青き星にて  5







 
初夏の風が浅間山を滑るように渡って行く。
 
 弾ける陽射しの中で、力強い声が響き渡る。
 
 「オラァ、ゴウ!踏み込みが甘ぇ!!」
 「は、はい!」
 リョウの怒声にゴウが応える。
 いくら身体能力は優れているとはいえ、もともときちんとした訓練を受けていなかったゴウの動きには無駄が多い。リョウはゴウに基礎体術をしっかりと教え込んでいた。自分たちが帰るまでの短い時間、自分たちの想いを託せる相手に。
 弁慶はガイに整備士の基本というか、あり合わせの資材を応用しての応急処置ともいうべきやり方を教えた。世界は復興の真っ最中で、これから先何が起きるかわからない。軍に所属する以上、戦闘に駆り出される事は免れない。人を守るためにはまず自分自身を守らなければならない。ガイはもともと地下生活の間の、満足に物資のない状況で工作に携わっていたから飲み込みは早かった。
 武蔵はケイに料理を教えた。
 懐かしい記憶、幸福だった日々。ケイにとっては母親代わりでもあった姉・ミチル。いつも陽だまりのようなぬくもりで皆を包んでくれた人。
 料理上手だったあの人の味を、せめて自分が受け継ぎ、ゴウたちに食べさせてあげたいと思う。伝えられた想いとともに。

   ・・・・・・・・3人の弟子の中で、一番四苦八苦しているのはケイのようだ。まぁ、失敗作を食べさせられても、おなかを壊しそうにないメンバーばかりだが。


 ゴウに指導を終えたリョウが、上半身裸になって汗を拭いている。
 鍛え上げられた筋肉は余分なものを一切そぎ落とし、鋼のような強靭さだ。バランスの取れた体躯はギリシャ彫刻にも似て。
 つい見惚れてしまったケイの視角に、キラリと光るものが映った。
 右の手首につけられた銀色に輝く幅広のブレスレット。
 今までシャツに隠れて見えなかったけど、わりとリョウさんお洒落なんだ、と思いながらふと目を向ける。先程ケイと一緒に採ってきた山菜のアク抜きをしている武蔵。腕まくりしたそこにも銀のブレスレット。
 「やあ武蔵。今日は山菜料理か?」
 「こいつは一晩水に漬けとかなきゃならんが、こっちは今晩天ぷらにしてやるよ。」
 「おまえの山菜料理は旨いからな。」
 「このあたりは国立公園だったからな。本当は採っちゃいけなかったんだろが。」
 ニンマリとうれしそうに笑う武蔵に、同じ笑みを返す弁慶。
 「なあ、親父。」
 つい声を掛けてしまった。
 「うん?なんだ、ケイ。」
 弁慶が近づいてくる。
 「しっかり覚えとけよ。山菜はサバイバルに役に立つからな。」
 「あ、うん、わかってる。それよりさ、親父。」
 「親父もそのブレスレット着けてるの?」
 「あん?」
 不思議そうな弁慶に、ケイは武蔵の腕を指す。
 「ああ、これか。」
 無造作に袖を捲る弁慶。その腕にも銀のブレスレット。
 「これがどうかしたか?」
 「あ、いや。ただ何なのかと思って。おそろいだし。通信機のついた時計って左腕のヤツでしょう?」
 3人の左腕には、いやでも目を引く、存在を強調している時計型通信機。
 3人を、いや、4人を結び付けているソレ。
 決して外されることのない・・・・・ソレ。 
        はるかな昨日、はるかな明日。

