ゲッター日記 3







 
 最近、ハヤトが敷島博士の研究室に入り浸っている。
 それを知ったリョウとムサシは戦々恐々だ。


 「お、おいら、柔道部の合宿で、当分寮の方に泊まり込むからさ。研究所の方は二人に頼むから!」
 大きく広げた風呂敷に、柔道着やら着替えやらお菓子やらをドサドサと包み込む。
 「何言ってるんだ、ムサシ。お前はこの前の定期試験が赤点で、再テスト済むまで部活動禁止だろうが!俺はサッカー部の練習と生徒会の手伝いも頼まれてるからな。、あとのことは任せるよ。」
 こちらもスポーツバックにあれこれ、もちろん勉強道具もしっかりと放り込む。
 「ずるいぞ、リョウ。一人で逃げ出そうとするなんて!」
 「べ、別に逃げるなんて言ってないだろうが。用事があるから仕方なく・・・」
 「じゃあ、ハヤトと敷島博士がなんかやらかしたら戻ってくるんだな!?」
 「そ、それは約束出来ないさ。だいたい、ハヤト達がなんかやるって、決まったわけじゃなし・・・」
 「やる!って、おまえも思っているから、逃げ出すんだろうがよ!」
 ムサシがリョウのスポーツバックを握って離さない。
 「離せよ、千切れる!」
 「い〜や、離すもんか。ミチルさんが2日も留守なんだ。ハヤトが暴走しても止められる人がいないんだからな。一蓮托生だ!」
 「ずいぶん、失礼だな。」
 ぴたり。
 ふたり、そのままのポーズで固まる。ゆっくりと首だけ巡らせる。
 ドアに長身をもたれさせたハヤトが、二ヤリと笑みを浮かべていた。
 「い、や、別になんでも・・・・」ムサシがおどおどと答える。。
 「あ、ハヤト、来てたのか。なんか忙しいみたいだな。手伝ってやりたいけど、ちょっと俺も頼まれごとがあってね。悪いけど、4,5日学生寮にいるからな。ムサシなら手伝えるだろう。」
 「あ、リョウ!おまえ、なんてこと言うんだよ!おいらを人身御供にするつもりか!」
 あわててリョウの襟首を掴むムサシ。離させようとするリョウと二人、バタバタする。
 「そう身構えるな、ムサシ。せっかくミチルさんにいいとこ見せるチャンスだっていうのによ。」
 「え?」
 ミチル、という言葉に即、反応するムサシ。
 「どいういことだい、ハヤト。」
 「俺がこのところ研究室いるのは、ミチルさんに頼まれたからだ。トナカイと橇(そり)を作ってくれってな。」
 「トナカイと橇?それって・・・・・?」
 「孤児院へのサンタクロース慰問だ。今日はボランティアの連中と、プレゼントの買い出しに行っているはずだぜ。」
 「あ、2日留守っていうのは・・・」
 「泊りがけで準備するそうだ。まったくお人よしだぜ。」
 やれやれ、といったふうなハヤト。そりゃミチルさんは優しい人だから、頼まれたら何日も準備にかかるだろう。そうか、サンタクロースか。ただでさえ子供たちが喜ぶイベント。親の居ない子供たちにこそ、楽しんでもらいたい。実家が孤児院を経営しているリョウは、切にそう思う。
 「そうか、もうすぐクリスマスだよな。よし、おいらなんでもやるぞ!」 涙もろいムサシが、うるうる目で拳を握る。
 「ハヤト、何すればいい?大工仕事なら任せとけ。」
 ムサシがウキウキと腕まくりする。
 「いや、お前にはサンタクロース役やってもらう。恰幅がいいから似合うだろう。リョウにも頼もうと思ったんだが、用事があるなら仕方ない。ミチルさんと二人でやってくれ。」
 さらりとリョウに意地の悪い笑みを向ける。 
 「えッ!ミチルさんもサンタクロースやるのか?」
 ムサシの目、きらきら。
 『ミチルさんのサンタクロース・・・・ミニスカサンタクロース・・・・』
 もあ〜〜んと妄想・・・・・ (でも、いつもの服装とどこが違うんでしょ。笑)
 あっちの世界に行ってしまったムサシを横目で見ながら、リョウは
 「ハヤト、おまえ、敷島博士の研究室に行ってるんじゃなかったか?」
 敷島とサンタクロース?どう、繋げたらいい?
 「ミチルさんの注文のアドバイスもらってたんだ。」
 「注文?」
 「ああ。どうせだから、かっこよく空を飛んで欲しいってな。」
 「「!!」」
 どうせ??どこが「どうせ?」
 何気に注文するミチルもミチルだが、あっさりと請け負うハヤトもハヤトだろうが!!
 過去に葬り去りたい文化祭の記憶が・・・・・・・
 「・・・・どんなトナカイロボットを作るって?」
 おそるおそる、それでも子供達を危機に晒してはならないと、おにいちゃん気質のリョウは問いただす。
 「そう身構えるなって。さすがに俺も子供相手に無茶はしないさ。敷島博士は目からビームを出せだの、口からは火炎放射させろとかしつこかったけれどな。」
 「ソレ以外で敷島博士にアドバイス受けることってあるのか?」
 不信そうなリョウ。
 「凝った武器になればなるほど精微な技術がいる。ロボットトナカイの動きをリアルに、スムーズにするために、ずいぶんと教えてもらった。自分で言うのもなんだが、なかなかの出来だぜ。」
 満足そうに言う。ハヤト自身が満足したものなら、相当なものだろう。
 「すげえな。もう出来たのか?」
 わくわくしながらムサシが聞く。
 「ああ、さっき、やっとな。それで見せようと・・・・」
 「大変、大変、大変だよ〜〜!!」
 元気が飛び込んできた。
 「どうした、恐竜帝国か!?」
 身構えるリョウ。
 「ううん、違う。あのね、あのね、」
 なんとか息を整えながら
 「トナカイだよ、トナカイが外にいるよ!大きな橇つけて!!」


