しなやかな激情
「雑煮、柏餅、すき焼、しゃぶしゃぶ・・・・・」
「ざるそば、うどん、ラーメン・・・・・・・餃子・・・・・・・・
「焼そば、おでん、焼肉、ステーキ・・・・・・・」
廊下に声が漏れている。ちょっと眉を顰め、部屋に入る。
「いや、ケーキもいいな。アイスクリームも。」
「カキ氷がいいぞ、イチゴにメロン。」
「すいか、食いたいな。」
「酒を忘れているぞ、ビールに水割り。」
「何、話しているんだ?」
「お、隼人。」
ゲッターチーム、流 竜馬、巴 武蔵、車 弁慶。
お馴染みの面々が振り向く。かなり、真面目な顔。
「地球に行ったら、何を食おうかと思ってな。」
「やっぱり、何といっても肉だな。牛が食べてえよ。ステーキとか、焼肉とか。」
「でもよぉ、リョウ。ラーメンやうどんも捨てがたいぜ。」
「寿司もいいし、ああ、饅頭も食いてえなあ、あんこたっぷりの。」
頭痛がしてきた。
ここしばらく戦闘が落ち着いていて、今のうちに装置を完成させようと、ずっと籠もりっきりで研究を続けていたというのに。
こいつらにとっちゃ、慰安旅行かグルメ紀行か?
「あまり期待しないほうがいいぞ。おそらく地球は今、復興の真っ最中だ。食料だって以前どうりあるかどうか。なんといっても、自然体系がめちゃめちゃになっただろうからな。」
冷たく言い切る。
「そ、そうか〜〜」
「え〜〜、そんなぁ・・・・」
情けない声の武蔵と弁慶。
「楽しみにしていたのにな、地球の味・・・・」
がっくり肩を落とす。
「まあ、それでも2年も経てば、ある程度の生活には戻っているだろうがな。」
少し気の毒になって言いかけるが、
「こっちからお土産持って行ったほうがいいかな。」
「そうだな。ヴェガ星の6本足の水牛もどきの肉はうまいし、ピラニア似の魚も焼くとうまい。刺身にはよくないけど。」
「ゼーダ星のじゃがいももどきで作ったパンケーキもいけるぜ。」
「アルタイルの六面鳥。これの丸焼きは・・・」
「持っていくな。」
まったく、修学旅行か、こいつら。
「地球の自然体系に影響を与える恐れがあるからな。」
「じゃあ、石なら良いか?」
「石?」
「ああ、この前のカーロン星の石だよ。地球のルビーに似たあの綺麗な石。ケイにやろうと思って持っているんだ。」
「まあ、それぐらいならいいが。」
おそるおそる問いかける弁慶に苦笑する。
見た目は20代に戻ったとはいえ、父親がわりだった弁慶にとって、ケイはいつまでたっても可愛い子供なのだ。13年間、弁慶は悲しみに心を閉ざしたケイを、焦ることなくゆっくりと癒し続けた。仲間を失い、ただ1人で。過ぎる日々を見つめながら、おだやかに。
そのおかげでケイは人を思いやる、それでも大切なものを守るためには毅然とした強さを見せる、やさしい人間になった。あの凛とした瞳は、かつての愛しい人を想い起こさせる。
あの燃えるような紅い石は、確かにケイに似合うだろう。
「あの石をペンダントにしたいなら加工してやるぜ。」
「おお、そうか。頼むよ隼人。」
「それと、特に言っとくがな、武蔵、弁慶。」
「うん?なんだよ。」
「いくら食べたいからといって、ナマモノ、生きた牛とか鳥とか豚を持って戻るなよ。」
「え?なんで。こっちで育てて増やせば、いつだって食えるのに。」
不満そうな顔に、やっぱりそのつもりだったのかとため息をつく。
「生き物は駄目だ。いくら牛や鳥とはいえ、こっちに連れてきた時点で地球の時間に関与することになるだろう。取るに足らないことのように思えるだろうが、お前達が地球の命の連鎖に手を出してはいけない。」
「ふ〜ん。じゃあ、ナマモノでも、生きていなきゃいいんだな。」
「いや、武蔵。豚や鳥はともかく、牛を丸ごとは重いぞ。」