 「これはな。」
 弁慶が右腕を突き出したまま答える。
 「なんか、俺たちの心拍数とか体温とかの身体データを取るんだって隼人が言っていた。時空を超えるということは、多少体に影響があるかもしれんってな。」
 「心配性なんだよ、隼人は。」 とリョウ。
 「俺たちは不死身だっていうのにな。」 
 弁慶も笑う。
 「いや、わからんぞ。敷島博士も側に居たからな。なんか、考えがあるのかも・・・・・・」
 「おい武蔵。嫌なこと言うなよ。」
 『にた〜〜り』といった笑い顔を思い出し、リョウは身震いする。
 「あの、気になっていたんですが。」
 ゴウが口を挟む。
 「敷島博士も皆さんのようにあちらの世界に行かれたのですか?」
 再会した夜、リョウは不思議なことを言った。自分もあちらの世界に行って戦ってみたい気もすると言ったゴウに。

     『 くたばる前に 強く願ってみな、敷島博士みたいにな。』







                   ☆                  ☆






    「前にもちょっと話したけれど、俺たちがアチラの世界に行ったとき------」
 
 瑞々しい若草のじゅうたんに車座になって、リョウが話し始めた



 「あの空間に飛び込んだとき、俺たちの乗った真ゲッターは、お前たちの記憶にもあるとおりボロボロの状態だった。それがいつのまにか1つの飛行艇、1号機ともいうべきものになっていた。3人がそれぞれの操縦席にいたはずなんだが、同じ操縦室に集まっていた。不思議に思って顔を見合わせたとき、隼人と弁慶が若返っているのを見た。あのときは驚いたぜ。もっとも俺は老けた隼人と弁慶のほうに違和感を持っていたから、すぐになんとも思わなかったけどな。」
 「 『ありゃ?』って感じだったな。それに俺だって、老けた隼人なんて知らなかったぞ。早乙女研究所閉鎖の前にアイツが行方不明になっちまったから。俺だって、あの時始めて会ったんだ。もっとも重陽子爆弾の爆発のとき、シェルターに入る連絡を入れたときに隼人の声は聞いたけどな。あまりにも突然のことだったんで、聞き間違いかと思った。一刻も早くシェルターに避難しなきゃならなかったから何も聞けなかったし。そのあとも一切消息は聞かなかった。」
 「なのに隼人のほうはお前の居所や現状把握はしてたんだからな。で、黙ってやがる。やな奴だぜ。」
 ケッと舌打ちしそうなリョウ。
 「あ、でもそれは、あたしが記憶を失くしてたから、そのままのほうがいいだろうって・・・・・・」
 山咲さんから聞いたよ、と慌ててケイが口を挟むが。
 わかっているさ、と弁慶。拗ねているだけだよ、リョウは。隼人がいつも自分ひとりで決めちまうことに。
 「ま、そんな訳で( 何が?どういう訳?) 俺たちはこれからどこへ行くか相談したんだ。隼人は『呼ばれたんだから、案内があるだろさ。』と平然としてたけど。あいつはいつも先の先まで読むくせに、ときどきこっちが心配になるほど大雑把なときもある。」
 「リョウは大雑把ばっかだけどな。」
 「おまえに言われたくねぇよ。いーんだよ、俺には緻密な計算を上回るカンがあるからな。」
 胸を張っている。たしかにそれは一種の才能だ。いや、凄い才能だ。
 「んで、しばらくしたら武蔵が迎えに来るんだもんな。」
 いやー、都合がいいにも程があるぜ。まったくだ、俺たちの日ごろの行いの良さだな。SFかマンガの世界だぜ。
      (・・・・・・はい、そのとうりです。汗!!)
 「俺たちが降り立ったネオ・アース。星の大きさや重力、大気、自然など、本当に地球に似ていた。そりゃ勿論それなりの違和感はあるけど、それはたとえば日本に住んでて、他の国に出掛けたぐらいのもんだった。俺たちはすぐに基地というか、この星の中枢、指令本部に案内された。」


 不思議な星だった。
 前衛基地、いや前衛星とでもいうのだろうか。
 この星に居る者はすべて戦闘要員だった。兵士、科学者、技術者etc・・・・総数5000万人。
 地球と同じ面積にわずか5000万の人口、というのか、それとも5000万人もの戦闘要員とでもいうのか。だが、それよりも。
 この広大な大地に、空に、他の生物はいなかった。鳥もけものも虫も魚も。牧場と名づけられた区画に、ただ食用の動植物がいるだけだった。



