蒼き宙にて 3
聖者の星
そう 呼ばれていた。
☆
ネオアース 中央司令部。
壁一面のスクリーンに広がる宇宙空間。
エリゴムの説明が続く。
「この惑星ゴルは、敵艦隊のかなり大きな拠点と思われます。アビゴール星系に派遣される軍勢は、ここを拠点としていると考えられます。出来るだけ早めに叩き潰した方が良いかと。」
「ゴルを壊滅させれば、今のところ240光年先まで敵基地は存在しておりません。」
マルコシアスが若々しい頬を紅潮させる。エリゴム司令の副官としてこの場に、ゲッターチームと共に居ることに興奮している。
「うん、いいんじゃねえのか隼人。この前の腕比べは、敵が足りなくて勝負つかなかったじゃねえか。今度は大差をつけてやるよ!」
嬉しそうに目を煌めかせるリョウ。
おいおい、やめてくれ。
武蔵と弁慶は思わず唸る。少し前にリョウと隼人が戦闘能力の腕比べ(?)したが、一緒に行かされた自分達が傍観者でいられたはずがない。当たり前だが敵は死に物狂いで攻撃してくる。そりゃもう、武蔵と弁慶は必死で戦ったんだ。ゲッターオープンした三号機で。
なかなか勝負がつかない二人のせいで、ついには激戦区かつ劣勢であったポイント3077の敵を全滅させた。休憩も貰えずに(ここが大事!!)。
それでも、また勝負がつかなかったな、他にやってる戦闘区域はないのかよ?と残念そうに言うリョウを、真っ青になって引きとめたものだ。
「おいリョウ、今度はゲッターロボで戦ってくれよ。分離はナシだぜ。」
弁慶が念を押す。
「おうよ!今度は順番に変形してやろうぜ!」
明るく無邪気に返すリョウ。いや、違うだろ、順番って。俺達が言いたいのはそこじゃない!
突っ込む元気もない弁慶達に構わず、隼人はじっとエリゴムの指し示す宇宙図を見る。
「何故、迂回するのだ?」
不審げに問われて、マルコシアスが直立不動で答える。
「はっ!ここに聖者の星があるからであります!」
「聖者の星?」
怪訝に聞き返すリョウ。
「はい!惑星ゴルへの最短距離はこのルートですが、ちょうど聖者の星を過ぎることになるので、迂回のためこちらのルートになります。」
テキパキを宇宙図を示す。
「あん?その『聖者の星』ってなんだよ。通っちゃ駄目なのかよ?」
「はい。避けるように言われております。ですからこちらのルートを・・・・」
「おい、ちょっと待てよ。」
「はい。」
リョウの言葉に笑顔で従うマルコシアス。いつものことながら、こいつらってホントに素直だな〜〜と思いつつ。
「言われてるって、誰に?」
「言い伝えです。」
・・・・・・・・出たよ。また出たよ、言い伝え・・・・・
ず〜〜〜んと重くなったリョウ達とは対照に、エリゴム達は平然としている。
「マードック、説明を。」
隼人が基地司令のマードックを促す。
「はい。『聖者の星ありき。飢え無く病無く老い無き楽園。そこに住みし者、妬み知らず、恨み知らず苦しみ知らず。なれどその星に、入ること禁ず。』以上です。」
マードックがすらすらと暗誦する。
「で、誰も行ったことないのか?」
おそるおそる弁慶が尋ねる。
「「「はい。」」」
予想通りにマードック達が答えた。
・・・・・・・・・・・・・
いや、楽園だぜ?老いも苦しみも無いんだぜ?行くだろ普通!?
