
 薄いグレーの衣をを纏った緑の星だ。
 「何があったのかのぅ。火星に理由がないとすれば、おそらくは地球になにかが・・・・・」
 「・・・・・・・・それでも、俺達が出来ることはなにもありません。」
 遠い目。
 地球。懐かしき星。すでに知る人も無き星。
 火星に戻る。せめて宇宙空間に小型受信機器を配置して。


 『ザ―ザ―ザ―・・・・・・・・ザ―・・・ツッッッ・・・・・ザ―・・』
 数か月が過ぎたころ、クジラの通信機に雑音が入った。
 
 
 
すぐさま宇宙に出る。一段と鮮明になる通信。
 『・・・・・・・博士・・・・敷島博士、おられますか・・・・?カムイです・……』
 繰り返される通信は、信じられない名前を繰り返していた。
 送られて来る通信から、方向と距離を割り出しクジラを向ける。そこには一隻の宇宙船があった。
 「カムイか?」
 『?!!その声は、まさか?!』
 クジラのメインスクリーンいっぱいに映し出されたのは、恐竜帝国空竜元帥カムイの驚愕した顔だった。




 火星に降り立った恐竜帝国宇宙船。
 ぞろぞろと物珍しそうに辺りを探索する恐竜飛行士達。
 カムイはクジラのリビングスペースに居た。

 「久しぶりじゃのう、カムイ。わしらの計算に間違いなければ、あれから300年ほど過ぎていると思うんじゃがの。」
 「ええ、正確には319年7カ月です。」 (この数字に意味はありません。作者注)
 「そうか。おぬしはほとんど変わっておらぬのう。どうじゃ、妻は持ったか?」
 「はい。100年ほど前に同じハーフの女性と。子供もひとりいます。ハチュウ人も少しづつ増えています。年に数人ですが。」
 「それで良い。おぬしらは長く生きる。種の法則としては当然じゃろう。」
 「ええ・・・・・・」
 先ほどから落ち着かない様子でちらちらと窺う。
 「なんじゃ、カムイ。」
わざとらしく敷島が問いかける。カムイは意を決したように。
 「神さん。」
 ゆったりとソファに凭れていた隼人が視線を向ける。
 「神さんがおられるとは正直思いませんでした。サイボーグ化されたのですか。」
 生きることに一番、厭(あ)いている人だと思っていた。他人のために止むを得ず生きている人だと。だから今ここにいることが信じられなかった。敷島を独りにさせないためだったのだろうか。敷島博士も、そのために共に火星に来たのだろうか。隼人を死に向かわせないために。
 「いや、どちらかというと、お前達に似てきたようだ。」
 「は?」
 「寿命が延びたということじゃよ。」
 敷島が口を挟む。
 「え、あの。」
 意味が解らない。
 「ふん。理由はわからんし解りたくもないが。お前を引き取ったころから俺の時間は止まったようだ。年を取らないだけではなく、体細胞も若返った。いや、若返ると言うより、細胞が再生・増殖・活性化し続けている。まるで癌細胞だな。」
 面白くなさそうに吐き捨てる。だが初めて聞く内容に、カムイは驚愕した。
 「・・・そんな・・・・私を引き取ったころからですか・・・・・・」
 遠い記憶を呼び起こす。あのとき自分はまだ幼くて、初めて会った隼人はずいぶん大人だった。その後は自分にとってずっと後見人であり、教育の師であり上官であり。要するに絶対的に頭の上がらない存在だったので、隼人の容姿とか年齢的なものには気を止めなかった。今思い起こしても・・・・・・覚えていない。
 「ま、そんなこともあって火星に移ったのだ。地球ではなにかと目立つからな。」
 隼人がカムイに向ける笑みは柔らかなものだった。ああこの人は、やっと重荷を下ろしたのか、この火星で。
 「そうだったんですか・・・少し安心しました。一瞬、巴 武蔵さんのように洗脳されたのかと思って。」
 「ん?」訝しげな声にあわてて。
 「いえ、神さんがゲッターに洗脳されるなんて思いもしませんし、巴さん達も洗脳とは少し違うかもしれませんが、貴方が300年も変わらないのはやはり人造人間にと」
 「どういうことだ?」
 低い声が遮る。
 「!あ」
 人は思いがけないことに動揺すると、つい本音を晒してしまうものだ。
 「カムイ。未来で誰に会った?」
  はい、告白タイムv





 「・・・・・・・・そうか、武蔵がいたか・・・・・・・・・・」
 時刻はずいぶん過ぎて。

 カムイの部下達が食事の準備について伺いを立ててきたのを機に、取り合えず会話は中断した。食事後、ハチュウ人兵士達は野外での就寝を望んだ。ジュラ紀の様相によく似た火星。カムイはこれを許可し、彼等は宇宙船から毛布等を持ち出して眠りに就いた。カムイはクジラで隼人と敷島と酒を酌み交わしていた。