 「私たちの母星はここから約80光年離れたところにあります。」
マードックと名乗ったこの星の最高指導者は、リョウ達に対してひどく礼儀正しかった。
 「いにしえからの言い伝えとやらを聞かせてもらおうか。」
 初対面というのに冷たい響きを含んだ隼人の声にも動じず、
 「 『戦いの星にたどり着き、迎うる準備整いしとき。時空の彼方よりゲッターチームが現れる。月欠け、満ちる間に。』 私たちの星に伝わる口伝です。」
 「口伝とはやっかいだな。書物とか石とかに記されたものはないのか?もっと、他に語句があると思うが。消えたのだろうな。」
 「ありませんが、言葉はこれですべてだと思います。子供が生まれて最初に掛ける言葉とされていますから、省略されているとは思えません。」
 絶句。
 リョウ達ばかりでなく、隼人も言葉を失くした。なんだ、ソレ。生まれてすぐにマインドコントロールか?いや、それより。
 「・・・・・・それがいつ頃から始まったことか解らないのか?戦いの星なんて、ふつう無理してたどり着きたいものではないし、必要に迫られて、というほどお前たちが困難な戦いを強いられているようにも見えない。基地の雰囲気でわかる。待機している、という感じだ。」
 隼人の質問に対し困ったように、
 「おそらく何百年も前だと思います。私たちの科学力がやっと恒星間航法を手に入れたのが80年前ですから。ですが、この言葉は祝福として赤子に授けられるものですから、私たちはそれを不吉とも不安とも思ったことはないのです。早くこの星に来なければ、とそればかりで。」
 再び絶句。
 たしかに不吉なことばであれば、人の耳を憚ってコッソリとささやかれる。闇の間でささやかれるうちに、内容も変化していくものだ。だが、祝福の言葉は。
 その効能というかご利益をかけらも失わないために、一言一句確実に伝えられる。皆が知っている言葉だから、誰かが途中間違えても訂正され引き継がれる。一体誰がこのようなシステムを考え出したのか。おそらく悪魔張りに頭の切れる人物だろうか。内容が内容だけに。

