不協和音
-----錯(さく)そうする想い 重(かさ)なる願い-----
☆
早乙女家の庭に笑い声が響く。ベンケイと元気の声だ。
子供好きのベンケイは元気とずいぶん気が合うようで、いつも何かしら楽しげに笑っている。元気にしても殊に動物に優しいベンケイは、ある意味頼もしい、尊敬に値する存在なのだろう。ベンケイに自然と動物の摂理について聞いたりして、いろいろ勉強になっているようだ。
だが。
と、リョウは思う。
ベンケイは今ひとつ、戦いについての認識が薄い。確かに動物も自然も大事だが、今はそんな悠長なことを言っていられる場合なのだろうか。百鬼帝国との戦いは、そんな甘いものじゃない。
目の前の事象にこだわり続けたあげく、大局を見逃したら取り返しのつかないことになりかねない。
たしかに命の重さに差はないが、犠牲の数は抑えなければならない。
すべてを守れるはずもないのだ。俺は・・・・・・失った。
ハーモニカの音が聞こえる。
リョウは足を止め、見上げる。屋上に影がある。
ハヤトは最近、よく屋上でハーモニカを吹いている。以前は川辺りや森の中で寝転がりながら吹いていることが多かった。
今は---------
空に近いところで吹いている。届けたいのか・・・・・・・・アイツに。
ゆっくり振り返る。
少し前からリョウが来ていることはわかっていた。
何かを言い掛けることなく、じっと立っていた。ハヤトはフッと息をつくと顔を戻し、下を見る。ベンケイと元気が見える。
「あの二人、仲がいいな。」
隣に立ち、手すりにもたれて話しかけてきたリョウに、
「精神年齢が同じだからな。」
冷たく答える。
「相変わらず、愛想のない言い方だな、ハヤト。」
「ふん、アイソする必要はねぇさ。それなりに体力や技術はあるが、けっこう勝手な奴だ。」
「おや、お前から勝手、という言葉を聞くとはな。お前こそ、以前はベンケイよりも命令無視していたのに。最近は随分とおとなしいじゃないか。」
いたずらっぽく言うリョウ。いまだベンケイになんとなく距離感を持つリョウにとって、今まで共に戦ったハヤトは心許せる相手だ。
「どうしたハヤト。なにか、心に期するものでもあったか?」
「別に・・・・・・・。ただ、こんなこと、さっさと終らせたくてな。」
吐き捨てるように呟くが、リョウにはハヤトの気持ちが痛いほどわかった。
戦いに犠牲は付きものだ。
ムサシ。
たった一人で特攻していたムサシを思うと、リョウは後悔でいっぱいになる。
ムサシをゲッターに誘ったのはリョウだ。
あのとき達人が死んで、乗り手のなかったゲッター。3人必要だと知ったとき、真っ先に浮かんだのはムサシとハヤトだった。自分が一目置いている人間。
ムサシはミチルさんのこともあり、すぐに承諾してくれたが、あとになってよく考えると、ムサシにゲッターのパイロットは無理があったようだ。
確かにムサシは柔道の特待生だ。実力は認めている。しかし、操縦技術という面で、ムサシはいつも苦労していた。訓練でも戦闘でも、ムサシの腕は俺やハヤトより劣る。合体してからならともかく、各自がゲットマシンを操るときは何度か危機もあった。それでも合体さえすれば大丈夫だと俺は高をくくっていたのかも知れない。
ムサシはゲッターに乗ることを望み、俺も気心のしれたアイツと共に戦いたかった。多少ドジをしても俺とハヤトでカバーできるし、何よりムサシの代わりになる奴がいるとは考えなかった。ゲッターのパイロットは俺たち3人だと思い込んでいた。必要なのはチームワーク。腕や適性は2の次だ。それらは訓練でどうとでもなると。
「・・・・・・・・・・ムサシを死なせたのは、俺かもしれない・・・・・」
ポツリと呟くリョウ。
