したたかな魂  








・・・・・・・・・・ウィーン・・・・・・・・ウィーン・・・・・・・・・・n ・・・・・・・・n・・・・・・・・・ n・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・コポ ・・・・・コポ・・・・・・ コポ・・・・・・・


 ゼリー状の海の中・・・・・・・・・上もなく、下もなく・・・・ ・・右も左も無い・・・・・
 うたうような・・・・・まどろむような・・・・・・
 ・・・・・・・・遠い・・・・記憶・・・・・・・誰の?
 ・・・・・・・・いつか・・・・・・言葉は想いに変化し・・・・・・・
 やがて・・・・・・・願いに・・・・・・・・・望みに・・・・・・・・
 ・・・・・・・・呪いに・・・・・・誰への・・・・・・・・?

 ・・・・・・創られし者、望み叶いし後・・・・・・・・・何処へ?




 ゴウの記憶の始まりは、押し殺された嗚咽だった。深い哀しみと、身を切るような悔悟の情。
 やり切れない想いが、蜘蛛の糸のように纏わりついてくる・・・・・・・・・やがて、贖罪のように声が告げられる。
 『守る・・・・・・』   『・・・・・・オレは・・・・・守る・・・・・』  『オレが・・・・・』

 ゴウにとってケイは、自分が守るべき全ての、具象化した姿だった。無条件に、守るべき存在。
 戦いが終わってから、ずっとゴウは考えていた。自分は本当は何を守るために生み出されたのか。ケイを守ることが、すなわちインベーダーから地球を守ることに繋がる。だけどそれだけなのだろうか。ずっと自分に囁かれ続けた悔悟の想いは、ただ父親の、手放した娘に対する感情でしかなかったのか。そうだと言い切るには、あの哀しみは深すぎた。計り知れない苦悩。決して開けてはならぬ箱を開いてしまったかのように。
 自分は早乙女博士とミチルの細胞で生みだされ、ゲッター線を浴びて形成された。
 戦うために。
 敵がインベーダーであったのなら、もう敵はいない。ゲッター線だとしても、もう地球にゲッター線は降り注がない。幕は引かれたのか?
 オレが最後の幕ではないのか?
 ゲッター線を呼ぶべきではなかったと、血を吐くようなつぶやきを覚えている・・・・・
 『ゴウを使って、すべてを終わりにしてみせるから、許してほしい・・・・・』と。
 その『すべて』に、きっと自分は入っている。


 
 「な、なに言い出すんだよ、ゴウ!」
 一瞬とまどい、すぐに言葉の意味に愕然とした。
 「なんで?!なに考えてるんだよ、ゴウ!」
 あわてて問い詰めるケイに向かい、ゴウは静かに答えた。
  
 「オレが、クローンだからだ。」

 
 戦いが終ったあと、誰もそれについて口にしなかった。腫れ物に触るような、といえばそうかもしれない。それを話題にしてはいけない気がした。
 父と姉のクローン。しかもゲッター線を浴びせて成長させたため、異常な成長速度と尋常ではない能力。ゲッター線に呼応する。
 今現在、ゴウの体にゲッター線の影響はみられない、と思う。少なくとも軍の健康診断では。身体能力については確かに群を抜いている。特にジャンプ力や反射神経、スピードとか。他の能力も、スーパーロボット軍団のパイロット達と比べてなんの遜色もないし、戦闘能力は1、2を争うだろう。だが、それでもゴウの能力は「人」を離れてはいないと思う。あのゲッターチームのメンバー、特に1号機と2号機のパイロットほどでは。
 ゴウは真ゲッター、いや、真ドラゴンを目覚めさせるために生み出されたものだから、真ドラゴンがなくなった今、ゴウの特殊な能力も失われたのだろうか。
 それなら「よい」、と思った。これからは特異な能力なんていらない。ない方がいい。そう思ったから、ケイもガイもことさら話題にはしなかった。だがそれは、かえってゴウを追い詰めていたのだろうか。この2年間。
 ゴウは笑うことがなかった。微笑むことはあっても。でもはじめて会ったときも、ゴウの笑い顔なんて見たことなかったから、そんな性格なのかと思った。いや、思おうとしたのだ、きっと。考えてもどうしようもないことなのだから、押しやって、前だけを見ていけばよいと思った。そのほうがずっと大事なはずだ。
 だけど。
 人として生を受けたのと異なる、疎外感-------
 時折ゴウが深夜、ひとりで外に立っていたのを知っている。星を見るでもなく、月を見るでもなく。暗闇の向こう、耳を澄ませて。誰の言葉を聴いていたのか。目覚めと同時にゲッターに乗り込んだゴウ。自らの意思だと呼ぶには無理がある。早乙女の意志によって生み出されたモノ。



