コラボレーション
☆
通常、大空魔竜の乗組員は、整備班・医療班・研究室や通信部・機関部等、計68名である。今回はお客さんが6名加わっている。
「やっぱ、ファン・リーとの組み手は面白れぇな。」
お客さんのひとり、流 竜馬が楽しげに笑う。
先程トレーニングルームで他者の目を瞠らせる攻防を繰り広げていた二人。あれで怪我ひとつしていないのは、荒事に慣れている面々でさえ呆れている。
「だけどリョウはいつも隼人と組んでいるんだろう?あいつもかなり手強そうだけど。」
サンシローが聞いてくる。
「う〜〜ん、なんて言うのかな、スピードがある分、“ 軽い ”ってか?もちろん、威力はあるんだけどさ。それにあいつは相手を叩きのめすというより、反抗心を萎えさせるのが第一だったらしくてさ。耳削ぎ鼻削ぎ皮剥ぐ、というような握力?爪力?が戦いの基本だからな。相手しててもマジになってくると結構アブなくてさ。」
カラカラ笑って言うが、『笑っていうことか?!』 頬をひくつかせる大空魔竜コンバットフォースメンバー(サンシロー、ファン・リー、ヤマガタケ、ハヤミ・ブンタ。)に対し、平然としているゲッターチームメンバー。“非常識”も慣れれば“常識”か?
少なくとも隼人との組み手はやめておこう、とサンシロー達は思った。
「ところで、今回一緒に行動するらしいけど、何か聞いているか?隼人は少し前からこっちに来ていたみたいけど。」
ブンタが隣の弁慶に尋ねる。
「おう、それ。いや、隼人がこっちに来てるって、俺たちは知らなかったんだ。最近は戦闘がなければあいつとあまり顔を合わせないんでな。隼人はしょっちゅうあちこち飛び回っているか、研究室に閉じこもっているかでさ。今朝聞いたら、もう2週間もこっちにいるって言うじゃないか。」
「へっ?2週間?」
思わず声を上げたサンシローにブンタも
「おれが見かけたのは3日ほど前だったよ。ちょっとサコンに用事があったんで第2研究室に行ったら、二人で話し込んでいたのでびっくりしたよ。」
「まぁ、あの二人の共通話題といったらまた小難しい研究だろうから、別に俺たちにわざわざ言わなくってもいいけどさ。だけどピートは?ピートも何も言わなかったのか?同室だろう、サンシロー。」
リョウに言われてサンシローは、
「ピートもサコンが研究室に籠もったら、邪魔にならないようあまり行き来しないからな。知らなかったのか、話す必要ないと思ったのか。今朝ピートと顔を合わせたときはなんか不機嫌だったから、あいつも隼人が来ていたの、知らなかったんじゃないかな。」
「俺やリョウは戦闘さえなけりゃけっこうのんびりしてるけど、隼人は何かしら動き回っているな。」
あっ、このせんべい旨いなと、弁慶が手を伸ばす。
「隼人はゲッターライガーのパイロットなんだろ。頭がいいのは知っているけど、サコンと議論できるぼどなのか?」
「あいつ、I Qが300もあるからな。サコンさんもそうだろ?」
一応、他所の研究所員で年上(2・3歳上だったっけ。そういうことにしておこう。)の人に対する礼儀として「さん」付けするリョウ。
「サコンは I Q340っていってたな。どのくらい凄いかなんてかえってわかんないけど。でもこの前、大空魔竜のマザーコンピューターのかわりをしていたな。」
「隼人が科学に興味を持ったのは早乙女研究所に来てからだからな。今のところ『知的好奇心』とやらを満足させるのが楽しいんじゃないかな。」