「・・・・・・・・結果がどうあれ、選んだのは自分自身だ。ムサシは悔いちゃいねぇだろう。ましてや恨んでもな。アイツはそういう奴だ。立場が違えば、俺やお前だって同じことをしただろう。」
ハヤトがまっすぐな目でリョウを見ていた。
「ああ、・・・そうだな。俺のせいだなんて言ったら、ムサシに怒られるよな、『バカにすんな!』って。」
「ああ。今頃、あのあたりの雲の上で、じだんだ踏んでいるだろうよ。」
遠くの空を指すように見詰める。
「・・・・・・・・・ハヤト・・・・・・お前、ひょっとして、ロマンチスト?」
信じられないものを見るかのように、目を丸くするリョウ。
「・・・・・・・リョウ、ちょっと訓練に 付き合わないか?」
凄味を含んだ低い声。
「お?おう、久しぶりに格闘技といくか!」
軽く肩を叩き、手すりを離れる2人。
「ベンケイさ〜〜〜ん、どうしたの〜〜?早くボール投げてよ〜!」
元気とキャッチボールをしていたベンケイは、2人のいなくなった屋上を見ていた。
☆ ☆
浅間学園に転校してゲッターチームを知った。もちろんそれまでも恐竜帝国とゲッターロボのことは知っていたが、そのパイロットが自分と同年代だとは思ってもみなかった。普通の高校生である自分とは全く関わりのない世界。パイロットは選び抜かれたエリート達だと思っていた。技術ばかりではなく、知力、体力、精神面も鍛え抜かれた戦士。
だが実際に会ってみると、確かに人よりは抜きん出ているだろうが、自分と大差ない平凡な高校生だった。何より、何の訓練もしていなかった自分ですらゲッターを操縦することができたのだ。
あの2人は気負い過ぎなんじゃないか、と思う。遮二無二敵を倒すことばかり考えて。自分達だけが地球の命運を担っているかのようで、ゆとりがない。あの時、俺が動物たちを助けようとしたとき、2人とも戦いを優先させようとした。俺は動物たちを助けた。が、結局、動物たちはメカ百鬼に殺されてしまった。リョウ達には俺の行為は無駄に思えたかもしれないが、もしあのときリョウ達も俺の言うことをきいて合体して動物たちを助けたら、もっと安全な場所に避難させられたんじゃないのか?ほんの2、30分、力を貸してくれればよかったんだ。そうすればきっと動物たちも助かり、敵も倒せた。
俺だって、戦いの大切さはわかっている。
少しばかりのわだかまりが、疎外感を生み出していた。
だから。
百鬼兵士・白髪鬼扮する少女の告げ口に、ベンケイがリョウ達への不信感を爆発させたのは無理もなかった。
リョウはチームリーダーとして、なんとか3人の足並みを揃えようとつい小言が出たし、ハヤトは以前と違い皮肉な言葉も言わなかった。ムサシが相手であれば、たとえ怒らせたとしてもリョウやミチルが間に入って宥めて事なきを得たが、ベンケイはそうはいかない。自分の言葉がケンのあるものだとわかっていたから、諍いを避けるためますます無口になっていた。それでも、幾度も生死を共にしたリョウとハヤトは暗黙の了解というか以心伝心というか、特に言葉はなくとも互いの間に信頼感はあった、「親しみ」を含んだ。
だが、ベンケイとは・・・・・・・
ベンケイは、度重なる嫌がらせにブチ切れていた。
何も自分から頼んでゲッターに乗ったわけではない。元気を助けるために否応なく乗ったのだ。
それから後も、別に戦いたかったわけではない。乗り手がいないからと早乙女博士に頼まれたんだ。リョウやハヤトが俺を気に入らないのなら、別に一緒に戦う必要はない。誰か代わりを探せばいいのだ。たまたま俺が近くにいて、体力や技術がゲッターに合ったというだけだ。この学園だけで3人もの適合者がいたのだ。他を探せばいくらでも乗り手は見つかるだろう。
自分達だけが特別だなんて、そんな選民意識はクソくらえだ!!