 黙りこんでしまってゲッターチームに首を傾げながら、マードックは4人を食事会へと招いた。



 「納得いかないな・・・・・」
 そう口にしたのは隼人だった。
 上にも下にもおかないおもてなし、というのはこのことだろう、と思えるほどの歓待を受けて。
 お疲れでしょうとそれぞれの部屋を案内されたあと、隼人の部屋に集まったリョウ達につぶやいた。
 「あ------、それは俺も思うぜ、隼人。いくらなんでも都合が良すぎる。こんなにチヤホヤされてよ。」
 リョウが我が意を得たり、というふうに答える。
 「な〜んか、怪しいんだよな。」
 「そ、そんなふうに言うなよ、リョウ。みんないい奴だぜ。」
 武蔵があわてて言う。
 「おめぇはあいつらと一ヶ月一緒に居るから情が移ってんだよ。だいたい見ず知らずの俺たちを、本気で信用してるって?」
 「じゃあリョウ、何か?あいつらはたくらんでるってか?」
 「おうよ。そうとしか思えねえ。だいたい俺たちが歓待された理由が、いにしえからの言い伝えっていうのが解せねえ。俺たちのほうにはそんな言い伝えなんかねえぞ。おれは迷信なんて信じないからな。隼人、お前もだろ。」
 「迷信はな。だが、いい伝えには真実が隠れていることも多い。」
 「は?じゃ何か?お前はあいつらを信用してんのか?」
 「俺が納得いかないと言ったのは、この星の自然形態だ。言い伝えは今のところどうでもいい。俺たちだけでなく、武蔵までここに呼ばれたんだから、とりあえずこちらの陣形にいればいい。違ってたらゲッターが何か言ってくるだろう。」
 ああ、そうだった。こいつは結構割りきりが早いんだった。善も悪もどっちでもいいって言ってたな。気に入らなきゃそのとき換えるって。ひょっとして、こいつが一番あぶねえんじゃ?
 「マードックの話だと、彼らがこの星に来たのは20年前。この星を軍事惑星に整えるのに20年かかったわけだが、ここに来た時、この星には何もなかったそうだ。」
 「何もって・・・・・・何が在ったらいいんだ?」
 「ここは地球に似ている。ということは地球型生命体、人間や動物、それが無理でも植物や虫、ハエやミミズ、羊歯類ぐらいあっていいだろう。」
 「なんでハエやミミズなんだよ。」
 「人や動物なら移住したり死滅したりもあるかもしれないが、ハエやミミズなんかはちょっとやそっとでは絶滅しないだろうからな。蟻でもいいが。水と太陽と大地があって、生命が発生しないわけはない。だがどこにも文明のかけら、痕跡すらない。何もない。水と光と大地以外に。」
 それはどういうことなのか。
 「この星は用意されていたということだ。戦いの拠点になる、そのためだけに。おそらくここにあったであろう生命をすべて排除して。そんな気がするな・・・・・・・・だが、それが気に食わないっていうんじゃない。ただそこまで徹底した戦争となると、そう簡単には終わらないだろうな。80光年先の星にたどり着けということは、そこまでの科学力を持てということに他ならない。ここの科学力は俺たちのそれとは桁違いだ。それでも俺たちが待たれていたのは、やはりゲッターが必要で、ゲッターを動かすのが、もしくは扱えるのが俺たちだということだ。ただ搭乗できるって言う意味ではないだろうな。おそらくゲッターは・・・・・・・・まだまだ進化していくのだろう。」
 重い沈黙が4人を包む。
 隼人と弁慶は若返ったけれど、それは4人があと数十年ゲッターで戦えるためになのだろうか。ここまでお膳立てされていると、もっと、途方もない戦いに巻き込まれていく気がする。ひとつの星を作戦本部とするほどの戦いは、いったい何を敵としているのだろう。

 「とにかく今の俺たちに出来ることといえば、ゲッターで戦うことだ。望まれているのもな。そして、ソレはできる。あまり気に病むこともないだろう、今は。いずれもっと多くのことをやる羽目になったとしても、そのころには俺たちももっと慣れているさ。今日はもう寝よう。明日からやることは多い。」
 自分から話を振っておいてほかの者を不安にさせておきながら、さっさと話を打ち切って背を向けようとする隼人に
 「あ、おい。今日は4人で寝ないか?」
 「ああ?」
 「いやさ、なんか落ちつかねえじゃないか。なぁ、弁慶。」
 リョウが同意を求めるように声をかける。
 「おう、そうだな。立て続けに信じられねえ事ばかり起きやがったからな。」
 「ん〜〜、でも、あまり心配するほどでもないぞ。俺はここに来て一ヶ月だけど、早乙女研究所や自衛隊基地にいたときとあんまし変わらねえぞ。」
 「あ、そうか。武蔵はもう住んでたんだっけ。」
 「おうよ。ここは高級幹部の居住区だから上品すぎるけどな。明日ゆっくり案内してやるよ。兵士用の居住区なら娯楽もいっぱいあって面白いぞ。食いモンもうまいし、なかなかいいところだぜ。」
 「ああ、今日の夕食でも思ったよ。地球のものとは見た目も味も違うけど旨かった。」
 「肉とか野菜はこちらの牧場で育てられているそうだ。そのほか足りないものは母星から定期的に届けられるんだ。」
 「ふ〜ん、宇宙といっても、やることは一緒だな。」
 「俺はこの一ヶ月、見学のほかにも兵士たちの訓練指導をしていたんだ。あいつらの戦闘技術は今一だけど、あれは技術よりも戦闘下手っていうか戦闘慣れていないというか。兵士ばかりでなく指揮官がな。作戦に無駄が多い。」
 「お前に無駄が多いって言われるくらいならよっぽどだな。」
 「おい!ま、確かに指揮者の冴えは問題だな。でも、だからこそ俺たちや隼人が呼ばれたんじゃないかな。だいたいあいつらはこの星に来て戦闘準備するのが目的らしかったから。戦いの指揮は伝説のゲッターチームがやってくれるからって感じでさ。マードック最高司令も、はっきりいって基地建設の責任者ってな。」
 「・・・・・・なんか怖いぞ、それ。」
 弁慶の言葉は他の者の声でもあった。