サンシローやヤマガタケと話しているリョウが、なんとなくつまらなそうなのを弁慶は可笑しく思う。
『で、構ってもらえなくてつまんないんだよな、リョウは。』 こっそり笑う。
「ただいま〜〜〜。見て見て!こんな大きなのが釣れたよ!」
バタンとおおきな音をたてて元気が飛び込んできた。出発前の数時間、八チローと一緒に釣りをしていたらしい。
「へ〜、すげぇじゃないか。元気が釣ったのか?」
「うん!もう少しで逃げられそうだったんだけど、ハチロー君が手伝ってくれた。」
「よかったな、元気。早乙女研究所は山ン中だから、釣りなんてめったにできねぇからな。」
「うん!」
「元気くん、厨房に行こうよ。料理してもらおう!」
ハチローと元気が来たとき同様にぎやかに出て行った。
「さてと。出発まであと一時間か。」
「緊急ってわけじゃないんだよな。のんびりしている。」
「このメンバーからいくと、けっこう大捕り物って感じなんだけどな。」
手持ち無沙汰のまま待っていると、放送が入った。
「全員、大会議室に集合せよ。」
会議室の 大型スクリーンに宇宙空間が映し出された。特に変わったこともないように見えるが、じっと目を凝らしていると、何やら「靄」のようなものが蠢いているのが見える。
「何ですか、これは。」
サンシローが皆を代表して問う。
「地球から約30光年先の映像だ。このガス状の中心部から、強いゲッター線が放射されている。」
「ゲッター線ですか?!」
大文字博士の説明に、皆一様に驚きの声をあげる。ここにゲッターチームがいる以上、おかしくはないといえばそのとおりだが。それでも、大空魔竜チームにとっては馴染みのないものだ。
「ゲッター線は宇宙線の一種であるから、宇宙のどこにあっても不思議ではないのだが。ただ、これほどの強いゲッター線は、地球でいえばゲッター線増幅炉の中でしか発生しないものらしい。」
「ゲッター線増幅炉ですか??」
リョウ、弁慶が思わず声を荒げる。自分たちが扱っている分、その脅威は身に沁みている。
「ということは、この調査にゲッターチームが行くのに同行する、というわけですか?」
ブンタが確認する。ゲッターチーム、早乙女研究所は宇宙を航行する術を持たない。その協力要請かと思ったのだが。
「それもあるが、俺たちは俺たちで行く理由がある。」
落ち着いた声がかかる。大空魔竜の頭脳、サコン・ゲン。
「このエネルギー渦は移動している。そしてその軌道は『悪魔の彗星』と等しい。」
「なんだって?!」
悪魔の彗星。
生物の生命エネルギーを吸い取る人喰いアメーバ。
太古の昔に地球を襲った「ソレ」は、ゼーラ星との戦いの最中、再び地球にやって来た。大空魔竜はゼウスミサイルで彗星を撃破したが、その前に大空魔竜に進入してきたアメーバに、何人もの乗組員が犠牲になったことか。(詳しくは「神々の祈り」で。えへっ、CM・CM.)
「まだ生き残りがいたのか?」
「それを知るために行くんだ。もし生き残りがいたとして、ゲッター線を利用したとなると、大層困ったことになる。」
『困ったこと』、どころではないでしょう!!
ゲッター線は単なるエネルギーではなく、「変化」を促すエネルギーだ。対象が生物ならば「進化」を。人喰いアメーバが進化したら、そしてそれが地球に来たら・・・・・・・「未曾有の危機」になるでしょうが!!
