神々の祈り
      
  
       
星を継ぐ者よ 昨日を忘れるな-------

          ---------命を継ぐ者よ 明日を失うな








                          






      「お前なら、地球を守れるかもしれん。」



 蒼穹のチチェン・イツァ、エル・カスティーヨ。メキシコ ユカタン半島の北部。失われたマヤ文化。
 暦のピラミッドと呼ばれる遺跡の前で、考古学者サコン・リュウは自分の幼い息子に
 そう告げた。

 マチュ・ピチュ、ティオワカン、古代アンデス文明の遺跡は、天空の彼方、密林の奥、突如現れそして途切れる。人だけが掻き消えたように。
 紀元前2000年前から14・5世紀までの長い間、何故これほどまでに不便な土地で、人々は変わらぬ暮らしに甘んじていたのだろう。海の幸豊かな海岸線や、大地の恵み溢れる平地など、豊かな土地はあり余るほどあったのに。
 侵略者達が襲ってくるまでに、もっと広い土地に満ちているべきだったのだ。一体、彼らは何に縛られていたのだろう。
    伝説-----失われた記憶、そして伝えられた 記憶。



         

                  ☆                ☆




 高地の夜は冷える。
 遺跡から少し離れたところに張られた天幕の中で赤く揺れる炎。掛けられたコッヘルの湯が沸くと、ココアをコップに入れてやる。小さな白い手がそれを受け取ると、次に自分のために熱いコーヒーを淹れる。
 サコン・リュウ博士、35歳。年中遺跡を歩き回っているにしては、陽に焼けない体質なのか整った白皙、細身ながらしっかりした筋肉を感じさせる長身の男だ。3、4歳は若く見える。向き合ってココアをすするのは、一見女の子に見られるが、博士の息子、サコン・ゲン8歳。父親に似た白い肌と漆黒の髪、意志の強そうな黒曜石の瞳を持つ。幼いながら「理知的」という言葉が浮かぶ、不思議な雰囲気がある。
 「エジプト、インダス、メソポタミア、中国。四大文明と言われる古代文明は、およそ今から6000年前に発祥されたと言われている。だが、その古代文明には、更なる古い記憶、<伝説>が伝えられている。」
 ほのかな灯りの中、父は子に語りかける。
 「四大文明にばかりではなく、この北アメリカにも他にも伝えられている『洪水伝説』。それは今から1万2000年前に起きた災害だ。世界各地の伝説や放射性物質の増減、地層の断層などから、それが実際にあったことだと確定しつつある
 洪水の記憶は至るところにある。中央アメリカではやまの頂上まで水がきたという。ギリシャは丘や高い木まで水に埋もれ、ペルシャでは人間の背丈ほど、ああ、聖書ではアララト山の頂上と云うな。
 つまり、古代文明に過去の災害を伝えることの出来た文明、超古代文明が地球には存在したのだ。」
 「太西洋に沈んだというアトランティスや、太平洋に消えたというムー大陸のことですか?」
 目を輝かせて問う幼い息子に、サコン博士は穏やかに答えた。
 「そのような大陸が実際あったかどうかというのは、さほど重要なことではない。」
 父の言葉に、サコン・ゲンは少し首を傾げる。
 「確かに考古学というものは、失われた記憶をたどり、真実を追究することが大きな指針だ。だが私の求めているものは少し違う。私は過去の記憶ではなく、未来への警告を求めている。」
 「考古学が未来の警告ですか?」
 不審そうに首を傾げる様は幼く、年相応であるが、口にする言葉は大人びている。
 「そうだ。仮に大きな災害・洪水があったとする。世界各地に同じように伝えられているとすれば、それは同時期に起きた地球規模のものだ。そしてそれは地域によって災害の規模が違う。人の背丈までであったり、高い山を越えたりという違いは、満潮や引き潮に影響されたためだろう。そしてそのような災害は、天体によって引き起こされる変化でしかありえない。」
 語られる言葉は、眠りにつくためのおとぎ話にしては重すぎて。しかし、幼いながら強い光をもつ瞳は、じっと父の言葉をかみ締める。
 「いくつかの説がある。彗星が地球の軌道の近距離を掠めたとか、星が爆発したとか地軸がずれたとか、隕石が落ちたとか。私はその中で彗星説を採る。」
 「それは何故ですか、父様。」
 「かつて、木星と火星の間には、太陽系のもうひとつの兄弟星があったといわれている。いま小惑星帯と呼ばれるそれらのかけらをすべて合わせると、優に水星ぐらいの大きさがあると。散らされたかけらの中には、火星の月 フォボスやダイモスぐらい、いやもっと大きなものもあったかもしれん。」
 熱に浮かされたように語る父親を、息子はじっと見詰める。それに気づくと、少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、
 「ギリシャにあったと伝えられる国アルカディアには、ひとつの伝説が伝えられている。洪水以前には、地球から見る空に月はなかった、と。」
 「月がないですって?!」
 「このマヤの年代記にも、月についての記述はなにひとつない。夜空に輝いていた一番明るい星は、金星だったそうだ。」
 「どういうことですか。」
 「憶測の範囲を越えないが、あるとき太陽系に彗星が現れた。その彗星は移動中、木星と火星の間にあった小さな惑星を砕いた。そのまま、そのうちの大きな欠片------月------を地球の軌道に引っ張ってきたのかもしれない。その際の天変地異で、地球各地で洪水等の災害が発生したと考えられる。」
 壮大な------というより信じがたい------そんな大胆な説を口にしながらなお、父の口元には苦い笑みがあった。
 「父様?」
 不安そうに見上げる我が子に、
 「・・・・・・・・・到底信じられない、どんな不幸が過去にあったとしても、それが現在の人類に害のないことであれば、何も言うことはない。それほどまでの不幸を乗り越えて人類がここまできたのなら、すばらしく嬉しいことだ。あるいは、そのような天変地異なぞなくて、ただの虚構であったとしても、何ら現在に影響はない。だが、もし未来、これから先の世界に災厄が再び訪れるのだとしたら・・・・・・・・・・・・」
 苦しげに呟くサコン・リュウ。漆黒の瞳は深い闇を映している。ゆらめく赤い炎。高地を渡る乾いた風の音。
 「父様は何を知っておられるのですか?」