 「ねっ、本当でしょ。ぼく、トナカイって初めて見たよ!!」
 元気が興奮するのも無理はないと思う。研究所の正門前に、写真でしか見たことのないトナカイがいた。
 「やっぱりシカとは違うんだね。おっきっくてふわふわしてる。」
 嬉しそうにそっと背中に手を伸ばしている。
 「おい、ハヤト。これって・・・」
 リョウとムサシは戸惑うようにハヤトを見る。さっき説明を受けたけれど、これって本当に? 
 茶褐色の堂々とした体躯。黒く丸い目は優しい。首から胸にかけての白い体毛に、幅広のチロリアンテープに付けられた金色の鐘がよく似合う。
 「橇の内側に起動スイッチがあるだろう。上下左右の動きは手綱だが、速度や停止はそこにあるダイヤルを動かす。トナカイらしい動きはインプットしてあるからさほど難しくはないだろう。3日もあれば慣れるんじゃないか。がんばれよ、ムサシ。」
 「お、おうよ!うわ〜〜かっこいいなあ!!」
 大はしゃぎのムサシ。リョウもやってみたくてたまらない。気まずそうにハヤトを見ると。
 「リョウ、最初からひとりじゃムサシには無理だろう。補助してやれよ。」
 見透かしたようにフフンと笑う。ひょっとして、出来が良いので気分が良いのか?
 「ああ、そうだな。だが、凄いもの作ったな。これなら子供達も大喜びするだろう。俺の実家の孤児院にも持って行ってやりたいよ。」
 心の底からそう言うと、
 「持っていけばいいだろう。こっちを終わらせてすぐ九州へ。ゲッター1で運べばすぐだ。」
 「え?いや、ゲッターを個人的な理由で使うなんて。」 
 「クリスマスだ。早乙女博士も喜んでくれるさ、子供たちが笑うなら。」
 「ハヤト・・・・・」
 思わず目頭が熱くなる。
 「ありがとう、なんと礼を言ったらいいか・・」
 「礼なんかよりも早くあっちをどうにかしてやれ。あれじゃあ、とても3日では乗りこなせないぜ。」
 ハヤトの目の先には、「暴れ馬から投げ出されるカゥボーイ」といった様子のムサシの姿があった。