「何をモタモタしているんですか!すぐにも出発を!!」
サンシローの叫びに、思わず皆立ち上がる。
「モタモタしてたんじゃない。発せられるエネルギーのデータや軌道の計算、膨大な資料をひとつひとつ検討して、やっと今朝結果が出たんだ。サコン達は5日も寝ていないんだぞ!」
叱り付けるようなピートに、サンシローはハッとする。
他の誰よりも人喰いアメーバの恐ろしさを知っていたサコン。10歳のときからすでにソレと戦うことを定められていた天才。天才とは、「天から才を与えられた者」なのか、それとも「天のためにその才を使うことを定められた者」なのか。
「各自、ただちに配置に付く事。10分後に出動する。」
大文字博士が指令を出す。
「ラジャー!」
10分後。
ピートの声が響き渡る。
「 大空魔竜 発進!!」
☆ ☆
そのガス状なのか固体なのか、また敵なのか無害なものなのか。まだわからないソレに遭遇するのは一ヵ月後。 (恒星間航法についてはノーコメント。わたしは物理はさっぱりです。)
とりあえずその間忙しいのは研究班、通信班、機関部で。ゲッターチームら戦闘班は手持ち無沙汰である。確かに敵かどうかもわからないぶん不安はあるが、もともといつだって予告なしに襲ってきた敵とやりあっていた面々だけに、よくいえば臨機応変、はっきりいって行き当たりばったりには慣れている。
ということで、戦闘班はサロンでゆっくりお茶の時間。
「ところで隼人。おまえ、どうして2週間も前から御前崎研究所に来てたんだ?その『悪魔の彗星もどき』とやらが見つかったのは、5日前だって言うじゃないか。」
「相変わらずネーミングセンスのない奴だな。そのものずばりか。」
「うっせーよ!一発でわかるからいいじゃんか。」 (はい。ネーミングセンスが悪いのは作者です。何?今回のタイトル!)
ふくれっ面のリョウに平然としながら、
「サコンさんに教えてもらいたいことがあってな。それで一緒に調べている間に、そのモドキとやらにぶつかったんだ。」
「何を教えてもらうって?」
隼人はちょっとサコンを見る。サコンは軽く頷く。
「ゼーラ星人たちはゼーラ星が消滅する前に、都市全体を重力場エンジンで作られたシールドで覆い、残された全員が星を脱出した。 彼らはこれから先、自分たちの永住できる星を探して長い時間を旅する。地球は彼らを受け入れることを拒否したが、サコンさんは個人的に彼らの住める星がないか、探すつもりだそうだ。」
地球はその糧のすべてを全人類に平等に分け与えるならば、決して狭すぎる星ではないのだけれど。
人はより安楽な生活を望み、富を得ようとする。宇宙からみればまだまだ未開、発展途上の段階にある地球人としては当然の思考なのかもしれないけれど。それを差し引いても、人類は他の種族を受け入れるのに寛容ではない。同じホモ・サピエンスであっても肌の色や思想や宗教等の違いで争いは絶えない。
地球がゼーラ星人を拒絶したあの日。そのことに憤懣を感じながらも、誰もなす術を持っていなかった。自己嫌悪に陥り、無理にそれを意識の奥に押し込んだ。自分たちは切り離したソレを、サコンは見続けていたのか。
「ゼーラ星をブラックホールから救う手助けも、ゼーラ星人を星から脱出させる手助けも、地球に仮住まいさせる手助けもできなかったけどな。彼らが星から脱出できたのなら、まだ時間はある。住める星を探す手伝いぐらいなら、できるかと思ってな。」
サコンが静かに答える。