 わずか8歳の子供だというのに、息子の口調はいつも大人びていた。特にそのように躾けられたわけではないのに。
 サコン・ゲン。
 その知能が並々ならぬものであることを、回りにいる誰もが知っていた。彼が1歳を迎える前に母親は病死した。その後、ずっと父親の遺跡調査に連れられてきた。さすがに父親もしばらくはジャングルの奥地や未開の土地などは避けていたが。
 子供は泣いたりむずがったりしない子だった。いつも皆の邪魔にならぬよう、荷物の横でじっとしながら、せわしなく働く大人たちを見ていた。そして言葉を話すようになったとき、父は愕然とした。現地で雇った通訳よりも確かな発音で、息子は現地の言葉を話した。現地の言葉、通訳との会話である英語、そして父と語る日本語。
 原住者の言葉に専門の語彙はない。「大きな山」「悪い土地」、「良き人の住む谷」など、身振り手振りで語られる単純なものだ。それでもなおのこと、聞き取りにくい発音や理解しにくい単語を、この2歳になるかならないかの幼子はなんなく操ることができた。
 「どうして意味がわかるようになったのかな?」
 腰をかがめ、視線を合わせて尋ねる父親に、息子は困ったような顔をした。
 それから後も訪れる国、土地の言語を、この子供は数日で使えるようになった。やがて文字の読み書きもこなせるようになったとき、父親は自分の生涯を賭けたただひとつの願いに希望を持った。

   『この子なら、人類を、地球を救えるかもしれん』

 
 「ゲン、私自身が知っているのではない。予感とも予言とも違う。私の裡にある記憶、DNAに引き継がれた記憶、という言い方が一番近いかもしれないな。」
 「DNAの記憶、ですか?」
 やはり首を傾げる息子の苦笑しながら、
 「確かにDNAを基としたクローン人間が創造されるとしても、その記憶までを引き継ぐものではない。だが、本当に伝えたい記憶、伝えなければならぬ記憶は、幾千年、幾万年の歳月を過ごそうと、息を潜めて眠っているものだよ。」
 「それが父様に目覚めた、というのですか。」
 「目覚めた、というには語弊がある。ただ私は、『近い将来、人類にとって大きな災厄が来る。』ということを確信しているだけだ。理由も証拠もない。そして、それがどのようなものであるか、これについては予想でしかない。」
 「・・・・・・・・・・彗星・・・・・ですか。でも、どうして彗星なのです?兆候があるのですか?」
 「世界中の遺跡に共通するもの、それは何か。このチチェン・イツァにもある建造物。<暦を調べる>、イコール天体観測の神殿だ。
 エジプトのピラミッド、バベルの塔、アンコールワットの寺塔。シュメールのジッグラトなどいくらでもある。
 実際に人が生きるのに天体観測の建物などたいして必要ない。船乗りは天の星の位置だけで天気や潮の流れを読む。農業もしかり。夜空を見上げるだけで、生活に必要な知識は得られる。極論をいえば、中世まで信じられていた天動説で、人は何の不都合もなく生活していたのだから。
 想像してごらん。大災厄の後、人類は大多数の命を失った。残された人間で復興できるものは限られている。資材も労働力も著しく不足している。もし、その災厄が再び来るものではないと思われるものであれば、生活そのものを第一とした復興に力をいれるべきだ。それなのに、どの遺跡をみても、一番精力を傾けられたのは天体観測所として考えられているものだ。
 再び訪れるかもしれない、いや、訪れる確率のほうが高い災厄だとしたら・・・・・・それに対する備えをしなければならない。それが遠い先の未来のことであっても、いや、遠い未来であれば尚更、失われることなく、警告を残しておかなければならない。」
 手にしていたコーヒーを飲もうとして、それがすっかり冷めてしまっていることに気づく。
 「眠くないか、ゲン。」
 子供には遅すぎる時間であることに気づいた。
 「いいえ、大丈夫です。もっと聞かせてください。」
 再び熱いココアとコーヒーを淹れる。伝えなければならないことを、知るべき者に伝えるために。
 「1万2000年以上の地球に、私は2つのヒト種があったと考えている。ひとつは超古代文明を創りあげた種。もうひとつは、フランスのラスコー洞窟に絵画を残していた種だ。この2つの種は、おそらくお互いの存在を知ってはいても、交流することはなかったと思う。もっとも、同じ地球の上にいるのだから、全く無視し合うわけにはいかなかっただろうが。」
 少し笑いを見せて、
 「ひとつ、大胆な仮説を立ててみよう。
 かつて地球には今よりもはるかに優れた文明があった。それは現在アトランティスとかムーとか、レムリア、アルカディアと呼ばれているものだ。そしてまた、それ以外の大地には、洞窟に住み獣を追い魚を取り、日々の糧をつましく得ている人々だ。この2つの種は、お互いの生活圏を守っていた。なぜなら洞窟に住む人には高度な文明は理解できない恐ろしいものでも会っただろうし、文明を持つ人々は、自分達の干渉が決して相手のためになるとは限らないと知っていただろうから。
 考えてごらん。もし、共に暮らし、様々な助言をしたところで、ただ神として敬い畏れ、またその能力を羨むだけだ。自分達の未だ幼い独自の才能というものを、伸ばそうとする意力がなくなってしまう。どれほど努力したところで及ばない、想像を超えるほどの能力を目にしていれば。
 それはひとつの種の滅びを意味する。」
 「その高度な文明を持つ者達は、始めからこの地球で進化したのですか?」
 「それはわからない。だが、いま重要なのはそこではない。世界は多くの謎に満ちている。それらを解明するには、人の寿命はあまりに短い。自分の一番望むものに力を尽くすしかない。その疑問は誰かが、もしくはお前自身が解明するかもしれない。
 だが、その前に、私はお前に伝え、引き継いでもらいたいことがある。」
 一言一句逃さずにじっと父を見詰める。
 「2つの種がそれぞれこの地球で平和に暮らしていた。そこに彗星が訪れた。
 高度な文明をもつ人々は逸早くその異変を察知することができただろう。直ちに被害を最小限にするための行動がとられたのは間違いない。いろいろな観測結果から、大洪水が地球を襲うとわかったとする。そうなると、すぐに脱出のための機械、飛行機や飛行船、あるいは安全な土地へ行くための船とか車といった移動手段の手配を為しただろう。それくらいのことは簡単だったはずだ。ノアの箱舟などの話は世界のあちこちにある。もちろん、その船にはもうひとつの種もいた。救えるものは全て救おうとしたはずだ。
 そして、もっとも被害の少ないであろう場所で、その<時>を待っていたと思う。」