こちらの世界に慣れたとはいえ、ついていけないことも多々ある。
「現実問題としては、行くことは出来るのか?」
リョウ達を無視して隼人が聞いた。
「はい。この星に着陸するのに、何の障害もありません。宇宙ボートでも安全に着陸出来ます。」
「え?今、誰も行ったことねぇって言ったじゃねぇか。嘘か?」
「私達の星、アールマティの人間は誰ひとり聖者の星には行っておりません。しかし、他の星の者が行ったと聞いております。」
「私の星ドゥナミスの住人も言い伝えを守っております。」
エリゴムも告げる。
「敵との恒星間戦争が始まって数百年の間、おそらくこの星に入った者はいないと思います。しかしそれ以前には何隻かの船が入ったようです。この星は楽園だと言われておりますが、実際、どのような星であるかは誰も知りません。」
「?なんでだよ。入ったやつらの残した記録とかないのかよ?」
リョウの問いかけにマードックが答える。
「『聖者の星』からは出られないのです。」
『楽園』の名に惹かれて。
あるいは自分の星を追われた犯罪者が。
もしくは漂流した者がやむを得ず。
この星に降りて行ったという。
だが、誰も戻らない。
どんな呼びかけも返らない。
この星は
ただただ、受け入れるだけ。
「おい、だったら楽園かどうかもわからないんじゃないか。」
武蔵が言うのに、
「いえ、楽園だと伝えられておりますから、それは間違いありません。」
平然と答えるマードック。あとの二人も当然という顔をしている。
「星の引力はどれほどものか。付近を通るのに必要な警戒は?」
自分達の世界の常識とのギャップに力を落としているリョウ達と違って、隼人はすんなりとこちらの常識を受け入れている。いや、こいつはもともと非常識な奴だから、どんな常識も平気なんだろうけど。
「大気圏に入らなければ大丈夫です。通常の宇宙空間を航行するのと同じです。プリズムによる解析結果では、聖者の星の大気はネオアースと同じですし、星には水と植物が存在します。」
「では、迂回は止める。最短ルートを採る。第18から第26大隊を連れていく。エリゴム、指揮を執れ。出発は三日後だ。
「了解しました。」
エリゴムとマルコシアスが直立不動で礼する。
「リョウ、お前達も手伝ってやれ。」
「おう、聖者の星に行けるのか。楽しみだな。」
「おい、行くんじゃないぞ、通り過ぎるだけだ。」
あわてて弁慶が言う。はっきりさせておかないと、どうなることか。」
「おいリョウ。ほんとに通るだけだからな。約束しろよ!」
武蔵も真剣な面持ちで言う。その場になってリョウに駄々をこねられてはたまらない。
「わかったよ。ちぇっ、つまんねえな!」
不満気に呟くリョウをよそに、ほっと息をつく弁慶と武蔵。これだけ言っておけば、いくらリョウでも無茶は言わないだろう。約束は守る男だ。
閉じ込められる星に行くなんてとんでもない。まずはひと安心、と笑顔の二人。だが。
約束を交わしていない男がひとり。まあ、交わしていたとしても関係ないだろうが。天上天下唯我独尊・・・・・・・
☆
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「ではエリゴム。あとは頼んだぞ。」
「はい。お気をつけて。」
「うわあ、わくわくするなあ!楽園ってどんななんだろ、な、武蔵!」
小脇にヘルメットを抱え、うきうきと格納庫に向かうリョウ。エリゴムと会話している隼人から少し遅れて歩く武蔵と弁慶は、自分達の隣でキラキラと目を輝かせているマルコシアスにこっそりと、
「おい、なんで嬉しそうなんだよ?」
「は?」
「あの星に降りたら、二度と出て来れないって言うんだろ。心配しないのかよ?」
「俺達がいなくなったら、困るんだろ!?」
隼人がゲッターロボで『聖者の星』に行くと言い出した時、リョウの大喜びは予想通りだが、エリゴムたちまで賛成するとは思わなかった。絶対、引きとめると。
「ゲッターチームの皆様であれば、何の心配もしていません。」
見事なまでにきっぱりとマルコシアスが答える。
「『聖者の星』の真実が解るのですからドキドキいたします。皆様がお戻りになられるまで、しっかりと軍団を待機させております!」
信頼されるのは嬉しい。だが、盲信されるのは・・・・・・
胃がキリキリ痛む。
そのうえマルコシアス達の盲信より悪いのは・・・・・・・・・
なんで、この二人は平気なんだ!!
さっさとゲッターに乗り込むリョウと隼人に怒りすら感じながら、せめてもの嫌がらせに自分達の機にだけぎっしりと食料品を詰め込む。星に閉じ込められたら、思いっきり恩にきせてから分けてやる!