「もも肉がいいな。」 「やっぱ、肩ロースだろ。」 「ホルモンもいいぜ。」
「・・・・・・行くの、やめるか?」
思いっきり眉を顰める。
「あ、いや、その・・・」
「べ、べつに、悪気があって言ってる訳じゃないぞ?」
わかってる。悪気というより、ただ食い気が勝っているだけだろうが。
「いつ地球に行けるんだ、隼人。」
リョウが尋ねる。
「明日の予定だ。この前のテスト移動の結果が出たが、何の異常もなかった。こっちの敵さんが大人しいうちに行って来い。」
「そうか、いよいよだな。」
「なつかしいなぁ。ケイもゴウも元気かな。」
はるかな地球-------
青き星--------
「お ・や ・じ ?・・・・」
呆然と呟く。
「ケーイ!!」
ひとつの影がもの凄い勢いで走り寄る。
「おい、ケイ!久しぶりだな、元気だったか?いや、元気そうだな!!」
バンバン肩を叩きながら涙さえ浮かべる。その見慣れた懐かしい顔に、ふと違和感。じっと見詰める。
「あ・あ?おやじ、何か、若返った?」
「は?ああ、そうなんだ。なんでか、お前達と別れてすぐに、こうなっちまった。」
ガハハと笑う。その笑い顔をみつめているうち、ケイの頬に滂沱の涙。
「おやじ・・・おやじ!!」
弁慶に飛びつき体を震わせるケイ。
「ケイ・・・・」 やさしく背をなぜる弁慶。
「大将、戻ってこられたんですね。」
「おう、ガイ。お前も元気そうだな。」
嬉しそうに弁慶に駆け寄るガイを見遣りながら、ゴウは視線を投げ掛ける。
「竜馬さん・・・・」
精悍な顔つきの男が、ニヤリとゴウに笑う。いたずらっこのような無邪気な笑み。好戦的な光をたたえた瞳。
その隣には、いかにも人の良さそうな笑みを持つ、がっちりした体格の男。
「よぉ、ゴウ。お前も元気そうだな。」
軽く手を上げ、隣の男を指す。
「こいつは武蔵。武蔵、これがゴウだぜ。」
武蔵と呼ばれた男がさっとゴウの手を取る。力強く、暖かい手。
「やあ、俺は武蔵。巴 武蔵だ。」
「え!?」
弁慶に抱きついていたケイが、思わず顔を向ける。
「武蔵さん・・・・・」
どんぐり眼というか、クリッとした眼というか。にこにことケイに近づく男に、遠い記憶が呼び戻される。とても懐かしい、とても穏やかな眼。ずっと自分を守り続けてくれた、もうひとつの優しい眼。
「やあ、元気!・・・あ、いや、今はケイだったな。」
あわてたように言い直す。照れたような、少しさみしそうな顔。おぼろげな、霧の向こうな記憶。そうだ、この人は、私を『元気』と呼んでいた。いつも傍らにいてくれた大きな体。
「・・・・・雪うさぎ・・・・・」
「えっ?」
「昔、雪うさぎ、作ってくれた・・・・?」
武蔵の顔がパッと明るくなる。
「元気、覚えていてくれたのか!?」
顔じゅうに笑みを溢れさせて武蔵が叫ぶ。
あの頃元気は心を閉ざし、かけた言葉に返るものはなかった。もう一度会えても、たぶん元気は俺を覚えていないだろう。だが、哀しい記憶をも忘れてしまえたのなら、それでよいと思っていた。でも、それより以前の、あのやさしい人の記憶まで失ってしまったのなら悲しい。博士だって、ずいぶん元気を可愛がっていた。あの2人の記憶だけは伝えたいと、ずっと思っていた。
労わるようにじっとケイを見つめる武蔵。傍らに立ち、いとしむ瞳の弁慶。大地の包容力と木々のぬくもりと。この2人は地球の、愛に、似ている。
「・・・・・・神司令は?・・・・・」
戸惑うように山咲が尋ねる。
「ああ、隼人は来ていない。」
無造作に言い切ったリョウの言葉に、山咲の顔色がサッと変わる。
「な、なぜですか?!」
おもわずケイが叫ぶ。山咲の視線が突き刺さるようだ。
「あいつがあっちで装置を作動してくれないと、俺達が戻れねえからな。ちょこっと様子を見にきたんだ。」