 「えーと・・・クローンだと何か不都合があるのか?」
 「もしかして、やっぱ、体に異常でもあるのか?その、俺達みたいに年を取らないとか、反対に老けすぎるとか。」
 「お前が地球に残ったってことは、体も普通人のようになると思っていたんだが、やっぱ甘かったかなあ。」
 わらわらとゲッターチームが言い出す。
 「い、いや。体の方は、別に異常はない・・・」
 ゴウがちょっと引く。
 「体のほうは、ってことは、頭の方に問題が?」
 「お前は目覚めてすぐ、また13年寝ちまったから、起きて2年か。ッてことは2歳児の知能?」
 「リョウだったら、もし13年起きててもなにも変わってないだろな。」
 「何言いやがる弁慶。それはテメエも武蔵も同じだろうが。だいたい、50年経ったところでお互い頭は進歩してねぇだろ。」
 「まあ、隼人じゃねぇんだ。俺達に頭の進歩はいらねえよ。」
 けなし合っているのか、慰め合っているのか。どちらにしても、ゴウの深刻さを解っているのか、この3人。
 「あっ、それともゴウ。おまえ、イジメられているのか?」
 「男がそんなことで弱気になるんじゃないぞ。」
 「いや、それよりもケイ。お前も早乙女博士の娘ってことで苛められていねえか?気になっていたんだ。」
 「え、いや親父。わたしの方は別に・・・・」
 「そうかぁ?だったらいいけどよ。苛められてたら言えよ。文句いってやる。」
 「よせよ、弁慶。恥ずかしいぞ、ケイが。」
 確かに恥ずかしい。いや、今はそんなことが問題なんじゃなくて。
 「クローンだから俺達と来るってことは、クローンじゃなければ地球にいたいってことだろ?」
 「でも体に異常はないんだし、頭だって問題ないんだろ?」
 「別にクローンだってことにこだわらなくてもいいと思うけど・・・・・・何か気に病むことあるのか?」
 まったく無邪気に、不思議そうに尋ねる3人に、ゴウはかえって戸惑ってしまう。なんと言えばいいのだろう。
 「・・・・・・・・オレはインベーダーを倒すために造られたから・・・・・・インベーダーがいなくなった今、オレが地球にいる必要はないと思う・・・・」
 ゆっくりと言葉を選びながら言うゴウに対し、
 「そうかぁ?」
 「インベーダがいなくなったのだから、大威張りで自分のために生きてきゃいいのに。」
 「そうそう、難しいこと考えんなよ。」
 少しの悪ふざけもなく、心底自分を気遣ってくれていることが、ゴウには痛いほどわかった。だからなおさら、言葉が詰まる。
 「・・・・・・いつも頭の奥底に沈んでいる声がある・・・・たぶんあれは、早乙女博士の声だ・・・・」
 「早乙女博士?博士がなんて?」
 「・・・・・・・・・『許してくれ』と。・・・・・ゲッター線を見つけたこと・・・・あるいは呼び寄せたことを・・・・・『すべてを終わりにするから許して欲しい』そう言ってた・・・・・オレは贖罪のために造り出されたんだ。オレが最後の罪だろう・・・・」
 「ゴウ!!」
 ケイが叫ぶ。
 「そんな哀しいこと言うなよ!そんなことない、絶対だ!」
 ふと思い出す。『原罪』という罪があると。生まれたとき、同時に持つ罪。あるいは生まれたことにより背負う罪。その罪を償うために生きるのだという。
 うなずけるものか。少なくとも私はお断りだ。だってそれじゃまるで、滅びるために生きていくみたいだ。大地は、地球は、決してそんなこと望んじゃいない。決戦終了後、地球は持てる力すべてを動員して、生命を守ったじゃないか。
 「ゴウ、生まれた理由がどうあれ、使命は終ったんだよ。ゴウが竜馬さん達と向こうに行かなかったこと自体が、それを証明してるよ。」
 「オレが行かなかったのは、行くほどの価値がなかったからだろう。だからといって、こちらでのうのうと暮らしていいわけじゃない。向こうに行く手段があるなら、行って戦いたい。」
 「・・・・・・・・・・今、思ったンだけどな・・・・・」