 <その時>
 大地は裂け、海は唸り、空は狂う。
 ふたつの<種>は肩を寄せ合い、息を潜め、襲い掛かる不幸に怯えながら、それでも不幸の去ったあとの平穏を信じていた。
 早くから予知し、彗星が地球の近くを通過するものの、潮位の変化や火山の爆発、その他の自然破壊は考えられる範囲のもので。それによって確かに文明は大打撃を受けるが、人々がいる限り、復興はすみやかに為されるだろう。島大陸が沈んでしまっても、地球に大地は限りなく広がっている・・・・・・・
 だが。
 水が引いたあと。
 ひとつの種が。

  消えた。


 そして人類は、ゆっくりと進化し始めた。
 かろうじて、何らかの理由で生き延びた少数の超古代人は、
 世界に散らばり、各地で塔を建て、ピラミッドを造り警告した。

   『 アレは 再び来る。いつか必ず。忘れるな。注意を怠るな。 』


 「人類は絶滅を防ぐため、世界各地に散らばった。固まって暮らしていれば、一瞬で滅びることもあるだろうから。
 ここの遺跡があまり古くはないのは、多分、記憶を持つものたちが徐々に奥へ奥へと入っていったからだろう。最初は海の側とか、もっと生活に有利な所に住んだと思う。しかし、生活が豊かになれば、精神的なものは失われる。聖書でもソドムとゴモラの壊滅など、神の怒りを伝えようとしている。忘れてはならない記憶を失うことを恐れ、指導者たちは禁欲的な掟や法をつくり、神官に力を与えた。そして他に楽しみのない、他との交わりを許さないこんな不便な高山にピラミッドを建てたのだろう。すでにピラミッドの意味も願いも知らず、ただ古から伝わる『 祈り 』を伝えるために。せめて、形だけでも伝えるために。」
 「それで父様はここに来たのですか。」
 「エジプトでは伝えるべきものを失わないためにと、富で人を引き止めた。やがて富が重視され、祈りは遠くなっていった・・・・・・だが、エジプトには、そのために「モノ」があるかもしれない・・・・・・このマヤやインカ、オルメカには、失われた記憶の欠片があると思っている。」
 いつしか夜は白々と明け始めていた。2人、天幕の外に出て、今まさに昇らんとする太陽に目を向ける。ピラミッドを背にした壮厳なまばゆい光。太古の息吹。
 「父様。僕も一緒に、失われた記憶を探します。」
 頬を紅潮させ、目を煌めかせる息子に、
 「いや、お前はここの調査を終えたら日本へ行くのだ。」
 「え?!」
 「日本に大文字洋三という男がいる。まだ大学に残って研究を続けている27歳の科学者だ。専攻は宇宙物理学。私の恩師にあたる教授の紹介で知り合ったが、若いがしっかりした知識と常識を持った正義感の強い人物だ。
 お前には年相応の学校は必要ない。それは無駄でしかない。大学生くらいの学力であれば独学で身につく。お前は知りたいことをコンピューターや各論文、講義などで得ることができるだろう。彼には私からお前の後見役を頼んでおく。」
 「何故ですか。父様の側にいても学問はできると思います。」
 「お前は求めれば求める以上の力を身につける事ができる。設備の整ったところで勉強するのだ。それに、探すのはお前ではなく、私の仕事だ。」
 「?」
 「私の仕事だ、<探し出すこと>。失われた記憶を呼び出す何かを、見つけるのは私の仕事だ。おまえは----------私の探し出したものを読み取り、その指示に従うのだ。」
 「指示に従うといっても・・・・・・・」
 「解析し、必要なものを創り、それを使って命を守る。この彗星から地球を救えるのは、お前の頭脳だけだ。」
 「僕はそれほどのことが出来るでしょうか。」
 さすがにゲンには、押し付けられたものの大きさがわかった。
 「心配ない。」
 父は穏やかな微笑を浮かべて応えた。
 「お前はひとりではない。お前を助け、お前と共に力を尽くす仲間がいる。」
 「それは、すでに解っているのですか?」
 「お前の母の言葉だ。」

 遠い日。
         ------------親子の縁は 薄いけれど、貴方には心強い仲間がいる。
                  この地球に、 また、他の星に ---------------

      胸に眠る愛しい幼子に、哀しげに、それでも詠うように ささやいた。




   
         ☆           ☆             ☆




 父と子が別れて2年後。
 サハラ砂漠で消息を絶った調査隊に、サコン・リュウ博士の名があった。その後、遺体が見つかったのは彼ひとりだった。そのため、様々な憶測や中傷が飛び交った。
 その手に握り締められていた、半分に割れたペンダントと手帳だけが、幼い息子の手に渡った。