ダリウス大帝のもと、支配され重労働を課せられていたゼーラ星市民。その中の名もなき一人の科学者が、ゼーラ星脱出のためのあらゆる手段を模索し、考察し、都市全体を覆う重力場エンジンというシールドを開発した。ダリウス大帝が市民を置き去りにしたあと、ギリギリで、残された市民たちは吸い込まれていく母星から脱出した。
高い知能を育んだひとつの星の消滅。
暗黒ホラー軍団も、もとはといえば、星の滅亡を前に、すべての市民を救いたいと願った末にとられた案。合理性を追求するために、感情を持たないスーパーコンピューターに全権を委任したその策は、皮肉なことに市民たちを見捨てたものになってしまったが。
それでも一度生まれた「種」は、したたかに生きようとする。宇宙の放浪者となったゼーラ星人。いくら高い技術を持つとはいえ、移住できる星を見つけるまでには長い年月がかかるだろう。苦難の旅だ。長ければ長いほど、人の心は乾いていく。心が折れる前に辿り着けるだろうか。
他星への侵略を善しとしなかった彼ら。
ただ彼らの幸せを祈るだけでは、何にもならない。
「・・・・・・・・・・すごいな、サコン・・・」
サンシローが感心したように呟く。そうだ、地球を巻き込んだ戦いは終わったけれど、本当は、何も解決しちゃいなかったんだ。
「ゼーラ星の科学力も少し手に入れることができたからな。今まで望めなかったことも、可能性が出てきたんだ。」
少しも気負うことなく応えるサコン。
ちょっと静まり返った空気の中で、
「でも隼人。お前もそんなことを気にしていたなんてな。けっこう、いいとこあるじゃねぇか。」
少し茶化すようにリョウが言ったのに対して。
「俺は別に、ゼーラ星人を助けたいと思ったわけじゃない。」
「あん?」
「俺はサコンさんが開発した残留磁気追跡装置でゼーラ星人を追っかけて行って、都市型宇宙船を作るための『重力場シールド』とやらを手に入れたいと思っただけだ。といっても、自分たちの受け入れ拒否した地球人に、そんな大事なものをおいそれとは教えてくれないだろうからな。お返しに住めそうな星を探してやったらうまくいくかと思ってな。ギブアンドテイクってやつさ。」
しらっと答える隼人に、『相変わらず、言葉の足りん奴だ。』と思ったのはゲッターチームだけで。あとのメンバーは。ギョッとした目で隼人を見る。
サコンと隼人。
同じくらいの I Qを持ち、見た目も似ている。長身、黒髪、白皙。
知能はサコンが上回り、運動能力は隼人が上だ。だが、総合的な能力の差異よりも、性格・考え方の差異なのだろうか。人に与える印象は似ていて非だ。たとえば戦い方に対する考えにしても。敵に攻撃を諦めさせるための「破壊」と、諦めざるを得ないと思わせる「殲滅」。
「そう、悪ぶるな、隼人君。君が重力場シールドを手に入れたいのは、ハチュウ人のためだろう。もしまだどこかに生存していたら、マシンランドをシールドで覆いさえすれば、そのまま宇宙船になる。合理的で安全で、なによりも全員を助けることができる。」
「・・・・・・別に奴らのためじゃありませんよ。地球がゼーラ星のようになくなるってこともありえますから、その保険です。ただハチュウ人類は休眠種族だから、手段さえあれば宇宙を旅するのに適していると思っただけです。人間と違って永い時間を旅できる。地球で暴れられるよりはいいですからね。」
大空魔竜メンバーの隼人に対する心象を、フォローするような言葉を付け足したサコンに、隼人は無愛想に返す。
慣れているゲッターチームと違ってサンシローたちは、
『隼人って、結構わかりにくい、めんどくさい奴だな。サコンに似ていると思ったけど、性格はどっちかというとピートかよ。』(おいおい!)