 リョウがつぶやく。
 「俺達は向こうに行ってから、ずっと戦い続けている。地球のことは気になっていたが、どうしようもないことだし、多分うまくいっているだろうと楽観視していた。実際、地球は無事なんだし、ゴウも含めてお前達もうまくやっているようだ。俺達が時間を飛び超えてまで地球に来るということは、本来やってはいけないことだと思っている。時間を超えるってことは、現実を変えられるってことだ。たとえば月面戦争前に戻って、月のゲッター増幅炉を破壊したり、早乙女博士がインベーダーに取り憑かれる前に戻る事だってできる。だが、そうすると、死ぬ命を助けられても、生まれる命を消すことにもなる。俺達が何をさしおいても叶えたいことは、絶対やってはいけないことなんだ。俺が月に跳んだことや真ドラゴンで入った空間で聞いた声。それぐらいが『干渉』の限度だろう。考えてもみろよ。メンバーの中で、オレだけが13年間、地球というか現実を離れていてもなんの不都合もなかっただろ。隼人がいなかったらあれほど反乱軍を纏められなかっただろうし、弁慶がいなかったらケイを育てられない。オレの不在は特に影響はない。それから比べると、 俺達がここに来たことは、未来の変化の危険性からいくと許されるものではないかもしれない。それを承知で隼人が俺達をここに向かわせたのは、ただひとつ、ゴウ、お前のことが気になったからだろうぜ。」
 「隼人さんが?」
 「ああ。あいつがゴウを造ったからな。指示したのは早乙女博士だが、実際、行動したのは隼人だ。あと敷島博士。」
 「隼人さんと敷島博士が・・・・・」
 冷徹な白皙の指導者。不気味な雰囲気を醸しだしていた博士。
 あの2人がゴウを造ったのか。
 「隼人達が何故クローンを作ったのか、そういうのを俺達は何も聞かされていなかったし、全く知らなかった。時空を跳び越えたときに隼人が教えてくれたんだ。まあ、詳しいことは後にして。(あとで『永劫の絆』読んでくれ。オイッ!)
 ゴウ、おかしいと思わなかったか?ゲッターのパイロットは何人必要だ?」
 「何人って・・・・3人だろう。」
 「そのとうりさ。つまり、あとの2人は誰だってことだ。」
 「え?竜馬さんと隼人さんじゃないの?あ、それとも親父か武蔵さん・・・・」
 ケイが不安気に答える。
 「そう思うだろ。だけどもし敵が10年後、20年後とかに襲って来たら、俺達だって充分な体力があるかどうか。技は磨けてもゲッターのエネルギーはハンパじゃない。実際に真ゲッターのエネルギーは凄まじかった。レバーを握っているだけで、すごい衝撃だったからな。」
 今から何が語られるのだろう。淡々とした語りが、かえって言葉に重みをもたせている。
 「クローンは3体。1体は早乙女博士とミチルさんの細胞でつくられた。あとの2体はオレと隼人の細胞でそれぞれ一体づつだ。」
 「ええっ!」
 「竜馬さんと隼人さんのクローン・・・・・」
 「でも・・・・」
 そんな人知らない。どこに行った?
 「オレと隼人のクローンは、特に戦闘能力、攻撃性や防御力、闘争本能を最大限に引き上げたらしい。ゲッター線を照射してより優れた戦士に仕立て上げるために。でもいくら闘争本能なんかをゲッター線で進化させたといっても、あんなモノになるはずはない。あれはきっと、敷島博士が何か混ぜたんだ。」
 「?・・・・何か混ぜたって。」
 「出来上がったのは恐竜人間みたいなのと、鬼みたいな奴だった。そりゃ力は信じられないほど強かったし、弾丸だって平気だし、鬼みたいな奴は念動力さえあった。あれはきっと、隼人の細胞の方だな。見た目も陰険そうだった。」
 「おい。」と弁慶。
 「まあ、とてもじゃないが一緒にゲッターを操縦しようなんて、到底無理な2体だ。隼人に本気であんなの、使えると思っていたのかって聞いたんだ。ゴウは素直にゲッターに乗ったけど、あんな奴らが隼人の言うことを聞くはずないからな。そしたら隼人の奴、こう言いやがった。
 『ゴウには自分自身の意志を持たせることが必要だった。あとの2体は体さえ使えればいいと思ったからな。まあ、あんな生物になるとは予想外だったが。せいぜいフランケンシュタインか狼男か、もう少し外見も人間に近い予定だったんだがな。それともやはり俺達の闘争本能だけだと鬼に近いのかな。』
 平然と言いやがる。『体さえ使えればいいって、どういう意味だよ!』って聞いたら、
 『俺達の脳を入れ替える予定だった。』」
  沈黙。息が止まる。恐ろしいものを見るかのようにリョウを見る。いや、その後ろに凛と佇む白皙を。