とはいえ、閉じ込められてもどうにかなるだろとなんとなく思う。すでに、知らない世界に飛ばされるという理不尽を経験していれば。
それに。
4人一緒だ。
「ふむ。気候は亜熱帯。季節とすれば春から初夏にかけてか・・・・・『楽園』の定義は守っているな・・・・・」
ボソリと呟く隼人。
楽園の定義ってなんだよ、それ!
「へえー、さすが楽園だな。木の実がいっぱいだぜ。食えんのかな?」
嬉しそうにキョロキョロトあたりを見回すリョウ。
ゲッターロボはすんなりと大気圏に入り込み大地に降り立った。
宇宙から見たときも思ったが、地球に良く似た星だった。青い空。豊かな水と緑の大地。色とりどりの花々が咲き乱れ、甘くさわやかな香りが満ちていた。
どの木々も重たげに実を付けていて、そよ吹く風にひっそりと揺れている。
「ん、でも誰もいないなあ。ここは居住区じゃないんかな。」
「まあ、星は広いからな。もう少し調べたら他に行ってみるか?」
「この実、食っちゃ駄目か?隼人。」
よだれを出しそうな武蔵に聞かれて
「楽園に毒のある実があるとは思えんがな。一応調べてみろ。」
さっそく分析器具を用意しだした武蔵を弁慶が手伝う。
「隼人。ちょっとその辺、回って来ないか。危険なものもなさそうだし、分離しててもいいんじゃねえか?」
「少し待て。脱出出来ない星と言うからにはそれなりの理由があるんだろう。4人で行動しよう。」
「じゃあ俺も手伝うか。おい武蔵、いくつも選ぶんじゃねえ!」
わいわいと分析する。こちらの世界に来てからは何をとっても初見の植物ばかりだ。分析にも慣れている。
「大丈夫のようだぜ。味はどうかな。」
三人が噛り付く。
「「「?!!」」」
「どうした。」
目を丸くした三人を訝しげに見る隼人。
「ん、めぇ!!!!」
「美味いぞ、これ!おい隼人も食ってみろよ!」
「甘くてみずみずしくて、それでもって爽やかで!!」
三人は貪るように食べている。
「隼人、ほら!」
リョウが差し出すのを、隼人は「いや。」と断る。
「美味すぎるというのも問題だ。今はひとつだけにしておけ。念のため俺は止めておく。」
「いつもながら慎重な奴だな。ま、お前が無事なら俺達が腹壊しても対処出来るけどな!」
いや、武蔵や弁慶が腹を壊すような植物なら、どんな薬も負けるんじゃないかな、とは思うが。
「おい、さっさと調査を終わらせようぜ。そしてこの果物をど〜〜んと持って帰ろう!」
上空から見た聖者の星』。
山はなく、ゆるやかな丘と森が続いていて、幾筋もの川が海へと繋がっている。
「なんか、どこも似たような景色ばっかだな。」
「星全体が楽園ってことは、どこも同じってことか?」
「建造物も見当たらないんだよな。木々ったって低いのばっかだから、隠れて見えないってこともないと思うけど。」
「あそこに泉らしいのがあるな。降りてみよう。」
隼人の言葉にみんな機首を下げる。
そこには小さな泉が湧き出でていた。
「静かだな。森林浴っていうのか・・・・・」
「落ち着きすぎて落ち着かないっていうか・・・・・・」
「こんなとこに住んでたら聖者になれるのかもな・・・・・」
なんとなくヒソヒソ声になるのは仕方ない。
隼人はゆっくり木々を見上げると、今度は泉に目を移す。
「なんだ、隼人。魚でもいるのか?」
バタバタと駆けてきて目を凝らすリョウ。
かなり深いであろう泉の底まで見える。
「いねえなあ。いたら捕まえて飯に出来るのに。」
「あっちは?見に行こうぜ。」
武蔵と弁慶が反対側を指差し駆けだしていく。続こうとしたリョウは隼人を見て立ち止まる。
「おい、隼人。」
「いないな。」
「あん?ああ、あっちへ行ってみよう。」
「いや、魚じゃない。」
隼人はゆっくり言った。
「動物はもちろんのこと、鳥もいない。虫もいない。おそらく探しても魚はいないだろう。」
「ええ?それって・・・・ネオアースみたいってことか?」
戦いの星 ネオアース。戦いのために用意されたそこは、生命の痕跡すらなかったという。