「ところで、今、重要なことは、そのモドキとやらが本当に人喰いアメーバかってことだが、サコン、可能性は高いのか?」
「残念ながらな。人喰いアメーバに関しては、オレの勘は外れない。で、ゲッター線の関与についてははっきりしている。不明なのはどのように変化、あるいは進化しているかだ。あまり計算したくはないが。」
ピートの質問に、珍しくため息をつくように答える。
「どうした?なんとなく弱気にみえるが。」
心配そうなピート。
「攻撃方法もさておき、防御がな。以前のアメーバは大空魔竜に侵入してきた。ゲッター線バリアーが効けばいいが、あちらさんもゲッター線を利用しているところをみると無理だろう。50度ほどの熱に弱かったのも、今は強化されているだろうしな。耐熱の限界はどれほどかな。」
「おい・・・・・・・悪いことばかりじゃないか。プラス思考はないのか?」
サンシローが嫌そうに尋ねる。
「ゲッターチームが来た分、攻撃力が倍増したわけだ。敵が侵入する前に倒せばいい。」
「なんだよ、ちゃんと手はあryじゃないか。」
みんなホッとした顔になる。
「侵入される前に、ってところが厄介なんだ。敵を調査するには、ある程度近づかなきゃならない。」
「問答無用で攻撃、攻撃。ひたすら攻撃っていう手もある。」
いかにも科学者然としたサコンの穏やかな説明のあとに、隼人の冷たい笑顔。
「こ、好みとしては、もちろん攻撃だけどよ。」
言いつつ腰が引けているコンバットフォースメンバー。
「武器については、頼もしい助っ人が来ておいでだからな。」
クスッとサコンが微笑む。いや〜〜な予感。
「そういえば、お客さんって6人だったよな。リョウと隼人と弁慶と。それにミチルさんと元気ちゃん。あと一人は?姿、見ていないけど。」
ブンタが思い出したように言う。隼人が、
「フェイス・オープンしたガイキングから離れてくれなくてな。まぁ、あとで嫌になるほど顔を合わせるさ。実験とデータ収集が趣味だから。」
あはは、いましたね、そういう人。
顔も名前も浮かんだけれど、口にすると取り憑かれそうで、沈黙する両メンバー達だった。
☆ ☆ ☆
サコンの私室。
私服に着替えているサコンと隼人。この一週間、ほとんど休みを取っていない二人は、強制的に休息を命ぜられたのだが、数時間の仮眠のあと、またアメーバ対策を話し合っていた。
「やはり、鍵となるのは高熱だと思います。」
隼人がサコンに言う。
「ハチュウ人類はゲッター線から逃れるために、マグマ層に潜みました。わざわざ生活に不利なマグマ層を選んだのはそれなりに意味があるのでしょう。単に地中でよければ、巨大な空洞を作ることもできたはず。マグマの数千度の熱がゲッター線を防いだと言い切るには、ゲッター線が太陽から多く降り注がれることからいくと矛盾かもしれませんが。」
「すべてを理論で説明できるに越したことはないが、時間がない場合、事実で間に合わせられればそれでいい。太陽は場所によって、数千度から何百万度の幅がある。この際ゲッター線の起源は無視しよう。人喰いアメーバが熱に弱いのは事実だ。アレが自分の身を守ろうとしたれ、何よりも高熱に耐えられるように変化するだろう。だがそれを上回る超高熱を放射すればいい。ガイキングのデスファイヤーは20万度を超える。」
「なぜ、最初のときにソレを使わなかったのですか。たしか、ゼウスミサイルを作られた・・・・・」
「人喰いアメーバ自体は50度の熱で倒すことができたが、その分、熱に強い彗星に守られていたからな。デスファイヤーはたしかに20万度の熱線だが、ガイキングが放射できるのは一瞬のものだ。開放された宇宙空間では、とても集中して放射続けられるものではない。彗星を壊すにはとても足りない。だいたい、フェイスオープンは戦いの最中に急遽改造したものだったからな。」
「急ごしらえであれだけのものができるなんて凄いですよ。見せてもらっていた敷島博士は、よだれを垂らさんがばかりでしたよ。」