  ☆


 クリスマスの準備がすっかり整った。ムサシもギリギリになってなんとかトナカイを操縦できるようになった。サンタクロースの服を着ると、さすがに貫禄があって似合っている。リョウも「サンタのお兄さん」といった感じだ。こちらでプレゼントを配り終えたら数人づつ橇に乗せてやって、そのあと九州へコマンドマシンで移動する手筈だ。さすがにゲッターロボを使うのは気が引けるらしい。クリスマスだから、子供達も少しは夜更かししても良いだろう。リョウ達はそのままリョウの実家に宿泊する。ムサシはミチルとクリスマスを過ごせると言うだけで大喜びだ。たとえお邪魔虫がいようとも。
 「ハヤト、おまえも家に来ないか?親父も礼を言いたいと言っているし。」
 例によって例のごとく。ハヤトは行かないという。
 「悪いな。姉貴と約束しているんでな。」
 出たな、シスコン(笑)。
 「姉貴は正月はパリで過ごすので、今、日本に戻っているんだ。ちょっと会ってくる。うるさいからな。」
 うるさいと言いつつ嬉しそうだ。
 「そうか。じゃあ無理に誘わないさ。今回はありがとうな。」
 「楽しんでこい。俺もまだ時間があるから、此処が終わるまでは居るさ。」

 子供たちの歓声が空を覆う。橇から見下ろす地上の灯り。見上げる夜空の星達。溢れんばかりの光の洪水。
 悲しいことや辛いことを、より多く課された子供達。今夜のことが彼らに少しでも、糧になってくれるといい。





 「それじゃあ、出発するか。」
 「おう。プレゼントは向こうに用意してあるんだよな。」
 「ああ。急げば9時前には着くかな。家の道場に寄って、プレゼントを積み込もう。」
 「あれ、鐘にゴミが付いてる・・・・ちょっと絡んでいるな。」
 「外すか?・・・・うん?なんだ、このレバー?」
 がたん。
 グィ-----ン。
 優しげなトナカイの瞳が金色を帯びて、らんらんと輝きだす。ふさふさしていた毛並みは硬いうろこへと変化する。
 「お、おい!?」
 驚愕する二人の前で、それはカッと光り。
 「「おわぁ!!」」
  地面までもが揺れ、思わず橇の中に転がり込んだ二人が。
 急激なGをやっとこらえて目にしたものは。


 「?龍?!」




 
 「ああ、レバーを引いてしまったようだな。」
 ポツリとハヤト。
 それを聞き逃すミチルではないし、ハヤトの目の奥に映った笑いを見逃すミチルではない。
 「どういうことかしら?」
 微笑んではいるが、結構怖い。
 「敷島博士にごねられたものでね。」
 こちらもさっとかわす。悪びれない顔。
 「トナカイに武器をつけろって承知しなくてな。仕方ないからチェンジレバーを付けた。」
 チェンジレバー?え、あれって?
 「一応、龍っていうのかな。来年は辰年だからちょうどいいだろ。トナカイもリサイクル出来てな。」
 「・・・・・・・ハヤト君。九州の子供達にはどうするつもりなの!?」
 きつく睨む。あ、あの、リョウとムサシのことは?すんごい勢いで飛んで行ったんですけど。 
 「トナカイに九州行きをインストールしたから、そっちは大丈夫だ。龍にチェンジしたらスピードもマッハ1だから間に合うだろう。」
 「でも子供達はトナカイを待っているのよ。龍なんかがきたら、怖がっちゃうじゃないの。」
 「あいつらも落ち着いたら連絡を寄こすだろう。龍の首にもチェンジレバーがある。」
 「間に合うかしら。」
 「リョウ達なら大丈夫さ。」
 仲間に寄せる美しい信頼。涙が出る、というよりも、今あの二人は涙を流しているかもしれない。

