宮崎物産に勤務するスーパーOL香奈ちゃんと樋渡専務の活躍?を中心に描いた物語集です。A5版全126ページ、84話の構成ですが、どの話をとってみてもオチの出来は秀逸
かと思います。読んでくださる方を決して退屈させることはないものと自負しております。下に2話ほど紹介します。皆さん、どうぞよろしくお願いします。
(注) 顔文字等が結構頻繁に出てきますので横書き仕様となっております。
第2話 寿命蝋
皆さんは寿命蝋という言葉を聞いたことがありますか。中国四千年の歴史の中で言い伝えられている考え方の一つです。卑近な例としては、昔、少年向けの劇画雑誌『少年ジャンプ』のある作品でも披露されたことがあります。
それは、こういう考え方です。人間は生まれたときに既に百目蝋燭(ひゃくめろうそく)を体の一部に所有しており、誕生と同時にその蝋燭に火がつきます。人生の始まりです。蝋燭の火が消えることすなわちその人の死を意味します。
この蝋燭の火を管理しているのが霊界に住む魔丹鬼という悪魔です。悪魔ですが、悪者ではなく、大体みんな平均寿命で亡くなるように管理しています。
ところが、この魔丹鬼の弟子で、出来のよくない者に、珍粕というのがいます。この者は酒に酔っ払うと勝手に人間の寿命蝋の火を消してしまいます。消された人は事故などによる夭折ということになります。
霊感少女香奈、18歳。彼女は人智を超えた霊感を持っている女性です。あるとき彼女は雑誌で寿命蝋のことを知りました。普通の人間には絶対に寿命蝋は見えないのですが、香奈には見えました。そして、悲しいことに自分の寿命蝋の火はもうすぐ消えてしまうことを知ったのです。あと2年ほどの命でした。
まだまだ死にたくない香奈は、ありとあらゆる情報を仕入れて、魔丹鬼が中国の西瓜山という山の標高5000mのところに住んでいることを突き止めました。彼女は貯金をはたいて西瓜山に行きました。
「俺を呼び出した香奈とかいうのはお前か?」
「はい。そうで~ちゅ」
「(な、なんだ・・・こいつバカかな)ふむ、何の用だ?」
「魔丹鬼さま、私の寿命蝋の火はもうすぐ消えようとしていますでちゅ。でも香奈、長生きしたいんでちゅ」
「なに、お前人間のくせに寿命蝋が見えるというか」
「はいでちゅ。私には見えますでちゅよ」
「暫し待てい・・・う~む、なるほど。あと2年もないな」
「そうでちゅよね。でも、もっともっと長生きしたいんでちゅ」
「わかった。お前なかなか可愛いから殺すのは惜しい。願いをかなえてやろう」
「うれしいぃぃ・・・魔丹鬼さま大好きでちゅ」
「マ、マンダム、ちょっとの間そうしておれ」
そう言うと魔丹鬼は何か怪しげな呪文を唱えて持っていたカバンから少し大きな塊を取り出した。よく見ると、それはケーキであった。
「香奈とやら、どうじゃ、新しい寿命蝋をこしらえてやったぞ」
「魔丹鬼さま、それはケーキでは?」
「そうじゃ。言うなれば今日はお前の新しい誕生日。このケーキに乗っている8本の蝋燭がお前の寿命蝋でな、1本で10年分になる」
「まあ、うれしいぃぃ・・・それではあと80年も生きられるのでちゅね」
「そういうことじゃ」
「わあお、ねえ、ねえ、魔丹鬼、折角バースディケーキがあるのでちゅから誕生日会やってよ」
「ま、魔丹鬼・・・呼び捨てかよ。まあいいだろう」
「ハッピーバースディ・トウ・ユー、ハッピーバースディ・ディア・カナ、ハッピーバースディ・トウ・ユー、」
「有難う、魔丹鬼ぃぃ・・・」
そう言って、香奈はケーキの上の蝋燭の火を全て吹き消しました。
第22話 接待旅行
皆さん、こんにちは。お久しぶりでちゅ。宮崎物産のOL、香奈でちゅ。(´∀`*)ウフフまた皆さんにお目にかかれて、香奈(´∀`*)ウフフうれピー
今日の仕事はでちゅね・・・簡単なのだぁ~。専務から渡された文書をパソコンで打つだけなんでちゅ。こんな簡単なことしか任せてもらえないのカナ。ちょっと悲ピー・・・けど失敗ばかりしてるから仕方ないカナ。
さて、パソコンで打つ文章はでちゅね、接待旅行の案内書なんでちゅ。当社では毎年7月に超お得意様を観光地に接待して、日頃のご愛顧にお応えしているんでちゅ。その案内文書を打つんでちゅね。でも、一応電話でも大体のことをお伝えしているので、今日打つのは、お車でお見えになる方への補足だけなのでちゅ。それも文章は専務が作ってくれてますので、ほんと、入力するだけ・・・(´∀`*)ウフフ楽勝。文章も短いのでちゅよ。次の文章だけでちゅ。
拝啓
日頃は弊社宮崎物産に一方ならぬご尽力を賜り、誠に有難う御座います。
さて、先日連絡させて頂きましたご旅行の件ですが、お車でお見えになる方に、若干の補足案内をさせて頂きます。当日は、通常の高速道路を利用されるよりも、旧中山道を通るコースをおとりくださる方が渋滞も少なく、至便かと思われます。
道中事故など起こさぬよう呉々もお気をつけください。それではお待ち致しております・
敬具
簡単でしょ。これにあと会社名と社長の名を入れて、プリントアウトしたものを郵送すれば、終わりでちゅ。さっ、早速打ちま~す。
それから3日後、宮崎物産に接待旅行の問い合わせ電話が掛かってきた。事務の者から電話を受け継いだ樋渡が応対した。
「あっ、専務さん、旅行の案内、先ほど届いたのですが、これはどこの山道を通ればよいんですか。しかも24時間もかかるのでは・・・」
「はあ?どういうことでしょうか?」
「いや、案内書の内容ですが・・・」
「ちょ、ちょっとお待ちください・・・」
樋渡は一度受話器を置き、
「おい、香奈は?」
「今、食事に出ています」
「あいつは、こういうとき必ず食事だなぁ・・・(; ;)ホロホロ」
「おい、君、香奈が打った文書を大至急プリントアウトしてくれ」
樋渡から言われて、事務員はプリントアウトしたものを差し出した。それを見た樋渡は、
「あわわわ、泡、こ、これは・・・(; ;)ホロホロ」
香奈の打った文章は、次のようになっていた。
拝啓
日頃は弊社宮崎物産に一方ならぬご尽力を賜り、誠に有難う御座います。
さて、先日連絡させて頂きましたご旅行の件ですが、お車でお見えになる方に、若干の補足案内をさせて頂きます。当日は、通常の高速道路を利用されるよりも、一日中、山道を通るコースをおとりくださる方が渋滞も少なく、至便かと思われます。
道中事故など起こさぬよう呉々もお気をつけください。それではお待ち致しております・
敬具