「ふふっ。あそこまでひとつのことに固執できるのは羨ましいくらいだ。極めようと思ったら、ああでなければ駄目なのかな。」
「極める必要があるかどうかは微妙ですが。ま、本人は必要性で生きているわけではないようですがね。」
隼人は先程ミドリが置いていったコーヒーを口にする。白い貌にかかる長い前髪。体にぴったりした赤いシャツに細身の黒いズボン。シャツの襟から金色の十字架が覗く。
「隼人君。そのクロスは誰かの記念品かい?」
「ええ、母の形見です。サコンさんのペンダントも?」
サコンは私服のときはペンダントを外に出している。
「ああ、俺の場合は父の形見だ。」
「・・・・・・・・・・地球の材質ではありませんね。」
慎重ながらも断定する隼人にちょっと驚いたように、
「よくわかったな、隼人君。」
「光の屈折率が金とは違うような。それに、なぜか不可思議な重厚さを感じます。」
父が遺した古代の御物。永い永い時間、砂漠の奥深くに眠っていたペンダント。サコンの白く長い指が静かに触れる。
「・・・・・・・何の証拠もないが・・・・・・・・・。おそらく、これは・・・・・・・<オリハルコン>だと思う。」
「オリハルコン??」
古代ギリシャの哲学者、プラトンが記した伝説の都市、アトランティス。高度の文化を持つその都市は、病気も貧困も争いもなく、人々は豊かで満ち足りた暮らしをしていたという。建物はオリハルコンという光り輝く強靭な金属で作られた。だがその都市は、火山の噴火で一夜にして大洋に沈んだという。遺されたのは伝説だけ・・・・・・・・
「本当、ですか?」
さすがに隼人も戸惑ってしまう。
「この地球において、到底信じられない性質を持つ金属って言う意味ならな。実際、どう呼ばれていたかは知らないが。」
ゆっくり首から外すと、ことり、と机に置く。
「大文字博士にだけ話したのだが、これはエネルギーの反響、増幅量が凄い。これの内部を通したエネルギーは、とてつもなく増大する。攻撃であれ、防御であれ。もしこれが何かの塔を作れるほど大量にあれば、アトランティスも海に沈むことはなかっただろう。たぶん、オリハルコンはアトランティスでも貴重な金属だったのだろう。この地球に算出しないのだから、他の星から持ち込んだに違いない。再び手に入れることの叶わない貴重な金属だ。・・・・・・・・・・・まぁ、たとえこれが本物のオリハルコンだとしても、今はペンダントとしての価値しかないけれどな。」
いたずらっぽく笑う。
「それよりも、現実だ。隼人君、新しいデータを入れて計算するよ。」
刻一刻と近づいてくる敵。やるべきことを、いま、やるのだ。
☆
「大空魔竜、ガイキング、スカイラー、レディ・コマンド。各機にデスファイヤーとゲッター線シールド発生装置を付けた。この4機でデスクロス・フォーメーションを組み、ゲッターシールドでアメーバ彗星を取り囲む。そして一斉にデスファイヤーを放射し、そこへゲッターロボがシャインスパークをぶち込む。」
以上だ。質問はあるか。作戦会議に集まった皆を前にして、サコンが聞く。
『凄い作戦だな、その、なんというか・・・・』
『そりゃ、すごいのはわかるけどさ、その、荒っぽいというか力任せというか・・・』
『いや、それでいいとは思うんだけどさ、なんかこう、・・・』
ヒソヒソと小声で話し合うメンバーの視線の先には、サコンと隼人、そしてこのうえなく嬉しそうな敷島博士がいる。
『この3人が組むとこういう作戦になるわけだ。』
『サコンは器用だから、いろんな武器を考案するけれど。』
『一番肝心なのは使い方だって、今わかったぜ。』
『ゲッターチームが強い理由はこれか。』
『隼人は徹底するし、敷島博士は派手だし』
「質問は?」
言いたいことがあるなら、とっとと言え、という副声音付で隼人が聞く。
「いや、その、そう簡単にいくか?シールドで囲んだら、敵の動きは止まるのか?」