「どうすればいいと思う?ハヤト。」
早乙女研究所の所長室。重い空気
リョウが困惑した声を掛ける。
「ベンケイ君はポセイドン号のパイロットとしてなくてはならない人間だ。彼とポセイドン号の特性は見事に合致している。なんとか彼を説得出来ないものだろうか。」
頭を抱えるように呟く早乙女。偶然かもしれないが、各ロボットの適性を最大限に発揮できるパイロットがここに揃った。大げさだが早乙女は、『神の啓示』といっても良いくらいだと思っている。決して有り合わせの人材とは思っていない。
誰も想像だにできなかった恐竜帝国や百鬼帝国の脅威。
「人類未曾有の危機」に発見されたゲッター線。そしてそれを操ることのできる若者達。どちらが欠けても、人類に未来はない。
窓にもたれていたハヤトはゆっくり顔を上げると
「あいつは大雑把に見えて、そう単純バカじゃない。」
「オイ。」
「あいつの正義感とお前の正義感は多少違っているが、それでも俺のようにひねくれているわけではない。」
『よくわかってるな、自分のこと。なら直せ。』
心の中でこっそり突っ込むリョウ。
「そんなベンケイが俺たちにこれほど突っかかるのは、理由があるのだろう。」
「だから、その訳って何だよ!俺には全く心当たりはないんだ。お前にはあるのか?」
「俺にもない。ということは、俺たちの知らない、何か作為があったとしか思えん。」
「作為?何だそれ。お前、何を知っているんだ?」
「何も知らんさ。ただベンケイの性格から考えて、さほど人を悪く思うとは思えんからな。ここまでこじれたのは、何かの悪意が介入したのだろう。」
「・・・・・・・・・お前・・・・・・・・そこまで気がついていて、なんで黙って放っておくんだ?!」
リョウは腹立たしかった。もともとリョウはハヤトに一目置いていた。自分の所属するサッカー部に勧誘したのも1度や2度ではない。扱いにくい性格なのはわかっていたが、同じ寮の部屋で暮らしたリョウには、ハヤトが決して無責任な性格ではないことを知っていた。承諾さえすれば、ハヤトは力を尽くしてくれる。だからこそ、リョウもムサシも自分の部にハヤトを勧誘したものだ。
「俺は口下手だからな。かえってケンカになる。ミチルさんか・・・・・そうだな、元気くんに頼む方がいいか。」
「元気ちゃんに?」
「ああ。よく一緒にいるから、ベンケイがなぜ俺たちを誤解しているか知っているかもしれない。知らなくても、最近ベンケイが誰と話しているのを見たかもな。」
「誰かって、やっぱり何者かがベンケイを焚きつけていると思っているのか。」
「ベンケイと俺たちが仲違いして利益を得るといったら、百鬼の奴らぐらいだからな。まったく今度の敵は胸糞悪いぜ。恐竜帝国の奴らはロボの弱点を突いてきたが、百鬼は感情の弱点を突いてきやがる。」
敵は鬼。鬼はハチュウ類人より人間に近しい。そう、その悪意も。
「そうだな。そのぶん俺たちは慎重にならないとな。幸い3人とも博士の家に下宿させてもらうことになったし、ベンケイとももっと親しくなれるだろう。」
リョウはベンケイを思い浮かべた。ちょっと意固地になることはあるが、けっこう呑気でおおらかな奴だ。一緒に暮らしてみれば誤解も解けるだろう。リョウは少し気楽になった。
だが。
たしかにベンケイは豪放磊落の性格だ。しかし、一度こじれた感情はなかなか修復できず。
元気にベンケイの様子を聞いたが、特に不審な人物に会ったのを見た事はないという。それよりも最近、かわいい女の子と知り合ったんだと嬉しそうに花畑の方へ向かう。
「へえ、今度紹介しろよ!」
と声をかけると、
「うん!」
と手を振って走っていった。
☆ ☆ ☆
新早乙女研究所 地下第9研究室。
コンピューターの作動音。
忙しなく武器の調整をしている敷島博士の横で、ハヤトは先程からずっとコンピューターのキィを叩き、画面を見詰めていた。沈黙が場を支配する。
「・・・・・・・・・何が不満なんじゃ?」
諦めたように敷島が声をかけてきた。
「・・・・・・・・不満といえば、そうなのでしょうね・・・・・・・・」
相変わらず無表情なハヤト。
「コレを見てください。」
ハヤトに促され、敷島はコンピューターの画面を見る。
画面に映し出されているのはムサシの最後。特攻していくコマンドマシンの軌跡。