 「コホッ!」
 誰かの咳払いが「時」を戻す。
 ゴウの顔が白く凍り付いている。
 「そんな顔するな、ゴウ。」
 リョウが苦笑する。
 「俺だってお前と同じ気持ちだ。隼人に怒鳴ったよ。『お前は目的のためなら生命を弄ぶのか。勝手に作っておいて、体をぶんどって、それで平気なのか、なんとも思わねぇのか!』ってな。さすがにおぞましいと思ったぜ。そしたら隼人のやつ、ここが俺たちと隼人との決定的な違いかもしれないが、あいつはこう答えた。『入れ替える、と言っただろう。あいつらの脳は、俺たちの体に入れるんだ。』」
 
   ・・・・・・・戦いが終ってまだ命があったなら、クローンの奴らにどちらの体がいいか聞くつもりだった。人間の体がよければ、そのままあいつらに体を渡して俺たちは宇宙にでも行こうと。ゴウもクローンであることが地球で生きる妨げになるのなら、一緒に星の彼方、ゲッター線の始まりを探しに行くのもいいかと思ってな・・・・・・・

 「旅立ちの話になると、あいつはいつも穏やかな眼になるんだ・・・・・・・・いや、だがそんなことより、俺は恐竜なんかになりたくねえぞ!って喚いたら、『そのうち気に入った体を作ってやるよ。人造人間といっても、やわらかい材質で元のような身体能力を、っていうのは暫くは無理だが、ゲッター合金でロボットタイプでよければ早いうちに作れると思う。なんなら、お前がゲッタードラゴン、俺がゲッターライガーにするか?』」

 ・・・・・・・・・・明るい飛行艇のテーブルで、ゴウと人間サイズのドラゴンとライガーが仲良くお茶をする。部屋の片隅で敷島博士が、いとおしそうにバズーカーを撫でさする・・・・・・・
      『ぞわっ!!』
  全員、脳裏に映った 見てはならないものに、鳥肌が立った。

 「まあ、結局2体のクローンは暴れるだけの怪物みたいになっちまって、俺たちが倒したんだがな。
 だからゴウ、俺が言いたいのは、クローンだということは、さほど大したことではないってことだ。お前は確かに勝手に博士たちに、戦いのために造られはした。それでも戦いが終ったら、どこか心安まる場所を探してお前のに望むように生きて欲しいと、造った本人の隼人は願っていたんだ。たぶん、早乙女博士もな。だからこそお前は今、普通人と変わらないのだろう。博士の遺志エネルギー(残留思念)だと思うぜ。敷島博士の考えは気にするな。あんなのほっときゃいい。俺の細胞であんな怪物みたいなクローンができるなんて、きっと俺の細胞にトカゲのしっぽか、カエルの目玉でも入れやがったにちがいねえ。」
 「黒魔術か、それ。」
 「特に魔術を使わなくても、充分に悪魔っぽいのにな、2人とも。」
 「何が言いたい?武蔵、弁慶。」