隼人に慣れているリョウが代表する。
「馬鹿か、リョウ。」
呆れた声で隼人が言う。むっとするリョウに構わず、
「大空魔竜のゾルマニュウム鋼も透過するアメーバだ。ゲッター線も効かんはずだと言っただろうが。ゲッターシールドはデスファイヤーを一点集中させるために使うだけだ。敵は変わらぬスピードで動いているさ。」
「じゃあ、デスファイヤーを放射している間って・・・・」
サンシローが不安そうにサコンを見る。
「もちろん、各機もアメーバ彗星と同じ速度で動きながらということだ。デスクロス・フォーメーションは前方は大空魔竜とガイキング。後方をスカイラーとレディ・コマンドだ。前方の2機はデスファイヤーを発射するために後ろ向きになるわけだから、ちょっとやりにくいかもな。ピート、サンシロー。スピードを落とさないよう気をつけろよ。油断すると喰われるぜ。」
単純な作戦ほど高度な技を必要とするといういい例だ。いやー、戦闘は奥深いものがある。って。
「おい、命がけじゃねぇーか!」
おもわず当たり前のことが口に出るサンシローに、
「心配なら今から練習してこい。」
平然と答える隼人。
「遭遇まで、まだ3日ある。」
「他に質問はあるかね。」
鷹揚に大文字博士が尋ねる。ギクシャクしかけた空気がやわらぐ。
「ちょっと失礼かもしれませんが。」
ブンタが控えめに声をかける。
「なんだね、ブンタ君。」
「その、レディ・コマンドなんですが、ミチルさんひとりで大丈夫ですか?いえ、腕を軽んじているんではないのですが、デスファイヤーは20万度でしたよね。ガイキングや大空魔竜はともかく、スカイラーやレディ・コマンドではいくら防護したとはいえ、反射熱や反動もすごいんじゃないですか。」
「気を使ってくれてありがとう、ブンタさん。でも大丈夫よ。スカイラーもレディ・コマンドも強化ゾルマニュウム鋼でコーティングしたし、ゲッターシールドも掛けるの。パイロットも強化ゾルマニュウム鋼でできたパイロットスーツを身に着けるし、それに」
「あれって、すごく重いぜ!」
サンシローが口をはさむ。
「前に俺が着たとき100キロだっていってた。今回は歩く必要はないんだろうけど、それでも腕を動かすのだって、女の子には無理だ。」
ありました、ありました。酸素が5分しか持たないって言う、深海用潜水服。
「人の話は最後まで聞け、サンシロー。」
サコンがかるく制する。
「レディ・コマンドに乗るのはわたしではないわ。隼人さんよ。」
「ええ?」
「ミチルさんにはライガーに乗ってもらうんだ。合体やシャイン・スパークのタイミング合わせなら、弁慶や武蔵より上手いぜ。」
からかうように言うリョウに、「悪かったな!」とふくれつつ反論しない弁慶。
「隼人は作戦とか開発とか、でゲッターに乗れないかもしれねぇとわかっていたからな。本当は武蔵を連れてきたかったんだが、まだ怪我が治っちゃいねえ。で、ミチルさんに頼んだんだ。」
「ミチルさんは普段もよく俺たちと哨戒飛行や訓練に付き合ってくれてるんだ。最近隼人はさぼってばかりいるから。」
「さぼって、というのは早乙女博士に言ってくれ。博士が所長の仕事を放って研究室に閉じこもってばかりいるから、あとの雑用が全部俺のところにくるんだ。」
「いつのまにか隼人の肩書きに、所長代理ってついてたな。」
あははと笑うリョウと弁慶。隼人は憮然とし、ミチルは苦笑いしている。
『才能ある人間がこき使われるのは、どこも同じだな。』と大空魔竜の誰かが思ったとか思わなかったとか。
「そういうわけでレディ・コマンドの操縦については心配ない。サンシローもリーも、不安なら誰かを補助に付けるといい。」
「・・・いえ、今から訓練してみますよ、おおせのとおりに!」
あっ、サンシロー、ちょっと拗ねてる、と思ったが、負けず嫌いだからかえって熱心にやるだろう。
「ファン・リー、防護服も改良してある。今から着て操縦してみてくれ。」