「いや、違う。少なくともここには『聖者』がいるはずだ。この星に捕われた人間もいるはずだ。」
この世界で「言い伝え」は、確たる「記録」に他ならない。
「この風景は、『エデンの園』に似ている。石の建物があるといいのだが。ともあれ、危険は感じられない。拠点を移動させながら、各機低空飛行で調査を続けよう。」
星ひとつを調査することは、いくら高速を誇るゲットマシンといえども時間がかかる。やがて日が暮れ、あたりを闇が覆う。4人は今日の調査を諦める。
「確かに遺跡?らしいのが3か所あったけどな。」
「柱みたいなのがが数本残ってただけで、あとは朽ちていた。」
「石じゃなくて、木造、っつうか、あずまやみたいなのに住んでたみたいだな。」
「こんな温暖な気候で泥棒もいなけりゃ、簡単な家で良かったんだな。」
「どこで住んでも同じだから縄張り意識もない。どこを見ても溢れるほどの果物だぜ。」
「そしてどこを探しても鉱石はない。この星から脱出できないというのは、この意味もあるかもしれない。」
「隼人、どういうことだ?」
「例えばこの星では金属なんかは分解していく、とかだ。宇宙船が無くなれば出ていくことは出来ない。」
「おい、それってまずいじゃないか。急いで出て行こうぜ!」
焦った弁慶が立ちあがり、武蔵もリョウも慌てだす。
「まだ大丈夫さ。」
「なんでわかる?!」
落ち着いている隼人に説明を求めるが
「まだ俺たちは『聖者』に会っていない。」
絶句。
それが理由?
「ま、まあ。いくら金属が分解するっていっても、2,3日じゃ大丈夫だろうからな。」
へへへ、と気まり悪げに笑う弁慶。それに合わせてリョウと武蔵も笑いかけたが。
「逃げ出せないくらいには、早い分解だったんだろうぜ。」
何も全部をいっぺんに分解させる必要はないからな。エンジンとかエンジンとかエンジンとか・・・・
『エンジンばっかじゃねえか!!!』
さらりと不吉な言葉を流す隼人に、言い返す気力も失くして不貞寝する3人だった。
朝。
目覚めたリョウは大きく伸びをする。
夜間に冷えることはなく、持ってきた毛布を被るだけでゆっくり眠れた。そこらじゅうに生えている肉厚の大きな葉を重ねれば、立派なベットになっただろう。もしかしたらここの聖者とやらは、そうして眠るのかもしれない。
隼人の姿が無い。だがそれも予想のことだ。たぶん、そこらを散歩しているのだろう。
リョウもゆっくり歩き出す。隼人の居る所は不思議と解る。ほら。
泉の縁にかがんで両手を水に浸している。
じっと目を閉じて、まるで何かの声を聞いているかのようだ。
木漏れ日を受けて、まるで一幅ので宗教画のよう。
俺達4人この世界に来て、相変わらず戦闘にばかり駆り出されて。
それが不満なわけではない。一進一退を繰り返す戦い。いや、進んでいるのか止まっているのかさえわからない。広大な宇宙。意識の範囲を越えている。
だが隼人はなんの逡巡もなく命令を下す。だからきっと、俺達の戦いは前進しているのだろう。
隼人はときどき、何かの声を聞いているように見える。傍から見たらいつもどうり考察しているようだけど。実際、そのほうが多いのだけど。
正直言って不安だ。隼人は秘密主義であり、なおかつ嘘吐きだ。俺達のことはちゃんと考えるが、俺達の気持ちをちゃんと考えているかというのとは、別だ。考えていないというより自己完結してしまうためそこで終ってしまう。それで俺達がどれほど苦労したか。
最近はちょっとマシになったが、まだまだ油断は出来ない。
「おい、隼人。何してんだ?」
さっくり声をかける。以前の俺なら遠慮したかもしれないが、聖者もどきに見える隼人なんてごめんだ。
「声が聞こえた。」
「え?」
「飯を食ったら出発だ。」
「おい!」
ゲッター1の操縦室にはリョウと隼人が乗っている。ちなみに2号機の席には弁慶だ。
「リョウ、そのまま真っ直ぐだ。もう少し高度と速度を下げてくれ。」
レーダーもスクリーンも見ずに隼人が指示する。椅子に座ったままじっと目を閉じている。
