青き星にて  7






  
               
           ♪ O Tannenbaum, O Tannenbaum (もみの木 もみの木)

            Wie treu sind deine Blatter・・・・・♪(常盤に青き・・・・)





 別荘の暖炉の前で、ケイとゴウはもみの木の飾り付けをしていた。
 大きく取られたガラスドアから溢れる陽光は、広いリビングを、サンルームのように暖めている。 
 久しぶりの晴天。だが夕方になれば一段と冷え込むだろう。
 外で薪を割るガイの額には汗が噴き出しているが、吐く息は白い
周囲は真白の雪だ。





 2メートルほどもある大きなもみの木は、『探検だ〜〜〜!!』とか言って別荘の屋根裏部屋や地下室をガサガサ探しまくった竜馬が見つけたものだ。(といっても、すべてきちんと整理してあったので、単に箱書きを確認しただけだが。)

 ここの別荘の持ち主であった隼人の家族が使用したものであるなら、すくなくとも3、40年は過ぎているだろうに、いまだ色褪せもせず本物と見紛うもみの木だ。
 つややかな濃い緑色。金モールやリボンや星。その他の小さな家や鈴やリンゴ、動物たちも、精巧な造りの立派なものばかりだ。
 「・・・・さすが金持ちは違うな〜〜」と、 呆れたようにリョウやムサシ達は笑っていたが、一緒にいた山咲に
 「これ、クリスマスに飾ったことあるかい?」と弁慶が聞くと、
 「いいえ、一度も。見たことはありませんわ。」
 「そうか・・・・やっぱアイツは忙しかっただろうしな。たしかにインベーダーとの戦いでそんな余裕なかったよな。俺達も地下生活ではクリスマスなんて、誰もやらなかった。だいたい、毎日の食いもん手に入れるだけで精一杯だったからなあ。」

 何気なさそうに呟く弁慶だが、それを聞いたリョウと武蔵はハッとする。
 13年。
 自分達が知らない過酷な13年を弁慶は生きてきた。仲間を失い、人々から責められ。
 それでもただ一人を守ってきた。
 仲間の誰もが守りたかった小さな子供を。
 「ん?」
 いつしかどんよりとしてしまった空気に気付いた弁慶は、ガハハと笑って
 「なに、湿気た顔してるんだ。俺達はそれぞれが、それぞれの仕事をしてきたんだ。そのとき出来る最良をな!ま、最上かは別として!」
 にやりと笑う。
 「すべてが繋がって、俺達は今ここにいる。これからも。」
 「そうだよね!おやじ、いいこと言うよ!」
 「やっぱ、おやじさんは最高ッス!!」
 場を持ち上げようとガイが拍手する。
 「ああ?えらく弁慶を褒めるじゃねえかよ!」
 リョウがガイの頭をぐりぐりする。
 「あ、いたたた!!すんません、勘弁してくださいよ、竜馬さん〜〜」
 大袈裟に痛がるガイ。まわりの者たちはやんややんやと囃したてる。楽しくて。可笑しくて。 
 笑いながら、笑いながら。
 ・・・・・・胸が苦しい
 「お、そういや研究所でもクリスマス、やったよな!」

 あっけらかんとした顔でリョウが言い出す。
 ・・・・・・うん。いいんだが・・・・・今ちょっと私、シビアだったんだけど・・・・・

 彼らのこの無邪気さが、未来でも世界を救っているのだろう、きっと。たぶん。・・・・・・だよ・ね?
 「どんなクリスマスだったんですか?」
 相変わらず控えめな声でゴウが尋ねた。もっと馴れ馴れしくしてもいいのに。
 「俺達が研究所に行って2年目だったかな。戦闘にも慣れてきたし(?)所員たちも敵さんの攻撃やその後の整備に慣れてきて、攻撃のないときは結構ゆとりがあった。で、日常っつうもんも大事だとミチルさんが言ってくれてな。四季折々の行事とやらを出来るだけ取り入れてくれたんだ。他の人間は知らねえが、俺は行事ごとなんざ無縁だったから、最初は戸惑ったな、」
 誰もがみんな、幼いころにクリスマスや正月や七夕に胸躍らせたわけではない。たとえば1年中、なんの記念日が無くとも日々は過ぎて行くけれど。
 それでも人は支えさえあれば生きていける。それがどんなにささやかなものであっても。
 人同士のつながりを感じられるものであれば。
 「ミチルさんが自分ちのツリーを持ってくると言ってくれたんだがよ。せっかくみんなでパーティやるんだからもっとでっかいツリー作ろうってことになって。」
 「森に行ってどんな木にするか探したんだが、なかなかいいのがなくて。」
 「思いきって、生えてる木そのものを飾ろうってことになった。」