   俺たちは戦闘に加わった。疑問は疑問のままとして。
 隼人は総司令として指揮を執った。それまで総司令だったマードックは、当たり前のようにその座を明け渡した。ただ隼人はその頃はゲッターに搭乗していたので、基地はそのまま彼に託された。ゲッターは3人いれば動かせるのだから、無理に隼人が乗り込まなくてもよかったんだが、戦場を知らずして指揮が執れるかっ、とかなんとか理由つけてくっ付いてきた。確かに未知の宙域では武器の効き目とか動きの違いはあるだろうけど。
 きっと、せっかく体が治ったんだから、ゲッターに乗って暴れたかったんだろう。

 戦場は一箇所ではないから、味方が苦戦しても、俺たちだっておいそれと助けにはいけない。兵士たちはみな素直で覚えがよかったが、そのぶん、臨機応変というか、突発的な事案に対処するのは難しいらしかった。仕方ないからいくつものパターンを覚えこませてその都度指示するのだから、隼人も結構大変だった。先の先まで読んで、先の先まで指示しておく。俺たちゲッターチームなら、ツーといえばカーという具合にすぐさま対処できるけどな。
 さすがの隼人もゲッターに乗り込みながらの指揮、言い忘れてたけど、そのころのゲッターロボはかなりでかくてな。一号機の操縦室はタワーの司令室の5分の一くらいの広さがあった。それで俺と一緒に乗り込んでいろいろ機器を操作しながら指示出せたんだけどな。あまりの指示要請の多さに諦めて、司令艦を建造してそちらに移った。相変わらず「タワー」って名づけてやがる。船にタワーもおかしいと思うけどな。司令塔か?って聞いたら、「バベルの塔だ」って笑いやがったけど、バベルの塔ってくずれたんじゃなかったっけ。縁起わりぃとも思うが、まあ、崩さなきゃいいことだ。
 そんなとき、ある一帯で激しい戦闘が起きた。ちょうど俺たちゲッターチームは遠く離れたところで戦っていて手が離せなくて。隼人がタワーで出撃するって言うんだ。いくら武装しているとはいえ、タワーは戦闘用じゃない。待て、俺たちが行くからと制止したんだが、言うこと聞くようなやつじゃない。まったく焦ったぜ。必死で追いかけて、やっとその戦場に着いたとき、見慣れない戦艦が暴れ捲っていた。味方の船ではないが、敵を破壊しているところをみると敵ではないのだろう。いやー、荒っぽいというか派手というか。昔の戦艦のようにでかい砲台がゴテゴテついてて、弾丸は無尽蔵かっていうぐらいぶっ放しているし、ビームは大雨のように途切れない。戦艦そのものが武器庫のようだった。さすがの俺たちもあまりのド派手ぶりについ、見惚れてしまったぜ。そのうち味方の船団も態勢を立て直して、敵をたたくことができた。俺たちが救援者ともいうべき謎の宇宙船にとりあえず礼を言おうとしたとき、

