● 翻訳の妙

今日は翻訳についてのお話を一つ。かなり古い歌で恐縮ですが、太田裕美の大ヒット曲に『木綿のハンカチーフ』というのがあります。ご存じの方も多いと思いますが、歌詞の内容を簡単に説明します。田舎の恋人(彼)が就職かなにかで彼女をおいて都会に出て行きます。彼女は「都会の絵の具には染まらないで帰ってね」と言うのですが、その願いもむなしく、やがて彼は完全に都会の人となってしまいます。

ある時、彼が帰省するに際し、「土産は何がいい?」と彼女に聞いてくるのですが、彼の変貌ぶりに気づき、別れの予感を感じとっている彼女は、「何もいらないわ。ただ、涙を拭く木綿のハンカチをください」と言うわけです。一種の失恋物語ですね。

ところで、イギリスの4人または5人の姉妹によるポップスグループにノーランズというのがいます。『ダンシング・シスター』などのヒット曲で日本でも人気があるのですが、彼女たちがこの『木綿のハンカチーフ』を英語でカヴァしているのです。曲自体もなかなか良いと思うのですが、今日言いたいのは曲の内容ではなく、英語名のタイトルについてです。『Simple Handkerchief』となっているのですね。私は唸りました。素晴らしい翻訳ではないでしょうか。こういうのをセンスというのでしょうね。

歌詞の内容を考えれば、「木綿」には全く重きがなく、涙を拭く「ただのハンカチ」であればよいわけです。並の英語学者なんかですと歌詞を読んだ上でも、Handkerchief made of cotton などと、味も素っ気もない訳をするのではないでしょうか。また、現在、日本の中学校や高校で行われている英語教育を考えてみますと、とてもじゃないですが、このようなセンスを養える状況にはないと思いますね。何度も言いますが、ほんとうにこの翻訳にはしびれました。皆さんはいかがなものでしょう。この翻訳をした人は、キャンディーズの『年下の男の子』を『Toy Boy(おもちゃの少年)』とも訳しています。う〜ん、マンダム