      「我、幻のピラミッドを発見せり。 砂漠の魔王・・・・・・赤サソリ・・・・・・」





 10年後。
 東西大学御前崎研究所所長 大文字洋三は、国連の地球防衛特別部隊として、移動戦闘旗艦 大空魔竜を建造した。主なメンバーは、リーダーであるピート・リチャードソン、ガイキング操縦者 ツワブキ・サンシロー、スカイラーパイロット ファン・リー、ネッサーパイロット ハヤミ・ブンタ、バゾラーパイロット ヤマガタケ、通信担当 フジヤマ・ミドリ。おまけに小学生のハチロー。
 そして、助手であり、大空魔竜の制作者、IQ280の科学者 サコン・ゲン。


    地球人を皆殺しにして星を乗っ取ろうと企むゼーラ星人との戦いが始まった・・・・・・・・








          --------*----------*-------*------



 後書きならぬ、中書き

  先回に引き続きいただきました。
  ゑゐり様4500番リクエスト!
 お題は 「大空魔竜 ガイキングで、サコン博士親子の遺跡探検」

 わーい!!私の大好きな大空魔竜!!!これだからリクエストって好きですよ。書きたくてもご存知ない方多いだろうな-----と思って遠慮していたものを、「リクエストだもん、知らない方には悪いけど、書いちゃうもんね------」 (・・・・・・・性格イイね、かるら君)と、個人的に舞い上がりながら書き始めたリクエスト。あれ?探検してる?
 ガイキングは資料があまり出ていないので、ゑゐり様にいろいろ教えていただいたのに関わらず、これ?いえ、つい説明ばかりが長くなりまして。・・・(言い訳が長いよ!)

あの、まだ、続きます・・・・・・(汗!!!)




            ---------*-----------*--------*--------*-------    






  「やけに執心しているじゃないか。ろくに眠ってもいないだろう。」


 御前崎研究所の中央コンピューター室に、金髪の若い男が眉を顰めながら入ってきた。

 「ピート。」
 「それは、もう終ったんじゃないのか?」


 指を示した先には、サソリの絵柄が刻まれたペンダントが、金色の光を放っていた。



                         ☆



 数ヶ月前。
 サハラ砂漠でイギリスの探検隊が消息を絶った。
 18年前、考古学者だった父親を同じサハラ砂漠で失ったサコン・ゲンは、大空魔竜をサハラ砂漠へ向かわせた。「たかが数日消息を絶っただけでわざわざ大空魔竜を出動させるなんて。」という声もあったが、サコンの父、サコン・リュウ博士の友人でもあった大文字博士は出動を決めた。そして、サコン博士の手帳に書き残されていた幻のピラミッドを発見したサコン・ゲン達は、それがゼーラ星人の基地となっていたことを知る。何故かゼーラ星人は、このピラミッドのことを知っていたらしい。そして、砂漠の魔王と赤サソリというのは、不死身の大ロボットとサソリンガーのことだった。ピラミッドは発見したものの、そのまま捕まっていたサコン達は、大空魔竜とガイキングのおかげで脱出することが出来た。その際、仲間と外れピラミッドの玄室探し出したサコンは、そこに自分の持つペンダントの片割れを見つけた。合体させたペンダントはコンピューターの分析により、魔王ロボットとサソリンガーの弱点を示し、これを倒した。