 夜も更けて。
 満天の星の下。黒々とした威容を見せつける廃墟。早乙女研究所。
 ひとりの男が壁にもたれ、宙を見上げている。
 「---------竜馬さん。」
 もうひとつの影が近づく。星明りにうっすらと形が見える。
 「ゴウか。」
 ゆっくり振り向き、自分の隣を指差す。
 「まあ、座れ。」
 満天のきらめき。新緑のころとはいえ、夜になるとまだ肌寒い。さわやかな冷気がかえって心地よい。2人ともしばらく無言で宙を見ていた。
 「この宙のどこかに、竜馬さん達の戦場があるんですね。」
 「たぶんな。俺たちも向こうの宙を見上げるとき、このどこかに地球があるんだと思ってるからな。」
 手元の小石を弄びながら応える。
 「--------ゲッターチームの人たちは、皆あんなふうなんですか?」
 「うん?」
 「なんの気負いもなく、形に囚われず、本質だけを見抜く・・・・・・・悩み続けていたことがひどくちっぽけに思えて・・・・・うらやましいですよ・・・・」
 「ま、お前はまだ2年しか生きていねえからな。俺たちは今でもすでに、人の一生分生きている。お前もこんなふうに物事を捉えることができるようになるさ、大人になったらな。」
 悪戯っぽくニヤリと笑う。手の中の小石を放り投げる。からん、と澄んだ音がする。
 「竜馬さん達だからですよ。だからこそ、向こうの世界に行けたのかもしれない。」
 「いい世界とは限らなねえけどよ。まあ、俺は満足しているさ。俺は戦い以外、なんの取りえもないからな。」
 決して自嘲ではなく、誇張でもない。否応なく押し付けられた運命を、自らが望んだかのように受け入れている。翳のない笑顔。
 「・・・・・・・本当は何のために地球に来られたんですか?」
 「ああ?」
 「俺たちに会うっていうのも本当でしょうが、それなら何も2ヶ月もいる必要はない。1週間もあれば充分でしょう。」
 「何もねえさ。ちょっこっと、地球とお前達のようすを見たかっただけさ。」
 「・・・・・・・・・・」
 風が流れる。
 「疑うなよ。ほんとのことだ。俺たちに他意はねえ。地球の食い物が懐かしかったせいもあるが。」
 「でも・・・・・」
 「ま、お前の言っている事もわかるさ。ただでさえ地球の時間に関わりを持たないようにしている俺たちが2ヶ月もいるなんてな。2ヶ月いたところで、俺たちはこの研究所跡か別荘にしかいられない。他との関わりは極力避けなきゃな。」
 「では、なぜ?」
 「2ヶ月後って言ったのは隼人だ。俺たちに理由がなければアイツのほうにあるんだろうぜ。」
 「隼人さんの方に?なにがですか。」
 「さあ、知らねぇな。聞かなかったし。」
 ふたたび小石を投げる。カラカラと風にこだまする。
 「聞けば教えてくれたかもしれねえし、言えないって言われたかもしれない。アイツははっきりしないことは言いたがらないし、だけど必要なことなら言うからな。・・・・・・・・・・・俺たちは向こうに行って、たしかに戦闘力は随分向上した。進化した、といえるほどには大きくは無いが、これからも徐々に伸びていくだろう。だが、確かに隼人の頭脳は『進化』したと思う。」
 今日、一日中明るかったリョウの顔に、はじめて翳がさす。

 「隼人のやつは、地球にいた頃から知能指数が300あったが、今はそんなものじゃない。計測不可能だ。知能って枠を超えている。『水を得た魚』って表現があるが、あいつの場合、『隼人を得たゲッター線』って感じだ。時空移動なんて、ゲッターのお家芸だからな。移動装置が隼人にしか扱えないってのは言ったのは本当だが、ちょっとニュアンスが違う。移動装置の頭脳部、コンピューターの回路っていうのか、それは隼人自身の頭なんだ。」
 「隼人さんの頭?」
 「チューブやら電線やらコイルやら、ごちゃごちゃついたヘルメットをかぶってな。隼人の思考で装置を作動させる。あいつは物事を『 0 』と『 1 』の信号で考えることができるらしい。」
 「そんなことが・・・・」
 「自分の頭を使えば出来るんだから、わざわざその機械を作る必要はないって言ってたけど、本音は他の者に装置を使わせないためだろう。形になってしまえば、必ずいつか他の者にも使えるようになる。味方であっても危険だし、もし敵がそれを使うようになったら、きっと時間を超えてこの地球にもくるだろうからな。早乙女博士達がゲッター線を発見する前に殺すことも可能だし、俺たちだって、赤ん坊のときは無力だ。その前に親を殺すっていう手もある。可能性があるかぎり、油断はできない。
 隼人の頭を作ったり、他の者が使うなんて出来っこないからな。でも、本音を言うと、あまり隼人にゲッターと深く付き合って欲しくはない。ゲッターは強大すぎる。取り込まれまいとすると、かなりしんどいだろうからな。でも、ゲッターを遮る手立てもないが。」
 「竜馬さん達は、敵についてどう思っているんですか。どこまで戦わなければならないんです?」
 「まるっきりわからん。さっぱりだ。せめて、対話ができればいいんだが。こちらからいくら呼びかけてもなしのつぶてだ。『馬の耳に念仏』か?言葉が通じないわけではないと思うんだが。で、おれたちは敵に大打撃を与えようとしているわけだ。」
 「どういう意味ですか。ますます、こじれるんじゃ・・・・・」
 「おもいっきり叩いたら、むこうから講和を言い出すかもしれねえじゃないか。話し合いができる。まあ、あちらさんもますます強くなって、おいそれと負けちゃくれねえけどな。」
 戦いの理由を知らず、戦いを終らせる手立てとして敵を倒していく。話し合いまでに失う命は、味方も合わせてどれほどのものなのだろう。何10年、いや、何100年と続く争いで・・・・・・・・
 「『存在』 もしくは『無』 なんて真っ平なんだけどな。隼人は何かが見えているかもしれない。見えないまでも感じているかもな、ゲッターのなにかを。でも今は戦うのみだ。隼人は今、総指揮を執っていて、ゲッターに搭乗することはない。だがその分、アイツの命令ひとつで『死』が溢れる。あいつひとりに背負わすようで悪いと思っている。だがな・・・・・」
 はるか宙を見つめる澄んだ黒。
 「隼人は俺たちの命や想いを背負っている限り、自分を手放したりしないんでな。」