 「・・・・・ツツツ・・・・・ピピピ・・・・・」
 「あら、通信が。」
 ミチルがブレスレットを押し、ハヤトも真似る。
 「・・・・・・・・ハ〜〜〜〜ヤ〜〜〜ト〜〜〜〜!!!」
 耳を聾する音量に、ハヤトは通信機を遠ざける。
 『なな、ん・・これ!!どう・・・すれば!!』
 「落ち着けリョウ。龍の首の下に一枚だけ逆さになった鱗がある。そいつがチェンジレバーだ。それを引け。」
 『うろこ??どこだ?』
 『おいリョウ、おいらじゃ届かないよ。おまえがやってくれ。』
 『待て、こっちからじゃよく見えない。このまま、こっちへ…』
 『うわツ、落ちそうだ、早くしてくれ、リョウ!』
 『がんばれムサシ、えっと、ここか?いや、これか?』
 『は、早く!おいら、手が痺れて・…』
 『待て、もう少しだ、・・・・これだ!!』
 
 しばらく二人のハァハァという息遣いだけが聞こえてきた。
 「ハヤト君。ちょっとひどいわよ。二人が落ちちゃったらどうするつもりだったの?」
 「敷島博士がセーフティネットを橇に付けたと言っていたから、なんとかなったんじゃないかな。さて、時間だ。俺は失礼するぜ。」
 何事もなかったかのように去っていく。ふと振り返って、
 「あいつらの現在地だ。大阪まで行ったようだな。これならコマンドマシンで出動しなくても着けるだろう。遅刻するようなら、もう一度龍にチェンジしろと伝えてくれ。」
 無造作に受信機を放り投げる。
 今度こそ振り返りもしない背中を見つめ、
 「もう、しょうがないんだから。初めっから龍に変形させるつもりだったに違いないわ。きっとリョウ君達に感謝されるのが照れくさいだけなのに。こんなふうに意地悪して。・・・・・ま、いいか。(おい!)・・・・・でもどうしよう。今日はリョウ君の家に行くつもりだったから、ボランティアの人達との打ち上げも断っちゃたし・・・・・・・・。ふふっ、今日はお父様達とクリスマスしよっと!平気な顔してたけど、ちょっぴり淋しそうだったものね。久しぶりに親子水入らずってのもいいか!」
  ハヤトの本音がどこにあるか、まだそこまでは気付かないミチルだった。(笑)




 ☆



 都心のホテル。その最上階のレストラン。テーブルに置かれたグラスのキャンドルの灯り。揺れる。

 「せっかくリョウ君の家にいけるはずだったのに、呼び出してごめんなさいね。」
 やわらかな頬笑みが揺れる。
 「いや、別に。あいつらとは嫌になるほど一緒だからな。ちょうどいい息抜きさ。」
 「ま。」
 くすくすと笑う。
 「お詫びに、はい、これ。ミチルさんへのプレゼント。貴方からっ、て言ってくれてもよくてよ?」
 「ちゃんと姉さんからって言うさ。姉さんのデザインはきっと気に入る。」
 「うふふ。」
 「・・・・なんだよ、姉さん。嫌な笑いだな。」
 むっとしたように睨む。
 「ううん。ただね、女の子って、新しい服はすぐ着たいものよ。そういえば、新年早々、財界のパーティがあったな〜〜って。多分、早乙女研究所にも招待状が届いているんじゃなくて?」
 「さあ、知らないな。」 ぶすりと答える。
 「そう?ひょっとして誰かさんが勝手に預かってたりして。」
 「姉さん!」
 「いやぁね、言ってみただけじゃない。」
 ころころと笑う。 
 「この前はせっかく練習したのに、恐竜帝国が襲ってきて出席できなかったんでしょ。ミチルさん、残念だったと思うわよ。」
 「まあ、確かに残念がっていた。」
 それで、と思ったわけではないけれど。
 「貴方のもあるのよ。はい。」
 「俺のも?」
 「ドレスに合った物の方が素敵よ。」
 「・・・・・・使うかどうかはわからないぜ。」
 「良いわよ。それでも。」
 面白そうにほほ笑みながらグラスを傾ける。
 ふぅ、っとハヤトは息をつく。仕方ない。昔から姉さんには敵わないのだから。

 
  クリスマスの夜は更ける。
  すべての人に、 メリー!