 「そのペンダントに、まだ気になることでもあるのか?」
 傍らの椅子を引き寄せながら、大空魔竜のリーダー、メインパイロットのピート・リチャードソンは問いかけた。気難しく、つい高圧的な態度を取ることが多く、他のメンバー、特にサンシローと言い合いになるが、その能力はリーダーとしてもパイロットとしても申し分ない。つい仲間に対して斜に構えた態度をとるピートも、大空魔竜の頭脳であるサコン・ゲンに対しては、友情と親愛の情を持ち一目置いている。
 「あのときは魔王ロボットとサソリンガーを倒す方法ばかりが気になっていたが、俺の父はそんなものを求めていたんじゃない。父は命を賭けてこのペンダントを残してくれた。読み取るのは俺の仕事だ。」
 ピートは手に取ってみた。一見、特に変わったところのないペンダント。金?光の加減か、不思議な光彩を放っている。
 「だがサコン。おまえ、通常の任務だけでも手一杯のはずだ。体のことも考えろ。」
 大空魔竜の総責任者は大文字博士だ。しかし、博士は国連との折衝などで忙しく、大空魔竜の実質的な管理・運営はすべてサコンが受け持っている。機械の整備や様々なデータの確認、指示、その上武器等の新開発も課せられている。
 「敵のピラミッドに捕まっていたときのことなんだがな・・・・・」
 ちょっと言葉を濁しながら、サコンは言った。
 「ある一室でひどく頭が痛んだ。マザーコンピューターの部屋だったんだが、あれはちょうどピラミッドの中心部にあったんじゃないかな。」
 「?それがなにか?」
 「何故かはうまく説明できないが、<ピラミッド・パワー>というものが俺に作用したらしい。おかげで知能指数が少し上がり、前よりも多くの事象を素早く処理できるようになった。だから、お前が思うほど体も疲れちゃいない。」
 おい。
 簡単に言ってくれるが、サコンは確かIQ280じゃなかったか?普通、150以上で天才というらしいが、今までだって超天才だったのだろう。もっと上?
 「少し上がったって、一体いくつになったんだ?」
 「340。まあ、おかげでこの間、調子の悪くなっていたコンピューターを早期に修理できて便利だった。」
 ということは。コンピューターを凌ぐ頭脳ということなのか?
 ピートは2人分のコーヒーを淹れ始めたサコンを見詰めた。
 大空魔竜のメインパイロットとして選ばれ、この御前崎研究所に来て始めて紹介を受けたとき、自分よりも少し年上だろうとは思ったが、7歳も上だとは思わなかった。いや、落ち着きとかは充分頷けるものだったが、秘めた情熱、というか、裡にある毅然とした強さに惹かれた。
 ピートは、自分自身、決してリーダーとしての特性を完全に満たしているとは考えていない。冷静沈着。技術は超一流と折り紙を付けられ、大空魔竜の戦闘チームリーダーとしてここに来た。だが、仕事の完璧さを求めるあまり、他のメンバーと摩擦をおこしていることもわかっている。ファン・リーやブンタは武術者としての落ち着きがあるせいか不満もださないが、サンシローやヤマガタケ、特にサンシローはこの大空魔竜が地球防衛のための戦闘部隊であることの認識が薄い。個人のケンカではないのだ。勝つための合理性や非情を、あいつは認めようとしない。そしてオレはそんなサンシローに、ついムキになってしまう。
 オレはなかなか人に対して素直になれないが、サコンといると気持ちが安らぐ。何故だろう。サコンはオレよりも無口で、仕事以外に目を向けたりしない奴なのに。
 「ほら。」
 熱いカップが手渡される。
 「ああ。サンキュ。」
 芳しい香りに暫し沈黙する。
 「ピート。皆はなにをしている?」
 思い出したようにサコンが問う。
 「相変わらずだ。ちょっと出動がないと、サンシローとヤマガタケはすぐサボりたがる。今日は町へ買い物にいくみどりにくっついて行った。ファン・リーはいつもどうり稽古に励んでいるし、ブンタはハチローに付き合っていたな。」
 不機嫌そうに答える。
 「それよりもサコン。さっき、ちょっと聞いたけど、お前の父上は何を探していたんだ?考古学者だったと聞いていたが、遺跡そのものを探していたんじゃないのか?読み取るとは・・・・・・・」
 問いかけながらも、少し顔を曇らせたサコンに、
 「いや、別に無理に聞きたいってわけじゃない。」
 「いや、かまわないさ、ただ・・・・・」
 テーブルに置かれていたペンダントをゆっくり手に取り、見つめながら、
 「俺の父は世界各地にある洪水伝説にひとつの仮定を持っていた。彗星が地球の近くを通過し、その影響によるものだと。この説はいまも賛否両論あるが、父の関心は別のところにあった。
 かつて超古代文明を興した人々がいた。そしてまた同じ頃、洞窟で暮らしていた人々もいた。共に洪水を経験し、残った人々が力を合わせて次なる文明、古代文明を築いた。だが、その文明には、どこであれ、天体観測のための建造物が建てられた。それはすなわち、再び天変地異が起こるからに他ならぬのではないか。そして、その天変地異に付属してくる「何か」こそが、真に災厄と呼ぶものではないのか。父は<悪魔の彗星>と言っていた。」
 「<悪魔の彗星>?それは何か、病原菌でも持っていたのか?」
 「その考えはかなり的を得ていると思う。だが、ひとつ大きな問題がある。洪水のあと、人類は以前ほどの文明は望むべくもないが、段々と生活圏を広げていった。それが出来るほどの人口はいたわけだ。だが、それは超古代文明を築いた「種」ではない。片方の種が生き延びたのに、もうひとつの種が同じ病原菌で滅ぶということがあるだろうか。共に同じ地球の大気の中で生きてきたのに。どこに差があったのだろう。科学力や医療は、超古代人の方が優れていたはず。生き延びた超古代人は少ない。それでも、かろうじて死なずに済んだのには、何か理由があったはずだ。
 父が求めていたのは、その謎を解く鍵だった。」
 「何か手がかりはあるのか?」
 ピート自身考古学には興味を持っている。はるか昔、どんな人々が、何を考えて暮らしていたのだろう。これほどの遺物をのこして何処へ逝ってしまったのだろうと。だがそれは、一種の郷愁めいた浪漫でしかない。想いを馳せるけれど、それ以上でもそれ以下でもない。ましてや、現在の危惧、未来への警告とは考えにくい。それなのに、ただでさえ困難な遺跡発掘に未来を思い、命を賭けたとは。ふと、亡きサコン博士に畏敬の念を覚えた。
 「手がかりは、DNAの記憶だと言っていた。」
 「DNA?]
 また突拍子もないことを言う。思わず聞き返したピートに、
 「大洪水の後、地上に満ちた人々とは現在の人類だ。だが少数の超古代人もいたわけだから、お互いの交合もあっただろう。2つの種が交じり合ったDNAが永い間 、連綿と受け継がれ、時には目覚めることがあっても不思議はなかろう。」
 「それがお前の父上だったのか?ではお前も?」
 確かにIQ340というこの超天才は、人間をはるかに超えている。
 「血は薄められ、世界各地に広がっていると思う。何も俺たち親子が特別ではないさ。俺の祖父母のことは別に聞いていないしな。」
 「お前ならすんなり頷けるがな。」
 真面目な顔で言われ、苦笑しながら、
 「父は鍵となるものを手に入れるためにエジプトへ行った。エジプトはファラオ( 王 )と神を同一視しているからな。「聖なる物」といわれるような富は、すべて宝物庫とか墓に埋葬されているはずだ。盗人や神官がちょろまかしていたこともあるだろう。マヤやインカだと神への供物として底なし沼や聖なる谷とやらに投げ込まれたりしたからな。探し出すのは困難だ。結局、「聖なる遺物」の残されている可能性が高いのがエジプトだった。」
 「それがそうなのか?」
 サコンの手の中のペンダントを指す。
 「これは金で出来ているのではない。現在の地球ではまだ未知のものだ。父はこの半分を手に入れるのが精一杯だった。だが、これには記憶が刻み込まれている。」
 「そういえば2つ揃ったとき、魔王ロボットとサソリンガーの設計図が浮かび上がってきたな。」
 「あの図はおまけみたいなものだ。直接脳に訴える、残留思念もようなものだ。最もそれも、図に顕す事ができるかもしれないな。」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 「そう身構えるな。もともと「 モノ 」には思念エネルギーが込められる。吸血鬼が苦手なクルスや悪魔祓いの聖水は、それらに込められた信仰の力だ。自然の草や木、石にも意志エネルギーはある。それゆえ妖精たちは信じられてきたし、身近な例では<形見の品>だ。持っているだけで安心できたり、ときには災いを跳ね除けたり。エネルギーの強弱は別として、込めようと思えば込められるものさ。」
 世界でも有名な宇宙物理学の天才が、あっさりこんなことを口にするなんて、学界の連中が聞いたらあいた口が塞がらないだろう。
 「このペンダントの半分は、ピラミッドの玄室にあたる小部屋にあった。俺は皆と脱出するときにそれがわかった。頭に場所が浮かんだんだ。
 イギリスの探検隊が消息を絶ったとき、ふつうなら俺も様子をみているだけだろうし、わざわざ大空魔竜を出動させることはない。だがあのとき、行かなければと強く思ったんだ。うまく説明できないから黙っていたが。大文字博士は俺の父が変わった能力を持っていたことを知っていたから、俺の言を受けいれてくれたのだろう。俺はペンダントの声を聞いた。俺の知能がピラミッド内で上がったのは、今までの能力では謎の解明が無理だったからだろう。そしてそれが「今」なのは、災厄が近づいているからだ。」
 いつも冷静で淡々としていて。
 その頭脳はあらゆる分野に精通している。身体能力も他のメンバーに引けをとらないものだ。それでも驕り高ぶるところを見たことがない。これほどの能力を持ちながら、なおも謙虚にならずにはいられないほどの、何かとてつもない災厄があるのだろうか。サコンはゼーラ星人との戦いはオレ達にまかせている。