のんきに話すリョウに、ケイは何というべきか困惑した。
「・・・・・流さんたちは、どうやってこちらへ来られたのですか。ゲットマシンではないのですか?」
平静、という面で山咲が聞く。
「隼人が開発した、えっと、なんとか瞬間空間移動装置。俺達は面倒くさいから。『どこでも○ア』って呼んでるけどな。」
笑いながらリョウが答える。
「何でも空間を繋げて移動させるらしいが、これを扱えるのは隼人だけなんでな。あいつは向こうに残ってる。」
「帰るときはどうされるんです?」
にこやかな山咲の笑顔に、ケイはなぜか背筋が寒くなる。
「2ヵ月後、3人の通信機で特殊ゲッター線を発信させたら、隼人の方でそれを拾ってくれるとさ。」
腕の通信機を示す。
「2ヵ月後?」 ガイが聞き返す。
「うん。隼人が2ヶ月のんびりして来いってさ。」
「思ったより長期間なんで、俺達のほうが驚いたけどな。」
「まあ、しょっちゅう来れるところでもないし。」
朗らかに笑うゲッターチーム。
「しっかし、着いたとたんにケイ達に会うとは思わなかったぜ。」
「よっぽど俺達の日頃の行いがよかったんだぜ。」
「日頃の行いって、おまえ、戦っている以外は食ってるだけじゃねえか。」
「それがいいんだよ、平和でさ。なんといっても、ゆとりがなきゃな。」
「戦闘中ももっとゆとりが持てるよう、帰ったら鍛えなおしてやろうか。」
「げっ。いや、多分、帰ったらすぐ、戦闘になるだろうから。」
「遠慮すんな。」
まるっきり周りを無視して会話する3人を見ながら、ケイはちょっと頭が痛くなる。私の先程までのシリアスは、一体・・・・・・
「立ち話の何ですから、別荘のほうへお出でになりませんか。」
にこやかなほほえみを浮かべ、山咲がリョウに声をかける。
「お、そうだ、ちょうどよかったよ。隼人に研究所の近くにアイツの家があるって聞いてたんだ。あんた知ってるのか、えーと・・・・・誰だっけ。」
「山咲です。」 ニコッとほほえむ。
「ああ、そうだった。優秀なんだってな、あんた。隼人が言ってた。」
「ま、そんなことありません・・・」
ぽっと頬を染める。山咲が赤くなるなんて、ケイは初めて見た。
「さあ、車に乗ってください。7人乗りです。すこし、狭いかもしれませんが。」
「いやぁ、でも本当に着いた早々、お前達に会えて助かったよ。」
弁慶がケイに話しかける。
「隼人に別荘があるって聞いてきたけど、はっきりした場所はわからないし、何よりバリアーが解除されているか、わからんからな。」
「そうだ。一応解除番号は聞いてきたけど、もしお前達が変更していたら無理だからな。」
「そのときは、どうするつもりだったんですか。」
「バリアーは地下は1メートルまでだから、穴を掘れってさ。研究所の跡を探せば、スコップ代わりのものもあるかもしれん、てな。」
「まったく、人使いが荒いんだよ、隼人は。」
だけど、メンバーを見る限り、そう難しくはないだろう。
「でも良い家じゃねえか。アイツ、研究所にいたときは、こんな所に別荘があるなんて言わなかったよな。」
「私たちも、今日始めて知ったんです。」
「へぇー。じゃあ、ほんとに運がよかったんだ。」
「皆さん、食事の用意が出来ましたわ。」
にこやかに山咲が顔を出す。
「わっ、待ってました!」
目を輝かせて食堂に入る。
「わぁ、すげえ!!」
テーブルにでん!と置かれたローストビーフをはじめ、サラダ、スープ、ワインやウィスキーまである。見た目も豪華だが、口にすると、味も高級レストランなみだ。
「山咲さん、お料理もお上手なんですね。」
ケイが感嘆する。
「これだけ材料がいいと、誰にでもおいしくできるわよ。」
何でもなさそうに笑う。
「いやー、うまい!!でも食料もちゃんとあるじゃないか。隼人は、多分地球は以前ほどには復興していない、っていてたけど。」