「2時の方向に行って・・・・・・そこで11時の方向・・・・・」
低い声のとうりに操縦するが、目を凝らしても特徴あるものは何もない。
「よし、そこで降りる。あとはそれぞれに分離して探そう。多分ひとりだ。良く探せよ。」
「って、おい。たった一人をこの広いとこから?!」
いくら範囲が絞られたとはいえ、ひとつの県くらいの広さは優にある。
「声が聞こえたってことは、お前の声も伝わるんじゃないか?せめて、草原に出てきてもらえよ!」
「残念だな。意思の疎通が出来たわけじゃない。」
あっさり答えると、隼人は手近にある厚手の葉っぱ、例のベット仕様の葉を千切って重ねて寝転がってしまう。
「おい隼人!」
「お休み。」
三人の苦情をよそに、隼人はゆっくり目を閉じた。
泉のほとり。
流れる銀の髪の。
乙女がひとり。
☆
この星の名は 『イリン』 「見守る者」
飢え無く病無く老い無き楽園。
妬み恨み痛み苦しみを知らず。
ただ、存在するのみ。
長い 永い時間を 過ぎてきた。
美しい 平和なこの星で。
怨む相手も妬む相手もいない
愛する相手もないこの星で。
☆
「え、え〜〜とぉ。あんたのこと、なんて呼べばいいのかな。」
わたわたとリョウが尋ねる。ついに見つけたこの星の住人は、ギリシャ神話のミューズのごとくたおやかだった。
「リョウ、人に名を尋ねるときは、自分から名乗るのがエチケットだぜ。」
弁慶の指摘に、リョウは慌てて言いつのる。
「あ、俺は流竜馬。こっちは巴武蔵と車弁慶。あっちのスカしたのが神隼人。えっと、俺達は地球人で。」
そこで横槍が入る。
「違うだろ、リョウ。ここじゃ俺達はネオアース人だろが!」
「あ、そうか!」
「いや、それもおかしいだろ。この際さ、地球人と いうことで。」
「だ〜から!ここで地球人って言ったって、わかんないだろうが!」
その前に言葉が通じるのかを確かめるのが先決だろうに。と思いつつ、この隼人はこのドタバタに関与せず。
目の前の人物を冷静に分析していた。
「私の名前はアムルタート。」
目の前の美女が唄うようにささやいた。
「私はアムルタート。ハルワタートの子供。」
唯それだけが存在の証のように。
「俺達はここが『聖者の星』と聞いて、好奇心で訪ねてきた。他意はない。乱暴するつもりもない。よければこの星のことを聞かせてもらえないだろうか。」
隼人の問いかけに、アムルタートは頷いた。
「この星に住む者には、老いも病もありません。
死を望まない限り、命は永遠に続くのです。」
『聖者の星・イリン』において。
命は永遠といっていい。その代わり生まれ出る命は稀だけれども。
人は永久に生きることが出来る。食用とする植物は、なんの手入れがなくともその糧をたわわに実らせる。主食はパンに似た甘い実。皮をむいて薄切りにして、軽く炙るだけで焼きたてのパンになる。その他にもいろいろな味わいの木の実や植物はあった。そう、植物は。
動物も鳥類も魚類もこの星にはいない。
植物と人間以外、存在しないこの星。
「何百年と生きられるこの星では、新たな命は稀でした。 事実、一族にとって私は数百年ぶりの出生であり、私以降の子供はいません。 私達は両性体、雌雄同体です。子供は生まれて10年で成人します。性的には未分化で、その後自分の意志で性を決めることが出来ます。もちろん、その都度変更も可能です。」
淡々と告げるアルムタート。恵まれているはずのこの星で、彼女は諦めきった老人のように語る。
「え〜と、他の人間はどこにいるんだい?私達って言ったけど。」
弁慶の問いに、
「知りません。」
アムルタートは答えた。
「私がひとりになってから、三百年が過ぎました。まだこの星のどこかに人が居るとしても、私に知る力はありません。探しに行くには歩くしかありません。この広い大地に、目印になるものは何一つないのです。」
リョウ達は黙った。自分達はある程度の範囲を決めて、なおかつそれぞれの機に分離して探しだしたけれど。