 「それでもおまえは、バグを使わなかったのだな。」
  感慨深げに隼人が言った。
 「未来の人類が宇宙にとって破壊者だとしても、過去の者である私が人類を滅ぼしていいことにはなりません。何人も勝手に過去を変え、未来を変える権利はないと思います。バグが未来において未完成だったのは、彼らが負を受けいれるべきだったのでしょう。」
 「おとなじゃのぅ、カムイ。誰もそんなふうに思い切れはせん。未来において、ハチュウ人が差別されておったならばなおさらだろうに。」
 「自分の行動の結果に自信が持てなかっただけです。どちらかの命を殲滅させる力など、私には重すぎます。どちらの道を選んでも、結局どこかで後悔するでしょう。ならば、どちらにも関与せず、そのとき与えられた試練に立ち向かう方が気楽です。」 
 「・・・・・・宇宙の原理に身を任せよう・・・・・」
 「え?」
 「かつて真ゲッターが火星に飛ぶ前、竜馬が言い残した言葉だ。未だに意味はわからん。・・・・・・・一番理解出来んのは、俺が残されたことだ。」
 ちょっと拗ねたように言う隼人。それがカムイには新鮮だ。
 「とにかく俺に言えるのは、カムイ、地球をお前に任せてよかった、ということだ。ありがとう。」
 「い、いえ。俺は俺のやりたいようにやっただけで・・・・!礼を言われることでは・…」
 顔を赤くさせながら、しどろもどろのカムイ。
 「いやいや、おまえもたいしたやつじゃ。もっと威張ってよいぞ!さぁ、もっと飲め!火星の酒もなかなかじゃろう。」
 ドクドクとコップに酒を注ぐ。
 「ありがとうございます、博士。」
 「拓馬はどんな一生を送ったんじゃ。知っておるか?」
 「ええ。あいつはいつまでたってもガキみたいで。結婚してからもガキでしたよ。(笑)」
 「なんじゃ、それは。想像はつくがの。おお、翔はどうじゃ。シュワルツと最後までうまくいったんじゃろうのぅ。」
 「いつまでも恋人同士のような二人でしたよ。こっちが恥ずかしくなるくらい仲が良くて・・・・・・・」

 つれづれに、語られるのは優しい記憶。もしや叶わぬと諦めた幸福。
 
 「人類とハチュウ人類も、それなりにうまく共存してきました。ときどき排他的な揉め事も起きましたが、それは異種間では当然のことでしょう。拓馬やその子孫。翔さんの子孫は地球においても責任ある立場で、ハチュウ人を庇ってくれました。やがて人類は地球の糧の取り合いよりも宇宙を目指すことにしました。それは私達ハチュウ人にとっても夢です。ゲッター線の降り注がぬ星を得るために。」
 「地球は今、どうなっておる?」
 「100年前に人類が初めて太陽系に出て以来、いくつもの船団が宇宙に飛び立っています。地球にはまだまだ資源等は豊富ですが、人類は憑かれたように宇宙を目指しています。『宇宙を目指す』、そのこと自体が、ゲッターに選ばれた証なのかもしれません。」
 住みよい星を離れるのに、どういう理由があるのだろう。
 ひっそりと、静かに平和に生きて行きたいと願う我らハチュウ人類は、すでに宇宙の「老い人」なのか。
 それを不服というわけではない。
 出生率の少ない我ら。でも。
 少しばかりとはいえ我らが子孫に。
 よりよい世界を渡したい。
 「人類は地球の六分の一をハチュウ人に譲ってくれました。私は兄の指示で地上における恐竜帝国の責任者です。ハチュウ人とヒトとの混血は、予想どおり促進できませんでしたが・・・・・なんとか地上に出られる子供達も増えてきました。」
 その矢先。
 地球から出立した宇宙船から連絡があった。火星のガス雲が薄れている気がすると。
 人類には不文律があったらしい。「火星には行くな」と。
 火星にはゲッター線にかかわる何かがあるが、それは刺激してはいけない。「時」が来れば、おのずから干渉してくるだろうと。それまではそっとしておくこと。機嫌を損なったらどうなることか。責任は持てない。第一火星は。
 地球にとって利益を生む星ではないだろう。

 そう言い残したのが、拓馬か獏か翔か他か。
 子孫たちが家伝と言うからには、各自が子供たちに厳命したのだろう。
     火星に手を出すな。
 理由は、と問われたらただひとつ。
     あの星は、地球を守った大事な星だ。
     現在・過去・未来
     あの星は・・・・・・・・