      
                  (続きは下記の拍手お礼@にてv)

       --------------*--------------*------------*------------



 ほんとっ------に久しぶりの更新です。
 シフ子様からのリクエスト、TV版。
 いつもリョウ達が可哀想です。おほほほ。
 「ハヤトとミチルさんをくっつけようの会」の仕掛け人のかるらです。
 仕掛けるだけです。あとは自分でやっとくれ!!  (これもヤキモチ)


              (2011.11.29     かるら)



 
           わぁ〜〜い!!シフ子様がわざわざ作って下さったバナー!!
           同志の皆様、最高ですね!!!! 
         



     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ゲッター日記  B    拍手お礼@

 


「あら、ミチル。今日はリョウ君の家にお邪魔するんじゃなかったの?」
母・和子が不思議そうに聞いた。
「その予定だったんだけど、ちょっと手違いでリョウ君とムサシ君の二人で行ってしまったのよ。」
「お姉ちゃん、ほんっとうに、今日は凄かったね!僕、あんなに楽しかったの初めて!!みんなもすんごく喜んでた!!」
元気が興奮覚めやらず、といったふうで目を輝かせた。
「元気ったら、帰ってからずっとこんな調子なのよ。よほど楽しかったみたいね。」 と母。
「ええ。孤児院の子供達も凄く喜んでくれたわ。先生方も、この子たちのこんな姿は初めてだって。涙を浮かべて喜んで下さったわ。」
「そう。よかったわね。普段は我慢を強いられている子供たちですものね。リョウ君達、特にハヤト君には感謝しなくちゃね。」
「ハヤト君ったら、ほんとはなんでも出来る癖に、面倒くさがりの意地悪なんだから。」
「ほほほ。まあお座りなさいな。お手伝いばかりで食事はまだなんでしょう?ちょうどお父様もお帰りになって、今お風呂に入ってるわ。あなたが一緒だと喜ぶわ。」
 いそいそと準備する。
 ミチルもソファに腰を下ろす。
 「ああ、そうそう。」
 和子が一通の封書を差し出す。
 「今日、届いていたわ。例の財界の新年パーティの招待状よ。あなた、先回は行けなくて残念がってたじゃない。」
 ミチルは少し眉を顰める。
 確かに残念に思っていたけれど。
 雑誌のグラビアに紹介されていたそのパーティでは、同い年くらいとはいえ、社交界に慣れた令嬢達のドレスは洗練されていた。ミチルのドレスも、自分ではちょっと背伸びした大人っぽいドレスだと気にいっていたのだが。
 けれど、めったに着る機会のない高級なドレスを新調したいとは言えない。ましてや今日は孤児院の子供達と過ごしてきたのだ。あんな子供達を見ていると、自分の我儘を言えるはずもない。
 パーティは我慢しよう。



     「ミチルさん、姉貴からプレゼントだそうだ。着る機会はないかもしれないけど、貰ってやってくれないか。」  
       リョウ達の居ない間に、確信犯が一人。

           v
      
 「ハヤト君、いくらなんでも、このドレスは貰えないわ!」
 「姉貴はあれでもデザイナーのはしくれだからな。ファッションショー用のドレスばかりじゃ、作っても空しいんだろう。使う機会なんてないだろうけど、貰ってやってくれ。」
 「はしくれだなんて。明日香さんのデザインは、いま人気急上昇よ!!」
 「姉貴が聞いたら喜ぶだろうな。遠慮はいらないぜ。姉貴は俺にまで送ってくるんだから。」
 「ハヤト君にも?」
 「ああ。タキシードなんていつ着ろって言うんだろうな。今度の出動に使ってやるか?」
 不機嫌そうなハヤトに、ミチルはおずおずと話しかける。
 「あのね、今度ね・・・・・・」