  ----------まったく、生まれついての天才ってやつは困ったもんだぜ。苦労して手に入れることがない分、失うことにも執着しない。かろうじて、俺たちの命や願いは気にしているようで、それがアイツを俺たちの世界に繋ぎとめる唯一のものなら、利用しない手はないからな。-------

 ふざけたように笑って言うが、ゴウにはリョウ達の真摯な想いが痛いほどわかった。
 かけがえのない友。大切に思う人間に、自分の想いが届かぬ苛立たしさ、やるせなさ。自身を大切にして欲しいと願っているのに。自分自身のためにこそ、生きてほしいのに。
 言葉を発せず、じっと見つめるゴウに、リョウは今度は明るい笑顔で言った。
 「ゴウ、だからお前も俺たちと来るなんて言うなよ。ケイやガイだって、お前を失いたくないはずだぜ。」
 「-------------!!」
 唖然としたゴウに向かって、
 「なっ?わかっただろ。・・・・・・・・・・・おまえ、今、良い顔しているぜ。やっと、吹っ切れたって感じだ。」
 同じさ。そう呟きながら小石を放り投げるリョウ。失いたくないのは同じ。幸せになって欲しいのも同じ。共にいたいのも同じ。何を迷う?
 「ええ。俺はケイやガイと一緒に、この地球を守りますよ。おれは、この世界が好きですよ。」
 素直に言葉にできた。2年間、復興のために皆で力を合わせた。新たな生命も芽生えた。傷ついた人々も回復していった。それを見るのが好きだった。「好きだ」と口にした途端、不思議なくらい肩の力が抜けた。押し付けられた願いではなく、求められた望みでもない。自分自身の想いだった。 -------  『守りたい』  -------
 リョウの悪戯っぽい目と合う。
 そう、同じだ。この人たちも、与えられた運命を甘受するのではなく、自分自身の想いを込めて生きているんだ。だからこの人たちは これほどまでに大きい。


 「さっ、もう戻ろうか。お迎えも来た事だし。」
 「迎え?」
 真っ暗な山道に、一台のヘッドライトが見える。
 「お前達は、この地球で思いっきり生きていくといい。俺たちは俺たちで、したたかに生きていくさ。」
 「はい、そうします。でも、ちょっとだけ心残りもあります。貴方がたとともに、向こうの世界で戦ってみたいという。」
 晴れ晴れとした笑顔。生気に満ちたゴウの顔なんて、今まで誰も見たことはなかっただろう。
 「なあに、だったら、くたばる前に強く願ってみるんだな。根性があれば、ひょっとして俺たちのところへ来ることができるかも。敷島博士みたいに。」

      「 ? 」
 









         -------*----------*---------*--------


 「青き星にて」 完 です。とりあえず「完」です。(あのな〜)
 本当は、「蒼き宙(そら)にて」というタイトルで2作、対で予定していたのですが。地球編だけでずいぶん予定を書いてしまいました。いつもはタイトルを決めるのに悩むのですが、先にタイトルが決まったときに限り内容がなくなってしまうとは、これ如何に。
 いずれ「蒼き宙にて」を書くつもりではありますが・・・・・う〜ん。・・・・・・応援していただければ、書くでしょう。(他力本願かよ!)

 ところで、隼人の頭脳をコンピューター代わりにするのって、「大空魔竜ガイキング」でサコン・ゲンがヘルメットみたいなのをかぶって、大空魔竜のマザーコンピューター代わりをしたのがトラウマになっているんですよ。「ガイキング」の主人公はサンシローだったはずだけど、そんなの知るか(サンシローファンの人、ごめんなさい)、わたしはピートとサコンが好きなんだ。

        (2005.5.28       かるら)