 
楽しそうに思い出を語る3人。
 「それって知ってる。軍でも去年やったんだよ!」
 ケイが叫ぶ。
 広場の木々にたくさんの電気を付けた。エネルギーの無駄だと言う意見もあったし、ケイ自身、初めて聞くイルミネーションにそれほど価値や意味があるとは思わなかった。大戦以前を知る大人達が懐かしそうに話すのを聞いても、さほどのものとは思わなかった。だが去年、聖歌が響く中、煌めく光。溢れる。
 それは
 世代も人種も超えた『慈しみ』だった。
 「そっか、地球もそこまで復旧したんだな。」
 弁慶が嬉しそうに笑う。3人の中ではただひとり、荒廃した地球を知っている。
 「研究所の周りの木にイルミネーション付けて、ついでに丘全体を光らせたら面白いんじゃね?ってことになって。」
 「そんな予算あるかぁ!!!って早乙女博士に怒鳴られて。」
 「じゃあ、隼人にタダで作ってもらおうぜ、どうせしょっちゅう廃棄ゲッターでなんか作って遊んでるんだからついでにって。」
 「なのに断りやがる。ケチなやろうだぜ。」
 「もちろん、勝手に拝借したんだけど。」
  え?
 
 「色が淡い緑色ばかりでつまんなくてさ。」
  はぁ。
    
 「敷島博士に何とかしてくれないか、って言ったら快く引き受けてくれたんだけど。」 
  おい、おい。
 「その緑色っていうのが、廃棄ゲッターから漏れるゲッター線のなんたらかんたらで。」
  
おおい!!
 「いや〜〜、もう少しで浅間山が爆発する、つうか噴火?するところでビビったぜ!」
 ・・・・・・・・・・・
 「隼人と早乙女博士に怒鳴られたよなぁ。」
 「敷島博士は平気そうだったのにな。」
 「あれはあとで聞いたら、研究所の防御システムの実験をしたかったらしい。」
 「じゃあ、別によかったんじゃないか?」
 「研究所、の防御であって、周辺の自然や人間(所員含む)の防御については、まだ計算段階以前だったらしい。」
 「以前かよ!!」
 もう、ツッコミどころがわからない。っていうか、なんでツッコミ?!
 なんか会話をきいているだけでどっと疲れた。ガイも同じのようだ、ゴウは・・・・・・・
 「イルミネーションは綺麗だったのか?」
 ある意味、とっても純真な子ですね、はい。
 「おうよ、研究所の後片付けが大変で、早乙女博士んちでやることになってな。」
 「徹夜で解体だ!って、整備の人達に怒られたな。」
 「ミチルさんちのクリスマスツリーに、赤や黄色や青の電飾つけていろいろ飾って。」
 「ケイ、お前もキャっキャッて喜んでいたぞ。」
 「そうそう、一生懸命手を伸ばして星を掴もうとしたりして。」

 「ひとつ渡したらもっともっと欲しがって。」
 「飾りに埋もれているお前自身が、飾りの人形みたいだったぞ!」
 ケイを見詰める3人の眼差しはひどく優しい。
 きっと、ケイの後ろのかつての日々を慈しんでいるのだろう。