     こいつの眼は 何を 見透かしているのだろう。




             
              ☆                    ☆



    
 「何 やってんだ?」
 
 談話室に笑い声が弾んでいる。
 「やあ、ピート。」
 ブンタが面白そうに答える。
 「ヤマガタケがサコンにオセロを挑んでいるんだ。」
 「なんて、無謀なことを。」
 呆れてため息をつくピートに、
 「いや、オレはこのメンバーの中じゃ一番強いんだ!」
 「たまたま今回まぐれで勝っただけじゃねえか。」
 からかうように言うサンシロー。負けて悔しいのだろう。
 「終わりだ、ヤマガタケ。」
 「へっ!?」
 あわてて盤を見ると、一瞬のうちに駒が返されていた。
 「わぁー!3分15秒だ!!」
 ハチローが無邪気に声を張り上げる。
 「そのうちの3分はヤマガタケの思考時間だったな。」
 ファン・リーが冷静に茶々を入れる。(おい!)
 「な、待てよ、もう一回!!」
 「無駄だ、無駄だ。天才のサコンに勝てるわけねぇよ。」
 慌てて言い募るヤマガタケに、サンシローは嬉しそうに言う。自分がみどりの前でヤマガタケに負けたのを根に持っているようだ。
 あいかわらずドタバタやっている2人を見ながら、ピートはサコンに声をかけようとした。
 「 ? 」
 サコンが無言で空間を見詰めている。
 「彗星が来る。」
 低く呟くとすぐさま部屋を出て行った。
 「おい、待てよサコン!」
 慌てて後を追うピート。部屋に残された面々は、不思議そうに顔を見合わせる。



 「何があったんですか?」
 司令室にドヤドヤと全員が集まった。
 「彗星が来るらしい。今、サコン君が全観測員を手分けさせてデータを集めている。」
 「彗星って、そんなに早く急にくるものなんですか?今までに予兆はなかったのですか?」
 「今はまだ太陽系の外だ。真直ぐ地球に向かっている。こんな彗星は珍しい。」
 「 <悪魔の彗星>だ。こいつが地球に来れば皆、死ぬ。」
 いつのまにかサコンが戻ってきていた。未だかつて見たことのない、切羽詰まった顔をしていた。
 「何だよ、<悪魔>だなんて。たかが星屑だろうが。そんなにでかいものなのか?」
 ヤマガタケが憤然と問いかける。
 「大きさ云々じゃない。アレは直ちに破壊しなければならない。博士、大空魔竜を発進させてください。少しでも地球から遠いところで破壊します。」
 「なんだよ。彗星なんて半分、ガスの塊だって聞いたことあるぜ。おおげさなんだよ。大気圏で燃え尽きるんじゃねえのか。」
 「サコンは天才なんだ。凡人にはわからないことだってある。少しは黙ってろ、ヤマガタケ!」
 冷たく決め付けるピートに、ヤマガタケだけでなく、サンシローの憤慨したが、反論するよりも早く、
 「サコン君を信じよう。」
 大文字博士のその一言で、皆黙って配置についた。


 「凄いスピードだ。もう太陽系に入ったぞ。」
 「でも、なんで観測衛星より先にサコンにはわかったんだ?」
 「ふん!天才様だからだよ!」
 ファン・リーとブンタの会話に、ヤマガタケが不機嫌さも隠さず吐き捨てる。2人はちょっと顔を見合わせたが、黙ってパイロットシートに座る。まあ、この件が終れば機嫌も直るだろう。第一、どんなにヤマガタケが不貞腐れて悪口雑言言おうが、サコンは気にも留めない。サコンにとって、ヤマガタケのイヤミもハチローの駄々も、たいして違いはない。



 「ピート、御前崎研究所からミサイルを発射させた。これからの誘導は俺がやる。お前は大空魔竜で彗星を誘ってくれ。なるべく地球から離さなければならない。」
 「彗星を誘うとはどういうことだ?」
 「あの彗星は意志を持っているんだ。正確に言うと、彗星のなかに潜んでいる奴らが。」
 「何がいるって?」
 「形状はよくわからない。アメーバー状のものらしい。あの彗星は一種の宇宙船で、目的地に向かって一直線に進んでくるんだ。奴らの狙いは生命エネルギーだ。」
 「生命エネルギーだって!」
 「1ヶ月前、ようやくペンダントの解明が終ったんだ。それによると、確かに彗星が洪水を引き起こしたのは間違いない。星(月)を連れてきたとあった。その関係で潮位が大きく崩れたのだろう。でもそれは予想の範囲内だったから、人々は安全な場所に避難していた。だが、悪魔が地球に降り立った。そいつは< 形があって ないもの >。触れたところから生命エネルギーを吸い取っていったらしい。あっという間で、防ぐ手立てを講じる間もなかった。記憶に刻まれているのは、伝えるべき真実だった。」