飛行手段を持たない者が、この樹海とも言える森の中で仲間を見つけるのは不可能だ。樹木に様々な種類はあれど、比べる景色に大差はない。たとえ海を越えたとしても、同じ景色が迎えるだけだ。
「君はさっき、『この星では死を望まない限りは』、と言った。君が三百年前から一人だということは、何かが起きて、みんな死を選んだのか?」
[おい隼人。もっと聞き様があるだろうが!」
武蔵が思わず声を荒げる。
「いいえ、何もありません。何もないから、生きることに倦んでしまったのです。」
百年を過ぎても、千年を迎えても変わらない日々。稀にしか生まれない子供も、すぐに成長して同じ仲間となる。生きるために必要な糧は有り余るほど。病も老いもなく、誰かを頼りにする必要もない。誰かに頼られることもない。共に暮らしていても、皆、ひとりだ。
「他の星から来た者はいるのか?」
「ええ。私が生まれてからも何度か。彼らが宇宙船と呼ぶ乗り物は、この星に降り立った途端、動かなくなってしまうのです。そして程無く砂のように崩れていきます。」
失われていく宇宙船にパニックを起こし、仲間割れをする来訪者達。だが、すぐに気付くのだ。
殴られた頬に痛みはなく、切り裂かれた腕から血は出ない。
この星の住人は美しい。無理やり乱暴を働く者も多かったが、痛みを教えぬ星は快楽も与えない。
ただただ生きていくのだ。果物がたわわに実り、花降り注ぐ美しい星で。
「来訪者達はほとんどの人が、百年も過ぎずに死を選びます。生きることになんの苦労もないこの星に絶望して。外の星は、それほど良いところなのでしょうね。私や仲間達は他の世界を知りません。だから千年を過ごすことが出来たのでしょうけれど。」
ひとりが生きることを止めた後、次々と皆、命を放棄した。これまでの何も変わらぬ千年。これからも何も変わらぬ千年。果物を食べ、水を浴び花を摘む。
この星は。
自分達を慈しむように見せて、拒絶している。
「君は何故残ったのか?」
隼人の問いは、リョウ達皆の疑問だ。
「かあさまが言ったから。」
ずっと無表情に近かったアムルタートに、初めて表情が動いた。
「アムル、私の子。あなたにとって、生まれたことが幸いになりますように」
大人になってから四百年の間、ただの一度も「私の子」と呼ばれたことはなかった。親子ではなく同胞のひとりにすぎなかった。それが当たり前だった、この星では。
だが、母は消えさる直前に「我が子」と呼んでくれた。
驚きだった。自分が誰かの特別だなどと、考えたことはなかった。
だから決めたのだ。自分にとって、生まれたことが幸いに思えるまで生きていようと。
皆が 安堵したように次々と消えていくこの星で。
「それで君は、幸いと思えるようになったのか?」
場にそぐわない冷静な声。しんみりとしている三人(武蔵なんかは涙ぐんでるぞ!)が声の主を睨むが知らん顔だ。
「いいえ。でもあなた方が来て下さいました。この星に降り立った時点であなた方の時間も止まります。この先続く永い時間、私は何かを得ることが出来るかもしれません。」
うっとりと囁く銀の乙女。
「おいおい、冗談じゃねえぞ!!」
「そうだ、俺達はこんなところに閉じ込められるわけにはいかねぇんだ!」
「隼人、すぐ脱出しようぜ!!」
慌てて立ち上がるリョウ達。
「無駄ですわ。」
うっそりと笑う。
「あなた方の船はもう、動きません。」
この星は牢獄。光あふれる緑の大地を、
緩慢な死が覆っている。
「おい隼人。どうすりゃいいんだ?」
顔を引き攣らせる三人に構わず、
「行くぞ。」と隼人は立ちあがった。
「え、行くってどこにだよ?!」
「惑星ゴルに決まっている。」
「いや、この星からは出られないんだろ!」
「大丈夫だ、ゲッターは動く。腕時計に異常はない。この星は、ゲッターと相性が悪いようだ。」
相性が悪いのはゲッターか搭乗者か。どちらかわからないが、どちらでもいい。
「帰艦する。」
「「お、おう!」」
「ま、待って!!」
驚愕に目を見開いていたアルムタートが叫ぶ。
何?何を言っているのだ、この来訪者は。
この星を出ていくと?出ていけると?!