「ええ、そうですわ。今はまだ、一般にこんな食材は手に入りません。これはこの家の保存庫のあったものですから。」
「保存庫?」
「はい。まだ皆さんが研究所にいらした頃、司令は何かお祝い事をされる予定だったそうです。ちょうど知り合いから最高級の牛肉が手に入ったので、保存庫の実験も兼ねていろいろ貯蔵されたと。あいつらは肉が好きだったからな、と懐かしそうに話しておられました。」
リョウも武蔵も弁慶も思わず顔を見合わせる。あの食事に関して無関心な隼人が、自身で食材を用意した祝い事。叶うことのなかった願い。
「さっきは地球のことを話しましたが、竜馬さんたちの方はどんなふうなんですか?」
ちょっと沈黙してしまった空気を破るように、ケイが問う。たぶん、3人とも辛いことを思い出したのだろう。自分には記憶の無い遠い日々。
「ああ、なんというか、戦ってばかりだな。」
「敵はインベーダーみたいな?」
「いや、見た目に近いのは蟲かな。」
「蟲?」
「昆虫人間って感じか?触覚とかあるし。」
「竜馬さんたちの味方は人類なんですよね?」
「見た目は大概そうだけどな。もちろん、ホモ・サピエンスばかりじゃねえぜ。」
「おい、ケイ。あまり詳しくは聞くなよ。正確な説明なんてできねえよ。俺達にだってよくわからねえんだから。俺達が参加したときは、はるか昔から続く戦いの途中でさ、なんで戦わなきゃなんねえかもよくわからねえが、とにかく、負けたら、人類というか宇宙、地球も含めてすべて抹殺されちまうってことだけはわかるんだけどな。」
「たぶん、ゲッターの根本にかかわるものなんだろうけど、今のところよくわからん。いつか、わかるときがあるかもしれんがな。」
「隼人は『戦いに負ければ地球は滅ぶ。そのことだけで戦うさ』って言ってるけど、俺達もその意見に賛成だ。なにしろ、迷ってたら勝てねえからな。」
3人が交互に語る。どんな戦いをしているのだろう。あっけらかんとして、どこか超越している・・・・・
この人たちの戦いは、何処まで続くのだろう。弁慶は若返ったけれど、戦うためだけに若返らされたのだとしたら、ゲッターってけっこうエグイ。
ケイは憮然とした。決して長くはない人生。戦いだけで生きていけとゲッターは言うのだろうか。戻ってくればいいのに。なにもゲッターチームが戦わなければ地球は滅びる、だなんて限らないと思う。滅びかけたら私たちだって戦う。第一、地球にはもうゲッター線はないのだ。知らん顔してもいいのに。
屈託なく料理を食べ、ワインを飲み、笑い合う3人を見て思う。この地球で、皆で力を合わせて生きていけばよいのだ。
考えを口にしようとする前に、山咲に先を越された。
「流さん達にお願いがあります。」
やわらかな微笑み。
「ん?なんだ?」
食事を終え、水割りを飲んでいたリョウが返事する。ビールがないのがさみしいな、なんて言いながら。
「戻られるとき、私も連れて行ってください。」
「へっ?!」
「ブッ!」
「ゴホッ!!」
「山咲さん!!」
新旧のゲッターチームが思わず咳き込む。
「あ、あの、今、なんて?」
「皆さんの世界に、私を連れて行ってください、と言ったのです。」
やわらかな微笑み。
「い、いや、それは、ちょっと・・・」
「そ、その、あの、無理・・・・」
「何故ですか。」
「い、いや、隼人に、ナマモノは持ってくるなと・・・・」
「へ?」
ガイが聞き返す。「ナマモノ?」
「あ、いや。生き物は持って帰るなって言われているんだ。地球の命の連鎖とやらに、関与しちゃ駄目だって。」
「そうなんだ。山咲さんが俺達と向こうに行ったら、これから先山咲さんが出会う予定の人間とか、未来が変わっちまうから。」