あのガス雲が消えない限り、尋ねては  ならない。



 以上がカムイの、話だった。

 「今回私がここに来たのは、火星の雲が薄れたという報告を受けたからです。もしや、敷島博士がまだおられるかと・・・・・・・もしかしたら、貴方達の痕跡があるかもと、寄ったのです。」
 「そうか。地球の歴史が知れてよかったのぅ、隼人。ずっと気にしておっただろうが。」
 それにはすぐ答えず。
 「カムイ。」
 「はい。」
 「この火星をどう思う思う?」
 「どう、とは?」
 「ハチュウ人が生きて行くのに、だ。」
 「そ、それは・・・・・・」
 「ここは今、ジュラ紀の様相だ。ここでハチュウ人が生きていけると思うなら、火星に移住するといい。」
 「それは・・・・・・・・・」
 願うべくもないことだ。実際、外で眠っている兵士達は、すでに火星に惹きつけられているといっていいだろう。われらハチュウ人の理想とも言える大気。自然環境。
おそらく、ただ問題は。あの。
 「この顔岩がなんであるか、今はわからない。コレが地球に眠るゲッタードラゴンとどう感応するか。その影響力も。だが、カムイ。おそらくお前は、ゲッターの意志に十分応えたのだろう。そう思う。ならばここ、火星で暮しても、ゲッター線はハチュウ人達を排斥しないと思う。もし、ゲッタードラゴンと真ゲッターが呼応することがあれば、私は亜空間超越機で、真ゲッターかゲッタードラゴンを、宇宙の彼方に送り出してやろう。」
 「亜空間超越機とは?」
 「かつての『亜空間固定装置 ゾルド』を改造した。時間は飛べないが、空間は跳ぶ。宇宙において、いわゆる『ワープ航法』が可能だ。跳んだ先の景色と言うか様相というか、ある程度回りが視えると思う。昔お前達が問答無用で亜空間に放り込まれたときよりも、心構えが出来て良いだろ?」
 「いや、それはもちろんです!あのときは酷すぎた。空間を出た途端、戦闘のド真ん中で!」
 思いだす。それは酷く・・・・・酷く・・・・・・・・・・今は懐かしい。
 「私は地球に行こう。人類がいつまで地球にいるかは知らないが、旧早乙女研究所がまだ残っているならば、そしてそこにまだゲッタードラゴンが眠っているのなら、私はもう一度お守を引き受けていい。お前の見た未来で、火星からゲッターエンペラーが出撃するのなら、ゲッタードラゴンも無関係ではあるまい。アレが火星に飛ぶとなると、ゲッター線量も半端ないはずだ。火星のハチュウ人達の迷惑にならぬよう、すみやかに宇宙に放つ手伝いをしてやろう。そのためにワープ研究をしてきたのかもしれないな。」
 「神さん・・・・・」

  繋がりはいつも知らぬ間に。知らぬことで気付かぬ不幸と諦め。知らぬことで傷つかぬこともある。それもまたひとつの運命(さだめ)というか。
 
      この宇宙は    続いている。









                          ☆








 エンペラー内。
 「おう、リョウ!拓馬はちゃんと元の時空に戻れたのか?」
 「ああ、武蔵。なんとかな。」
 「ひとことでも親らしいこと言えたのかよ?」
 茶化すように弁慶。
 「まさか。あのヤロウ、意識もオボロゲだったからな。俺を認識したかどうかも怪しいぜ。」
 「ま、そこは親子の情っていうか、縁っていうか・・・」
 「弁慶、それじゃあまったく無理じゃねえかよ。だってリョウは自分に子供がいたかも知らなかったんだろ?情って・・・・」
 「悪かったな、武蔵!仕方ねぇだろが、知らねえもんは!」
 「お〜〜お。開き直ってやがる。こんな無責任な親だと子供がかわいそうだぜ。」
 「言いたい放題じゃねえか!!」
 「ま、反面教師って言うしな。」
 「そうか。嫁さんはべっぴんだったしな。」
 「性格もよかったようだし。」
 「リョウを褒めてる時点で、とてつもなく寛大な人だってことはわかったな。」
 「てめえら!!」

 久しぶりにゲッターチームがエンペラーに集まっていた。
 エンペラーはリョウと隼人の艦だ。戦闘区域は宇宙中に広がり、普段は武蔵も弁慶も他の艦に乗り込み、局地的な戦闘に従事していた。
 「今日はなんだ?」
 「なんか急用か、リョウ。」
 「いや〜〜?俺もよくわかんねえんだけど。急に隼人が敷島博士と自室に閉じ籠ってしまって。」
 「ええ!やばいんじゃねえか、それって。」
 「研究室じゃないのか?隼人が自室に籠るなんて。あいつの部屋は、ちょっと危ないぞ。敷島博士の部屋とは違った意味で。」
 「時空間を弄(いじ)るからな。」
 ああだこうだと言い合う内に、関心はまた戦闘のアレこれに移り、これまたああだこうだと話していると。

 隼人が部屋に入ってきた。
 
 「おぅ、隼人。どうした?」
 リョウの言葉に。







                     「過去が消えた。」
 





           -----------*------------*-----------*---------------

 たいへんご無沙汰しております!三年近く放置しておりました「黙示録」。ようやく「U」です。
 いや〜〜、いくらなんでも放置しすぎですよね。「いまさら?」と呆れかえられていると思います。
 申し訳ありません。パソコンの調子も悪く、文字があちこちに飛んだりして・・・・・涙。
 チェックしているつもりですが、見苦しい点はご連絡いただければうれしいです。
 え?見苦しい文章?う〜〜ん、スル―してください!!

      (2013.5.3   かるら )