全員、それぞれ部屋を後にした。
☆ ☆
肉眼で捕らえた人喰いアメーバは、まるで悪意が渦を巻いていると錯覚させる姿だった。黒くどろりとした塊。不安定に歪んだ・・・・・
速度をなんとか保ちながらデスクロス・フォーメーションを組み、デスファイヤーを限界まで放射。そこにシャインスパークが加わったとき、あたかも星が爆発したかのようだった。
シャインスパークが放たれる瞬間に隊形を解き避難した各機は、爆発時の波動に弾き飛ばされてしまった。大空魔竜とガイキングはなんとか意識を保っていたが、スカイラーとレディ・コマンドは連絡がとれなかった。全員おおいにあせったが、事前にミドリはスカイラー、ミチルはレディコマンドを、それぞれそれだけを捕捉しておくよう言われていたため、データが途中で途切れたとはいえ、方向に大きなまちがいはなく、しばらくして探し出すことができた。
やれやれ、もう安心だ、地球に帰ろうと喜ぶ乗組員たちだったが。
自分たちが助かったのだから、人喰いアメーバの生き残りもいるかもしれない。少なくともスカイラーやレディ・コマンドが飛ばされた空域までの検索を怠るわけにはいかない、とサコンが言うのに付記して、ついでにこのあたりに生物の居住可能な星がないかも調べておこう。こんなとこまで滅多に来れないのだから、と隼人。自分が御前崎研究所に来た用事をきちんと覚えておいて、ちゃっかりと皆に手伝わせる指揮能力。
「なあ、サコンは自分が天才だから、ほとんど自分でなんでもやってしまうだろ?」
「ああ、そうだな。何かやろうとすると、すべてお膳立てされているな。」
「隼人はサコンほどの才はないけれど、その分、人を使って同じ結果を出すようだな。」
「オレ、早乙女研究所の所員でなくてよかったよ。」
恨めしげな会話が交わされる中。
サコンと隼人はめまぐるしく変化するデータの整理に没頭していた。
「・・・・・・・・サコンさん。本当に人喰いアメーバは消失したのでしょうか。」
「あの爆発時のエネルギーならば、おそらく消滅したとは思うが。あれほど強烈な波動だ。もしかしたら次元の割れ目ができて、どこかの時空に落っこちたかもしれないな。」
「その次元の者にとって、迷惑になっていなければいいですがね。」
人喰いアメーバを倒してほっとして、珍しく軽口をたたく。
次の仕事はゼーラ星人が、あるいはハチュウ人類が住める星を探すのだ。
どこかの次元で
インベーダーが現れるのは
また別なお話・・・・・・・・・
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ゑゐり様 10000番 リクエスト。
お題は 「大空魔竜ガイキングと ゲッターロボの コラボ 」
もしくは 「Sagaで カムイと隼人」
なのに、これじゃあ、「サコンと隼人のコラボ」ですよね。まぁ、ここまで好みが徹底していますと、我ながら感心しますわ、うふふ。
どうもすみませんね、いつもいつも。
でも、カウンタ 10000ですよ!皆様ありがとうございます。そしてゑゐり様、リクエストありがとうございます。スルーされてたら、やっぱ寂しいものですから。
というわりには、これですがね。(謝!)
スパロボ風にするつもりで、ほかの方にもアドバイスいただいていたのですが、なんと今回、パソコンが壊れてしまったんです。ウィルス防止ソフトの更新も済ませてたし、パソコンもまだ3年しか(?)使っていないんですがね。ところで、スパロボを題材としたコミックや本はとても好きなのですが、ゲーム自体をコツコツクリアしていくのはどうも苦手です。もっと、本が出ないかなぁ。
あ、もうひとつのお題、「カムイと隼人」も、もちろん受けさせていただきます。貴重なお題、失くしてなるものですか。もったいない。もったいないオバケが出ますわvv
ご挨拶が遅くなりましたが、今年もよろしく、お付き合いくださいませ。
(2007.2.4 かるら )