「連れて行って!!」
なりふり構わず隼人にしがみつく。
「私をこの星から連れ出して!!」
生まれおちて七百年以上、これほど感情が昂ぶったことはかつてない。自分にこんな感情があったことすら信じられない。、だが今はただ、目の前に訪れた機会に縋りつくだけだ。
「この星を離れた瞬間に命が終わることになってもか?この星の時間軸は孤立している。星を離れた君がどうなるか、俺達は知らない。」
「たとえ砂になっても。」
☆
☆
☆
☆
「や〜〜、まいった、まいった。敷島博士がこっちの世界に来てくれたのは助かるけど、こうも荒っぽいやり方じゃなあ。」
「宇宙戦艦になって、ますます過激になっちまってる・・・・」
「今日だって、自分の後方甲板部が半分以上吹っ飛んだっていうのに、予備のエネルギータンクを空にしてまで砲撃を続けるんだもんな〜〜」
「照準がずれてても数で勝負で。」
「最近の俺たちの仕事は敵を倒すより、博士から味方を守るほうが多いぞ。」
ぐったりした足取りでタワーの指令室に向かう。
ドアを開けると、銀河系の立体模型を覗き込みながらマードックと話し込んでいる隼人がいる。
その後方にひっそりと佇む銀の髪。
「やぁ、アムル。ハーブ茶いれてくれ。」
「おかえりなさい。」
三人を迎えて微笑むアムルタート。聖者の星・イリンに居た時のような、うつろな老成したようなさまはどこにもない。
「おい隼人。敷島博士に一言ってくれよ。あんな無茶な戦い方していたら、いつかきっと破壊されちまうぞ!」
「せっかく会えたのに、もうちっと自身に気を使ってくれねぇとな。」
「そりゃ、中枢部さえ無事なら直せるんだろうけどよ。万が一ってこともあるじゃねえか。」
口々に言いつのるその内容は。敷島の体(意識?)を気遣うものばかり。
アムルタートは嬉しそうにほほ笑む。
ここは戦いの場。日々、激しい命のやり取りがおこなわれる。聖者と言うより悪人達の世界。それなのに何故これほどまでに力強く輝いているのだろう。
テーブルにマードックの分も含め、4っつのお茶を用意する。
「どうぞ。」
「お、ありがとよ!」
「アムルのお茶はうまいからな!」
自分の時間が動き始めたかどうかはわからない。でも、生き始めたのは確かだ。
アムルはそっと銀河模型に近づく。
闇色の髪、闇色の瞳。透けるような白皙。
声が聞こえたという。イリンの泉で。
『私は覚えていません。』
『ならば、君の願いだったのだろう。』
『なんと聞こえたのですか?』
『ここにいる。私はここに居るのに。』
アムルは驚愕した。いつも思っていたことだ。「私はここに居る。誰か、知って欲しい。誰か、返事をして。でなければ、私は私の存在を信じられない。」
『隼人。貴方は何者?』
『ゲッターパイロットさ。』
『あなた方がイリンに来て、私と会ったのは運命?』
『単なる好奇心ときっかけだ。』
『私がイリンを脱出できたのは神の御業?』
『君の意志だ。』
かあさま。私は幸いです。
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ゑゐり様 32000番リクエスト
お題は 「 黙示録で苛めた詫びに
TV版 浅間学園。モテモテハヤトのラブコメディ」
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ! 無理でしたぁ!
だって、ハヤトってモテる??いくら才能があっても、ああも斜に構えてると、よっぽど包容力のある人でないと無理でしょう。高校生の女の子にソレを望むのは酷というもの!(笑)。ミチルさん、貴女ぐらいだけですわ!
ということで、無理にお願いしてアムルさん出演に変更させていただきました。
TV版は、またクリスマスとかお正月で書いてみますね!・・・・・書いてみようと努力しますね。(汗!)
アムルタートのイメージは、「キャプテン・ハーロック」のミーメさん!好きなんですv そして参考に「11人いる!」(萩尾望都)のヌー。
自分に月一回の更新を課していた頃が遠い昔です。
情けないサイトですが、来年もよろしくお願いいたします!
2010.12.21 かるら