 いわく。
 生命エネルギーを吸い取る敵がいる。
 奴らは生命エネルギーに反応して宇宙より来る。
 取りつかれたが最後、何の手段もない。
 ただ、助かった者がいる。
 我らの中でも、高位の指導者。高熱を発していた病人。
 そして、我らよりはるかに知能の劣った、もうひとつの種。

 「以上のことから考えて、敵はある程度の生命エネルギー、知能に反応する。だから、洞窟で暮らしていたもうひとつの種が共にいても襲われなかったのだろう。気がつかなかったといっていいかもしれない。それゆえ、その種が進化し、知能が上がったとき、再び襲い来ると警告したのだ。
 高位の指導者というのは、敵の脳への攻撃に耐えられる精神力を持つ人物ではないか?精神力が敵より強ければ勝てたのだ。だが、それは非常に少ない。そして、高熱を発していた病人。これこそが敵の弱点だと思う。」
 「病人が弱点だと?」
 「ああ。高熱と言ったって、43,4度までが限界だ。それ以上は本人が死んでしまう。だから、敵は非常に熱に弱いんだ。彗星という強固な鎧から出た奴らはな。
 だが、宇宙空間を移動するためには、どんなに気をつけても恒星の側を過ぎる事もある。あの彗星は、何千,何万度という熱を耐えるものだ。破壊するには並みのミサイルでは歯がたたない。俺はこの1ヶ月間、ずっと、新しいミサイルを開発していた。それが<ゼウスミサイル>だ。
 大空魔竜を囮にすれば、少しでも地球に影響を与えずに済む。ゼウスミサイルの威力は凄まじい。なにしろ、神々の王、ゼウスの名を与えたからな。」
 初めて見せる不遜な笑みを浮かべるサコン。父から、いや、はるかな昔、超古代から受け継がれた「 祈り 」が、
叶えられようとしていた。





       ☆           ☆             ☆



 
 <悪魔の彗星>から、一部の敵が大空魔竜に侵入してきたのは誤算だった。大空魔竜の外装から、沁み込むようにして侵入してきたのだ。アメーバーのような形態。
 超古代人達が、建物内に避難していなかったはずはない。この敵は、ある程度の厚さの石や金属を透過できたのだ。
 「ぐわぁ!!」
 「ぎゃあ----!!」
 「助けてくれ!!」
 艦のあちこちで悲鳴があがる。壁から天井からドアから、染み出るようにアメーバーがあらわれる。銃を向けるとすぐに姿を消す。再び浸み込んで。熱に弱いと解っていても、とりつかれた仲間に炎や銃は向けられない。引き剥がそうと触れた途端、分裂して自分に襲い掛かってくる。
 「全員、特殊シェルターに避難するんだ!」
 司令室で全艦のモニターを見ながらサコンがマイクに向かって怒鳴る。
 「あそこなら唯一防げるはずだ!!」
 指示を出し振り向いたとき、一人の乗員がアメーバーに襲われた。
 「ぎゃあー!!」
 「しっかりしろ、気を強く持つんだ!!」
 叫ぶサコンの願いも虚しく、その乗員は生気を吸い取られミイラ化して死んだ。アメーバーは次の獲物を狙うようにサコンに向かう。
 「このやろう!!」
 罵倒とともにヤマガタケが飛び込んできた。手にはレーザー銃を持っている。
 「ちょこまかちょこまか移動しやがって!おとなしくしやがれ!」
 追ってきたのだろう、扉の横にもアメーバーがいた。
 「覚悟!」
 「馬鹿、やめろ!」
 次々と現れるアメーバーに、ヤマガタケは熱線を浴びせかける。アメーバーはすぐさま居場所を変える。
 「止せと言ってる!」
 サコンは銃を奪いヤマガタケを殴り飛ばした。
 「ぐゎ!なにしやがる!」
 怒りの形相で掴みかかろうとするヤマガタケに、
 「ここを何処だと思っている、メインコンピュターがやられたぞ!!」
 はっとするヤマガタケ。目の前で様々なメーターが破裂し、火花が散り光を失っていく・・・・・・・
 「サコン・・・・・・オ、オレ・・・・・・」
 我に返り悄然とするヤマガタケに
 「さっさとお前もシェルターに避難するんだ。」
 「あ、ああ。サコンは?」
 「俺のことなら大丈夫だ。なんとかコンピューターを作動させないと、ゼウスミサイルの誘導ができなくなる。」
 「な、なんか、手伝うこと・・・・・」
 「必要ない。お前はすぐに避難しろ。」
 言っている内にアメーバーがヤマガタケに襲い掛かった。
 「!!」
 「サコン!!」
 ヤマガタケを庇ったサコンにアメーバーが群がる。
 「お、おい、どうしたら・・・・」
 真っ青になって固まっているヤマガタケに、
 「いいから、さっさと行け!こんな奴らに俺は負けん!」
 凄まじい迫力に、ヤマガタケは身を翻した。確かに自分はいま何も出来ない。いまはただ、サコンも邪魔にならないように。


 精神エネルギーを取り込もうとする敵の記憶が--------取り込まれた様々な命の記憶のかけらが、サコンには感じられた。何万年も前の彼方の記憶---------

 