「かまいませんわ。」
「いや、山咲さんはケイ達の後見人だし、軍でも責任ある地位なんだろ。今後いろいろな事案で、山咲さんの指揮で命が助かる人間だっているだろう。」
「いいえ、大丈夫です。私がいなくなれば代わりの者が私の地位に就きますし、私の存在如何で死んでしまう人間ならば、遅かれ早かれいずれ死ぬでしょう。」
にっこりと恐ろしい言葉を吐く。誰かに似ている・・・・・
「いや、でも駄目だよ。絶対だめだ!!」
「では死にますわ。」
「?!」
「山咲さん!!」 驚いてケイが叫ぶ。
「連れて行って下さらなければ、ここで命の連鎖を断ち切ります。同じことですわ。」
口元に笑みを浮かべ、静かに言う。思い詰めた眼、なんて生易しいものじゃない。突き刺さるばかりの鋭い光を湛えている。
「う・・・・・・」
困りきった様子でリョウが武蔵と弁慶を見る。武蔵も弁慶も、縋るようにケイやゴウを見る。でも、ケイやゴウにもどうにもできない。あの眼は本気だし、山咲の気持ちは知っている。
しばらくの沈黙のあと、リョウが大きくため息をついた。
「・・・・・・・・言うつもりじゃなかったんだけどな・・・・・・なあ、俺達、何歳に見える?」
急になにを言い出すのだろう。ケイ達は顔を見合わせる。
「俺や弁慶はいくつに見える?」 リョウが繰り返す。
「いくつって・・・・リョウさんは途中とばしているからよくわかんないけど・・・おやじは確か40過ぎてたよね。見た目若くなっているけど。」
「まあな。たぶんお前達は、俺達と別れて2年経っていると思っているだろうよ。でも、いくら天才といわれた隼人だって、たかが2年で空間移動装置なんて作れっこない。ましてや慣れない宇宙での戦争の合間だ。俺達のいる空間とこの地球の位置関係だって、いまだにわかっていない。ゲッター線の軌跡をたどって計算したらしい。本当は俺達は、空間だけでなく時間も飛び越えてきたんだ。俺達は向こうに行って、すでに50年戦っている。」
「50年!?」
「ああ、そうだ。俺達ゲッターチームメンバー4人とも、ずっと『時』が止まっている。」
はるか 時空の彼方
選ばれたのか 呪われたのか
星々かなた 悠久の宙
「俺達が戦い続けるのは 別にかまわない。だが、俺達以外の者たちが死んでいくのをみるのは、やっぱ、辛いもんだ。」
竜馬さん。ほとんど悪鬼のように戦っていた姿しか見たことないけど、こんな穏やかなやさしい顔をする人だったんだ。否応なく、終わりの無い戦いに身を投じながら、なぜこの人たちはこれほどまでに、清々しい目をするのだろう。
「でも、地球に残っても、結局は皆さんの先に死ぬわけです。でしたら、私は自分の好きなところで、死ぬまで生きていたいですわ。」
やわらかな光の瞳。
「山咲さん・・・・・」
『守部』になると言った。それが誰にたいする慕情なのか、気がつかないほどケイも鈍くない。だけど本当にいいのだろうか。あの人は老いない。彼女だけが老いていく。辛くないとはいえないはずだ。誰だって、好きな人には綺麗な自分を見て欲しいだろうに。それとも、それすらも昇華させてしまったのだろうか。ケイの想いが聞こえたかのように山咲が振り向く。
「10あれば10欲しいけれど、叶わないのなら2でも1でもいい。ゼロよりは、ずっといい。」
胸がつまる。あの人って、そんなにいいの?他にも目を向けてください。山咲さんに憧れている人はいっぱいいます。
腹がたってしょうがない。山咲にか、隼人にか、ゲッターにか。そうだ、ゲッター線にだ。何故命を弄ぶ?小さな人間でいいじゃない。謎は謎のままでいい。ひとつの命が滅んでも、また新たな命が生まれるはずなのに。それとも、ゲッター線が滅びたら、すべての命も滅びるというのだろうか。本当に?そこには、なにがある?