「お前が吹っ切れんのはわかるがのう。・・・・・・・」
敷島はつぶやく。あのとき敷島は自分の持てるすべての力で三段ミサイルを作った。だが無敵戦艦ダイを破壊させたのはそのミサイルではなく、ミサイルを詰め込んだコマンドマシンだった。だが、コマンドマシン自体のエネルギーをプラスしても、到底「ダイ」をつぶせるほどではないはずだった。もしそれが可能なら、最初からゲットマシンにミサイルを詰め込んで自動操縦で突っ込ませた。確かに自動操縦ではむずかしいが、ゲットマシン3機とコマンドマシン、4機もあるのだ。1機ぐらい成功するだろう。
だが、そんなもので破壊できる艦ではなかったはずだ。いくら防御の弱い所をうまく突けたとしても、相手はマグマの中を航行できる科学力を持った恐竜帝国の粋を集めた戦艦。心臓部などは特に隔壁や障壁で幾重にも守られていたはずだ。だからこそ無理を承知でミサイルを連結させようとしたのだ。破壊力を増すために。それしか手段がなかったから。
画面に現された爆発時の数値を見ながら、
「幸運じゃった、としか言いようがないのう。おそらくコマンドマシンの突っ込んだ場所は、敵の中枢部かエネルギー貯蔵室だったのかもしれん。そうでなければ、あれほどの破壊力はない。」
もう少し時間があれば、「ダイ」の内部を知ることができれば、いくらでも打つ手はあったのに。だが、ダイの攻撃は苛烈だった。研究所に余裕はなかった。
「いくらゴール達がバカだとしても・・・・・・」(オイオイ。)
「艦の心臓部やエネルギー貯蔵庫の防護をおざなりにしているとは思えません。ましてや切り札ともいうべき戦闘艦。衝撃に耐え得る事が大前提です。ちょっとやそっとではビクともしないはずです。
この数値を見ると、ムサシのコマンドマシンは三段ミサイルと同等か、それ以上の破壊力を持っていたのだと思います。」
「だが、あのコマンドミサイルに搭載されていたミサイルにはそれほどの力はないぞ。確かに高性能ミサイルだし、コマンドマシン自体のゲッター線エネルギーはプラスされたがの。」
武器に関しては、敷島は早乙女をはるかに上回る。異能ともいうべき天才だ。
「ゲッター線のエネルギー値が、一瞬ですが上がっているんです。ムサシが突入したときに。」
データに現された数値に、敷島は驚愕の目を開く。
「なんじゃこれは!!爆発時のものか?!」
「いえ、その少し前だと思うのです。コマンドマシンからの自動送信データそのものが途切れ途切れだったので、確証は持てないのですが。」
敷島はジッと数値を見る。頭の中でめまぐるしく計算が為される。
「ふーむ。確かにこの数値ならばダイの内部破壊は可能じゃな。」
ゲットマシン3機の合体エネルギーを破壊エネルギーを転化させたなら、この数値は出るだろう。だが問題は、なぜコマンドマシンがこれほどのエネルギーを出せたかだ。それが解明できればゲッターはもっと強力な力。百鬼帝国など足元にも寄せ付けない力を得ることができるだろう。
「よし。早乙女を呼ぼう。」
目を爛々と輝かせる敷島に、
「いえ、早乙女博士に伝えるのは、少し待って貰えませんか。」
「ふん?なぜじゃ?」
「まだ計算の確認ができませんし、それにちょっと気になるんですよ。」
「何が?」
「前に早乙女博士は『ゲッター線は金属変化を促すエネルギーだが、何やらそこに<意思>のようなものを感じる。』とおっしゃっていました。<意思>に善意や悪意が含まれるかはわかりませんが、武器は計算し得るほうが安心です。この件はまだ俺自身はっきりした考えがまとまっているわけではありません。早乙女博士には必要なときにお伝えすればいいと思うのです。」
「・・・・・・・・・まあ、いいじゃろう。しばらくはワシ一人で調べようかの。お前もちょくちょくここに来い。ところで、新しい奴はどうじゃ?お前やリョウよりもタフだそうだが。」
ひどく嬉しそうに笑いながら問いかける。
「タフさで勝負しようとは思いませんよ、俺は。ベンケイは手先も器用です。戦闘技術についてはあまり心配していません。ただ、今はまだ、俺やリョウとの関係は良好とは言えませんがね。」
「なんでじゃ。またお前がイチャモンつけておるのか?」
「今は控えていますよ、これでもね。どうしても俺とリョウがタッグを組んでしまいますから。ベンケイも面白くないでしょう。戦闘に慣れてきても、『戦い』に慣れるのは別ですからね。