      v v
          

 ゲッター日記B   お礼A





「ハヤト〜〜!!!」
クリスマスの翌々日、九州の実家に行っていたリョウが、開口一番怒鳴りつける。
「もう二度とお前の造ったものには乗らないからな!!」
「・・・・・・あのときは死ぬかと思った・・・・・」
武蔵は思い出しただけで震えが来る。
「どうした。時間には間に合ったんだろ。なに、文句言ってるんだ。」
平然と、ハヤト。
「お前!!俺達が空中で放り出されたらとか、考えなかったのか!?」
「心外だな。」
「は?」
憮然とした表情のハヤトに、リョウとムサシは戸惑う。死ぬ思いをしたのは俺たちなのに、なんか、怒られてる?
「やれやれ。」
あからさまに呆れた声で
「あの橇はもともと子供達を乗せるものだ。細心の安全策を講じていないとでも思っていたのか?」
「え、いや、あの、その・・・・」
二人、顔を見合わせる。
「転落等の非常事態に備えて、離陸と同時にゲッターシールドが発動する。いくら俺や敷島博士だって、それくらいの良識はあるぜ。」
「あ、そそうだったのか、すまない、その・・・」
「あ、そう、そうだよな!」
あわあわと二人。
「でも、そうならそうと言ったくれたって!」
「そうだ、そうだ、おまえ、いつもだけど、言葉が足りねぇんだ!」
言いつのる二人に、ハヤトは相変わらず素知らぬ顔だ。
ふらりと外に出て行った。もちろん、ハーモニカ付きで。
腑に落ちないリョウとムサシを、
「おかえりなさい、リョウ君。ムサシ君。」
満面の笑みでミチルが出迎えた。
「二人ともお疲れ様。最高のクリスマスだったって、孤児院のみんな大喜びよ。本当にありがとう!!」
「い、いやミチルさん、お安いご用ですよ〜〜〜。男ムサシ、ミチルさんのためならどんなことだって!
 たとえ火の中、龍の上、なんでも言いつけてくださいよ!」
途端にニコニコ顔のムサシ。
『大晦日には除夜の鐘を鳴らしに行って、一日には初詣だ!ミチルさんの晴れ着姿は綺麗だろな〜〜〜
なんとか二人っきりで行けないかな、ハヤトは出不精だからいいとして、リョウになんか用事を・・…』
ひとり唸るムサシだった。

結局、除夜の鐘も初詣も、ムサシはミチルと二人っきりということにはならず。リョウも元気もご一緒で。
ちょっぴり残念だったものの、振り袖姿のミチルの隣を歩けてご機嫌だった。