「どうする?・・・・」
「どうするって・・・・・」
「どうしよう・・・・・・」
3人が額を寄せてコソコソ話をしている。
「連れて行ったら隼人が怒るぞ・・・・・」
「でも、置いていったら死ぬっていうし・・・・・」
弁慶が縋るような目でケイを見る。あわててケイは頭を振る。
『無理だよ、おやじ。私達に山咲さんを説得できるはずないよ・・・・・』
各国の意地の悪いおエライさんとの折衝を見事にこなす山咲を、誰が説得できるというのだ。
山咲はにこやかに笑っている。揺るがぬ信念を持つ人間は強い。って、誰か説得してよ!
「どうにもならんぜ・・・・」
「だいたい、こんなことは隼人のテリトリーだ。」
「そうだよ、アイツにまかせようぜ、アイツの部下なんだし。」
3人、目を輝かせる。
「そうだ、連れて行って、隼人に説得させよう!」
よい考えだとばかりに山咲に伝える。
「とりあえず向こうに行って、自分で隼人に頼んでくれよ。」
「そうそう、俺達で勝手に決めたら怒られる。」
・・・・・・あの・・・・連れて行った時点で怒られると思う。第一、連れて行ったら今度は「帰すと言われたら死にます!」って言うだろう。チラッと山咲を見ると、にっこりほほえみながら、目だけで語りかけてきた。
『余計なことを言うと、あとで恐いわよ、ケイ』
今でも充分恐かった。
「わかりましたわ。直接、司令にお願いしてみます。ご迷惑かけて申し訳ありません。
ああ、デザートお持ちしますね。パイを焼いてあるんです。」
「うわっ、感激!!」
武蔵とガイが目を輝かせる。
アメとムチ。その言葉がケイの脳裏をよぎる。
「うーん、良い香りだなあ。うまいコーヒーだぁ。」
「コーヒー、少し貰って帰っていいか?隼人も好きなんだ。生き物じゃなきゃ、少しは持ち帰っても良いって言ってた。」
リョウがケイに聞く。
「もちろんです。もともと隼人さんのものなんだから。」
「あー、忘れてた!」
「な、なんだよ親父。急に大声出して。」
弁慶がポケットを探る。
「ほら、ケイ。お土産だ。」
ルビーに似た紅い石のペンダント。
「わあ、綺麗。それに凄く大きい。これは?」
「カローン星っていう星の石だ。ルビーとほぼ同じ成分だけど、ルビーよりも硬い。紅いダイヤモンドってとこかな。」
炎を閉じ込めたような真紅の宝石。
「山咲さんには向こうであげるよ。隼人に頼んでケイと同じくペンダントに加工してもらおう。」
「あら、よろしいんですか。」
「もちろんだよ。うまい料理のお礼だ。」
「わたしの料理でよろしければ、向こうについてもいくらでも。」
「うれしいなー。おいらも結構料理するけど、地球の食材じゃないんでうまく作れなくてよ。」
武蔵がにこにこしながら言う。なにげなく山咲が、向こうに行っても戻らない、と言っているのに気づいているのかどうか。
ケイも、突っ込まないことにした。山咲がそれでいいというのなら、それが一番いいのだろう。だって、好きな場所で生きたいといった。「生きたい」と。地球に残れば後悔するだろう。
「へぇー、そんな星があるんですか。」
ガイが感心したように言う。ずいぶん話が弾んでいるようだ。
未知の惑星、未知の生物。戦いばかりの日々あっても、それなりに調査とか何かで楽しいこともあるようだ。それとも、この3人だから娯楽にもしてしまえるのか。自慢げに6本足のライオンもどき?を倒した話をしている。肉食の生き物はまずくてな、なんて。『時』が止まるって、おなか壊したりはしないのか?もっとも、地球にいたころからおなかの丈夫な人はいるようだが。
「俺もいこう。」
ぼそり、と吐かれた言葉。
うっかり聞き逃すところだった。
「え?」
みんな、一斉に顔を向ける。いつもただでさえ口数の少ないゴウ。たいがい聞き役で、自分からめったに言葉を発しない。
今、なんて 言った?
*−−−−−−−−*−−−−−−*−−−−−−−*−−−−−*
・・・・・・あれ・・終わんない・・・・・どうしよ・・・・(終わったことにしようかな)・・・・・・
もう、ちょこっと続きます。お見捨てになりませんよう・・・・・
2005.5.7 かるら