 ・・・・・・ああ、これだから。私は彼等を失いたくない。
 「もちろん、ごちそうもどっさり用意されててよ。」
 「いや〜〜、ミチルさんの料理はなんでも美味かったからなぁ!」 
 「なのに恐竜帝国のやつら・・・・・・」
 あれ?
 「さあ、乾杯だ!食べるぞ!!ってときに来やがって!」
 ワナワナと体を震わせる3人。
 「一口だけでも、って言ったのに追い出されてよ!!」
 「ご馳走食べるために昼飯抜きだったのに!」
 いや、それはあんた達の勝手で・・・・・・・・
 「ムカついたんで、研究所に寄って片付け途中のゲッターイルミネーションをちょこっと持って行ったんだ。」
 ゲッターイルミネーションって・・・・・なに、名付けてんだ!
 「メカザウルスにぐるぐるに巻き付けたやった。」
 「いや〜〜、さすがに敷島博士御製は違ったなあ。」
 「敷島博士は、ああいうのを作らせると宇宙一じゃねえのか?
 「おぅ、そうだな。あおのときもそう思ったけど、今もそう思うぜ。」
 今?え?アチラの世界でも宇宙一の○○○○?!
 いろいろ聞きたいことばかりだけど、聞きたくないことばかりでもある!
 「凄く綺麗だったから、見た人達からは、早乙女研究所も粋なことをすると褒められたなあ。」
 「普段、轟音とか爆撃とか(!)迷惑ばかりかけていたからな。」
 「あんなに喜ばれたんだから、隼人もガミガミ怒られなくったっていいようなもんだ。」
 「いや、あれは隼人のやつ、自分が出来なかったから拗ねたんだろうぜ。ゲッター2は弁慶が搭乗したから。」
 「ああ、そうか。あいつは後処理で忙しかったからなあ。」
 後処理っていうか、尻拭いでしょうが!
 隼人さん、かわいそう・・・・
 ケイはしみじみ思った。
 






 ゴウが一心に飾り付けをしている。
 ひとつひとつの小さな飾りを宝物のように大事に。そっと。
 ふと、思う。
 山咲さんはここでこのツリーを見たことはないと言っていたが、姉さんは?
 恋人同士だったミチルと隼人はここでクリスマスを過ごしたりはしなかったのだろうか。
 もちろん、お邪魔虫が3人も、いや、元気もいたから4人か。いたから、二人っきりになるのは難しかっただろうけど。
 あの抜かりのない隼人さんのことだ、調整も誤魔化しもお手ものだ。(あはは)
 ここで、ふたり。
 この暖炉の火を見つめながら、ふたり。
 ただ寄り添うように ふたり。
 そんな時間があったのなら いい。 
 悔いを残さず、笑って逝ったであろう姉のために、そう願う。
 「うん?どうしたんだ、ケイ。これ、おかしいか?」
 ゴウがちょっと不安そうに聞いてきた。
 「ちょっと飾り付け過ぎたかな。少し外そうか。」
 あわあわとツリーに手を伸ばす。
 「ううん、違うよ、それでいい。とってもいいよ!」
 ケイはスクッと立ってゴウに大きな金色の星を渡す。
 「はい、ゴウ。天辺の星を飾る栄誉を譲ってあげる!」
 「あ。」 
 ゴウは嬉しそうに受け取った。
 そして慎重に天辺に付けると、振り向いてケイににっこりと笑った。
 重なる笑顔。
 そうだ。私達はこうして。
 小さな幸せを大事にして生きて行こう。それが時空を超えて闘うあの人たちの、もっとも望んだことだから。







☆ ☆ ☆




 「リョウ、ちょっと来い!」
 「なんだい、敷島博士。今から出撃なんだけど。」
 「今日はクリスマスじゃから、お前たちにプレゼントをやろう。」
 「博士のプレゼント?ありがたいような、ありがたくないような・・・・・」
 「なにごちゃごちゃ言っておるんじゃ、ほれ、これじゃ。今、ゲッターに積み込んどる。」
 「これは?なんかピカピカしてるな。」
 「ゲッターイルミネーションじゃ。今日はワシも自分の艦で出るぞ。特等席で見たいからのぅ。」
 フホホホと去っていく。
 「おい、リョウ、どうしたんだ、さっさと行くぞ!」
 弁慶と武蔵が駆け寄って来る。
 「うん?それなんだ?」
 「・・・敷島博士からクリスマスプレゼントだそうだ。ゲッターイルミネーション・・・・・・・・・
 特等席で見るために博士も出動するって・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・俺達、お星様になったりしないだろうな・・・・・」





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 久しぶりの「青き星にて」がこんなのですみません!!

 もっとサクサクと更新すべきですよね。たくさん書けば、たまにはマシなものも出来るでしょうに!・・・・・出来るかなあ・・・・・・
  出来たらいいなあ・・・・・・

 今年もお付き合いいただきありがとうございました!!

      先月、ハウステンボスのイルミネーションを見てきたかるらです。 
          (12.24)