「ハヤトは正月早々、何処に行ったんだ?」
朝一緒にお節とお雑煮を食べた後、初詣に誘った時にはすでに不在だったチームメイトの居所を問うと。
「ハヤト君は東京のお家よ。」
「ええ?アイツがわざわざおやじさんに挨拶に?」
以前ほど疎遠ではないとはいえ、そんなに打ち解けてたのかと、ちょっと意外に思う。
「明日香さんがいないのに、帰省したんだ・・・・・」
「ついでだって言ってたわ。素直にお正月だからって言えばいいのに。」
「ふ〜ん。」
「そんなことよりミチルさん、明日、おいら柔道部の初稽古なんですよ!稽古後にぜんざい作るんで、どうです?見に来ませんか?」
「わぁー、ぜんざい!ねぇねぇムサシさん、僕も行っていいでしょ!?」
「もちろん!」
「あ、ごめんなさい、ムサシ君。明日は新年パーティなの。この前行けなかった・・・・・」
「えッ?またダンスパーティ?」
リョウが驚いて聞く。
「ううん。今回はダンスはないわ。お父様にも一緒に行こうって言っているんだけど・・・」
『博士はそんなの似合わないような・・…』 
リョウもムサシもそう思ったが、自分達にも縁がないものだ。
「じゃ、じゃ、ミチルさん、ひょっとしてドレスですか?」
どきどきしながらムサシが聞く。普段着のミチルにもちろん文句はないが、オシャレしたミチルはもっといい!
「ええ!明日香さんが下さったの!明日香さんのデザインは、今、日本でも人気急上昇なのよ!」
目を輝かせて言う。
「へぇ、そうなんだ。確かに明日香さんのデザインなら、上品で洗練されてて人気だろうな。」
優しげな明日香を思い浮かべてリョウは言う。顔のパーツがハヤトと似ていると言えば言える。姉弟だと言えば誰もが肯くだろうほどには。
見た目には。遠目には。一言でも口を聞かない限りは。
「ミチルさん、出発は何時ですか?おいら、ぜひ、ミチルさんのドレス姿見たいです!!」
「パーティは夕方からだけど、会場が遠いから午後3時ごろかしら。」
「じゃあ、初稽古を終わらせてすぐ来ますよ!うわぁ、楽しみだ!」



翌日。
ミチルの素晴らしいドレス姿にムサシは感動した。
「ミチルさん、おいら、ゲットマシンで会場までお送りしましょうか?!」
だが。
「ありがと、ムサシ君。でもハヤト君に聞かないと。」
「ハヤト?」
「ええ、ただ待っててくれって。もしかしたらお願いするかもしれないけど。」
ふたり、顔を見合わせる。
あまり嬉しくないような展開の予感・・・・・
と、そこへ。
真っ赤なスポーツカーが滑り込んできた。
ドアが開いてスクッと現れた長身は。
カマーバンドと蝶ネクタイのタキシードで。
白絹シャツのカフスボタンは、リョウやムサシにはわからないが、ミチルのドレスの胸元に飾られたビーズと同じ白蝶貝。
見慣れた者が見れば対の装いだ。
「お、おいハヤト、その車・・・・」
リョウは驚きで言葉が出ない。
「ああ、姉貴のだ。家に置いていったんでな。」
「じゃないだろ!おまえ、いつ免許取ったんだ?自動車学校に行く暇なんて・・・・」
恐竜帝国との戦いで、そんな暇なんてあるはずがない。いくら、授業をエスケープしていたといっても。
ここは町からだいぶ離れている。
「運転免許試験場で直接学科試験と実技試験を受ければいい。5日の路上練習で取れるさ。」
いや、普通はそうじゃないだろが!
「おいハヤト!おまえ、もしかしてミチルさんと!」
ムサシにはそっちが重要だ。
「俺の家は毎年招待される。親父から今年ぐらい出ろって言われてな。いつもは姉貴が付き合って出席するんだが、今回はパリだ。ご免こうむると思っていたんだが、姉貴がこの前わざわざタキシードを持って来ててな・・・・」
いかにも迷惑だというように肩を竦める。
「でね、うちの研究所にも招待状が来てたんだけど、行かないつもりだったのよ?でも、せっかく明日香さんがドレスくださったし、お父様は行かないと言うけど、ハヤト君も招待状持ってるって言うから。」
にこにこ顔のミチル。
「ミチル、ハヤト君のお父様によろしくね。ご迷惑掛けちゃ駄目よ。ハヤト君、お世話かけるけどお願いね。」
母の和子がにこやかに言う。
「いえ、父も楽しみにしていますから。今日はミチルさんをお借りします。」
普段はどうあれ、必要な時には相応の態度がとれるハヤトだった。



「じゃ、お母様。みんな、いってきま〜〜す!」
最高の笑顔を振りまいてミチルは助手席に座りこんだ。

後にはポツンと残された二人。


         ハッピーニューイヤー!
      

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     「ミチルさんとハヤトをくっつけよう!の会」  かるら