  「こらぁ、リョウ!!なにモタモタしておったんじゃ!隼人、こいつらの戦い方、こりゃなんじゃ!?戦争の仕方、忘れおったか!!」

 集音マイクを壊さんばかりのその声は、機械独特のノイズを重ねていたが、たしかに敷島博士のものだった。

 「敷島博士もそちらの世界に行ったんだ・・・・・・」
 「でも、リョウさん達とは違う場所に現れたんですね。みなさんがそれまでご存知なかったところをみると、ほかにもそんな場所、基地があるのですか?」
 ケイとゴウが感慨ぶかげに言うと、
 「ちっちっち、甘いな。」
 リョウがいたずらっぽく笑う。
 「お前たちは博士がどんな人か知らないからな。」
 「知らないほうが幸せともいうけどな。」 ぼそっと弁慶。
 「どんな不思議も受け入れられるようになったと自負してたんだがな。さすがに博士はその上をいったな。」
 「あの博士にずっと付き合えた隼人に感心するよ。」
 「俺は付き合えた隼人に恐怖するけどな。」
 「類は類を呼ぶってか?」
 「朱に交われば朱くなる?」
 「ってか、素質の問題じゃねぇ?」
 「悪魔の素質?」
 「いや、妖怪の素質。」
 「悪魔の素質なら隼人だろうけど、妖怪の素質なら博士に軍配があがるな。」
 なにを言っているのかわからないけど、ヒドイこと言ってる気はする。
 「あの〜〜〜」
 おそるおそるガイが声を掛ける。聞いちゃいけないこと、というか、聞きたくないことが聞かされるような。
 「博士がいつのまにあの世界に来たか知らないけどよ。武蔵が先に来ていたように、博士もまた来てたんだと思った。俺たちだけだと決め付けていたが、考えてみりゃ他の者が来ないって確信や根拠はどこにもないからな。とにかく博士と話をしようと隼人がタワーに招いたんだ。連絡チューブを博士の宇宙船に取り付けようとしたけど、どこを探しても入り口が見当たらない。なにしろ博士の船は発射孔だらけでわかりにくくてな。そしたらな。」
 いったん区切って。
 「 聞いて驚け。 」
 はぁ?
 「敷島博士は宇宙船だったんだ。」
 ???
 