でもまあ、リョウがいますから。アイツならベンケイとうまく折り合いをつけてくれるでしょう。ベンケイも野球部のキャプテンをやっているくらいだから、チームワークの大切さを知っています。リョウに任せておけば安心です。」
「ま、お前でさえ懐いたんじゃからな。そのうち、ここにも連れて来い。試したい武器があるんでな。」
見るからにアブナそうな武器に目を向ける。
武器の調整を始めた敷島から目を離し、ハヤトは先程から映し出されたままの画面を見る。
この一瞬のエネルギーの爆発的な上昇は、何に反応したのだろう。“ 終わりよければすべて良し”がモットーの俺だが、これは“ 良し ”とすべきなのだろうか。確かに “良し ”ではあったのだけれど。
< 終わり >なのか、 < 始まり > なのか、 < 続く >なのだろうか。
☆ ☆ ☆ ☆
白髪鬼の計略により、チームワークはバラバラだった。脳波停止光線を受けて視力が麻痺したリョウとハヤト。
以前も2人が視力を失ったことがあるが、あのときはムサシが2人を誘導し、勝利を得た。同じ状況にあって、しかもロボットの制御機能は格段に上がっているというのに、戦うことができなかった。
苛立たしさが不満を呼び、不満が更なる不信を呼ぶ。
早乙女は、判断すべきか迷っていた。ベンケイを外し、ミチルを入れる。
戦力は数段劣るがやむを得ない。戦えないよりは。
「ベンケイさん!!」
司令室のドアを勢いよく開けて飛び込んできた元気がマイクに叫ぶ。
「ベンケイさん、あの子、百鬼だったんだよ!!リョウさんたちは、決してベンケイさんのこと、悪く言ってなかったんだよ!!」
「!!」
ベンケイの怒りが白髪鬼に向かう。それは白髪鬼に対する怒りと、2人を疑った自分自身に対する怒りだ。
「リョウ、ハヤト、すまん!俺に力を貸してくれ!!」
再度放たれた脳波停止光線も、仲間を思うベンケイには効かなかった。
ポセイドンのストロングミサイルが、白髪鬼を破壊した。
「でも、なんでベンケイには脳波停止光線が効かなかったんだ?」
「俺の視神経は、お前らみたいにヤワじゃねえってことだな。」
「悪かったな。だいたい、視神経なんてものは、鍛えられるものじゃないだろ。」
不満そうなリョウ。
「つまり、ヤワじゃないというより、ニブイってことだな。」
「何だと、ハヤト!」
早乙女家のリビングに明るい声が響く。
「でもさ、脳波停止光線って言ってたけど、一時的に目が見えなくなっただけですんでよかったね、リョウさん、ハヤトさん。」
「元気ちゃんが敵の正体をみつけてくれたおかげで助かったよ。」
リョウが元気の頭を撫でる。
「脳波停止っていうより、脳波麻痺って感じね。」
「誇大表示だよな。」
「いや、百鬼の奴らには脳波が停止するのかも。」
「で、人間には麻痺だけ?マヌケな武器だね。」
元気の言葉に皆が笑う。
わだかまりが解けてみれば。
ベンケイにとって、ここは随分と心地よい場所だった。
押し付けがましく思われたリョウの態度も、自分のことを思いやってくれたのだと知ると、ひどく好ましいものとなる。無愛想で何を考えているのかわからないハヤトにしたって、あれでけっこう、気を使ってくれた(たぶん。きっと。)んだと気づく。早乙女もちゃんと自分を認めてくれている。
誰だって、守れるものならばすべて守りたいと思う。でも、戦いはそんな甘いものじゃないことがわかった。命に優劣はないけれど、悔しいが、力には限度は確かにある。冷静に判断しなければならない時も、辛いけどあるんだな。
でも、それでもこいつらとなら、後悔はあっても乗り越えられそうだ。そう、こいつらは、今までもずいぶん苦しみや哀しみを乗り越えてきたんだろう。大事なものを「切り捨てる」なんて出来っこない。受け止めて、抱きしめて、押し込めて、そして戦ってきたんだろうな。
「おいベンケイ。なんだかしんみりしてるじゃないか。」
「そういえば、敷島博士がお前に会いたいと言っていたな。」
ベンケイの顔を覗き込むリョウの後ろで、ハヤトがニヤニヤしながら言う。
「敷島博士?」
「ああ、お前はまだ、顔を合わしちゃいなかったな。ゲッターロボと研究所の武器を担当している博士だ。」