 「おい、大空魔竜はどうなっているんだ!」
 シェルターの中で、次々とモニター画面が消えていく。押し込められた狭さに身動きも難しい。
 「あ、あれはサコン!」
 ひとつのモニターに、アメーバーに埋め尽くされようとしているサコンが映った。
 「おい、サコン!!」
 フッとモニターが消える。凍りついたような沈黙。
 「ま、まさか・・・・・」
 真っ青な顔が見合わされる。
 「おい、ピート!」
 重い扉の取っ手を回しだしたピートにファン・リーが気づく。
 「何をするんだ!」
 「離せ、サコンを助けに行く!」
 「無茶だ、お前もやられる!!」
 「離せ!」
 激しく揉み合う2人に手出しをすることも出来ずに立ち尽くす面々。そのとき、急に扉が開かれヤマガタケが転がり込んできた。
 「うわぁ!」
 突然のことに、3人がもつれながら倒れこむ。あわててサンシローとブンタが3人に手を貸す。
 「おい、外はどうなっている!!」
 ピートがヤマガタケの襟首を掴む。
 「やめろピート。息ができないぞ。」
 ファン・リーに離され、ヤマガタケは咳き込みながら答えた。
 「・・・・・・メインコンピューターを撃ってしまって・・・・・・サコンがなんとかするって・・・・・・」
 「サコンはアメーバーに取り付かれていたぞ!助かるのか!」
 ピートが詰め寄る。
 「サコンは『大丈夫だ』って・・・・・」
 そういうヤマガタケも不安を隠せない。目の前で生気を吸われ、ミイラ化していった乗員達・・・・・・・・
 「このままではどうしようもない。何とかサコン君と連絡を取らなければ。」
 「大文字博士、このシェルター以外にアメーバーを防ぐ手段はないのですか?」
 「このシェルターは斉門博士が開発した強化ゾルマニュウム鋼で囲まれている。強化ゾルマニュウム鋼はまだ試作段階で量は多くない。あとはすべてゼウスミサイルに使用したから、他にない。」
 「これは何ですか?」
 サンシローが隅にあった防護服を指す。
 「これは使えませんか?」
 大文字博士はちょっと困惑顔で、
 「確かにそれならアメーバーを防げるだろうが・・・・・・・・なにしろ重さが100キロあるし、酸素は5分しか持たない。」
 (なんでそんな役に立たないものを!と突っ込みたいところだが、宇宙空間や深海を想定したものということで。だが、それでも酸素5分はないだろう・・・・)
 「とにかくサコンの様子だけでも見てきます。酸素がなくなっても、敵さえいなければヘルメットを外せばいいのですから。」
 「危険だがやってくれるか、サンシロー君。」
 「はい。」


 シェルターを出たサンシローは、薄暗い非常灯の中、なんとか司令室にたどり着いた。途中、逃げ遅れた乗員たちのミイラが所々倒れていたが、アメーバーの姿はなかった。
 ヘルメットを外し空気を吸い込む。途端、ムワァッとした熱気が肺に入り込み、思わず咳き込む。
 「な、何だ、この熱さは!」
 壁の温度計を見ると、優に50度を越えている。部屋を見回すと、コントロールパネルの前にサコンの姿があった。
 「サコン、無事だったのか!」
 慌てて駆け寄ろうとするが、防護服が重くて走れない。急いで脱ごうとするが部屋のあまりの暑さに目眩がしそうだ。
 「オイ、サコン。」
 振り向くこともせずに手元で忙しなく作業を続けるサコン。コントロールパネルの覆いをはずし、むき出しになった様々なコードをヘルメットに接続させている。
 「サコン。」
 ようやく作業が済んだのか、サコンが振り返った。
 「サンシローか。皆は無事か?」
 「ああ、全員シェルターにいる。何しているんだ?」
 「メインコンピューターが壊れてしまったからな。急いで作動させねばゼウスミサイルが撃てない。とりあえず、おれの『脳』をコンピューター代わりに使って大空魔竜を動かす。艦に進入した敵は全滅したはずだ。自動温度調節装置が壊れたついでに艦内の温度を上げたから。だが、万一ということもあるから、もう少しこのままにしておく。少し暑いが我慢してくれ。
 今から大空魔竜を動かす。ピートに連絡して、俺の代わりにゼウスミサイルを誘導させてくれ。お前はガイキングで補助してくれ。ゼウスミサイルは一基しかない。絶対に外せない。」
 「わかった。」

 サコンは眼を閉じて精神を統一させる。
 しばしの沈黙のあと、カッと眼を見開き、
 「大空魔竜 発進!!」

    呼び声とともに、大空魔竜に命が吹き込まれる。
 「行くぞ!!」
 シェルターから飛び出し、各自が配置につく。

 スクリーンが< 悪魔の彗星 >を映し出す。何万年、いや、おそらく何十、何百万年もの昔から、宇宙をさ迷い生命を吸い取り続けた悪魔。今こそその悪しき生命を、宇宙に返すがいい。





     ゼウスミサイルが 放たれた。






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 長々とお読み下さり、ありがとうございます。会話ばっかり!(汗) さぞ、お疲れになられたでしょう。そのわりにはラストがあっけなく思われたのでは?いえ、TVでの、この「砂漠に吠える赤サソリ」と「宇宙にとどけゼウスミサイル」の回は、わたしにとってすごく印象深いものなので、あまりいじれないんですよ。つい、あらすじを追ってしまって。ええ、これから先なら好き勝手に書けますけど。え?書いてみろ?
 ええ、書きますとも、リクエストくださいませ!(やっぱり、それかよ!)
 この「大空魔竜ガイキング」は、地球を侵略されずにすんだけど、ゼーラ星人は宇宙を彷徨うしかないっていう、とても諸手を挙げて喜べる結末ではありませんでしたよね。心残りで、いつか自分で書きたかったものです。
 ゑゐり様、機会をくださりありがとうございました。
 ゲッターだけでなく、ガイキングも書きたい かるらです。
             (2005.11.30)


     でも、隼人といい、サコンといい、私の好みって一目瞭然・・・・・・・・



  追記
   ガイキングの資料集を手に入れまして、ゼウスミサイルは予備に一基つくられたとか、
  サコンの年齢・時間軸の設定が私の記憶と違っていたのですが、ご容赦くださいませ。
      (2006.2.10    かるら)