 「その言い方はおかしいぞ、リョウ。宇宙船が敷島博士だったんだ。」
 「博士が宇宙船になっちまったんだから、この言い方でいいだろ。」
 「いや、でも、博士が船になったというより、船が博士になったんだろが。」
 「でも力関係からいったら博士が船に・・・・・・・」
 ・・・・・・・・・・・
 目の前で大の男たちが国語の宿題しているよ・・・・・・
 おもわずトリップしてしまったケイたちを誰が責められようか。じゃなくて。
 「つまり、敷島博士は戦艦に取り憑いたってわけだ。」
 あ、理解した。
 「そ、そんなことができるのですか?!」
 整備士のガイにとっては気になるところだ。というより、そんなことができたら怖い。整備している最中、急に機体に話しかけられたら・・・・・おい。
 「隼人に言わせると、人間の意志も思念エネルギーというエネルギーだ。つまり一種の信号として顕すことも可能だろう。信号であれば送り手と受け手があれば移行はできる。身近な例ではテレビの画像や音声、携帯電話やネットワークも似たようなもんだ。地球でも以前から物質移動は理論的には証明されている。ソレに必要なエネルギーの量とか配列がわからないだけで。敷島博士はゲッター線の何たるかについてずっと強い探究心を持っていたし、最後の最後まで計算を続けていた。その集約された思念エネルギーがゲッター線で増幅されたとしたら、博士がこちらに跳んで戦艦の電子頭脳をハックし、取り込んだとしても不思議はない。博士が最後に居た場所は、高純度のゲッター線エネルギーを吸収しつづけて飽和、爆発したタワーだからな。」
 ただひとつのことを求め続けた狂気と等しい願望。
 もしかしたら人は、限界など持たないのかもしれない。
 「・・・・・・それで今も博士は、戦艦として戦っているのですか・・・・・・」
 「違うぜ。」
 しみじみとつぶやいたガイがおもわずコケる。
 「リョウさん?」
 「もちろん、しばらくは戦艦だったけどな。相変わらずの武器フェチで、次から次へと注文つけて武器を増やすんだ。で、大穴が開こうが半分破壊されようが気にせず戦う。俺たちも何度か共同作戦をしたが、もう、敵味方関係なしにぶっ放すんだ。怪我したくなかったらうまく避けろってな。トリプル核ミサイルなんか設置されたときには、もうやめてくれって隼人に泣きついたよ。敵に気を取られているうちに味方にやられちゃかなわないからな。」
 「隼人が博士に、人間仕様の体をつくるからそっちに移ってくれと頼んでな。戦艦の記憶バンクをチップに移してそれを今度は頭脳部に入れればいいだけだからな。隼人は見た目も人間に近い体にするつもりだったが、博士は体中を武器にしちまった。腹からミサイルは出るし、握手すれば腕が飛び出すし、その腕はマシンガンだ。極めつけは頭に埋め込まれた地雷だな。あんなとこ踏む奴がいるのかな。」
 「頭って・・・・・・・もし爆発したら記憶チップも壊れてしまうわけでしょう?」
 それって、死んじゃうんじゃないの、とケイ。
 「だからそのチップをいくつもコピーしてるんだ、」
 「それは・・・・・・」
 「時々記憶データを更新してな。そうすれば早い話、敷島博士もずっと死なないってことだ。俺たち4人、どこまで戦い続けなきゃなんねえのかわからない。俺や武蔵や弁慶は主として戦闘だが、隼人はその他にもいろいろと司令として、また科学者としての仕事をこなさなきゃならない。敷島博士がいてくれれば心強い。そのために博士もまたゲッターに呼ばれたのかもしれない。俺たちは博士が宇宙船であったときでさえ、博士は博士だと思ってた。前にゴウに言ったけど、俺たちにとってはクローンであることも、サイボーグであることも、ロボットであることも大差ない。考えてみれば俺たちの不死身の体だって化けモンだ。
 俺たちと共に生きるために博士も不死身になったってことだ。博士はゲッターの行き着くところを知りたがっている。いいんじゃねぇか。」
 穏やかに笑うリョウ。誰も何も言えない。
 死なないことと死ねないこと。どちらがいいなんて、言える筈がない。

 「良いと思いますわ。」
 ぎくり、と声のした方を振り返る。


       「 とても  良いことだと  思いますわ。」

                  
                     笑顔。      眩しいほどの。




                                    ☆




 「そろそろリョウ達が帰ってくる頃じゃの。」
 「5日後ですね。きっと楽しんだことでしょう。」
 次々と送信されてくるデータを見ながら隼人は答える。
 「ずいぶんと長い休暇じゃったな。」
 「おいそれと行ける所でもありませんし。あいつらは働き詰めでしたから。」
 「お前のほうが詰めていると思うが?」
 「俺はデスクワークだけですから。」
 さらりと返す隼人。積み上げられた書類に手を伸ばす。
 「あのブレスレットは何のためかの。」
 「・・・・・・あいつ等の身体データを取るためですよ。時空移動は初めてですから。」
 「聞き方が悪かったかのう。では言い直すか。」


         「何をするために データを取ったんじゃ?」






           ------------*-------------*-----------*-----------




 先日リンクしていただいた方に 、
              「青き星にて」好きですよ〜 。 続き、楽しみにしています。
 
 との嬉しいメール頂きまして。
 そういえば、「青き星にて」を更新したのって何時かな〜〜と覗いてみましたら、なんと、一年以上放置しているじゃありませんか!!
 きゃー、見捨てられるところでしたわ。
 皆様もお好きな次元ありましたらリクエストくださいませ。
 計画性のないかるらですので。
           (2007.4.1)