リョウもクスクス笑って言う。
「武器ならなんでもござれだが、重火器を扱わせたら、博士の右に出る者はいないだろうな。」
「へぇー。そいつは凄いな。ぜひ会ってみたいな。」
「行こうよベンケイさん。ぼく、案内するよ!」
元気がベンケイの手を引く。
「おう。お前達は来ないのか?」
「いや、久しぶりに俺も行こう。ハヤトも来るだろ?」
「いいや、俺はあとにする。ちょっと宿題が残っているんでな。」
「はぁ?」
一瞬呆気にとられるリョウを尻目に、ハヤトは部屋を出て行った。
「へぇー、ハヤトさんでも宿題をやり残してることってあるんだ。」
元気が珍しそうに言う。
「いや、やり残しているってか、あいつ、宿題なんてやったことあるのかな。」
「え?ハヤトさん、いつも宿題しないの?!」
思わず嬉しそうに聞き返す元気に、
「こら元気!だからといって、アンタが宿題しなくていいわけじゃないわよ。」
ミチルがギロリと睨む。
「え、え〜。だってぇ。」
「ハヤトの場合は、授業中にやるっていうか、やってなくても質問には答えられるというか、ろくに授業にでてこないというか・・・・・・・」
リョウもどうフォローしていいかわからない。
「ま、とにかく敷島博士のところに行こうぜ。ちょっと変わった人だけど、面白いぜ。(たぶん・・・)」
早乙女研究所の地下第9研究室は、完全な防音室である。ご愁傷様。
「いやー、今日は実にいいデータが取れた。」
硝煙の匂いまだ濃く残る実験室で、敷島は上機嫌で言った。
「野球のキャッチャーをやっていると言っておったが、さすがに腰が据わっておる。リョウやお前ならば吹っ飛ぶところじゃ。」
「誰でも何かひとつふたつ、取り柄があるものですよ。」
敷島の挑発にも平然としている。
「で、どうだ。宿題は終わったのか。」
「どうも解けないので、先送りにするしかないようです。」
「おまえがそんなことを言うのは珍しいな。どれだ?」
ハヤトの持っていたミニディスクを受け取る。
「白髪鬼の脳波停止光線なのですがね。」
「ああ、ワシより派手なネーミィングだな。これがどうした。」
「わりと不安定な配列ですけど、たしかにこれは脳波停止能力はありますよ。」
「ふん?誰も死なんかっただろうが。」
「元気君の場合はわざと弱くしてあったみたいです。作戦といえ、一緒に遊んで好意を寄せてくれた子供に、あまり手荒なことをしたくはなかったのでしょう。俺とリョウはゲットマシンの中にいたから、ゲッターシールドがある程度守ってくれたと思います。問題はベンケイですが・・・・」
データを画面に映し出す。
「ベンケイは戦いの最中にオレ達への誤解が解けて、感情が変化しています。脳波に影響を与える光線なだけに、感情の波長に左右されたといえばそれまでですが、それでもこれほど完全に遮断されるものならば、武器として欠陥品といえるでしょう。」
ハヤトは知らない。白髪鬼が最後にベンケイにつぶやいた言葉。
「俺は、貴様の友情の涙に負けた。」
計算を超えた思いが------意志エネルギーが-------光線を遮断した。
想いを増幅させたのは何であったのか。そして、何故ソレは人類に力を貸したのか。
「また不満があるようだな。
・・・・・・・・・・・・・・お前の仮定は?」
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朱里様 2000番代理 リクエスト
お題は 「TV版 ゲッターロボG ベンケイを中心に 」
はい。ベンケイを中心にしようと思ったんです、これでも。
朱里様、言い訳のしようもございません。
せっかく1500番のリクエストでOVAの「新」を頂いたのですが、私はまだ「新」を観ておりませんので、保留ということで2000番もう一度リクエストをお願いしましたのに(「変更」ではなく「追加」をお願いするかるらです。)、なんて厚顔無恥なかるらでしょう!
これでTV版?!でも、「G]は最初はけっこうベンケイが浮いてたし・・・・・まだ「ギャグ」ができる関係じゃなかったもので・・・・・
ひらにひらにご容赦を願い、コソコソと退散させていただきます。(謝!!)
(2006.3.25 かるら )
付記 私の書くハヤトには、もれなく敷島博士が憑いてます。(こっちの「憑く」か! ルンルン。)